組織の持続的な成長を支える コンセントの「イニシアチブ組織」
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こんにちは、デザインマネージャー・サービスデザイナーの大﨑です。
組織の成長には、長期的な戦略にかなう目標を設定し、着実に成果を上げていくことが不可欠です。しかし現実には、どうしても目の前の課題に執着し、中長期の対応がおろそかになってしまう傾向はないでしょうか。
今回はコンセントの中長期課題を推進するための全社横断施策「イニシアチブ組織」について紹介します。運用開始から1年が経過し、成果を実感することが増えてきました。デザイン分野にかかわらず組織運営をされている多くの方のヒントになるよう、解説していきます。
グループを横断し、連携するイニシアチブ組織
組織構成と運営形態
コンセントの事業部門(約180名が在籍)は、それぞれ30名程度の複数のグループに分かれています。イニシアチブ組織は、各グループに共通する目標に対して横串で連携し、確実な達成を目指すことを意図してつくられました。全社の組織目標に対応する形で6つあります(2022年度)。
- 技術のアップグレード イニシアチブ
- 知識創造とデザインの民主化 イニシアチブ
- クオリティ安定化 イニシアチブ
- 生産性メンテナンス イニシアチブ
- 採用と若手育成の超強化 イニシアチブ
- エンジニアリングの変革 イニシアチブ
それぞれのイニシアチブ組織は、各グループ組織からチームマネージャー(5名程度のチームを管轄する役職者)がアサインされ、合わせて5〜10名程度で運営する形態を取ります。
目標設定と意思決定方法
イニシアチブ組織は、それぞれに単一・固有の目標が設定されているわけではありません。あくまで主組織であるグループが個々に達成すべき目標に対して、情報交換と協働の場として設定されているもの。目標達成の責任はグループに存在します。
また、イニシアチブ組織にはそれぞれリーダーや担当役員が存在しますが、他のメンバーに指示をしたり、評価したりすることはありません。イニシアチブリーダーは、定例ミーティングでのファシリテーターをはじめ、メンバー相互の橋渡し役を担っています。
イニシアチブ組織の各メンバーの役割や意思決定を示した図。活動内容にコンフリクトが起きないよう、活動の開始段階から全員で意識合わせをした。
なぜイニシアチブ組織が必要なのか
コンセントは受託のデザイン会社です。クライアントから相談をいただきプロジェクトを実行することが基本の業務ルーティンです。
そのような業態であるため、組織のメンバーの目線は「目の前のプロジェクト」や「今期の業績」に釘付けになりがちです。つまりは、プロジェクト期間である数カ月単位や、会計単位である1年といった時間軸が支配的になります。単年で成果が出づらい中長期の活動は、事業部門においては劣後される傾向がありました。
また、デザイン会社は、目の前のプロジェクトを繰り返すと持続的に成長できるかといえばそうではありません。相応の人材育成、品質安定の仕組み化と運用、業務生産性の管理、採用など、さまざまな活動を並行して行わないと、早晩に組織の競争力を失います。
こういった活動は管理部門に任せればよいじゃないか、という声もあるかと思います。
しかし、昨今のデザインの現場の状況を鑑みると、デザインマネジメント手法の普及も手伝い、その管理運用能力がデザイン領域の一つの技術となっています。そしてその技術の巧拙がデザインの競争力になります。事業側も管理に踏み込みコントロールできるようにならなければいけません。
このような背景から、根本的な組織力の強化につながる中長期課題に対して、事業側と管理側とが溶け合い、解決に向けて動くためにイニシアチブの活動が立ち上げられました。
各イニシアチブ組織の活動と成果
ここからは、イニシアチブ組織の2022年7月〜2023年6月(コンセントの人事は7月で切り替わります)の活動と成果を共有します。
技術のアップグレード
このイニシアチブは文字通り、メンバーの技術を組織的に引き上げていくことを目的としています。
コンセントでは、デザイン制作業務にとどまらず、現在ではサービスデザインといった戦略系のデザイン領域を事業の主軸に置いています。より高度な企画業務の遂行力や、不確実性のあるプロジェクトの管理能力も重要になっています。それらを自学だけに頼ることなく、組織的に育成する必要がありました。
コンセントには全社で活用する「技術マトリクス」というスキルマップがあります。各グループのスキルアップ施策も、この技術マトリクスをベースに進められます。例えば、あるグループでは「技術マトリクスの『プロジェクトマネジメント』技術レベル3のメンバーを8名育成する」という目標を立てて活動しました。
そこではまず、イニシアチブで指名した育成メンバーを含めたワークショップを開催しました。自分が習得に取り組むスキルやそこに行き着くまでのプロセスをメンバー自身の言葉で言語化し、現状課題と強化ポイントを明確にしていきます。
ワークショップは、オンラインホワイトボード「Miro」を使って実施した。技術マトリクスの項目を読むだけでは、本質的な動機付けには至らない。当人が日々感じている課題と技術項目の関係を、第三者視点も踏まえて丁寧に言語化を繰り返す。
その後、各自のクライアントワークでの役割や責任を勘案した上で、月次で実施する具体的アクション項目を自身の手で計画しコミットメントを表明します。
月ごとにこの計画に対する振り返りをしていくのですが、工夫したのはペア制度を導入したこと。育成対象のメンバー同士でペアになって、振り返りと情報交換を図ることで、他者からの客観的なフィードバックを得ることができ、活動の動機付けを維持することができました。
結果として、育成対象となったメンバー全員が目標を達成できました。当然ながら、クライアントワークのクオリティも上がり組織全体が成長できた実感も得られています。
他にも、上記とは別スキルの伸長を目指したいくつかの取り組みや、複数のスキルを総合的に育てていくような取り組みを実行しました。
クリエイティブディレクター育成のための読書会の様子。対象者それぞれのブックレビューとその内容を通じた対話を重ね、「理解」を超えた「身体化」を目指した。
知識創造とデザインの民主化
コンセントは、デザイン知識を生産する組織でありたいと思っています。先人がつくり出した知識体系を利用する役割にとどまらず、社会のためにデザイン技術や知識を開発していきたい。ひいてはそれが、誰もがデザインできる社会の実現につながっていくだろうと考えています。
このような考えから、「知識創造とデザインの民主化」イニシアチブをつくりました。往々にして、こういった研究活動は事業活動に劣後しがちですが、コンセントではグループ目標として明示し活動しています。
例えば、あるグループでは「インクルーシブデザインとサービスデザインを統合し、実践的プロセスを開発し、広く普及させる」という目標設定をしました。
インクルーシブデザインはコンセントが長年取り組んできたテーマですが、市場からは、業績に直結しない公共善の活動、もしくは不確実性が高いイノベーションプロセスのような捉えられ方をされることもあり、ビジネスシーンでの活用が限定的であると感じていました。
そこで、コンセントが提案する事業開発プロセスとして、サービスデザインの手法にインクルーシブデザインの考え方を統合した「インクルーシブサービスデザイン」を体系化しました。ペルソナ設計の方法論を見直すことで、開発メンバーの認知バイアスの破壊をプロセスに組み込むなど、インクルーシブデザインを開発に自然に取り入れるための整備を進めました。
インクルーシブサービスデザインに関する活動の結果は、
で継続的に発信を続けている。積極的に情報公開することで社外からの評価を受け、改善のループが回り始めている。また、別のグループでは「ダークパターン」に関する文献調査や社外発信を行い、新聞、テレビ、オンラインメディアなどからの取材を受け、ダークパターンの社会的認知の普及に努めました。
その他の活動としては、「ウェブガバナンスの組織的活用を通じたサステナブルなウェブ運営の推進」「デザイン人材育成にまつわる知識・技術の標準化と社会展開」「組織の創造性を高めるための具体策の調査研究」など、多方面にデザインを活用する取り組みを行いました。
クオリティ安定化
クライアントが抱える問題が千差万別で、取り巻く環境も日々変化する中で、常に新しい取り組みを求められるデザイン会社がプロジェクトを安定的に運用することは、事業運営の要です。しかし同時に非常に解決が難しい課題でもあります。
「クオリティ安定化」イニシアチブでは、その課題を解消する一手としてデザインプロセスを部分的に標準化し、プロジェクト品質を安定化させたり、社内レビューなどのフローを洗練して、品質低下や問題発生を抑止したりする活動を行っています。
あるグループでは「コンテンツ開発・運用支援の基礎業務を一般化し、品質を安定させる」という目標を設定。コンテンツ開発業務の標準化を行うのと同時に、ライティング技術向上のための取り組みとして研修プログラムを設計し、延べ80名ほどの社員のライティング技術の底上げに貢献しました。
全社のライティング技術向上の取り組み「ライティング・サマー/ウィンター・キャンプ」(夏と冬の2期開催)。ビジネスの基礎スキルとして重要性が増しているライティング能力。コンテンツ開発系のロール(職種)だけでなく、全社のあらゆるロールのメンバーが参加し、プロジェクト品質の安定化を目指した。
他にも、「顧客の長期支援プロセスの整備とメソッド化」「ウェブサイト構築の品質安定の仕組み化と習慣化」「事業開発プロセスの標準化」「デジタルプロダクト構築の標準化」「エディトリアルデザイナーのウェブデザイン業務の安定化」といった活動を行いました。
生産性メンテナンス
コンセントでは、プロジェクトごとの利益率を管理するために「生産性」という独自指標を採用しています。プロジェクトの売り上げと所要工数などから算出する指標で、プロジェクトメンバーは想定生産性を下回らないように意識しながら業務を行っています。
生産性はあくまで「物差し」であって、厳守すべき絶対条件ではありません。例えば人材育成の比率が高くなるプロジェクトや、新しい表現に挑戦したいといったプロジェクトでは、想定生産性を下回る動きも許容するような組織運営をしています。
ただし、意図せずに生産性が下がってしまうような、コントロールに欠けるプロジェクト運営は認めないという線引きを行っており、指標をもとにプロジェクトをメンテナンスする役割を「生産性メンテナンス」イニシアチブが担っています。
プロジェクトの費用見積もり精度向上のための取り組み、生産性ウオッチとアラート出し、改善案の検討などをグループ横断で行っています。グループ横断で行うことで取り組みの実効性を上げることはもちろん、「創造性と生産性を高度に両立する」重要な組織文化を育むことにも貢献できています。
採用と若手育成の超強化
デザイン業界にかかわらず人材市場は売り手市場が続いています。特にキャリア採用の現場では、人事部門だけでなく求職者と同じ職種に就いているメンバーが、現場の目線でコンテンツづくりやイベント運営、カジュアル面談を行うことも一般化しました。
「採用と若手育成の超強化」イニシアチブでは、各グループに人事担当(イニシアチブメンバー)を置き、人事部門と連携を強化。各グループ特有の採用課題の把握と計画、施策化を迅速に行えるようにしました。加えてこれらを事業部門で担うことが習慣化するよう施策を繰り返しています。
中長期的には、求職者の意見を事業組織内に取り入れ、単なる採用広報の枠を超えた組織そのものの魅力を向上させることも目指しています。
各グループにおいて、ロールごとの採用目標人数の設定、人材要件や応募要項の整備、採用フローにおけるKPI設計、オンラインミートアップの開催、採用エージェントとの面談、ダイレクトリクルーティングの実施など、多岐にわたる活動を実施することができました。
(上)Twitter(現X)スペースを活用した採用コンテンツ「
」。リアルタイムで音声会話ができる特長から、オープンでカジュアルな場でサービスデザイナーの仕事について対話する機会をつくり出した。(下)Wantedlyを活用したオンラインミートアップも定期的に開催している。エンジニアリングの変革
コンセントは、相対的にエンジニアが少ない組織です。そのためエンジニアリングに関するケーパビリティが発展的に育ちづらく、全体の事業成長にも影響を与えていました。その状況を打破すべく「エンジニアリングの変革」イニシアチブがつくられました。
例えば、あるグループではエンジニアのインプット・アウトプット活動を継続的に実施。年間180本を超える社内向け情報共有記事を作成したり、外部のプロジェクトパートナーを交えたワークショップを開催したりするなど、エンジニアのスキルアップを支援する活動をしてきました。
エンジニアのインプット・アウトプット活動「INOUT GYM」。エンジニアリング組織に適したテーマ選定や読者の意識変容などのアウトカム観点を踏まえて実行し、全社に向けた知識展開も実現した。
また、別のグループではサービスデザイナーのテックリテラシー向上のための施策を行い、プロジェクト成果を高めることができています。こうした活動の結果、2023年度にはデザインエンジニアリンググループを正式に設立。活動を引き継ぎながら、デザインとエンジニアリングのシナジーによる価値・体験・サービスの創出に取り組んでいます。
1年間の実践を振り返って
ここまでイニシアチブ組織について内容を説明してきましたが、まだ全体の活動の3割ほどしかお伝えできていません。それほど全社員が一丸となって中長期課題に数多く取り組めたといえます。
イニシアチブ組織がなかった2021年以前にも、各グループ内で中長期課題に対応する取り組みは行っていました。しかしながら、グループ間の連携が乏しかったこともあり、ノウハウの横展開や課題感の共有が少なく、プライオリティも低く捉えられがちで活動の速度は今よりもかなり鈍かったと記憶しています。
イニシアチブ組織が生まれたことで、積極的に他グループに情報を提供し、それが互いの新たな動機となって活動が活発化するといった相互扶助・効果のある動きが生まれました。各グループの組織能力の、良い意味での平準化に貢献した意義は大きいと感じています。
2023年11月現在、イニシアチブ組織は2年目を迎えています。細かい改善点を修正しながら、精力的な活動を続けています。
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