「つながる世界」の可能性 SXSW 2018 参加レポート
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2018年3月9日〜3月18日にアメリカのオースティンでSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)が開催されました。テクノロジーやデザインを切り口に、世界各国の企業が話題としているトレンド収集やスタートアップ企業との交流を目的として、コンセントから江辺和彰と佐々木未来也の2名がイベント前半の5日間に参加。その様子をご紹介します。
SXSWとは
もともと音楽祭として1987年からスタートしたSXSW。年々規模を拡大し、映画、テクノロジーなどを含む総合イベントとして、世界から注目されています。近年はITベンチャーがアイデアやサービスを披露し合う場としての関心も高く、TwitterやAirbnbなどもSXSWをきっかけに世界に広まりました。SXSWの期間中はメイン会場となるコンベンションセンターを中心に、周りのホテルやダウンタウンの店舗もセッション会場や展示スペースになり、街全体がイベント一色に染まります。いたるところでスタートアップ企業がプレゼンをしていたり、有名企業がセッションをしていたりと街中がお祭りモードで賑わっていました。
宇宙開発からジャーナリズムまで
まず、SXSWに参加して驚いたのは、我々に普段馴染みのあるデザインやテック系のセッションと同列に、宇宙開発、ダイバーシティ、ジャーナリズムなど幅広い話題が各所で語られていたことです。たとえば、FacebookやGoogleなど誰もが知っている大企業がセッションをする隣りで、地球外生命体探索プロジェクトのクラウド化や、遺伝子編集による生命ハッキングが実現する未来について語られています。
また参加者も高い熱量で参加しており、セッション後の質疑応答や、ミートアップでの意見交換なども活発に行われ、そんなイベントの温度感を感じたり、普段触れない情報に触れたりすることで視野が広くなったことが大きな収穫の1つでした。
日本からの出展者も多かったトレードショー
また、メイン会場で行われるトレードショー(見本市)では日本企業が大きな賑わいを見せていたことも特徴の1つ。会場の中央エリアに大きくエリアを設け、見たり、触ったりすることで反応があるインタラクション性の強いコンテンツが展示されており、海外各国から来ている参加者にとても好評でした。
会場外ではPanasonicやSonyが、それぞれ建物をまるごと展示スペースに変え、独自の最新技術や開発研究段階のプロトタイプを体験できるスペースとしてプロモーションを行うなど、話題になっていました。
トレードショーで大盛況の日本ブース
WOW StudioのA(i)R Hockey。エアーホッケーとARを組み合わせ、盤上に実体のある円盤(パック)とバーチャルで映し出された円盤が同時に映し出され、遊ぶことができる
Panasonic Houseの光景。さまざまなアイディアからの生まれたプロトタイプが公開されている
ここからは、参加したセッションの内、印象に残った2つをご紹介します。
B2B and B2C are Dead: Now What?
EvernoteのCEO、Chris O’Neill氏によるセッションでは、Webにおけるサービス開発でBtoB、BtoCの境目はなくなりつつあり、今後そのようなセグメントは不要になると語られていました。
Evernoteは約70%がビジネスで利用されていますが、そのうち3/4のユーザーは個人のデバイスを仕事上でも利用しています。昔に比べ、スマートフォンやタブレットの普及などにより、いつでもどこでも情報を確認したり共有できたりすることが一般的になりつつあるため、仕事とプライベートの境目が曖昧になり、従来のBtoB、BtoCの考え方はなくなってきているとのことでした。また、企業に属さないフリーランスの働き方も一般的になっており、上記の考えを加速させているとChris O’Neill氏は言います。
確かにここ数年で働き方は大きく変わり、インターネットに繋がりさえすれば、特定の組織に属したり物理的なオフィスをもったりすることなく仕事ができる環境が整いつつあります。各SNSやCMSの普及により専門知識をもたずとも情報発信ができることで、SNSでのネットワーキングやクラウドソーシングのような働き方も広まりました。そのためEvernoteのようなサービスでは「顧客は企業ではなく、人々」とし、ユーザーとのコミュニケーションを図っているとのことでした。
なお、このChris O'Neill氏によるセッションの資料はEvernoteで公開されています。
I’ve Got No Screens: Internet’s Screenless Future
2つ目は音声デバイスによる、今後のWebブラウジングの変化について話されたセッションです。
近年、各社がスマートスピーカーを出したことで、一般的にも音声入力デバイスが浸透していきています。The Richards Groupの戦略ディレクターであるChristopher Ferrel氏は「今後、音声認識の開発は人間のレベルに近くなり、デジタル音声アシスタントは多くの家庭の携帯電話やデバイスにすばやく定着することで、2020年にはWebブラウジングの30%が音声によって行われる。現在、モバイルファーストが主流となっているWebサイトの設計に音声ファーストが加わり、今後必要な考えの1つになるだろう」と語りました。
現在、スマートスピーカーは、音楽やニュースなどを簡単に聞くために購入するユーザーが主です。ただし、Alexa Skillなどの機能を通し、各社がスマートスピーカーとサービスの連携を進めていることからも、情報取得手段の1つとして音声入力が普及していくことが夢でない世界になりつつあります。
そのため、企業のマーケターには声のトーンやパーソナリティ設計を行う必要性が出てくることはもちろん、現在流行りの“インスタ映え”を狙ったマーケティングのように、音声で検索されることを前提とした商品開発や広告戦略を考えていく必要性が出てくるでしょう。
Christopher Ferrel氏は最後に、スマートフォンで情報を得るために顔を下げている人たちは、顎を上げスクリーンにとらわれることなく生活するのが一般的になるだろうと話しました。
SXSWは、2018年のトレンドとしてこんなキーワードを選びました。
“Globally Connected: we’re in this together”
「グローバルにつながった。私たちはここに一緒にいる」
ここでの“つながり”とは、世界がスマートフォンやIoTなどによりネットワークでつながったことはもちろん、人間とAIの境界でもあり、VRやARなどの体験によるデジタルとリアルの境界でもあり、人種や世代、文化などの境界でもあると感じました。
このように、さまざまな情報が全方位的に交わされるのがSXSWの大きな魅力の1つでもあり、我々がデザインできる領域の更なる可能性を考えることができる体験でした。
UberのChief Brand Officer、Bozoma Saint John氏によるUberの再ブランディングのセッションの1場面
夜な夜な、6th Streetで行われるライブの光景
トレードショーの1場面
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