デザイン組織と人材育成。求められている人材とは? 4人のマネージャーが語る、デザイン組織の作り方(4)

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デザイン組織づくりのポイントについて、コンセントのサービスデザイン事業部を約10年前に立ち上げ成長させてきたマネージャー陣の対話を通して考えていくシリーズ企画「4人のマネージャーが語る、コンセント流デザイン組織のつくり方」。

デザイン組織のマネジメントをテーマにした第1回第2回に続いて、第3回と第4回では、企業や行政機関においてデザイン組織づくりを進める際、重要課題の1つとなる「人材の評価や育成」をテーマにご紹介します。

本記事(第4回)では「人材の育成」を取り上げるとともに、デザイン組織に求められる人材について考えていきます。

写真:対話中の参加メンバー5名

※本記事の内容(組織名称や肩書を含む)は、2022年3月時点のものです。

人材育成における課題

「サービスデザインの包括的な視点」が必要

−企業がデザイン組織を推進していく上での、人材の育成における課題はどんなものがあると考えていますか?(成瀬)

写真:対話中の成瀬

成瀬有莉(株式会社コンセント サービスデザイナー)
上智大学経済学部卒。組織におけるデザイン導入、組織支援に興味をもち、2019年にコンセントへ入社。2020年よりサービスデザイン事業部に所属。

小山田:2021年に高度デザイン人材の育成を目的としたオンラインデザインスクールDesignship Doのサービスデザインコースの講師を務めたんですが、そこで発見がありました。社会や環境との関係性を踏まえてユーザー体験を考えることを目指そうとしたときに「自分が今、置かれている環境(組織)の中では、社会や環境と接続したサービスデザインを実践することが求められていない」と考える方が多かった、ということがあったんです。

その原因の1つには、企業の中の考え方がまだ変わりきっていないということがあると思うんですよね。例えば「持続可能な社会の実現に向けた脱成長」や「ダークパターン」といったさまざまな社会性と事業性を両立させなければならないトピックがある中で、現実的にビジネスをどのように行っていけばいいのかというと、答えがない。そのとき企業はどうしても短期的な視点で利益を出す方向に向かいがちになってしまう。

また、Designship Doでは「SDGsを参考にして、社会性のある課題を自分で設定してください」とテーマ設定をしました。あくまでも受講生が自分なりに考えるための補助線のつもりだったのですが、受講生から「SDGsは自分とは関係がないから難しい」といった声が聞かれたんですね。でも今の社会の中で生活している以上、自分に関係がないことはないはずです。

こうした組織や個人が短期的、局所的な考え方に寄っていきがちであるという課題の解決を考える上でも、サービスデザインの包括的な視点が強く必要とされていると思っています。

デザイナーは、時間軸を長く取ったり視野を広くとったり、不確実なものに耐えたり、常にユーザーサイドに立ち、時には組織に抗うといったことを、自分自身のミッションとして行っていく。そして企業は、そうしたデザイナーをきちんと生かす組織をつくっていく。この関係性が、今の社会の中で企業が抱えている課題を解決するのに有効な、サービスデザインの包括的な視点を生かした人と組織の在り方なのではないかなと思っています。

写真:対話中の小山田

小山田那由他(株式会社コンセント サービスデザイナー)
2020年よりサービスデザイン事業部ストラテジックデザイングループのマネージャーを務める。

変化するサービスデザイナーの定義と、採用面の課題

−デザイン組織づくりにおいて、サービスデザインの包括的な視点をもてる人材を育成していくことが、一つ重要な鍵になりそうですね。(成瀬)

赤羽:人材の育成と考えたときに、UXデザイナーやインタラクションデザイナーといった職種に比べて、サービスデザイナーの能力は定義しづらいところがすごくあるんですよね。グローバルに見ても、大企業がサービスデザイナーという職種で求人をしていることが少ないのは、その辺りに原因があると思っています。

ただ、2021年に翻訳した小論集『The Future of Service Design』の中に、「これからのサービスデザイナーはT型人材でも足りない。絶え間ない好奇心と学習意欲により駆動するツリー型人材であるべき」という指摘があります。これはなんというか、器用貧乏とも言えるんですが……。具体的スキルというより、その人の行動や態度から組織全体の創造性が活性化されたり、自然とプロジェクトがよりオープンな形でファシリテーションされていったり、異なる立場の人や視点をもつ人たちがつながっていく、といったようなイメージです。これはぼくの思うサービスデザイナー像と一致します。ただ具体的なスキルなどで評価しづらいですけどね。

写真:対話中の赤羽

赤羽太郎(株式会社コンセント サービスデザイナー)
2015年から2019年までサービスデザイン事業部のマネージャーを務める。現在はDesign Leadership部署に所属。

大崎:この10年間を見ても、サービスデザイナーの位置付けはかなり変わりましたよね。

日本でサービスデザイン自体がまだ認識されていなかった初期段階では、「新しいものをつくる人」というのが最初の定義というかニュアンスだったなと。そこから2017年に日本語訳された書籍『デザイン組織のつくりかた』(ビー・エヌ・エヌ刊)の影響もあり、「いろいろなサービスを横断的に見て調整する人」というニュアンスで受け取られることが多くなりました。

そして、デザインとビジネスの両方の知見があり、両者を統合して考えて組成し、全体最適化を図れるといったことに力点が置かれているのが、現在(2022年3月時点)のサービスデザイナーかなと思っています。

定義が変わるのは当然で、職能はずっと固定的なものではなく、どんどん体系化され、壊されてまた体系化されてといったことが繰り返されていきます。職種定義をすること自体は重要ですが、そこにこだわり過ぎるのも良くなく、コアにあるデザイナー的なマインドセットをもつ人を採用したり、その人が動きやすくなる育成の仕組みや評価制度をつくったりすることが、デザイン組織を推進する上で必要なことで、そこを課題としている企業も増えてきているのが、今の1つの潮流だと感じています。

デザイン組織の文脈では、今はデザインマネージャーやChief Design Officer、もしくはそれに準ずる人と、実際に手を動かすUX/UIデザイナーのような「つくれる」人は多いけれど、「その間」、つまり先ほど赤羽さんが言っていた「異なる立場の人や、異なる視点をもつ人たち同士をつなげる人=サービスデザイナー」が抜けている状態だなと。要因として、「異なる立場の人や、異なる視点をもつ人たち同士をつなげる」行為がケイパビリティや実績として明示しづらく、組織側が採用しづらいということがあると思っています。

写真:対話中の大崎

大崎 優(株式会社コンセント 取締役/デザインマネージャー/サービスデザイナー)
2012年にサービスデザイン事業部を立ち上げ2015年までマネージャーを務める。以後は取締役として管掌。現在、Design Leadership部署にも所属。

あらためて、サービスデザイナーとは?

「超生きのいい壁」

−ここまでのお話から、デザイン組織づくりのポイントになりそうなサービスデザイナーについて、もう少し掘り下げて考えていきたいと思います。

小山田さんはサービスデザイナーをどう考えていますか?(成瀬)

小山田:僕は自分のサービスデザイナーとしての1つの特徴を「超生きのいい壁」だと捉えています。壁というのは「壁打ち」でいうところの壁です。

−「超生きのいい壁」。詳しく教えてください。(成瀬)

小山田:コンセントのようなデザインエージェンシーにおけるサービスデザイナーの場合は、デザイン組織になろうとしている企業を外側から支援する立場になりますよね。企業ごとにケースバイケースになってくるので、どういう課題があるのかを深掘りしていき、それに適したアプローチを考えていくことが必要です。顧客に寄り添いながらそもそもから考えるという、ある種、「何者でもないことが強みになる」側面があると思っているんですよね。

僕自身、10年ほどエディトリアルデザイナーをやってきて1つの専門性をもちつつ、スキルを横に広げていったという経緯もあり、軸足をもちつつ幅広い対応力で都度つどの状況にアプローチしていくというやり方が、今、はまっている気がしているんです。こういう動き方を「超生きのいい壁」だなと思っています。もちろん、サービスデザインを通して実現したいビジョンもあるので、主体性も意思ももっています(笑)。

デザイン経営に大事な、「ゼネラリスト的存在」

−なるほど。ではデザインエージェンシーではなく、事業会社の中でのサービスデザイナーはどんな存在になるのでしょうか?(成瀬)

写真:対話中の成瀬、小山田、小橋

小山田:いろいろな方の活動を拝見していると、ユーザーリサーチやUXデザインを行いながらプロダクトを改善していく存在、ファシリテーションやビジュアライズを得意として顧客目線で考えることをガイドしていく存在、そしてビジネスバックグラウンドに加えデザイン思考を身に付けて事業をつくっていくビジネスデザイナー的存在、というようにいくつかに大別されるのかなと思っています。あくまで個人的な考えですが。

また、デザイン経営を推進していくという観点で考えると、もう少しゼネラリスト的サービスデザイナーというのも大事になってくるという感じがしています。

−ゼネラリスト的サービスデザイナーというのは?(成瀬)

小山田:例えばある企業のマーケティング部門の方で、いろんな事業部を横断する、いわゆる戦略デザイン部門的な部署で活動されている方がいらっしゃいます。現在の複雑な状況や多様化する顧客の意識を捉えるために、既存のマーケティング活動にプラスしてデザイン思考を取り入れたいと考えているんです。ではその方が、サービスデザイナーという肩書かというとそうではなく、マーケティング部門の責任者なんですよね。

行政でサービスデザインを推進していたある方の話をお聞きしたときにも感じたことですが。既存の組織活動の文脈にデザイン思考のプロセスや考え方をうまく織り込んでいくような動きをする存在がいたとして「それはどんな職種なのか」と聞かれても、職種名がうまく付けられない。その組織の文化をくみ取りながら意思疎通の仕方や共通認識のつくり方を考えるといった、「無形・無名の活動を通して、デザイン思考をどのように戦略的に組織導入するかを考える」といったゼネラリスト的サービスデザイナーは、これから重要性を増す1つのパターンとしてあるのではないかと思っています。

僕がマネージャーを務める組織は「ストラテジックデザイングループ」といいますが、こうした戦略性をもってデザインという考え方を推進していく活動がストラテジックデザインなのだと、就任から1年ほど経ったときに腹落ちしたと同時に、今後すごく大事になってくると感じました。

写真:対話中の小山田

組織へのデザイン推進に生かせる、サービス開発の方法論

小山田:組織の中でデザイン導入を推進するのが難しいといった話がよくありますが、実はそれはストラテジックデザイン的なアプローチが浸透していないというところにも課題があるのかなと思っていて。

「デザインが大事です」と言って正攻法で働きかけたところで、各部門の現場の方はすでに設定されたKPIをもとに動いていたり、「デザイン」という言葉の解釈の幅が広く認識がそろわないといった問題があったりして難しい。そこを解きほぐして解決策を考えるときに、ユーザーリサーチと分析、アイディエーション、施策のプロトタイピングなどという、サービス開発の方法論が実はそのまま組織に対しても使えるんですよね。

サービスデザイン関連の書籍は「顧客」に対するテーマが多い印象で、方法論を生かせることに気づきにくい状況があるのではないかと思うことがあります。顧客に対して行っているようなリサーチや体験のデザインといった活動を組織の内部でもやることが、実は戦略部門の方にとってすごく大事だと考えています。

今、デザイン組織に求められる人材

プロジェクトリードができるか

−最後に、デザイン組織づくりにおいて、2022年3月現在、どのような人材が一番求められていると考えているか、教えてください。(成瀬)

大崎:育成においてもですが、評価や採用においてもコンセントでは「プロジェクトリードができる」ということを重要視しています。コンセントに限らず、デザイン組織を推進する企業にとっても大事だと考えています。

特に近年のサービスデザイナーは、問題や課題、要望を分解、整理して、予算や期間を付けながらプロジェクトを設計して、さまざまな要件や全ての情報を統合して最適解を出せる人材であることが必要です。

ただそこまでできるようになるまでの道のりは長いですし、多様な人材がいる組織では、必ずしも全てのサービスデザイナーがそうなりたいと考えているわけではないので、育成の制度や仕組みを整えていくのは難しいことではありますが。

写真:対話中の参加メンバー5名

「自分なりの解答」をもっていることの重要性

プロジェクトリードができる人材というのは?(成瀬)

大崎:プロジェクトリードは、プロジェクトマネジメントができること、そしてプロジェクトにおけるデザイン上の解答をしっかり出せることに分解できますが、プロジェクトリードを行う人には、その2つのどちらが得意かで2つのタイプが存在すると思っています。両者ともプロジェクトマネジメントが最低限できることは前提になりますが、私はより重要だと感じるのは「デザイン上の解答を出すか」の方だなと。

デザイン人材の成長の過程としても、「自分で思いついた解決策を実現したい」という強い思いがドライバーとなって、そのための手段として、プロジェクトマネジメントやその他の技術を身に付けていく、というのが理想だと思っています。そのような方は何歳になっても伸びしろがありますし、デザイナーとしての芯が感じられ、組織に刺激をもたらします。

今は世の中的に、サービスデザイナーのイメージが「組織全体の最適化に向けた調整役」という方向に傾いていて、サービスデザイナーに「解答をしっかり出す」という期待値が置かれていない状況があり、すごく課題だと感じています。でも、仮説でありながらも「こういう解決策だ」と自分の解答をしっかりと言えるタイプがベストで、デザイン組織において重要なんです。

−「解答をもっているか」が大事なんですね。(成瀬)

大崎:やはり、ビジョンがあるかないかでリーダーシップの発揮のしようも変わるなと。

アウトプットやアウトカムを含めて「こうあるべき」という、仮説でもいいので自分なりの答えが見えている人は、リーダーシップのありようが全く異なります。「間違っているかもしれないけれど、こっちへ行こうよ」という言い方で組織を引っ張れると思うんですよね。

小橋:スタートアップとかによくある、プロダクトマネージャーとプロジェクトマネージャーを分けるといった話に近いですよね。プロダクトマネージャーは顧客を見ていてどういうプロダクトをつくるべきかをピュアに考える人、プロジェクトマネージャーはどちらかというとプロジェクトメンバーを見ていて、どうすればプロジェクトメンバーが気持ちよく働けてプロジェクトが円滑に進むかを考える人というように、両者の視点を分ける動きがありますが。

リーダーシップの中にもいろいろあって、今、コンセントもそこは明確に分けずバランスを取りながらやっている感じですが、場合によっては価値基準が異なることによる矛盾に挟まれながらやっていく必要性が世の中的には出てきているなと。1人でバランスを取るのもいいし、いくつかの職能にブレークダウンするという話もあるのかもしれないですね。

写真:対話中の小橋

小橋真哉(株式会社コンセント サービスデザイナー)
2019年から2020年までサービスデザイン事業部のマネージャーを務める。現在、Design Leadership部署に所属。

−組織の業態や企業風土にもよるのでしょうか?(成瀬)

大崎:例えば、組織の主要テーマが「顧客体験の一貫化」だった場合、どちらかといえば調整能力が求められますし、リーダーシップのありようも共創を前提としたものになる。一方、「新規事業創出」がテーマの場合は異なるリーダーシップが求められますし、デザイン組織のミッションとしてもリーダーシップのありようは変わってくる。

業態に応じたリーダーシップのありようは類型化できる気がしますね。
(対話シリーズ「4人のマネージャーが語る、コンセント流デザイン組織のつくり方」、了)

対話シリーズ第4回(デザイン組織と人材育成。求められている人材とは?)のまとめ

人材育成のポイント

  • 人材育成の課題を解決するためにも、サービスデザインの包括的な視点が求められている
  • デザイン組織を推進する上では、コアにあるデザイナー的マインドセットをもつ人の採用や、その人が動きやすくなる育成の仕組み・評価制度づくりが必要

サービスデザイナーとは

  • 企業を外側から支援する、デザインエージェンシーなどのサービスデザイナーは、「何者でもないこと」も強みになる
  • これから重要性を増す、事業会社におけるサービスデザイナーの1つのパターンとして、「デザイン思考をどのように戦略的に組織導入するかを考える」ゼネラリスト的サービスデザイナーがある

今、デザイン組織に求められる人材

  • プロジェクトリードができる人材、中でも「自分なりの解答をもっている」ことが重要
  • 「ビジョンをもっているか」でリーダーシップの発揮のありようは変わる

本記事の人材の育成と関連して、本対話シリーズ第3回では、デザイン組織づくりにおける課題「人事評価制度」をテーマに対話の内容をご紹介しています。

また第1回、第2回では、立ち上げ期から変革期までの「デザイン組織のマネジメント」のポイントをテーマにディスカッションしています。ぜひ併せてご参照ください。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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