行政におけるサービスデザイン推進に関する調査研究

  • デザイン経営
  • サービスデザイン
  • 小橋 真哉のプロフィール写真

    小橋真哉サービスデザイナー

「行政におけるサービスデザイン推進に関する調査研究」の報告書の表紙

こんにちは。サービスデザイナーの小橋です。
2018年3月、一般社団法人 行政情報システム研究所から「行政におけるサービスデザイン推進に関する調査研究」の報告書が発表されました。

『行政におけるサービスデザイン推進に関する調査研究』
https://www.iais.or.jp/reports/labreport/20180331/servicedesign2017/

この調査研究は、今後日本の行政においてサービスデザインを推進していくうえでの論点を明らかにすることを目的としたもので、コンセントは調査、編集に協力しています。
報告書の本体および概要は、上記Webサイトで公開されていますが、この調査研究の背景と内容について、少しだけご紹介します。

いま、日本の行政では、利用者中心の行政サービス改革に対するアプローチとして、サービスデザインに対する期待が高まっています。ここ最近の日本政府の動きをまとめると、下記のようになります。

2017年5月:
政府のIT戦略本部で決定された「デジタル・ガバメント推進方針」において、「サービスデザイン思考に基づく業務改革(BPR)の推進」が方針の1つとして挙げられる

2018年1月:
eガバメント閣僚会議で決定された「デジタル・ガバメント実行計画」において、利用者中心の行政サービス改革を推進するための方針として「サービス設計12箇条」が策定される

2018年3月:
内閣官房IT総合戦略室がサービスデザイン思考の意義、手法、事例などをまとめた「サービスデザイン実践ガイドブック」を公開

このように、デジタルガバメント推進の文脈でサービスデザインに注目が集まっており、今後日本の行政においても本格的な導入が見込まれます。
一方、グローバルな状況を見ると、イギリスやデンマーク、アメリカをはじめとする各国の行政機関では、サービスデザインを実践する人材の雇用、部門横断的なイノベーションラボの設置など、組織を挙げてより本格的な取り組みがすでに進められています。サービスデザインに関する国際組織であるService Design Networkでは、公共部門におけるサービスデザインに関する国際的な調査をまとめた「Service Design Impact Report: Public Sector」を2016年に発刊しており(※)、近年のグローバルカンファレンスでも、行政に関するトピックが頻繁に議論されています。
こうした背景をふまえ、本調査研究では、海外の先進事例の調査を通して、今後日本の行政においてサービスデザインを推進していくうえで望ましいアプローチを明らかにすることを⽬的としました。

※ 本レポートの日本語版はSDN 日本支部のWebサイトで公開されています。
https://www.service-design-network.org/chapters/sdn-japan/headlines/service-design-impact-report-public-sectorjpfull

調査対象としたのは、海外の行政機関12ヵ国・14組織と、サービスデザインを先進的に取り入れている国内外の民間企業6社です。各国の概況を網羅的に調査し、その中から特に参考になるプロジェクトや取組事例をピックアップして調査を進めました。
調査にあたっての枠組みとして、行政におけるサービスデザイン推進の全体像をとらえるために、3つのフェーズによる段階的なモデルとして整理しました。


縦軸に規模があり、規模が大きくなるに連れて、導入フェーズ、発展フェーズ、浸透フェーズとなる。発展モデルの横軸は時間。導入フェーズ:個別プロジェクトにおける実践として、時間軸の左から、ワークショップなどでの導入と実践と、特定のプロジェクトの実践がある。発展フェーズ:能力育成とプロセス標準化として、職員とのトレーニングとプロセスの標準化が続く。浸透フェーズ:マネジメントと組織全体の浸透になると、マネジメントへの導入、既存業務との融合が続く。

サービスデザイン推進の発展モデル


このモデルを整理した意図としては、まず組織におけるサービスデザインの推進は、当然ながら一朝一夕でできるものではなく、長期的な視点に立って段階的に進める必要があります。また、サービスデザインと言うとどうしても特徴的な手法やメソッドがフォーカスされがちですが、サービスデザインを単なる手法の一つではなく、顧客視点のサービスを実現するための「戦略」として位置づけ、組織文化やしくみまで含めた「組織変革の軸」としてとらえなければ、本当に一貫して優れた顧客体験をつくり出すことはできません。近年のカンファレンスでも、「Scale(規模)」や「Sustainability(持続性)」が重要なキーワードになっており、持続性を保つためのアクションプランの設計が求められています。
こうした意図をふまえ、手法としての個別プロジェクトでの実践から、組織全体のしくみとして浸透するまでの段階を整理し、各フェーズにおいて重要となるポイントを実際の先行事例をもとに抽出しました。

各フェーズにおけるポイントを要約すると、下記のようになります。

導入フェーズ:個別プロジェクトにおける実践


  • サービスデザイン⼿法を熟知した専⾨家の参加
  • 既存組織を横断する活動体の構成
  • ユーザーを深く理解し「共感」するための調査の実施
  • プロジェクトの活動や成果の⾒える化

発展フェーズ:能力育成とプロセス標準化


  • 概念・⼿法の体系化
  • 研修プログラムの実施
  • 実践によるトレーニング
  • ナレッジ共有の仕組みづくり
これらを体系的に組み合わせることによって、実践と体系化のサイクルを構築することが重要

浸透フェーズ:マネジメントと組織全体への浸透


  • サービスデザイン思考を取り⼊れたサービス開発プロセスの適⽤
  • デザイナーとの密なコラボレーションの促進
  • 組織⽂化の醸成

今後行政において想定される課題


  • 利⽤者ニーズの発⾒と問題定義を組み込んだ調達プロセスの構築
  • 継続的で反復的な開発プロセスの構築
  • デザイン⼈材を採⽤するための採⽤・育成プロセスの構築
  • ジョブローテーションを含む⼈事制度の⾒直し

結果だけを要約するとこんな感じですが、本論ではそこに至るまでの調査として、具体的な海外行政のプロジェクト事例や、能力育成、組織変革に関する取り組みなども取り上げていますので、興味がある方はぜひ報告書をチェックしてみてください。

この調査研究は始まりに過ぎず、実際に日本の行政においてサービスデザインを推進していくのはこれからです。まずは実践あるのみなので、今後は具体的なワークショップやプロジェクトを通して、行政サービスの改善に取り組んで行きたいと思います。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

ページの先頭に戻る