コンセントの新卒研修 デザイン人材を育成する3カ月間プログラム
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こんにちは、サービスデザイナーの齊藤です。私は2022年7月から23年6月にかけて、コンセントで事業部と人事チームを兼務し、若手社員の育成施策を推進していました。普段取り組んでいるクライアントワークにおいても、大手企業を中心にデザイン人材を育成するためのプログラム開発支援を行っています。
さて、コンセントでは、毎年4月にさまざまなバックグラウンドをもつ新卒社員が入社します。2023年度は8名の新卒社員を迎えました。入社したみなさんには、できるだけ短期間で、コンセントで働く上で必要な知識、技能、振る舞いを身に付け、配属先の業務にスムーズに合流できるようになることを求めています。その成長を助けるため、毎年精力を注いで運営しているのが、4月から6月までの3カ月間で行われる新卒研修です。
この記事は、新卒社員の受け入れに取り組む人事担当者や研修担当者のみなさまに向けたヒントになればと思い、コンセントの新卒研修の概要とその設計について解説していきます。
コンセントの新卒研修
コンセントの新卒研修では、配属先を問わず、全員が共通の内容を受けます。コンセントのソリューションであるサービスデザインのスキルを実践から学ぶ「サービスデザイン研修」と、事業内容や会社の制度・規定などを理解し、仕事に向き合うスタンスや基本的なビジネススキルを身に付ける「ビジョンデザイン研修」です。この記事ではサービスデザイン研修(以下、SD研修)を取り上げます。
サービスデザイン研修の概要
SD研修は、40日以上にわたる長期プログラムです。以下の3つをゴールとして設定しています。
- サービスデザインの考え方やプロセスを理解すること
- コンセントが提供するソリューションに対する理解を深め、必要な態度や知識、技術を網羅的に理解すること
- ソリューションを提供する上で必要なアクターを理解し、どんな職能をもつ人と共に働くのか、イメージできるようになること
実務で必要な手法や技術の習得よりも、土台となる考え方やプロセス、業務内容に対する理解を通してサービスデザインの全体像をつかみ、配属に向けたマインドを整えることを大事にしています。
また、SD研修の一番のポイントは、全てのプログラムをコンセントの第一線で活躍しているメンバーが担当している点です。2023年度は計39名のメンバーが担当しました。人事チームが研修全体を統括しながら、各研修担当者がプログラムの内容検討と実施を推進しています。
研修の体制図
SD研修では、最初の3日間でコンセントの事業概要やサービスデザインの考え方、マインドセットについて座学を中心に学びます。その後、40日間の「実践プロジェクト」にてサービスデザインの一連の業務の流れを経験します。
実践プロジェクトでは、実務に近い形での経験を重視しています。そのため、研修テーマには架空の内容ではなく、実在するコンセントの課題を設定しています。
2023年度の研修テーマは、「コンセントの新卒通年採用におけるコミュニケーションプランの検討と、それに資するツールの開発」でした。クライアント役はコンセントの人事チームが担当。新卒社員は、研修のために用意されたRFP(提案依頼書)に基づき、施策の立案からツールの開発までを経験します。
2023年度の研修テーマ(RFP)
新卒社員は研修担当者からのフィードバックを受けながら、自身のアイデアや成果物のクオリティ向上にチャレンジします。まずは自分でやってみて、つくったものを壊して改善して……を繰り返すために40日という期間が必要なのです。
研修の設計方法と実施プロセス
研修の準備は、毎年11月ごろからスタートします。
STEP1〜3までは人事チームで検討を進め、STEP4以降は各研修担当者を巻き込んで行います。
実施プロセス
- STEP1:研修の方針を決める(11月前半)
- STEP2:研修のゴールと研修テーマを設定する(11月後半)
- STEP3:研修プログラムの大枠とスケジュールを決める(12月)
- STEP4:個別の研修プログラムを検討する(1月〜3月)
- STEP5:新卒研修の実施(4月〜6月)
STEP1:研修の方針を決める(11月前半)
研修方針の検討には、前年度研修の改善点を洗い出すことはもちろんですが、社会環境の変化や事業ポートフォリオの更新など、新卒社員を取り巻く状況の変化にも注目し、研修方針として修正すべき点がないかを確認することが重要です。毎年決まった内容の焼き増しでは、世の中の変化のスピードについていくことができず、成長の妨げにもなります。
コンセントでは2022年度より全社のソリューションが「サービスデザイン」に集約された。そのため、2023年度の新卒研修では「SD研修」の位置付けや研修内容の見直しを行った。
STEP2:研修のゴールと研修テーマを設定する(11月後半)
ゴールは「SD研修を通して、新卒社員に最終的に到達してもらいたい状態」を言語化したものです。ここで設定したゴールが、SD研修に関わる関係者の共通の目当てになります。STEP3以降、このゴールを達成するために、必要な実施内容やプロセスを検討していくことになります。
併せて、研修テーマの設定も行います。研修テーマは新卒社員にとって身近な内容であり、自分ごと化しながら取り組むことができるもの。さらに、実在する課題を設定することがポイントです。
2023年度の研修テーマ「コンセントの新卒通年採用におけるコミュニケーションプランの検討と、それに資するツールの開発」は、新卒社員の就活時代の経験を生かした立案ができる点、クライアントのリアルな課題である点を踏まえて設定しました。
テーマに紐付く「与件」として、「依頼主」や「課題意識」「期待する内容」「想定納品物」に関する情報も整理します。この情報が実践プロジェクトにおけるRFPとなります。
2023年度SD研修のゴール状態を定義した資料
2023年度の研修テーマを定義した資料(RFP)
STEP3:研修プログラムの大枠とスケジュールを決める(12月)
40日以上にわたるSD研修をどのように分割すればよいか。過去の研修内容や期間などを参照しながら検討します。2023年度は、下記のように整理しました。
2023年度SD研修プログラム全体像
また、パートごとの「ゴール」と、それを達成するための「実施内容とプロセス」を検討します。これにより研修全体で経験してほしいことの抜けや漏れがないか、各パートで役割を分散できているか、などを全体俯瞰して確認することができます。また、各パートを担当者する人物像も整理され、どういったスキルをもつメンバーをアサインできるとよいかが見えてきます。
「SD事業理解」パートの全体像
「実践プロジェクト」パートの全体像
また、スケジュール検討では、「研修実施期間」だけでなく、「研修準備期間」のスケジュールもあわせて整理します。
- 研修準備期間:4月までに研修準備が整えられるよう、研修担当者との打ち合わせスケジュールや研修内容を固めるタイミングなどを決める。
- 研修実施期間:「SD研修」と「ビジョンデザイン研修」をバランスよく実施できるように調整する。
ここまで整理をして、ようやく個別の研修プログラムの検討を開始することができます。
STEP4:個別の研修プログラムを検討する(1月〜3月)
研修担当者としてアサインされたメンバーが内容を具体化していきます。人事チームが整理した「ゴール」や「実施内容とそのプロセス」「スケジュール」などについて、調整すべき点があれば擦り合わせを行います。
各研修プログラムは、基本的に「講義→ワーク→レビュー」のサイクルが回るように設計されます。
準備期間は約3カ月間。研修担当者は、以下のような内容について研修本番に向けた準備を進めます。
各研修プログラムを検討
なお、実践プロジェクトはパートごとに研修担当者が異なるため、パート間の横連携が非常に重要です。パート間での研修内容の重複や情報伝達不足などが発生しないようにするため、2週間に1回、各パートの研修担当者と人事チームが一堂に会し、進捗共有と連携が必要な点の擦り合わせを行います。この擦り合わせをおろそかにしないことが、研修プログラムの質の向上につながります。
すり合わせ内容例:
- 各パートの講義内容に重複はないか?
- 各パートの成果物が、次のパートのインプット材料として十分か? 過不足の要素はないか?
- 「A.調査・課題探索編」では、現在の新卒採用にどんな課題があるのか?の特定までしてほしい。課題の特定は、「B.施策立案編」で行うのでAでは実施しないでOK
- 「C.オフラインコミュニケーション編」の中で、デザインのトンマナは決め、「D.オンラインコミュニケーション編」は、Cのトンマナを踏襲する形にしたい など
- 全体で統一すべきことはないか?(例:研修の振り返り方法や研修の概要説明で使用するスライド資料、お昼ご飯・休憩の取得タイミングなど)
STEP5:新卒研修の実施(4〜6月)
こうしてようやく4月を迎え、3カ月の研修がスタートします。研修期間中も1パートが終わるたびに引き継ぎミーティングを行い、研修担当者間の横連携を密に行います。設計段階で想定していたことと実際の進行状況に差が生まれるのは当然なので、リカバリーをするための体制を整えておくことが重要です。
研修は内容に応じて、オフラインとオンラインを切り替えながら実施します。丸1日オンラインで研修をする日も多いのですが、これは配属後に行われるオンラインでの打ち合わせやタスクの推進に慣れてもらうことを狙っています。
とはいえ、まだ入社したばかりで会社生活や研修に関する不安や不明点なども発生しやすいため、気軽に相談できる時間として人事チームによる「朝会/夕会(週3回程度、雑談や業務連絡などをする時間)」と、各研修担当者による「相談会(基本的に毎日開催、ワークの進捗状況や悩んでいることなどを共有し、レビューや助言をもらう時間)」を設定し、困る前にフォローできるよう工夫をしています。
講師が1日に1回、出入り自由の相談時間を設け、その時間に新卒社員が相談をする様子
2023年度からは、新卒研修に関する情報をNotionに集約させ、研修関係者だけでなくコンセントのメンバー全員がアクセスできるようにしました。これにより、7月以降の配属先の上長も新卒研修でどのようなことを学んできたのかをキャッチアップしやすくなり、情報伝達のコストを下げることにつながりました。
社内公開している「SD研修」に関する情報をひとまとめにしたNotionページ。「実践プロジェクト」は各パートでページを作成し、研修目的やゴール、日程やリンク集などの情報を一元管理した。
新卒研修の成果
実践プロジェクトで新卒社員が検討したアイデアの一部は、実際に人事の採用施策として実行に向けた動きが始まっています。それは、これまでにない、学生との新しいコミュニケーションの在り方を提案するものでした。リアルなテーマ・課題に向き合ったからこそ、ビジネス的視点や実現可能性も併せて検討されて、より実務に近い経験を得ることができます。
自分が検討したアイデアが現実のものになる、実行まで至らなくてもリアルなフィードバックがもらえる環境が、小さな成功体験を生み、新卒社員たちの自信にもつながっていきます。研修への感想を聞いてみたところ、以下のようなコメントが寄せられました。
- 大学を卒業したけれど、まだ気持ちが社会人になりきれていない中途半端な時期に新卒研修があったからこそ、「この会社ではどんなことをするのか」「どんな技術や思考が必要で、どんな人たちと仕事をするのか」「どんな同期がいるのか」などを知ることができ、7月配属に向けた準備が整ったように思います。
- 「課題探索」「企画立案」「フライヤー制作」「ウェブサイト制作」と幅広く経験できたことがとてもよかったです。講義の時間で学ぶ→実践するという流れだったので覚えやすかったですし、紙媒体(フライヤー)とウェブサイトって、ここは考え方が流用できるな、でもここは違う部分だな……と、今まで気付かなかったつながりや違いを実感できたのがとても学びになりました。
- 研修中にコーディングをやってみたからこそ、エンジニアの思考や実装の難しい点、専門用語などが理解でき、打ち合わせでの話にもついていけるようになったと思います。
- 講師の方々が親身になっていろいろなことを教えてくださって、難しかったりわからないことがあったときにはすぐ質問できる環境で、ものすごくありがたかったです。
入社の5カ月前から準備が行われ、毎年改善を重ねているからこそ、質の高い新卒研修を提供できるようになってきたと考えています。
今回ご紹介した新卒研修は、コンセントに特化した内容ではありますが、会社の規模や組織の特徴に合わせて、入社から配属までのオンボーディングをスムーズにするための仕組みを整えることはどの組織にも共通する重要課題です。
コンセントでは、新卒研修を「配属後に活躍をするための土台をつくる期間」と捉えています。この期間をより有意義なものにするためには、配属先での活躍を見据えて、現場の視点に立って研修プログラムの検討をすることが大切です。そのためには、人事チームと現場メンバーの連携が不可欠であり、その連携を丁寧に行うことが質の高いプログラムにつながると考えています。
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