デザイナーにとっての自主制作。つくり続ける理由と方法論

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    山口 陽一郎UX/UIデザイナー

こんにちは。UX/UIデザイナーの山口です。「デザイナー」という肩書きから多くの方が想起されるように、日々さまざまなものをつくっています。自分の手を動かして何かをつくるのは、やはりいつも楽しいです。

一方で、このところよく考えることが「加齢とクリエイティブ」です。

  • ライフステージや心身の変化によって、昔と比べ表現の新規開拓や深掘りに使える時間が少なくなってきた
  • 良くも悪くも今が快適……。毎日の業務や生活スタイルに慣れすぎることで、新しい体験や(トラブルも含めて)偶然何かに出合う機会が減ってきた
  • そもそも自分の価値観も少しずつ変わるため、この仕事を志した頃の初期衝動や大目標が今の自分にフィットしなくなってきた

年を重ねるにつれて、このような課題と新たに向き合うことになったのです。だけど、何かをつくる活動の価値を知っているし、そんな自分を大切にしてきた。だからこそ、業務以外の時間の中で何かをつくり、情報収集をしていないと、どこか後ろめたさを感じてしまう。それはもう、ある種の「呪い」で、程度の差はあれ同じ呪いにかかっている人も多いのではないでしょうか。

しかし、社内を見渡すといるのです。
仕事はもちろん全力で対応しながら、ずっと自主的な創作活動を行っている人々が! どうしてそんなことができるのか? 私はそのヒントを得るべく、デザインを生業としてキャリアを重ねた現在も日々活発に創作に取り組んでいる渡邊 徹、桜庭 和歌子、中岡 慎介の3名に、下記のテーマで話を聞いてみる座談会を行いました。

  1. 1.活発につくり続けられる理由
  2. 2.つくったものを世に出す理由
  3. 3.表現をアップデートさせる新しい刺激の取り入れ方
対談中の渡邊・中岡・桜庭の3名。

渡邊徹(写真左)

VR映像作家 渡邊課 課長
「見回す必然」をテーマに、視聴者に没入感を伴ったVR映像体験を企画し、撮影・制作を行う。テーマパークなどのアトラクション向け映像やドームへ投影するコンテンツ、ミュージックビデオやライブ撮影なども手がける。

中岡慎介(写真中央)

ウェブディレクター
紙媒体のプロジェクトを経験した後、ウェブ領域のディレクターとしてアクセス解析などのデータ分析をもとにした情報設計やコンテンツ制作に従事。現在は媒体を問わず、幅広く企業のコミュニケーション戦略支援に携わる。

桜庭和歌子(写真右)

コミュニケーションデザイナー/アートディレクター
学校や企業の広報物から、カタログや書籍といった紙媒体を中⼼に、近年ではウェブや映像などのアートディレクションも⼿がける。ダイナミックなレイアウトとタイポグラフィを軸としたクリエイティブを得意とする。

どうしてそんなに活発につくり「続け」られるんですか?

———とにかく忙しいわけです。キャリアを重ねるごとに仕事の責任範囲も広がるし、新しい技術やビジネスのトレンドにも追い付かなければいけない。さらに、最初に述べたようにプライベートでの自身の変化もある。そんな中で頼まれてもいないものをつくり「続ける」のはすごく大変なこと。なのに、なぜそれができるのか、そこにどんな動機があるのかを尋ねました。

中岡:「続ける」ためには、「自分はこれをやるのが好きなんだと思い続ける」「それを実際に行動に移し続ける」の2つがあります。前者はわりと自然なものだけど、後者のために「制約の中でどうやって時間をつくるか」「快適な制作のために何を用意するのか」を考えることが大事で、自分にとってはそれ自体が面白い。その作業を楽しめているうちは続けられそうだなって。

もちろん根本には物語をつくりたいという思いがあって、その上で継続できる範疇で物語をつくる活動を考える運用設計がある。その設計がバシッと決まったとき、すごく気持ちいいんです。「振り返ったら2ヵ月続いてる!俺の運用設計合ってたんだ!」みたいな。フォーマットをつくるのが好きなんです。

中岡が話している様子。

プライベートの活動でも運用設計を欠かさない中岡

山口:自分の中にプロジェクトマネージャー的存在がいるんですか?

中岡:うん、つくっていないとしんどい気持ちになるので、しんどくならないために自分で管理するしかない。でもあんまり無茶な運用設計にするとつくり続けられないから、現実的に続けられる制作物の範囲を決め、制作時間を確保するなら逆算して1週間のうち、いつ力を抜くのかなどを決めています。

自分が描けない状態に追い込まれたときに、他の漫画を読むと「すごいものを読んでいるのに俺は何もつくれてない」というつらい気持ちになる。身の程知らずなんだけど、全世界(のクリエイター)に対してずっと嫉妬しているんです。

桜庭:私は気が向いたときしか書かない派です。ノッてると週2本くらい書くけど、急に1年間何も書かないこともあって、そういう自分を許しつつも「書くのをやめたら人生が終わってしまう」とは思っています。

山口:「弱火でもいいから消しちゃいけない」ってことでしょうか。

桜庭:そう、そんな感じです。書かない期間も頭の中に思い浮かんだことをネタとしてはため続けています。子どもが考えそうなことを今でも考え続けているところがあって、例えば「なんで雲って落ちないの?」みたいな疑問を本気で考えてしまって、そういったものを物語にしています。

桜庭が話している様子。

デザインしながら小説を書くことの理由を話す桜庭

山口:桜庭さんは普段はデザイナーとして視覚的な表現をしているのに、なぜプライベートでは文章表現なんですか?

桜庭:私も昔は漫画家になりたかったけど、ハードルが高くて断念したんです。諦めてから違う表現を模索していて、絵本を描いたり、詩にイラストを付けたりしているうちに、(もともと漫画では一体だった)ストーリーとビジュアルが表現として分離していったんです。仕事ではデザイン、プライベートでは執筆という流れは自分にとっては自然なもので、「デザインしながら小説を書くこと」は、やりたいことを別のフィールドでやっているだけという感覚です。

渡邊:僕は二人とは違うかも。自分の内側からくる表現欲求はあまりないです。「人と何かをつくりたい」が先にあって、自発的に「動画つくろう」というパターンはない。撮影対象がいて、初めてモチベーションが上がる。だから人との出会いが続く限りはつくり続けられます。

内側からの表現欲求はないけど、人にはめっちゃ会う。日々、何かやりたいことがある人に会う。
そうすると止まる暇がないです。はたから見ると自力で走っているように見えるんだけど、自走している感覚はない。

渡邊が話している様子。

人との出会いが創作のモチベーションとなる渡邊

山口:それは昔からですか?

渡邊:子どもの頃は自分の絵に自信もあったけど、美大に入ったら周りが天才すぎて「もういいや」と思った。それと同時に、「この周りの人たちと面白いことができたらいいな」という発想になった。自分のクリエイティビティを信じていないわけじゃないけど、人とやる方が面白い。「すげえやつがいっぱいいるな」と認めて取り組むと、創作に対する強迫観念がなくなるし、追われなくなる。僕と相手のクリエイティビティをぶつけ合って高め合っていきたい。天才たちは自分のクリエイティビティを突き詰めてるから、自分は別の視点から「これ知ってる?」と持ちかけて、その人に新しい考えを持ち込むのが楽しいです。

つくったものを世に出す理由は何ですか?

———自分の内的なニーズを満たすための表現なら、極端な話、人に見せなくたっていいという人もいます。でも今回集まったメンバーは、いろいろなかたちでつくったものを発表している。さらには「より伝わるにはどうしたらいいか」みたいなことも考えている。時には個人的な探求を超えて仕事にもしている。表現とコミュニケーションを結び付ける理由はどこにあるのかを聞きました。

中岡:定期的に自分の内で評価面談が発生するんです(笑)。「中岡くんはこの半年間、何をやったの?」と自分の中にいる謎の評価者に問われるんですが、そのときに成果物がないと評価してもらえない。評価してもらえないとつらい気持ちになる。だけど、作品が世に出されていて、誰かが見たのなら評価されやすくなるんです。さらに作品へのコメントなんかもあれば客観的な評価も入る。「つくらねばならない」という自分への呪いに対して応えるには、作品をかたちにしていろいろな人の目に触れさせないといけないんです。

桜庭:なんかわかってしまう、その感覚(笑)。呪いという言い回しは独特だけど、自分の中に評価者みたいな存在はいる。

漫画本を手にとっている中岡の手元。机にはもう1冊、漫画本が置かれている。

中岡の漫画。8年前から制作を続ける。

中岡:徹さんは、もし1年間誰にも会わなかったらどうなるんですか?

渡邊:何もつくらないんじゃない? でも植物とか「自然」と出合っちゃったら、「自然」と一緒に作品をつくるのかも。つくったものを世に出す理由は酒のさかなをつくっているようなもので、つくったものを手に相手を口説きに行く。常にコミュニケーション材料をつくっているだけだから、紙でも映像でもアウトプットの手段は問わないです。

渡邊課が企画制作してきたVR動画のイメージを集めた画像。

渡邊課の活動。200本以上のVR動画を企画制作してきた。

山口:桜庭さんは、小説を公開し始めてから「伝えること」に力を入れるようになったんですか?

桜庭:世に出すのは、ちゃんと監視されていたいからなんです。自分一人でつくっているとすぐサボっちゃうので。公開のペースが下がっているとき、いつも読んでくれている人たちのことを頭に浮かべると「最近書いてないなー」と思える。自分にプレッシャーを与えて「書かねば」の気持ちを強くしています。作品を生み出して誰かに伝えていないと、生きている意味が感じられなくて。思春期あたりから創作に生きる意味を求めて寄りかかっているんだと思います。

桜庭の書いた小説の冒頭部分を表示しているPDFファイルの画像。

桜庭の小説の冒頭集。5年前から小説サイトに投稿を始める。

山口:確かに「自分の人生をどう使うか」ということを大人になると考え出しますよね。全責任が自分にのしかかってくるし、単純に楽しいだけじゃない。

表現をアップデートさせるために、どうやって新しい刺激を取り入れていますか?

———何かをつくり続けていく中で、技術の向上や新しい表現・作品テーマの模索などさまざまな課題が生まれます。忙しい日々の生活の中で、どうやってインプットを行っているのでしょうか。また、それは単に快楽だからやっているのか、それともある程度義務的な活動なのでしょうか。

渡邊:僕がやっているのはさっき言ったように人に会うことだけど、日々刺激を自然に取り入れられている理由は、出会うどの人たちも何かのプロフェッショナルだからというのが大きいかも。例えば、映画監督とVR映画をつくるとなったときに、物語のプロに対して、ただの技術屋さんにはなりたくない。だから普段はドラマや映画などをあまり見ないけど、その人とちゃんとコミュニケーションしたいと思うとすごく見るようになる。つまり相手が僕の技術を取り入れて何ができるのかを考えると、放っておいても対象について新しい知識を吸収してしまう癖がついてしまった。いきなりあらゆるものを知ろうとすると大変だけど、日々テーマを決めて動いていれば、後から点と点がつながって線になって、網羅的に知れている状態になります。

桜庭:(ネガティブなことも含めて)日常の出来事全てが創作の糧になると考えるようにしています。書くのは痛い気持ちを発散するためでもあるので。他の人の小説を読んでいても「こんな表現や比喩があるのか」と参考にしています。

中岡:取り入れている新しい刺激の種類は3つあります。1つ目はネタの仕入れ。これは桜庭さんと同じく日常が全てインプットになります。2つ目は技術の仕入れで、例えば時短のためのノウハウなどを検索しています。3つ目は表現手法やトレンドの仕入れです。他の人の作品を読むんですが、漫画アプリは最高です。何がすごいって、第1話がだいたい無料公開されているんです。これが表現を学びたい側としてはありがたい。第1話にはその作品の全てが詰め込まれていて、強いつかみが必須なので。あとコメント欄があるのもいいです。一度自分で読んで最後にコメント欄を見たときに、「あっ、この漫画のつくりだとこういうコメントが多くなるのか」っていうのがわかるんですよ。例えば、「あれだけ大ゴマで見せたらコメント欄はやっぱりそこへの反応で埋め尽くされるよね」みたいな。だから「この表現をやったらこんな反応があるんだろうな」っていう分析ができて、自分にもその表現手法をインストールできるんです。漫画アプリは最高です!

社内のオープンスペースで話している渡邊、中岡、桜庭の3名。その手前には、撮影で使われた機材が写っている。

会社オープンスペースで行われた座談会の様子。

おわりに

私たちはコンセントという会社で、デザインを仕事にしています。デザイナー、エンジニア、プロデューサー、ディレクター……さまざまな技能の社員がいます。そして「デザイン」が取り扱う領域も日々あらゆる方向に拡張され続けています。全ての社員をひとくくりに話すのはやや乱暴ではあるのですが、みんなそれぞれ、生きてきた中で何かをつくることに光を見たのだろうと私は考えています。だからこの仕事を選んだのではないでしょうか。
「絶対に、デザインを自分の生き方にするんだ!」という積極的な動機であれ、「世にある仕事の中で、これならどうにか自分を保ってやっていけるかも……」という消極的な動機であれ、その光はやっぱり、これからも大切にしていきたい。何かをつくる活動には、他では代替できない特別な価値があります。

もちろん、続けるのは誰にとっても難しいでしょう。でも、必要なのは底なしの情熱でもなければ根性や勇気でもなく、自分用の「ちょっとしたルール」を決めて、試してみることだと思うのです。

0.2s企画 クリエイティブを語らう会

0.2s(れいてんにびょう)とは、「0.2秒で心が動くデザイン」の略。表現力のさらなる向上のために設置された、会社オフィシャルのサポート制度。その活動の一つとして、社内からゲストを招き、仕事の紹介やプライベートの作品紹介、その裏話などを語ってもらう社内イベントを定期的に開催している。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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