ダークパターンとサービスデザイン イノベーションのためのサービスデザイン(10)

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    長谷川敦士代表取締役社長/インフォメーションアーキテクト

※本記事は、一般社団法人 行政情報システム研究所発行の機関誌『行政&情報システム』2021年8月号に掲載の、長谷川敦士による連載企画「イノベーションのためのサービスデザイン」No.10「ダークパターンとサービスデザイン」からの転載です(発行元の一般社団法人 行政情報システム研究所より承諾を得て掲載しています)。

画像:Service Design for Innovation 10

1. ダークパターンとはなにか

はじめに

「ダークパターン」という言葉をご存じだろうか。暗黒の(ダーク)パターンとはものものしい名称だが、これはアプリやサービスなどのユーザーインターフェイスにおいて、ユーザーを騙したり、勘違いさせたりするようなものに対してつけられた名称である。2010年にUXデザイナーのハリー・ブリグナルによって開設されたサイト「DARK PATTERNS」によってこの名称が広まった。それ以前からもこういったインターフェイスは問題視されてきていたが、ちょうどスマートフォンの普及によって個人がインターネットに接続された端末を持ち歩くようになり、これによってさまざまなオンラインサービスが発展したタイミングといえるだろう。

DARK PATTERNS
https://www.darkpatterns.org

このダークパターンは、その後アカデミックな研究対象としても扱われるようになり、そのパターンや構造などが議論されるようになった。今回はこのダークパターンについてどういったものなのか、そのしくみについて紹介し、これからのオンラインサービス設計に対して考えていかなければならない論点を提示する。

ダークパターンの定義

Wikipediaによると、ダークパターンとは以下のように記されている:
- ユーザーを騙すために慎重に作られたユーザーインターフェイス
- プライバシー侵害や人々の判断力低下などの問題が指摘されている (Wikipediaより)

つまりダークパターンとは「ユーザーを騙すインターフェイス」であるといえる。さらに現在では、インターフェイス(操作画面)を超えて、ユーザーに不誠実なサービスのしくみなども指すことが多い。たとえば、オンラインプライバシー研究者として知られているアルヴィンド・ナラヤナンらが、権威あるコンピュータサイエンスの学会ACM(Association for Computer Machinery)の雑誌「QUEUE」に寄稿した論文「Dark Patterns: Past, Present, and Future」では、ダークパターンとして、Facebookが二段階認証のためにユーザーに入力させた電話番号をターゲット広告の配信に利用した例を挙げている。こういった、ユーザーの個人情報を悪用するような不誠実な扱いもダークパターンと呼ばれている。

Dark Patterns: Past, Present, and Future(Arvind Narayananほか, 2020, ACM QUEUE)
https://queue.acm.org/detail.cfm?id=3400901

2. ダークパターンの例

では、ダークパターンにはどういったものがあるだろうか。先の記事の共同執筆者でもある、アルネシュ・マーサーらによるダークパターンの研究論文「Dark Patterns at Scale」では、ダークパターンについて7つの類型化を行っている(以下は原著者の許諾を得て図版をオリジナル論文より引用している)。

Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites(Arunesh Mathurほか)
https://webtransparency.cs.princeton.edu/dark-patterns/

1.Sneaking - こっそり

ECサイトなどにおいて、ユーザーが意図していないのに商品がカートに入れられてしまう、認識されていない手数料などが課される、知らない間に定期購買させられている、など、意図しない購買を指す(図1)。

図1:proflowers.comにおける「Care & Handling」という不明瞭なコスト。

金額確認画面のスクリーンショット。Order Subtotal、Standard Delivery、TaxのほかにCare & Handling $2.99と書かれたコストが盛り込まれている。

(出典)Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites
https://webtransparency.cs.princeton.edu/dark-patterns/

2.Urgency - 緊急

偽のカウントダウンタイマーや「限定商品」告知など、ユーザーを焦らせて購入に踏み切らせるような手段(図2)。

図2:justfab.comのカウントダウンタイマー。期限が過ぎても価格は変化しない。

ショッピングサイトのスクリーンショット。2 STYLES FOR $29.95+FREE SHIPPINGと書かれた下にカウントタイマーが置かれ、OFFER ENDS IN 00:59:48と残り時間を刻んでいる。

(出典)Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites
https://webtransparency.cs.princeton.edu/dark-patterns/

3.Misdirection - 誘導

キャンセルする選択肢をわかりにくくする、チェックボックスの表現をわかりにくくして誤解させる、といった、選択をユーザーの不利益な方向に誘導するような手段(図3)。

図3:newbalance.co.jpのわかりにくいチェックボックス。通常、チェックボックスは、チェックを入れることでオプトインするように設計されている。しかしこの場合、ユーザーはオプトアウトするためにチェックを入れる必要がある。

入力画面のスクリーンショット。メールアドレス入力欄の下に置かれたチェックボックスには、「We’d love to send you emails with offers and products from New Balance Athletics, Inc. but if you do not receive these updates, please tick this box」の説明がある。

(出典)Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites
https://webtransparency.cs.princeton.edu/dark-patterns/

4.Social Proof - 他者圧力

「xxx人が買っています」というような表現、出所が不明確な「購入者の声」など、人々がそれを支持しているように見せることで、その商品を選ばねばならないような気にさせるような手段(図4)。

図4:spanx.comに寄せられたお客様の声。この情報がどのように入手されたのか、実際の声なのかは明らかにされていない。

消費者のコメントが引用されたスクリーンショット。「The best thing that has happened to Bras, is the Bra-llelujah -Robin, Santa Monica CA」と書かれている。

(出典)Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites
https://webtransparency.cs.princeton.edu/dark-patterns/

5.Scarcity - 欠乏

「残り3個」といった残数表示、「人気商品」等の表示などを行う手段を指す。多くのサイトでこれらは偽の情報であったり、常時表示されていたりすることが確認されている(図5)。

図5:orthofeet.comでの在庫が少ないというメッセージ。このメッセージはすべての商品に対して表示されている。

購入へ進む画面のスクリーンショット。ADD TO CARTボタンの下に「Hurry, limited quantities left!」のアラートが表示されている。

(出典)Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites
https://webtransparency.cs.princeton.edu/dark-patterns/

6.Obstruction - 妨害

キャンセルボタンの位置や定期購買・定期購読における取り消しまでの手続きをわかりにくくしたりすることによって取り消すことを諦めさせるような手段(図6)。

図6:savagex.comでのキャンセル。$49.95の自動更新をキャンセルするにはカスタマーサポートに電話するしかない。サインアップはオンラインで完結する。

購入画面のスクリーンショット。決済へ進むボタンの右側にずらりと注が並び、その一文として「Cancel your membership any time by calling (855) SAVAGEX (open 24/7).」が盛り込まれている。

(出典)Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites
https://webtransparency.cs.princeton.edu/dark-patterns/

7.Forced Action - 強制

情報の閲覧等のタスクに対して、強制的にユーザーの個人情報などを入力してアカウントを作成させるような手段(図7)。

図7:therealreal.comの強制登録。商品を閲覧するために会員登録 が必要となる。

会員登録画面のスクリーンショット

(出典)Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites
https://webtransparency.cs.princeton.edu/dark-patterns/

3. ダークパターンの構造

ダークパターンが生まれた背景

前述の「Dark Patterns: Past, Present, and Future」では、ダークパターンに至る3つのトレンドとして以下の3点を挙げている(図8)。

図8:ダークパターンに至る3つのトレンド

小売業における欺瞞的な慣行、公共政策におけるナッジ、デザインコミュニティでのグロースハック、すべてダークパターンであることを示す図

(出典)「Arvind Narayanan, et al., Dark Patterns: Past, Present, and Future」の図を元に筆者作成

  1. 1.小売業における欺瞞的な慣行
  2. 2.公共政策における「ナッジ」
  3. 3.デザインコミュニティでの「グロースハック」

これらを順に紹介しよう。

1. 小売業における欺瞞的な慣行

本論文では、まずデジタルサービス以前から商慣習的にユーザーの目を欺くような施策が横行していたことを指摘している。たとえば、「サイコロジカルプライシング(心理的価格付け)」と呼ばれる、99円、1999円といった価格付けを行う戦略が知られている。これは100円、2000円といった価格より消費者が安く感じる、ということに加えて「1,999円」と書くよりも「1999円」と書いてカンマを打たない方が消費者はより価格を安く感じる、といった心理効果まで考えられている。

こういった価格付けに加えて、異なった単位で比較させたり、二重の割引率を見せたりすることで消費者を混乱させて、より高い価格の商品に誘導するような施策はスーパーの店頭などでもよく見られる。

これらがダークパターンを問題と思わない価値観の源になっている、とナラヤナンらは指摘する。

2. 公共政策における「ナッジ」

これに加えて、公共領域から始まった「ナッジ」の影響が挙げられている。
「ナッジ」とは、「ひじでつっつく」の意味だが、まさにちょっとひじでつっつくように人に行動を変えるサインを与え、気づかぬうちに行動変容をもたらすような施策を意味する。

ナッジのもとになるヒューリスティクス(経験則)とバイアス(判断の偏り)の研究は1970年代から行われていたが、当時はあくまで心理学的な研究であった。これが2000年代に入りキャス・サンスティーンとリチャード・セイラーによって「行動経済学」としてまとめられ、行動への介入、特に政策として活用する手法として知られるようになった。代表的なものとしては、人々が「選択する」という行為を避けることを狙った「デフォルト効果」などが知られている。

こういった行動経済学的なアプローチは、結果的に社会全体のためになることがあったとしても、本人には気づかないところで行動を変えるという側面があることから「パターナリズム(父権主義)」と呼ばれ、その倫理的な側面からの議論が行われている。

この「ナッジ」はさまざまなところで成果が上げられているが、この成果を商業的なアプローチにも応用しようと考えた側面がダークパターンを進化させたと考えられるという。「ナッジ(nudge)」の悪用は「スラッジ(sludge:泥などの意)」として知られているが、まさにスラッジを商業的に展開したものがダークパターンと呼ぶことができるだろう。

なおナッジについては、本連載第6回(行動経済学の活用と透明性)でも紹介している。

3. デザインコミュニティでの「グロースハック」

さらにこれらの状況に加えて、特にスタートアップ業界での「グロースハック(Growth Hack)」がこの状況に拍車をかけたという。グロースハックとは、米西海岸のスタートアップ企業などに生まれた、いちはやく市場シェアを獲得するために高速でデータ分析と実験的な施策とを繰り返すアプローチを指す。たとえば、試験的な複数の施策(ボタンの位置や、文言のバリエーションなど)を実際の環境で試し、有効であったものを生き残らせるA/Bテストといった手法がよく知られている。ナッジによって得られた行動変化の原理を用いた施策パターンを、A/Bテストで最適化していくことによってダークパターンはより精度を上げていった。

こういった状況からダークパターンはより高い効果を持つ施策へと進化をしていった。ナラヤナンらは、さらにダークパターンはその自覚がないまま行われていることが大きな課題であると指摘する。ユーザーに対して心理的に欺いたり不利益なことを行ったりしているという感覚が希薄なまま、ビジネスのシェア拡大、利益の確保を先行させている結果としてダークパターンが横行してしまっている側面があるといえよう。

ダークパターンの「目的」

ナラヤナンらの研究によると、ダークパターンは3つの大きな目的のために用いられているという。

  1. 1.ユーザーにより多く消費させる:ダークパターンによって、ユーザーは不必要なものや、必要以上の量を購入してしまう。あるいは、必要ないのに定期購買(サブスクリプション)してしまう。または、ユーザーが退会することを妨害する。
  2. 2.ユーザーからより多くの情報を引き出す:ダークパターンによって、ユーザーの個人情報や本来提供する必要のない情報まで企業の手に渡ってしまう。
  3. 3.サービスをより中毒性の高いものにする:ゲーミフィケーション(ゲーム的要素でユーザーがもっと挑戦したくなるような施策)などによって、ユーザーがサービスなどを必要以上に使うように仕向ける。

1と3は比較的わかりやすいが、2は個人情報がより重要となってきているこれからの社会において、より悪質であるといえよう。

4. これからのサービスデザイン

ここまでダークパターンの事例と、その構造、影響を見てきた。特にインターフェイスレベルのダークパターンは実装はより簡単になり、ショップサイトなどには数行のコードを書くだけで実装が可能となっている。ナラヤナンらは、このダークパターンの横行はこれからも続くことを憂慮し、安易なA/Bテストによる最適化は長期的には顧客からの信頼を失うことを指摘している。また、ダークパターンへの対策として、デザインプロセスにおいて倫理的な視点の導入が必要であると提言している。

さらに、特にユーザーが意図しない個人情報の取得については悪質なものも多く、またユーザーが気づかない間に取得されてしまうということも起こってしまうため、行政からも課題視されている。厳格なことで知られる米カリフォルニア州の消費者プライバシー法(CCPA)では、2021年3月には消費者のオプトアウトを実質的に妨害する効果を持つダークパターンを禁じる法案が施行されている。

Notice of Right to Opt-Out of Sale of Personal Information. - CALIFORNIA CONSUMER PRIVACY ACT REGULATIONS
https://oag.ca.gov/system/files/attachments/press-docs/CCPA%20March%2015%20Regs.pdf

しかし、ここまで見てきてわかるように、ダークパターンは決してユーザーインターフェイスだけの問題ではなく、ビジネスの態度やユーザー・顧客に対しての向き合い方であるといえる。

多くのサブスクリプションビジネスでは、入ったまま退会し忘れている「幽霊ユーザー」を放っておくことによって売り上げを確保するということが行われている。これに対して、動画配信サービス大手のNetflixでは、2020年にしばらくサービスを利用していないユーザーに対して、継続を確認する施策を導入した。

Netflixによる「利用していないユーザーへの継続確認」 は、あらゆるサブスクリプションが採用すべき施策だ。(WIRED 2020.05.25)
https://wired.jp/2020/05/25/netflix-auto-cancel-subscription/

これは、ある意味「寝た子を起こす」施策であり、短期的には売り上げを下げる施策といえる。しかしながら、こういった施策をとるNetflixはユーザーからは支持を勝ち取ることができるだろう。そして、これからの社会において、企業や組織への「信頼」は最も重要な資産となる。一度失った信頼を回復することは難しい。

一見表面的なユーザーインターフェイスの問題ともいえるダークパターンは、実はもっと根幹の組織の思想の問題ともいえる。つまり、ダークパターンの採用はデザインだけの問題ではなく、ビジネスのありかた・企業姿勢の問題といえるだろう。

その意味で、ビジネスの枠組みから考えるサービスデザインの実践のタイミングは、事業がダークパターンを生み出してしまうような目標設定やアプローチになっていないかを問い直すベストのタイミングといえるだろう。プロジェクトに関わる関係者全体でサービスに潜むダークパターンについての理解を深めておくことは、これからのサービス設計において必須のものとなっていかなければならない。そして、デザイナーにはダークパターンを見極め、戒める視点が求められるようになり、組織全体として、このダークパターンを経営レベルから意識して、見逃さない態度が求められるだろう。

[ 執筆者 ]

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