VRをつくることは、体験をつくること

BtoB領域での活用事例を通じて

  • 京増 千晶コンテンツデザイナー

こんにちは!コンセントの映像チーム「渡邊課」のコンテンツデザイナー・京増です。

昨今耳にする機会の増えた「VR」という言葉。
「何となく聞いたことがある」「一体何がいいの?」「これでお仕事をしてみたい!」など、興味の度合いはさまざまかもしれません。さて、本日はそんなVRだからこそつくり出せる、実際にその場に行かずとも、どこかに行ったかのような感覚になれる臨場感のある体験についての話をしようと思います。

写真:ヘッドマウントディスプレイを装着してVRツアーを体験している来訪者の様子。Direction / Movie: bird and insect

渡邊課とは

本題に入る前に、私たち「渡邊課」についてお話ししましょう。渡邊課は実写VRを中心に、没入感を伴う映像体験の企画・撮影・制作を手がけています。

渡邊課|動画をつくるだけ、ではない。コミュニケーションデザイナーが生み出す コンテクストと共にある映像体験

そんな私たちの最大の強みは、デザイン会社に所属して映像制作を行っていること。コミュニケーションデザインを強みとするデザイナーたちが、映像の視聴を含めた一連のユーザー体験を最適な形で提供する。それが、渡邊課のクリエイティビティの真骨頂であると考えています。

VRにはさまざまな種類があり、ユーザーのアクションに呼応するインタラクション性の高いゲームのようなものもあります。そうした中で実写VR映像は、ただ存在する風景を切り取っただけの「劣化現実」になってしまう可能性があります。VR映像が劣化現実にならないために、大切なことは何か。それは「ユーザーが能動的に動き、体験しやすい状況をつくること」だと考えています。ただ映像を眺めているだけではない体験をしてもらうための仕掛けを考えながら日々、制作をしています。

VRがもたらす体験

VRは「バーチャルリアリティ」の略であり、「仮想現実」と訳される言葉です。しかし、実際のところ「代替現実」という方が適当であると考えています。実際にはその場から一歩も動いていないのに、VRゴーグルを被れば、あたかも現実でどこか遠い場所に行ったかのように感じられる体験をもたらすからです。このようにVRという技術・手法を用いれば、場所や時間に縛られない体験を生み出すことができます。

ここから、私たちがプロジェクトの初期段階から参加した「SYNERGYCA(シナジカ)共創ラウンジ(以下、SYNERGYCA)」のプロジェクトを例に、VRによって広がる体験の価値をお伝えします。

SYNERGYCAでのVR活用

写真:ラウンジの様子。何名かの訪問者が壁面ディスプレイを操作したり、椅子に座って談笑したりしている。

共創ラウンジ「SYNERGYCA」の様子

SYNERGYCAは、住友化学株式会社様(以下、住友化学)の本社内に新設された共創の場です。住友化学グループの全社員とさまざまな分野の人々が語り合い、新たな価値創造につながるアイデアを生み出すことを目的としています。コンセントはプロジェクトパートナーの1社として、この共創スペースの体験設計から企画・制作までを担当しました。

【事例】住友化学「SYNERGYCA(シナジカ)共創ラウンジ」体験構築・コンテンツ企画制作

本プロジェクトの進行は共創空間のコンセプト・企画を策定する構想フェーズと、実際に空間内のコンテンツを作成する制作フェーズに分かれます。後半の制作フェーズにおいて、住友化学の歴史や各地の拠点を紹介する「デジタルコンテンツ」の一環として、実写VR映像を制作しました。

このVR映像は、ワールドツアーとして日本国内外にある住友化学拠点をナビゲーターが案内しながら巡る構成となっています。VR映像を用いることで、実際にその場に行かなければなかなか体感できない工場の大きさや拠点内部の様子を、眼前にあるかのように、いつでも体験することができます。誰もが何度でも同様の体験をすることができる「再現性」もVR映像の強みです。

VR映像のスクリーンショット:工場の製造ラインの様子。
VR映像のスクリーンショット:工場で野菜を栽培している様子。

海外拠点の内部の様子を伝えるVR映像。自身で好きなところに視点を動かし、臨場感のある体験ができる。

今回、このVR映像を通じてつくり出したかったのは、世界各地の拠点を見に行ったという「体験」です。そして、その体験を経て会社を理解してもらい、「さあ、一緒にプロジェクトを始めるぞ!」と、共創に向けたアイスブレイクとなることを狙いました。

VRで体験をつくるためのポイント

VRを制作する上では、「どういった体験をユーザーにしてもらいたいか」から逆算して設計することが大切です。この「体験」とは、ゴーグルの中でどんな映像を見てもらうかだけではありません。どんな場所で、どんな姿勢で、どんな環境で映像を見るのか、前後の体験も含めたVR体験の一連の行動を俯瞰して、ディレクションすることが重要です。

VR体験において、特に重要なのが「どのような姿勢」で映像を見るかです。実写VR映像では撮影時のカメラの地上からの高さが、ゴーグルから映像を見るときの視点の高さとなります。この撮影時のカメラ位置と、視聴時の頭の位置に大きな乖離があるとスケール感がまるで狂ってしまい、非常に強い違和感を生じさせることになります。もし地上150cmにカメラを置いて撮影したなら、視聴時も150cmほどの高さから映像を視聴することが望ましいということです。

そのため、VRの撮影段階で視聴環境の設計が完了している必要があります。今回のプロジェクトでは、空間設計を担当したコクヨ株式会社様と緊密なコミュニケーションを取ることを心がけました。そして、座面が回転するハイスツールを使用することで、座りながら視点移動をスムーズに行える環境をつくりました。地味なことにも思えますが、注意を払って細部をコントロールし、より立体的で、効果的な体験となるように視聴時のノイズを除去していくのです。

写真:ハイスツールとディスプレイが置かれたシアタールームに入っていく来訪者の様子。

ハイスツールが置かれたシアタールームの様子

VRでの体験をつくる上では映像演出も、もちろん重要です。今回のVR映像は、「SYNERGYCAから未来に向かっていく。グローバルに躍進していく起点となる空間である」といった雰囲気を伝え、「世界中の拠点を巡る旅をした」という体感を与えることを目的としています。

映像の中で、ユーザーを体験に誘うためのキーとなるナビゲーターを配置しています。ナレーションだけのいわゆる「天の声」としてではなく、実際にナビゲーターの姿を見せることで、よりアトラクションの始まりを想起させる演出としています。旅の始まりに誘う役割のナビゲーターには、親しみがありつつ凛とした雰囲気を感じさせるキャストを選定。さらにSYNERGYCAのトーンに合わせ、未来的な印象を与えるようスタイリングのディレクションを行いました。

また、VR映像内の場面転換には、宙を浮いて高速で移動しているような感覚を得られるCGや効果音を取り入れています。これにより、物理的な空間でなくとも移動したという体感を得て、「旅をした」という感覚につなげたいという狙いがありました。

VR映像のスクリーンショット4点:集まった光の筋が地球の形に変わっていく様子。

スケールを感じさせる場面転換CGのイメージ

視聴前後を含む体験設計や撮影素材を生かす編集など、VR映像をつくるためには、その前後を含めた幅広い視点をもつ必要があります。それは独力で達成できることではなく、適切で緊密なコミュニケーションが必須です。プロジェクトにおいて映像をどのように共創するのか、そこから体験設計が始まります。

VRによってひらかれるコミュニケーション

VRはユーザー自身が視点を自由に動かすことができ、没入感が高いという特性上、従来の映像より記憶に残りやすいという強みがあります。そして観賞という体験において、ユーザーを受け身にさせず能動的なアクションを促すことで、体験を共につくるという価値を生み出します。今回のSYNERGYCAでは、訪れた人が「一緒に」「遠くの拠点に行った」という体験を共有し、共創をスタートさせることを狙いました。

また、VRの再現性があり場所性を問わないという特徴は、特定の状況や場所でないとできない研修やトレーニング分野でも非常に大きな力を発揮することでしょう。体験をパッケージして何度もデリバリーできることなど、VRの可能性を探索しながら、渡邊課は「体験そのものをデザインする」という視点をもって、これからも企画・制作を行っていきます。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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