インクルーシブデザインを深く知る クライアント参加型勉強会の実践
- コミュニケーションデザイン
- インクルーシブデザイン
- 教育・人材育成
- コンセントカルチャー
こんにちは、UX/UIデザイナー・コミュニケーションデザイナーの叶丸です。現在は主に、デザイン組織のUXデザイン支援に携わっています。
以前、この「ひらくデザイン」にて、サービスデザインやUXデザインを学び合う現場発オンライン勉強会「押忍!!ゼロイチ道場」をご紹介しました。
「押忍!!ゼロイチ道場」とは、サービスデザインやUXデザインの基礎を学び合う社内勉強会です。若手メンバーを中心に、知識のベースラインをそろえることを目的に開催。隔週1回・1時間30分、全14回のプログラムとして、Miroを使用してオンラインで実施しました。
最新の「押忍!!ゼロイチ道場」では、インクルーシブデザインとアクセシビリティのスキルアップおよび品質向上をテーマに開催しました。今回は新たに、とあるクライアントをご招待する試みにもチャレンジしています。本記事では、クライアントを交えた研鑽活動とその成果についてご紹介します。
企業活動におけるインクルーシブデザインとアクセシビリティの重要性
本題に入る前に、言葉の定義についてお話しします。コンセントではインクルーシブデザインを「一人ひとりの心理的・身体的な多様性を捉えることで、潜在課題や解決策を見つけ出すアプローチ」と定義しています。また、アクセシビリティとは「どのような人・環境でも施設やサービスを利用できること」を指しており、アクセシビリティはインクルーシブデザインのアプローチに内包されるものと捉えています。
コンセントは、社会や顧客のニーズを満たす価値のあるデザインを行うために、インクルーシブデザインやアクセシビリティの視点は欠かせない要素だと考えています。また近年、企業が果たす社会的責任としての重要性も高まっています。そのため、今回はインクルーシブデザインとアクセシビリティをテーマに企画しました。
前述のクライアントもアクセシビリティに力を入れており、企画当時はアクセシビリティガイドライン策定に向けた準備を進めていました。そこで本勉強会をご紹介したところ関心をもっていただけたため、一緒に学ぶ機会が実現しました。
当事者意識を高め、質の高い議論を促す
本勉強会は、隔週1回・全6回で開催しました。実施に当たっては、参加者が手を動かしたりディスカッションすることを重視しました。座学だけでなく、ワークや対話を行うことで当事者意識を高め、より質の高い議論を促すことを目指したからです。また、クライアントも参加するため、企業文化や課題の違いを考慮してワークを設計しました。そして、参加者のニーズを反映するために、折り返しとなる3回目でアンケートを取りプログラムをアップデートしながら進めていきました。
本勉強会での主なトピックを3つご紹介します。
トピック1:「無意識の排除」を考え、アプローチの改善を探る
1〜2回目のプログラムでは、「身の回りのインクルーシブデザインを考える」ワークを行いました。まず、身近なサービスやアプリで「無意識の排除」がないかを考えます。無意識の排除とは、文化的な背景や習慣における無意識の思い込みにより、知らないうちにユーザーを排除してしまっていることを指します。
例を挙げると、とあるサービス紹介動画は映像と音声のみで作成されており、音声情報の書き起こしやキャプションは提供されていません。聴覚障害者をはじめ、電車など音の出せない状況、騒がしいカフェなどの環境で視聴する人には音声情報が伝わらないため、排除してしまっているとも考えられます。
そこで、考えるヒントとして、「プロダクトインクルージョン・チェックリスト*」や「特性・考え方・状況や環境」における確認観点を紹介しました。まずは無意識の排除に気付き、検討していなかった範囲や領域がないかを確かめられるようになることが狙いです。
さらに、洗い出した無意識の排除を回避するための対応策を考えました。そしてサービスのコンセプトや機能、またはプロジェクトのプロセスを改善できないかなど、参加者で意見を交わしました。
*アニー・ジャン・バティスト(2021)「プロダクトインクルージョン・チェックリストで軌道修正する」『Google流 ダイバーシティ&インクルージョン インクルーシブな製品開発のための方法と実践』ビー・エヌ・エヌ p.140
トピック2:実践で使えるフレームワークのアイデアを創出する
3回目では、インクルーシブデザインを実践している自社事例を紹介しました。中でも『文部科学省「読書バリアフリー法」啓発用リーフレット』プロジェクトは、要件定義から実制作のアウトプットまで一貫して取り組んだ事例です。仕様やコンセプト検討時に考えたことや、ビジュアルデザインとイラストディレクション時に考慮したことを具体的に振り返って共有しました。想定ユーザーが誰であるか、どのような状況下で読まれるのかなど、条件ごとの対応策をフロー図で整理しました。
参加者からは「フロー図で対応を検討するとステークホルダー間で目線がそろい、議論がしやすい」といった意見がありました。本ワークを通して、実践で使えるフレームワークのアイデアを創出することができました。
トピック3:現場が抱える悩みを互いに話し、最適な解決策を導き出す
6回目では、インクルーシブデザインの実践やアクセシビリティ対応において、現場で抱える悩みを共有し、解決に向けた糸口のディスカッションを行いました。
「インクルーシブデザインをこれから始める企業は何から取り組むとよいか?」「ウェブアクセシビリティ対応に関して、担当者によって知見や関心の高さがまちまち。組織内に浸透させるにはどうすればよいか?」「コーポレートカラーのコントラスト比が4.5:1を満たしていない場合、サイトのデザインではどのように対応しているか?」などといった、さまざまな粒度の悩みが挙げられました。これらの悩みに対し、互いに意見を出し合って解決策を検討しました。
学び合いの場から得られた手応え
全プログラム終了後、クライアントを含めた参加者からは、「圧倒的な知識量をインプットすることができた」「数を重ねるごとにインクルーシブデザインに対する考え方がアップデートされて、熱い気持ちで議論できるようになった」「社内でのアクセシビリティの意識が変わり、視座を高めることができた」といったコメントが得られました。また、クライアント社内では、デザインシステムのアクセシビリティ対応が急速に進んだと聞いており、本勉強会もその推進の一助になったと捉えています。
あらためて、インクルーシブデザインの実践やアクセシビリティの品質向上に向けて、学び合いの場をつくることは有効だと考えています。今後も自社の枠内にとどまらず、知識や経験を共有してお互いに学び合う「デザインでひらく、デザインをひらく」活動をしていきます。