ビジネスに対するデザインの価値と可能性

McKinsey Quarterly「The Business Value of Design」に対するサービスデザイナーの解釈

  • 塚嵜友子

こんにちは。Service Design div.インターンの塚嵜です。
いきなりですが、マッキンゼー・アンド・カンパニーの発行したレポート「The Business Value of Design (デザインのビジネス価値)」をご存知ですか? 2018年10月のMcKinsey Quarterlyに掲載されたこのレポートでは、ビジネスに対してデザインがどのような価値を発揮できるのかを、300社以上の企業のデータを用いて分析した内容をもとに提示しています。

出典: Benedict Sheppard, Hugo Sarrazin, Garen Kouyoumjian, and Fabricio Dore: Business Value of Design
https://www.mckinsey.com/business-functions/mckinsey-design/our-insights/the-business-value-of-design

ビジネスと関わりの深いサービスデザイナーたちにとって、“デザインのビジネス価値”は言うまでもなくとても重要なテーマです。このテーマに関して大手ビジネスコンサルであるマッキンゼーが事例を取り上げながら提示しているという点も踏まえると、このレポートは興味深いわけであります。
それでは、マッキンゼーのレポートに対してサービスデザイナーたちは実際どのように解釈をし、ビジネスにおけるデザインの価値をどのように考えているのでしょうか? これを探るべくデザイナーたちのブログや投稿などを調べつつ、コンセントでサービスデザインに携わっている代表取締役社長の長谷川と取締役の大崎にも突撃して話を聞いてみました。
“デザインのビジネス価値”に対してさまざまな意見が発せられている中から、この記事では、世界でも代表的なサービスデザインエージェンシーであるLiveworkのディレクターWim Rampenの記事(以下、Rampen)と、コンセントで行ったインタビューの内容をピックアップしてご紹介します。

Wim Rampenの記事
Reflections on McKinsey's "The Business Value of design"

コンセントの長谷川、大崎に突撃インタビュー

マッキンゼーのレポート「デザインのビジネス価値」

本題に入る前にマッキンゼーのレポートについてまず簡単にご紹介します。このレポートでは、300社における財務業績とデザインの関係性を分析した結果から、財務業績との相関関係がある12のデザインアクションを抽出。それを4つに類型化し、McKinsey Design Index(MDI)として指標化しました。

出典: Benedict Sheppard, Hugo Sarrazin, Garen Kouyoumjian, and Fabricio Dore: Business Value of Design
https://www.mckinsey.com/business-functions/mckinsey-design/our-insights/the-business-value-of-design

これらのMDI項目においてトップ25%の成績を保持する企業とそれ以外の企業をいくつかの視点で比較した上で、デザインはビジネスに貢献するという論理を展開しています(詳細はレポートにてご確認ください)。

「デザインのビジネス価値」

さて、このレポートを、サービスデザイナーたちはどう解釈しているのか。 オンラインで掲載されているブログや投稿を見ていると、全体を通して、ビジネスパーソンに向けてデザインの重要性を提示していることに対してありがたみを感じる声がある一方で、別の意見のある人も多いようです。コンセントの長谷川と会話をしている中でも、周りではすでにマッキンゼーのレポートを引用しているデザイナーもいるけれども、あくまでもビジネス側とのコミュニケーションを緩和するツールとして使っているという話がありました。
レポートに対する異議の内容としては、

  • 「デザインがなぜ今必要なのか」を説明するロジックに関する違和感
  • (上記を踏まえての)デザインがもつポテンシャルに対する過小評価

という2つのテーマが出てきました。ビジネスにおけるデザインの価値としては、この2つはとても重要なテーマです。この2つのテーマに沿って、それぞれの意見や解釈を共有します。

なぜ今、デザインが必要とされているのか

まずは、そもそもなぜ今ビジネスにおいてデザインなのか。
マッキンゼーのレポートでは、デザインは競争の中で商品・サービスを差別化して売り上げを成長させることに役立つという前提が置かれています。ここで言われているデザインのビジネス的価値はプロダクトの使い手にとって良いモノづくりに貢献することにより商品の差別化に繋げ、販売成績に良い影響をもたらすこととして認識されています。

“スイス・アーミーナイフ、グーグルのホームページ、ディズニーランドの顧客体験などは優れたデザインの象徴として知られている。これらの例は、いかに優れたデザインが、物理的な側面、サービス的な側面、デジタル的な側面やその組み合わせにおいても画期的かつ持続的な商業的成功に導くための中心的存在かということを思い起こさせる。”

マッキンゼーの主張の中には確かに“顧客経験”という言葉が登場しますが、ここでのお題は顧客に対する商品(サービスを含む)体験を改善するという趣旨であり、それがなぜそのように変化しないといけないのかというもう一段深いレベルの話に達していません。長谷川はインタビューの中で、(顧客体験をどう提供するか以前に)経営モデル自体の見直しが求められていることについて話しました。

“根本のところではよく我々も言及するグッズ・ドミナント・ロジック(GDL)からサービス・ドミナント・ロジック(SDL) の時代に経営モデルを変えなければいけないというようなお題が背景にはあるのではないかと思います。つまり、量的にモノを販売するような従来のビジネスという販売モデルだったのが体験提案モデルに変わるということで、実はこのレポートではそういう経営の体質変化が必要だということまでは触れられていなくて、どちらかというと表面的な対処について書かれていると思いました。”(長谷川)

デザインは今後サービス・ドミナント・ロジックの経営モデルのビジネスが増えて行く中で活躍できるはずなのに、その議論はこのレポートではされていないということです。更に、大崎はサービスデザインの現場においてもデザイナーたちと企業との間でデザインに期待する効果や価値が異なることがよくあると言います。

“現場感覚としては個別の道具としてデザインが語られることが多いです。「アマゾンのような業界を覆す対象に対応するために、業容転換をしないといけない。その一つの手段がデジタルトランスフォーメーションだ。そのためにデザインが必要だ。」みたいな文脈が存在していて、そのような状況ではサービスデザイン的な視点をもってダイナミックに組織をデザインする必要性が響かないときもあります。”(大崎)

現状の経営モデルの延長でサービスのデジタル化などは考えられていても、組織レベル、経営レベルでの転換までは視野が及んでいないという指摘です。
マッキンゼーのレポートでは顧客体験というキーワードは飛び交っていますが、議論の内容から垣間見るニュアンスからそれはあくまでも「従来のように大量生産してたくさん商品を販売するモデル」を前提とする短期的な議論でしかない、とサービスデザインの実践者たちは解釈しています。

また、マッキンゼーのレポートでは触れられていない背景のもう一つに、消費者行動にも影響する、社会全体的に見られてきている価値観の多様化があります。例えば、長谷川は貨幣主義が薄れていくことについて挙げました。

“貨幣主義はなくなっていくところがあると思います。従来だったら稼ぐために東京に人が来るという、地方よりも東京の方が企業のヘッドクオーターもあり割りがいいから来ていたのが、今ではお金は儲からないけどIターンして地方プロジェクトをやる人たちが世の中でこんなに増えていっています。それは東京とかで金銭的な価値を得るよりも金銭的には少ないけど自分にとって意味のある活動をやるような方向を選んでいるという話ですよね。”(長谷川)

このように価値観の多様化や、それと同時並行に変化せざるを得ないビジネス環境も考慮するとマッキンゼーのデザインのビジネスにおける価値の提案は限定的です。また、Rampenの記事では、“(デザインは)本来は多様な価値を創造できるはずなのです”と述べられていて、そこからも、これからはお金以外の価値の探求が行われることが前提として議論されていることがわかります。

上記では、そもそもマッキンゼーがレポートで前提としているビジネス環境とサービスデザイン側が考える今後の変わりゆくビジネス環境が違うことを述べました。販売型からサービス型のビジネスモデルへの変化や貨幣主義以外の価値観の多様化などを踏まえると、マッキンゼーが提案する4つのデザインアクションの妥当性や優先度は低くなります。

「分析的リーダーシップ」よりも大胆なリーダーシップ

次に、サービスデザイナーたちがひっかかっていた「分析的リーダーシップ」に関しての解釈とその見直しの必要性について紹介します 。Liveworkもコンセントも共通して、マッキンゼーが重要として抽出したデザイン実践の妥当性が低いという議論が繰り広げられていました。

“(分析的リーダーシップに対する)イメージとしては安易なKPIマネジメントをしているというか、(デザインが扱う問題は)「AとBを分析してAの方がより良いでしょ?」っていうレベルの話だけではないよねって思います。”(大崎)

“デザイン実践を指標化して、それらのアクションからPDCAの過程を通して学ぶのはいいのだけども、それは大胆なディレクションがある場合の話で、最初にアナリティカルリーダーシップを重要なデザイン実践として挙げるっていうのは萎縮効果しか及ばさないのでは、と思いました。”(長谷川)

“What gets measured gets done”という格言があるように測定可能な行動はビジネスで重要視されています。そういう意味では、世の中の経営陣が重要視する指標を株主中心主義からより人間中心主義へと、マッキンゼーなら自身の力を発揮して変えられるのではと密かに思っていたりします。“(Rampen)

また、Rampenは、そもそも一つのリーダーシップを重要視するという枠組み自体に違和感を感じ、多様な人材と個性を活かせるチームの必要性を訴えています。

“個人的には分析的リーダーシップの枠組みを好みません。そのような能力をもっている人は経営層にざらにいます。デザインが活かされるためには、多様な人材を必要とします。 (略)そして、それぞれの個性に感謝し、活用する方法を知っている経営チームが必要です。”(Rampen)

コンセントのインタビューでは、時代の流れを意識して新しいビジネスの在り方を模索する中では、大胆な変化を行うボールド・リーダーシップが必要になってくるという声がありました。

“大胆に何かをやるというのがイノベーションの文脈だったら、アナリティカルなことをやっていたら永久にイノベーションには繋がりません。(略)経営者は保守的になる必要はなくて意思決定をして何かをやって、上手く行ったら評価されるべきだけど、上手くいかなかったらやめればいいというシンプルな話。それを大体の経営者はなんとなく思っていると思うけど、今必要なのはボールド・リーダーシップだと思います。 ”(長谷川)

この説明だとまだボールド・リーダーシップにおいて抽象的なところもあるので、具体例を聞くとアマゾンの例が出てきました。経営モデルの変化が求められる今の時代において、今まで築いてきたことを変える際に都合が悪いことが生じることはよくあるはずです。そんな中、都合が悪いことを理由にプロジェクトを始動させなくなる企業も多くある中で、都合の悪い状況から自分たちのサービスを見直して変えていける状態をボールド・リーダーシップが発揮していると長谷川は言います。

“都合の悪いことがあれば、自分たちの方を変えていくということをアマゾンはしています。ベゾスは暴君として怖がられてはいるけれど、サービスの司令塔になる人としてはそういう態度も必要だという教訓になりますよね。(略)例えば、アマゾンで余っているリソースがあってそれがネットのサーバーでした。ピーク時はすごく使うけど、クリスマスなど何万人のアクセスに備えたサーバーはそれ以外の閑散期が暇なので、その暇をクラウドで売ろうということでAWSができたわけなんです。”(長谷川)

また、Rampenも組織のあり方について言っていましたが、大崎は新しいことや変革を行うときにおいては組織のあり方を見直すことが重要だと主張していました。

“分析的かどうかは置いておいて、取締会の構成としてデザインを理解できる人がいることが必要です。仮説に基づいた数値化できないものを提示して経営判断をしていくことも含むので、一人のパフォーマンスより取締会の構成とか、議論や意思決定の方法とかが大事だと思います。”(大崎)

分析的リーダーシップへの解釈や意見を比較すると、デザインを行っていく上でも、変化を起こせる環境づくりを優先させなければデザインの持つ可能性をフル活用できない状況が伺えます。 

アマゾンの例から見たサービスデザインの可能性

先ほどボールド・リーダーシップの例でAWSの事業を主導したことが挙がりましたが、AWSなどのサービスが出てきた背景にサービスデザインのホリスティックな視点が伺えると長谷川は言います。

“アマゾンはサービスドミナント型の経営をやっていることを公でも言っています。(略)我々サービスデザイナーが話しているときも、ホリスティックな視点でステークホルダーマップを描いたりするけれど、(AWSや1-Clickが実現可能だったのは)サービスのエコシステムを常に全体的に見てビジネスをしているからで、アマゾンはサービスデザインの基本をすごく忠実にやっているんです。”(長谷川)

確かにマッキンゼーのレポートで描いてあるデザイン活動は間違っていることを言っているわけではないですが、このように既にサービスデザインの考え方で事業を運営している会社の事例を見れば、デザインが価値を与える領域はまだまだ広そうです。

人間中心デザインの可能性

続いて、サービスデザイナーたちが大事にしている人間中心デザインにおけるビジネス的可能性について紹介します。マッキンゼーのレポートに対するLiveworkとコンセントで共通したもう一つの異論としては、「ユーザー中心」ではなくより広く「人間中心」という視点が必要だという指摘です。Rampenも株主主義ではなく、人間中心主義になるべきだと主張していましたが、長谷川も人間中心が今後必要であると訴えます。

“顧客体験によって従業員が犠牲になっていいということはないと思うので、従業員の満足度みたいなこともアジェンダにあるべきで、必ずしも顧客だけでなくて中の人も含めて人間に触れるところをみるのも、(サービス)デザイナーのもつべき責任だと僕は思っています。”(長谷川)

サービスデザインにおいて、全体的に人間中心は重要視されているのですが、それがなぜ今後のビジネスにおいて価値があることなのか。長谷川は、これからのビジネスにおいて、ユーザーのみならずサービスの関係者全員にとっての体験を捉えることは、会社の売り上げだけではなく、売り上げには直接的には関係しないが重要な無形資産につながると言います。これは例えば、優秀な社員が集まることや会社のイメージなどが含まれ、とくに今後お金以外の価値も重要になっていくようであれば無視できない項目ですね。

“経営指標がちゃんと人間に向いているのかどうかという検証をするのが企業においては実は重要だと思うんですが、それはビジネスを必ずしも儲けさせるためには機能しない可能性があります。(略)このマッキンゼーレポートにある話はビジネスを成立させるということにおいてはウェイトを置いているが会社が正しくあるかっていうことに関しては触れていないように感じました。今のご時世で、商売をうまくやるだけじゃなくて会社が正しくあることは企業の魅力につながる話なので、それに触れていないのは若干古い話に聞こえるかもしれないです。”(長谷川)

まとめ

今回のこの記事では、マッキンゼーのレポートに対してさまざまな反応がある中でLiveworkのWim Rampenとコンセントでサービスデザインを行っている長谷川と大崎の解釈をピックアップしました。サービスデザインの視点から見た意見を比較すると、マッキンゼーの”デザインのビジネス価値”では今後のビジネス環境の変化をとらえていないようにも解釈できるため、デザインがビジネスに対して発揮できる価値の可能性を探求しきれていないというポイントが一番大きかったです。

この記事では、サービスデザインの実践の中で出てくるホリスティックなアプローチや人間中心デザインが、なぜ、どのようにビジネスに役に立つのかを紹介し、ビジネスにおける(サービス)デザインの可能性を見てきました。もちろん、今回のLiveworkの記事やコンセントでのインタビューから見えたサービスデザインの価値はほんの一部なはずです。企業活動を営む上で売り上げ以外の指標も今後確立されると予想されていて、そこに対してもデザインは価値を提供すると考えます。さらに、今回は「デザインのビジネスに対する価値」についての記事でしたが、営利を目的としていない行政や第3セクターなどの組織においてもデザインは十分貢献できるはずですし、実際にサービスデザインがそのような場面で活躍した事例は既に国内外で存在しています。これらをふまえると、今後デザインが活躍できる領域はどんどん広がっていくのではないでしょうか。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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