経済産業省「我が国におけるサービスデザインの効果的な導入及び実践の在り方に関する調査研究」背景と要点
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こんにちは、サービスデザイナーの川原田です。2020年4月、経済産業省より令和元年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業「我が国におけるサービスデザインの効果的な導入及び実践の在り方に関する調査研究報告書」と、サービスデザインの普及啓発のためのコンテンツ「サービスデザインをはじめるために―サービスイノベーションを加速するサービスデザイン入門」が発表されました。
この調査研究は、国内外の民間領域におけるサービスデザイン実践事例の調査・分析、有識者による研究会での討議、またシンポジウムの開催などを通して、日本におけるサービスデザインの効果的な導入・実践のあり方を提示することを目的とした、経済産業省によるプロジェクトです。そのアウトプットとして、下記のコンテンツが作成されました。
コンセントは本プロジェクトの受託者として調査研究の推進、報告書とコンテンツの編集・執筆に協力しています。この記事では本調査研究の背景と概要についてご紹介します。
サービスデザインの効果的な導入・実践のために
昨今、顧客の体験価値に立脚した継続可能なビジネスを実現するための方法論のひとつとして、サービスデザインに注目が集まっています。特に海外においては、民間・公共のさまざまな領域において、その適用が広がりを見せています。
他方、日本においては、2017年5月に政府のIT総合戦略本部で決定された「デジタル・ガバメント推進方針」にて「サービスデザイン思考に基づく業務改革(BPR)の推進」が挙げられました。これを皮切りに、2018年3月には、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室によって「サービスデザイン実践ガイドブック(β版)」が公開されるなど、公共領域においては、その導入・実践が進行しつつある状況と言えます。
しかし、民間領域に視点を移すと、サービスデザインの認知こそ広がりつつありますが、その導入・実践に関しては、一部の大企業やスタートアップ企業を除いては、まだまだ限定的な状況にとどまっているという見方が一般的であると思います。
そこで本調査研究では、特に民間領域におけるサービスデザインの実践状況に焦点を当てています。有識者を委員とする「サービスデザイン研究会(研究会座長:慶應義塾大学経済学部教授 武山政直氏)」での討議・検討を軸に、国内外の実践事例の調査・分析などを通じて、日本におけるサービスデザインの効果的な導入・実践のための提言を行うプロジェクトとして発足しました。同時に、その提言に基づくアウトプットとして、サービスデザインの普及啓発コンテンツを作成することも、本プロジェクトの重要な目的となっています。
日本の民間領域におけるサービスデザインの効果的な導入・実践に向けて、最終的に導いた提言としては、下記の6点です。
提言1. サービスデザインの概念・意義の浸透
サービスデザインは領域横断的な視点が不可欠であり、誰かが単独で実践できるものではない。その必要性や意義、効用等について、組織内外において広く認識されている必要がある。本事業において作成した普及啓発コンテンツ(「我が国におけるサービスデザインの効果的な導入及び実践の在り方に関する調査研究報告書」概要版のp.11参照)を活用するなどして、サービスデザインの概念・意義等について、基本的な知見として組織内外で積極的に普及・浸透を図るべきである。
提言2. サービスデザインを体験する場・機会のさらなる創出と活用
サービスデザインの必要性や意義は理解できても、実際の業務にどのように応用し、何から着手すれば良いかが分からないという声は多い。まずは身近なテーマを扱ったワークショップの実施、そのような場への参加等を通じて、実際のプロセスや必要なスキルを理解し、実践するイメージを得ることが重要である。小さな実践は、取り組みに対する心理的ハードルを下げるだけでなく、概念・意義を体感的に理解することにも役立つ。
提言3. サービス視点による顧客との中長期的な関係性の構築
これからは新製品を開発し、それを売って終わりという時代ではない。人口減少が進む現代だからこそ、製造業を含むあらゆる事業は顧客一人ひとりと丁寧に向き合い、サービスとして継続的に価値提案を行っていくことで「売って終わり」ではない中長期的な関係性を築いていく必要がある。そのためには、顧客へのサービスという視点から事業を見直し、そのあり方を再定義するべきである。
提言4. 共創のための「巻き込み力」と「推進力」の養成
サービスデザインの実践においては、組織外の必要なプレイヤーも巻き込みながらプロジェクトを推進していく力が求められる。そのためには、さまざまなステークホルダーとの共創を促すためのファシリテーション能力や、複雑な利害を調整しながら事業を立ち上げ、推進していくイントレプレナーシップ等が必要であり、これらを実践を通じて養成すべきである。より具体的には、コラボレーション機会の創出やオープンイノベーション拠点等の整備が有効である。
提言5. 事業に対するサービスデザインの効果の積極的な検証
サービスデザインの導入・実践効果を経営層に説明する際に、収益上の効果に言及することは避けて通れない。今後、プロジェクトの実践、成果指標の策定、実践者と学術機関・研究機関との連携等を通じ、事業に対するサービスデザインの効果を積極的に検証していくべきである。また、プロジェクト終了後の事業の維持・継続、サービスの運用・品質、従業員のスキル向上等に対する貢献度なども、合わせて検証していくことが必要である。
提言6. 基点となる「ビジョン」「社会的存在意義」の明確化
顧客の要求の高度化、テクノロジーによる業務の効率化、社会課題の複雑化が進んだ先に、持続的な事業活動・企業活動を可能にするためには、その基点となる組織としてのビジョンや社会における存在意義を問い直し、明確化しておく必要がある。組織のトップや「デザイン経営」の主導者は、サービスデザインが、そうしたビジョンを実現するための重要な手段であることを理解したうえで、その取り組みに対し支援や後押しをするべきである。
以上が、調査研究を経てまとめられた、日本におけるこれからのサービスデザインのための提言となります。実践事例の調査・分析内容や研究会での討議内容、また2020年2月21日に開催したサービスデザインシンポジウム2020「サービス視点によるビジネスの(再)構築に向けて」の内容については、上記の報告書に記載しています。
また、これからサービスデザインを導入・実践したい、と考える方には『サービスデザインをはじめるために―サービスイノベーションを加速するサービスデザイン入門』をご活用いただければと考えています。
みなさんの今後の事業活動に、今回の事例がお役に立てれば幸いです。