子どもたちとともに学ぶ、変化の時代を生きる力 「想い描く」デザインの授業支援から

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    荒尾彩子クリエイティブディレクター/コンテンツストラテジスト

つくることは、手を動かし、試し、迷いながら、それでも一歩前に進もうとする姿勢です。私自身、2008年にデザイナーとして入社して以来、先輩の背中を追いかけながら、時にはうまくいかないことに汗をかきながら、試行錯誤し、日々デザインを行ってきました。

その中で強く感じるのは、つくることには、何かを生み出すだけにとどまらない、つくる人自身を変容させていく力があることです。つくることで、自信が生まれる。つくるからこそ、届けたい他者についてもっと知りたいと思う。試す中で論点が立ち上がり、考えが更新されていくーー。そうした積み重ねによって、答えのない状態に立たされても、試行錯誤しながら前に進めるという自信が身についていきます。

この姿勢を、デザイナー以外の人たちにも、社会全体にも、ひらいていきたい。そんな思いから私たちコンセントは、デザインを切り口にした人と組織の成長支援に取り組んでいます。そして、その対象を子どもたちにも広げたいと考え、コンセントの有志メンバーによる「学びのデザイン」プロジェクトを進めています。

この記事では、茨城大学教育学部附属小学校での授業を通して見えた児童たちの変化をレポートします。

メインビジュアル。教室の黒板の前で児童4名が発表をしている。それを複数の児童が聞いている。

「想い描く」をテーマにしたデザインの授業

今回は、小学校6年生の総合的な学習の時間「ひびきの時間」を支援しました。6年生99名に向けた2025年度のテーマは「想い描く」。これには、他者を思いやりながら、今はないものや改善できることを自ら描いていってほしいという先生方の意思が込められています。日常的に「想い描く」を実践しているデザインの現場の人として授業を行ってほしいという相談を受けて、丸1日の授業を設計しました。

授業の流れを示す図。左から「リサーチ」「課題設定・アイディエーション」「プロトタイピング」「発表」の順。

実際の事業開発や社会課題解決など、サービスデザインの現場でも用いられるステップ。学校の課題を見つけて、最終的には解決策を発表することを1日の中で実施した。

児童たちの学習目標は以下のように設定しました。

習得する力と終了目標を設定した、学習目標の表。習得する力は4つあり、「課題発見力」「他者理解力」「プロトタイピング力」「共創力」。

身につけてほしいのは「正しい答え」を出すことではなく、自ら課題を見つけて「こうしたらどうなるだろう」と想い描きながら、試してみる姿勢。これらは、私たちデザイナーが日々の仕事で大切にしている力です。

【課題発見力】を育てる

学習目標の1つ目に「課題発見力」の習得があります。これは身の回りの課題や不思議を自分なりに見つけられる力や、解決したい・もっと知りたいという主体性をもつ力です。

自分で見つけ、納得して選んだ課題だからこそ、うまくいかない場面に出合っても踏みとどまり、考え続けることができる。その感覚を体得してもらいたい。そのため、授業は自由に課題を発見するところから始まります。

テーマや課題を決めていいよと言われると、不安になる

授業の3日前に、「自分でテーマや課題を決めていいよ」と言われたとき、どう感じるかを尋ねるアンケートを実施しました。

アンケート結果のグラフ。

テーマや課題を自分で見つけられそうという回答は18%にとどまり、何らかの不安や迷いを感じている児童が大多数でした。その中には「面白そうだけど難しい」「何を基準に選べばいいかわからない」など戸惑いの声も。私たち大人が組織や仕事の中で自己決定するときの感覚とも、どこか重なっているように感じられました。

自分たちで見つけて納得することが原動力になる

授業当日。冒頭では、学校を探検しながら「ビミョーだな」と感じる場所を見つけてもらいました。校内を新たな視点で見直すことで、課題に気付く力を養うためです。

学校内を観察する児童。
タブレット上で課題を書き込む様子。

発見した校内のビミョーな場所を写真に記録していく。体育倉庫が汚いという課題を発見したチームは、さらに小さな課題に分解してタブレットに書き込んでいた。

探検を終えた後は、見つけた複数の課題から班で取り組むものを決めてもらいました。課題をどう決めるかというプロセスは、その後の取り組み方やモチベーションに大きな影響を及ぼします。

現実には、多数決や「強い一言」で物事が決まってしまう場面も少なくありません。効率的ではありますが、納得感のないまま進むと、当事者意識が弱まることもあります。しかし、授業では児童たちが「なぜその課題に取り組むのか」納得のいく理由を並べて合意形成をする姿も見られました。

たくさんの児童が集まって話し合っている様子。

収集した写真を手がかりに、班でどの課題に向き合うかを話し合う。意見の違いに悩みつつも、話し合いを通して一生懸命探っていた。

ある班では、「廊下が滑って危ない」「手すりに下級生が挟まりそうな空間があって危険」という2つの課題を前に、発生頻度や危険度を比較しながら、どちらの課題を選ぶか議論を重ねました。その結果、より多くの児童に影響する「廊下が滑って危ない」を課題として選びました。議論を経て自分たちで選んだ課題だからこそ、全員が腹落ちした様子で次の取り組みに向かっていきました。

アンケート結果。「なんでだろう?と気になったことや課題を自分で見つけられましたか?」という設問に対し、とてもそう思うが69%、まあそう思うが30%、全くそう思わないが1%。
アンケート結果。「決まった課題に対して、解決したい、もっと知りたいと思えましたか?」という設問に対し、とてもそう思うが72%、まあそう思うが25%、そう思わないが4%。

授業後のアンケートでは、多くの児童が「気になったことや課題を自分で見つけられた」と回答。「とてもそう思う」と答えた児童は約7割にのぼりました。また、「決まった課題に対して、解決したい・もっと知りたいと思えたか」という質問に対しても、約7割が「とてもそう思う」と回答しました。これらの定量的な結果と授業中の様子をあわせると、自分たちで課題を選び納得して決めるプロセスが、「解決したい」「もっと知りたい」という前向きな向き合い方に影響を与えていることがうかがえます。

【他者理解力】を育てる

学習目標の2つ目として設定したのが「他者理解力」です。相手の気持ちや立場を想像し、それに基づいて考えられる状態を終了目標としました。

アンケート結果のグラフ。

先生方からの「自分たちのやりたいことだけでなく、他者の気持ちを想像できるようになってほしい」という思いも聞いていた。

授業前のアンケートで、「だれかの気持ちを想像して考えること」に対してどんなイメージをもっているかを自由記述で聞いたところ、難しさや不安を感じている児童が8割以上を占めました。「人の気持ちはあまりわからない。想像できなくて難しいと思った」「想像しても、実際とは違うことがある」という意見が見られ、児童たちが他者理解に対して高いハードルを感じている様子がうかがえました。

つくりたいと思うから、他者を理解しようとする

授業では、班ごとに決めた課題に対する解決アイデアを考えていきました。ここで見られたのは「他者を理解しなさい」と言われたからではなく、つくろうとする過程の中で、自然と人の行動や気持ちに目が向いていく姿でした。

ある班は、「本棚に本が積み上げられている」という状況から、「いろいろな場所で本を借りてセルフで戻す学校の仕組みでは、どこから借りたかがわからなくなり、戻す場所が適当になってしまうのではないか」という仮説を立てました。「なぜその行動が起きているのか」と人の行動に目を向けたことで、課題の見え方が変わり、「色付きシールでわかりやすくする」といった状況に即した具体的な解決策につながっていきました。

校内を調査する児童たち。

別のグループは、ウォーターサーバーの水がこぼれているのをいつも先生が拭いていて大変そうという課題に着目しました。解決策を考える時間になると、児童たちは自らもう一度現場を見に行き、水がこぼれにくくなる台を置くこと、ポスターと雑巾を近くに用意するアイデアが生まれました。実際の場所に立つことで、「どこに何があれば、人は動きやすいのか」「どんな配置なら、気付いてもらえるのか」と、人の気持ちや行動を具体的に想像しながら考えられていました。つくろうとした瞬間に、より深い他者理解が必要になる。そのことを、児童たちの姿からあらためて実感しました。

ウォーターサーバーの完成予想図。

【プロトタイピング力】を育てる

3つ目の学習目標は「プロトタイピング力」です。プロトタイピングとは、考えをまず形にして、人に伝えたり、見せたりすること。さらに、試しにつくってみた後で「もっとよくするには?」と考え、つくり直していくことです。ラフな形であっても他者と共有することで、考えが前に進んでいくプロセスを体験します。

アンケート結果のグラフ。

授業前アンケートでは、6割以上の児童が考えたことを形にすることについて、不安や迷いもあるもののやる気を示していました。「工夫するのが楽しそう」といった前向きな意見も多く、大人に比べて抵抗感は少ない印象でした。一方で、「途中で考えが変わりそうで難しそう」といった声もあり、つくりながら考え続けることへの不安も見られました。

つくると論点が生まれる

アイデアを形にするパートでは、正解かわからなくてもまずつくってみる精神で挑みます。段ボールや紙、アルミホイルなど身近な素材を使い、児童たちはどんどん手を動かしていきました。実際につくり始めると、考えるだけでは見えなかった論点が次々に立ち上がります。

ある班は、「劣化している天井に絵を描く」というアイデアを立体的なプロトタイプで表現しました。形にしたことで班でイメージを共有しやすくなり、「天井に直接描くのは難しいのでは?」「どうやったら描けるか」といった具体的な実現方法の検討まで進んでいました。

教室でプロトタイプを制作する児童たち。
ダンボールで作られたプロトタイプ。

劣化した階段付近の天井を再現し、「絵を描けるかな?」と実験。試した結果、描くより絵を貼る方がうまくいきそうだという発見があった。

別の班では、学校の汚れている場所を掃除する日をつくるというアイデアを考えました。その中で、夏場のプールの水をどうきれいにするかを順を追って実演できるプロトタイプを作成。形にすることで、「どうやって掃除するのか」「どの順番で行うのか」など、具体的なやり方まで考えられていました。

プロトタイプを制作する児童の手元。
出来あがったプロトタイプ。

形にしてみることで、「考えたつもり」だったアイデアに論点が生まれ、次に何を考えるべきかがはっきりしていく。プロトタイピングは、考えを完成させるための作業ではなく、考えを前に進めるための行為であることを、児童たちは体感していました。

【共創力】を育てる

最後の学習目標は「共創力」。自分とは異なる意見を受け入れながら、一緒に考え、つくっていくことです。多様な意見の中から納得解をつくることは、大人でも簡単ではありません。しかし、そのプロセスを経るからこそ、一人ではたどり着けない強いアイデアが生まれます。こうした力を育むため、授業全体はグループワークを軸に進めました。

アンケート結果のグラフ。

授業前アンケートでは、友達と一緒につくる経験について尋ねました。「完成したときにうれしい」「達成感がある」といった前向きな声が多く見られる一方で、「意見が食い違って進まなかったことがあるから大変だった」「違う意見が多くてまとめるのが難しい」など、共創の難しさを実感している様子も多く見受けられました。

遊び心が共創の第一歩

グループワークの中で印象的だったのが、場の雰囲気がそのままアイデアの広がり方に影響していたことです。

ある班は、少しふざけすぎているように見えるほど笑いながらアイデアを出していました。「うさぎにとって、うさぎ小屋が生活しづらそうだから遊具をつくる」という提案も、アイデア出しの段階では、どこか遊び心のあるものでした。ふざけている様子は、大人であれば「もっと真面目に」と声をかけたくなる場面かもしれません。

しかし、この班は出したアイデアの数が圧倒的に多く、のびのびと発想を広げていました。そこには「否定されない」「突飛なことを言っても大丈夫」という安心感がありました。遊び心のある空気が、意見を出すハードルを下げ、共創しやすさをつくる。グループの空気そのものが、創造性を大きく左右することを示す場面でした。

机を並べてアイデアを出し合う児童たち。
プロトタイプを囲んで、アイデアを出し合う児童たち。

いくつも描いたアイデアスケッチをもとにうさぎ小屋の遊具を作成。作成中もどんどんアイデアが広がる。

また別の班では、意見の促し方そのものが共創の質を高めている様子が印象的でした。その班には、アイデアが出るたびに「これについてどう思う?」と周りに声をかける児童がいました。すぐに決めてしまうのではなく、「どうしていいと思ったの?」など、他の人の意見や顔を見ながら、考えながら、一つの方向へとまとめていきます。

付箋に書き込んだアイデアを囲んで、話し合う児童たち。
アイデアをまとめたスケッチ。

出てきたアイデアを並べたり、分けたりしながら、いいと思う理由を言い合い、みんなで一生懸命話し合っていった。

最終的に生まれたのは、「グラウンドと芝生の間で靴を脱ぐのがめんどくさい」という日常のちょっとした不便さを、アスレチック型の空間にすることで、楽しい体験に変えるアイデアでした。みんなが納得できる形にたどり着けたのは、答えを示す人がいたからではありません。安心して話せる空気の中で、「どう思う?」と問いを投げかけ続けた児童の存在が、複数人で考える力を引き出していたように感じました。

この姿は現在の社会にも重なります。誰も正解をあらかじめもっておらず、一人では答えにたどり着けない課題が増える中で求められているのは、意見を引き出し力を合わせて一つの納得解をつくる共創力であり、問う力です。子どもたちの学びの場で見られたこの関わり方は、複雑さが増す大人のビジネスの現場でも必要とされている姿だと感じました。

柔らかい状態だから、関わり合える

最後のクラス共有では、1日で考えたアイデアをそのまま発表してもらいました。完成した提案ではなく、まだ途中段階のものです。あえてこの段階で共有してもらうのは、完成させてから見せるよりも、途中の方が他者が関わりやすくなるから。アイデアが固まりきっていない分、「もっとよくできそう」「別の見方ができそう」と、周囲が入り込む余地が生まれます。

ある班から、「廊下に光が入ってまぶしい」という課題に対して、ステンドグラスを使い、光が入ることを逆手に取る提案がありました。形にして共有したことで、クラス全体にイメージが広がります。「まぶしいのは変わらないのでは?」という意見に対しても、別のグループから「光を柔らかく遮る素材にしてはどうか」といった提案が返ってきます。完成していないからこそ、クラス全員で「一緒に考える」やり取りが生まれていたように思います。

途中段階のアイデア。完成予想図やプロトタイプが並ぶ。
アンケート結果。「自分と違う考えを受け入れ、一緒に新しいものをつくろうとしましたか?」という設問に対し、とてもそう思うが67%、まあそう思うが30%、あまりそう思わないが4%。

授業後のアンケートでは、「自分と違う考えを受け入れ、一緒に新しいものをつくろうとしましたか」という問いに対し、約7割の児童が「とてもそう思う」と回答しました。途中段階でアイデアを共有することで他者の視点を受け取り、共に更新していく姿勢が生まれていたことが、実際の様子とアンケートの両面からうかがえました。

変えられる、という実感が自信を生む

後日、この授業で出たアイデアを実現へと進める班も現れました。自分たちで見つけた課題に粘り強く向き合う中で、身の回りの環境は、自分たちの手で少しずつ変えていける。そんな実感を少しでももってもらえたように思います。

授業を通して児童たちに身につけてほしいと考えていたのは、正しい答えを出すことではなく、「こうしたらどうなるだろう」と想い描きながら試してみる姿勢でした。何より印象に残ったのは、課題発見の段階では「些細な課題しか見つけられない」と言っていた児童たちでも、アイデアが形になっていくにつれて、「やりたい」が加速するように表情を変えていったことです。アイデアが進むにつれて、急に活発に発言をするようになる児童もいました。

人が成長するのは、プロセスを理解したときではなく、手を動かしながら考えを更新し、自分の中に納得感や手応えが生まれたときだと感じます。授業を通じて育まれた姿勢や自信が、学校の中に限らず、これから先のさまざまな場面で一人ひとりの「想い描く」を支えていくものになってほしいです。

答えが見えなくても、試し、考え、他者と前に進む。そのプロセスの中で、人が変わっていく瞬間に立ち会えること。それが、私たちにとって純粋に楽しく、やりがいのある時間です。つくることが、人を変える。その力を、これからも社会のさまざまな場にひらいていきたいと思います。

[ 執筆者 ]

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コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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