誰もがデザイナーになる時代に 大学生に伝える「デザイン」

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    中野文俊クリエイティブディレクター

こんにちは。クリエイティブディレクターの中野文俊です。2025年10月30日、帝京大学経済学部で「デザイン」をテーマに特別(ゲスト)講義を行いました。

きっかけは、スマートニュース メディア研究所(SMRI)所長の山脇岳志さんからの相談でした。山脇さんは、帝京大学客員教授も兼務され、成績優秀者を対象としたECCP(経済学部キャリア・チャレンジ・ブログラム)という講座で、論理的思考やメディアリテラシーを教えておられました。「ネットやSNSの普及で誰もが発言者になれる今、表現の質を左右する『デザイン』の重要性について学生に伝えたい。デザイン思考を学ぶことは、メディアリテラシーを深めることにもつながる」。その言葉に共感した私は、ECCPのゲスト講師になることをお引き受けしたのです。

私は30年以上に渡ってさまざまなデザインを手がけてきましたが、大学生に向けて「デザインとは何か」を話す機会は自分のデザイン観を言語化する意味でもとても貴重でした。この記事では講義を通して伝えたこと、そして学生たちの反応をまとめています。

写真:中野が教室でマイクを持って講義している様子。

デザインは「よりよい状態を目指して意図的に設計する行為」

「デザインって、特別なスキルじゃないんだよ」

講義の冒頭で話した言葉に、多くの学生が「え?」という目になりました。おそらくデザインとは「見た目を整えること」「ポスターやロゴをつくること」というイメージが強かったのでしょう。でも、デザインの本質はもっと広いものです。

語源はラテン語の"designare"──「目印をつける」「計画を示す」という意味。辞書では「設計」「意匠」「計画する」「意図する」とあります。つまり、デザインは単なる美しさではなく、目的に応じて形や構造、体験を意図的に設計する行為なのです。

そして言語だけではなく非言語領域も扱うことが特徴ということを強調しました。「デザインは人間活動の基礎です。誰もが日常で行っているような、なにかをよりよくするために五感を使って考え、伝える、整える。それがデザインです」。この言葉に、学生たちの表情が変わったのを覚えています。ある学生は講義後のリアクションペーパーにこう書いていました。

学生からの反応

デザインはアートと同じだと思っていました。でも、アートは自己表現、デザインは他者の体験を設計するものだと知り、視点が変わりました。

写真:教室で中野の解説に聞き入る学生達。
スライド:デザインがグラフィックやプロダクトなど「見た目」を対象としていた時代から、体験・ビジネス・組織など概念的なものも扱うようになってきたことを説明している。

時代とともに広がるデザインの領域

続いて、デザインの歴史や進化の過程を解説しました。1880年代のイギリスで生まれたアーツ&クラフト運動以降、グラフィック中心の時代から、デジタル時代のUI、そして現在はデザイン思考をベースにサービスや体験そのものを設計する時代となり、社会課題の解決やビジネスモデルの構築にもデザインの力が生かされています。

「デザインは、人と環境との間で体験の価値をつくっていくこと」

例えば紙コップに蓋をつけるだけで「場所に縛られない体験」を生み出す──そんな小さな工夫もデザインです。人と環境の間には、人と人もありますし、人と組織、衣食住や地球環境もあります。

学生からの反応

デザインは、よりよい状態を意図的に設計する行為。見た目だけでなく、体験や意味をつくることだと理解しました。

スライド:「コーヒーを飲む」という行為を例に、「陶器のカップとソーサー」だと屋内でしか飲めないのに対して、「紙カップにフタをつける」と持ち歩きが出来て場所に縛られなくなることを示している。

ワークショップで体験する「デザイン思考」

後半は、デザイン思考のプロセスを体験するワークショップを行いました。テーマは「エレベーターの開閉ボタン」。私自身、乗り降りを急いでいるときによくボタンを押し間違えます。

「なぜ間違えるのか?」「なぜ押し間違えない人もいるのか?」──学生たちは観察と共感から始め、原因を定義し、改善アイデアをスケッチしました。

スライド:共感→定義→アイデア→試作→評価、というデザイン思考の流れを解説している。アイデアスケッチ用のワークシートにもデザイン思考が活用されている。
写真:学生たちが紙のワークシートを使ってアイデアスケッチをしている様子。

学生からの反応

  • 単純なマークだとわかりやすいように見えて、意味が正確に伝わりづらいことを実感しました。
  • 私は文字にすればいいと思っていました。でも、それだと外国人には分からないかもという意見を聞いて深く納得しました。

「共感」から始めることの重要性を、短時間ながら実感してもらえたと思います。

ダークパターンと倫理の話

最後に、UIデザインに潜む「ダークパターン」について触れました。ダークパターンとは、ウェブサイトやアプリなどでユーザーを意図的に誘導し、誤った判断をさせるインターフェースのことです。こうした仕組みは、短期的には事業者の利益につながる一方で、ユーザーの信頼を損ない、社会的責任を問われるリスクをはらんでいます。これから社会に出ていく大学生の皆さんには、ぜひ知っておいてほしい重要なテーマです。

スライド:ダークパターンの概要や種類、生まれてしまう構造について解説している。

学生からの反応

サブスク解約の際に訴えかけてくる仕組みがあることを知っていましたが、茶目っ気だと思っていました。でも、倫理的な問題があることを話を聞いて感じました。

デザインは人を助ける力を持つ一方で、誤った方向に導くこともできます。だからこそ、デザインには誠実さと創造性の両立が求められるのです。

講義を終えて

終了後の感想として、学生たちが「デザインは見た目だけでなく、体験を設計するもの」「日常の中でデザインを意識するようになった」と書いてくれたことを、とても嬉しく思いました。若い世代に「デザインとは何か」を伝えて、社会全体のデザインリテラシーを高めることも、デザイナーの責務だと思っています。

写真:講義中に中野と学生たちが談話している様子。

[ 執筆者 ]

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