サービスデザインの基本を学ぶ「サービスデザインの教室〈入門編〉」研修セミナーレポート

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    川原田大地サービスデザイナー

スライドを使って講義する、弊社のサービスデザイナー川原田大地

2020年1月現在、コンセントでは「サービスデザインの教室〈入門編〉」というセミナーを計6回開催しています。講義とワークショップを通して、顧客視点での新規事業の開発や既存事業の改善に役立つサービスデザインの概要を学んでいただけるプログラムとなっています。これまで企業に所属する企画職やクリエイティブ職の方、コンサルティング会社やデザイン会社に所属する方などにご参加いただきました。

サービスデザインの教室〈入門編〉の概要

※終了しています。

今回は、私が本セミナーの講師を担当した回についてレポートします。

1時間目「サービスデザインとは何か?」

そもそもサービスデザインとは何か? 用語としてどのような取り組みを指すのか? について、いくつかのキーワードを用いて解説するところからスタートします。本稿ではキーワードの一つである「サービス」に関して、なぜ事業の開発や改善において「サービス」という考え方が必要なのか? という点についてご紹介します。

スライド1:いかに良い顧客体験を提供できるかが他社との差別化要因になるため、サービスという考え方が重要です。

日本の歴史を少しさかのぼり、高度経済成長期頃の産業に目を向けてみると、この時代においては「機能」もしくは「(特定の機能を持つ)モノ」自体に価値があると認識されていました。テレビ・洗濯機・冷蔵庫といったかつての三種の神器や自動車を想像していただくとイメージしやすいと思います。しかし、世の中に同じような機能やモノが溢れ、コモディティ化が進んだ現代においては、「モノの利用を含めた体験全体」に価値がある、という認識に変化しています。

つまり、いかに良い商品をつくれるかではなく、良い顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)を提供できるか、という視点とその実現が、業界における差別化のために重要です。むしろ、固有の体験を提供できなければ、顧客からすると代替可能なものとなってしまう、とも言えます。これはブランディングの考え方にも通じるものです。

スライド2:「体験の提供」=サービスとして捉えられます。モノはサービスを構成する要素のひとつという位置付けです。

「モノの利用を含めた顧客体験の提供」は、「体験の提供」なので、すなわち「サービス」として言い換えることができます。この「サービス」という考え方によって、モノは、それだけに価値があるものとして扱うのではなく、特定の体験を提供するための要素のひとつ、という考え方への転換が必要になります。ちなみに専門的には、グッズ・ドミナント・ロジックからサービス・ドミナント・ロジックへの転換、という言い方で説明しています。

実は、こういった考え方に基づく産業のサービス化は、すでにあらゆる業界・領域で起きています。SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)と言われるような、いわゆるXaaSという用語は、この考え方がすでに世の中に流布しつつあることの証左と言えます。

2時間目「サービスデザインはどのように行うか?」

続いてサービスデザインを実践するにあたっての基本的な考え方、代表的なツール・メソッド、また実際のプロジェクト事例について紹介しました。「代表的なツール・メソッド」に関しては、ペルソナやカスタマージャーニーマップ、サービスエコロジーマップ、サービスブループリントなどについての説明と、それぞれの活用の意義について言及しました。

スライド3:カスタマージャーニーマップのサンプル画像。
スライド4:ステークホルダーマップ、サービスエコロジーマップのサンプル画像。

例えば、最近ビジネスの現場でもよく聞かれるようになったカスタマージャーニーマップについては、一般的には「顧客の行動を時系列で可視化した図、またはその手法」として説明されます。しかし、これを作成する意義としては次のことが挙げられます。

  • 顧客を中心とした自社製品の利用体験を描くことにより、顧客の感情やその変化に着目することができる
  • 顧客の視点を知ることで、自社以外の製品やサービスも広く活用されている(=自社とは全く別のカテゴリーの製品やサービスでも競合になり得る)ことを理解できる
  • 時系列で顧客体験を可視化することで、心地よい体験を阻害する「途切れ」を特定し、顧客の離脱要因となりうる箇所を把握することができる
  • 製品やサービスの関係者間で、顧客体験に対する認識を統一することができる

さらにこれらは、現状(As-Is)の顧客の行動を描くのか、理想的(To-Be)な顧客の行動を描くのかによっても、活用の意義は大きく変わってきます。本セミナーでは一般的な説明から踏み込んだ、現場で活用する際の視点や注意点についても合わせて解説しています。

3・4時間目「サービスデザイン体験ワークショップ」

後半では2時間分の枠を使って、誰もが過去に一度は体験したことのある特定の体験、例えば「旅行」「映画鑑賞」などをテーマにサービスデザインを実践します。参加者には新規事業開発の担当者になったつもりで、カスタマージャーニーマップを活用して、その体験に関する新規サービスをチームごとに考案してもらいました。

といっても、いきなりカスタマージャーニーマップを制作するところから始めるのではありません。リアリティのある実践的な内容とするため、各チーム内で、どなたか1名の実際の体験をカスタマージャーニーマップとして制作します。同じチームのメンバーは、その方(ユーザー)の過去のエピソードや当時の心情を聞き出す必要があるため、このワークはインタビュー調査の練習にもなります。ユーザーを目の前にして、本音や心情を聞き出すことの重要性を実感いただくと同時に、やってみると意外と自分にもできそう、という面にも気づいていただけました。

ワークショップ参加者が相互にインタビュー練習をする様子

  • 「タイトな時間の中で検討を行うことで追い込まれた感があり、集中できる」
  • 「時間を短く切ったアイデア出しを活用したい」
  • 「実際にユーザーにインタビューするプロセスを体験してみたい」

といった感想をいただくなど、短時間で一気にアイデアを創出するメソッドやインタビューの体験は印象深かったようです。合わせてシナリオ作成ツールも用意することで、創出した個々のアイデアから具体的なサービス利用のシナリオまでをスピーディーに作成するワークも体験していただきました。

ワークショップではさまざまなツール・メソッドを活用しながらユーザー調査からアイデア検討までを連続したプロセスとして体験できます。調査・分析だけやって終わり、カスタマージャーニーマップを作って終わり、アイデアだけ出して終わり……とはならずに、それぞれの結果を次につなぎ、活用していく方法についての勘所を掴んでいただけます。加えて、都度目的思考を持ってタスクを遂行していく重要性についても学んでいただけたのではないかと思っています。

ワークショップ参加者が考案したサービスをプレゼンテーションする様子(その1)
ワークショップ参加者が考案したサービスをプレゼンテーションする様子(その2)

本セミナーはサービスデザインの〈入門編〉であり、内容としては基本的な考え方やアプローチにフォーカスしたものではありますが、その後、参加者から「『サービスデザインとは』という概念を知るところから、方法、実践まで体験でき、知識が身についたように感じた」「実際に社内で活用し始めています」という声もいただきました。セミナーで習得された考え方・手法を日常の業務に活かされているようです。私自身セミナーを担当したことによって、これまで積み重ねてきた知見を客観的な視点で再構築できた点が大きな学びになりました。

サービスデザインの考え方やアプローチが、ビジネスの現場のみならず、より広く活用されるよう、私自身引き続き活動していきたいと思います。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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