経営者はデザイナーと対話する デザイン経営支援の実務レポート

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    石井宏樹サービスデザイナー

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    大﨑 優取締役/デザインマネージャー・サービスデザイナー

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    成瀬 有莉サービスデザイナー

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    齊藤 美咲サービスデザイナー

広く普及してきた「デザイン経営」という考え方。しかし、何から始めて、どのように経営にデザインを生かしていけばいいのでしょうか……。

2018年、デザインを重要な経営資源として活用する「デザイン経営」の推進を提言した「『デザイン経営』宣言」*1が経済産業省と特許庁から発表されました。

「デザイン経営」とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法です。その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことです。

「特許庁はデザイン経営を推進しています」より引用(最終閲覧日:2023/07/22)

上記で述べられているように、「デザイン経営」の本質は、組織固有の課題に対して、多角的な視点をもって、地に足がついた施策を行い、対話を重ねていくことです。これは経営活動そのものであり、デザインはさまざまな経営課題に対する反復的な開発と変革を推進する術の一つであるといえます。

自社の抱える課題に対して、会社の在り方を根本的に見直し、試行錯誤をしながら事業・組織開発を繰り返す。その営みを自社に合った方法で、それぞれの「デザイン経営」として取り組むことが求められています。

だから、経営者はデザイナーと対話する。
コンセントは、地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所(以下、KISTEC)が実施する「令和4年度次世代事業創出デザイン⽀援事業」*2の3企業、3つのテーマにおいてデザイン事業者として支援を行いました。

本記事では、その支援を通じて再認識した「経営者がデザイナーと対話する意義」について、プロジェクトに取り組んだ大﨑、齊藤、成瀬と振り返ります。

コンセントが支援した企業とテーマ(五十音順)

*1 経済産業省・特許庁「『デザイン経営』宣言」(公表日:2018年5月23日)
*2 KISTEC「令和4年度次世代事業創出デザイン⽀援事業」でコンセントのデザイン企画提案が3件採択されました|ニュース(公表日:2022年12月26日)

ウェブ会議で4人が話す様子

大﨑優(写真左上)、成瀬有莉(写真右上)、齊藤美咲(写真左下)、石井宏樹(写真右下)

視点が変わることが、デザイン経営の入り口

石井(聞き手):経営者は、事業や組織について悩みが尽きない日々を過ごしていると思います。製品・技術の認知拡大や従来の事業モデルからの転換など、自社が抱える課題に対してデザイナーと対話をするということは、どのような活動でしょうか?

大﨑:アサイ・エンジニアリングからは「自社の製品やサービスを新しい角度から見直すことができた」と言われました。私が行ったツッコミ的な対話は、経営者が日常で感じる疑問や不満を具体化することができる機会で、思った以上に価値があると感じました。

これはデザイナーに限らず、社外の人間であることが大きいかもしれません。しかし、単に第三者の指摘としてツッコミを入れるのではなく、ユーザーや企業に関わる人を観察し、彼らに寄り添ったかたちで伝わる表現をすることが私たちデザイナーの役割だと思います。

石井:具体的にはどのような視点の転換がありましたか?

大﨑:アサイ・エンジニアリングは、ロボット開発事業に取り組む企業ですが、ホビー分野が事業のルーツであることをあまりポジティブに捉えられていませんでした。しかし、社会の中で自社を捉え直すことで、ホビー分野出身であるからこそ提供できるものづくりへの熱意や“FUN”の精神が自社の独自性であることを発見しました。

そうした独自性をきちんと示すビジョンとそれを表したチラシなどを作成し、市場で試していくことで、独自性が強みとなる手応えを感じていきました。

アサイ・エンジニアリングのYouTube動画のサムネイル画像と「ロボット開発FUN実践講座」で参加者がロボットを使っている様子。

“FUN”を表現するアサイ・エンジニアリングのYouTubeコンテンツと「ロボット開発FUN実践講座」の風景

石井:思い込みを捨て、事業や組織を捉え直すことは、デザイン経営に取り組む入り口になりそうですね。

成瀬:新しい事業モデルの構築は、当たり前とされている枠組みを疑問視することから始まると思います。ロッキー化成は、樹脂射出成形に関する一貫生産を行う企業ですが、金型製造・樹脂成形に限らず、それらの前工程である企画や設計の段階から技術者の知見を生かして対象企業を支援できないか、既存の事業領域にとらわれないビジネスモデルを検討されていました。

そうした事業や組織の捉え直しを行う上で、顧客のニーズを理解し、経営者と「つくりながら考える」ことの重要性を、デザイナーとして改めて感じました。ビジネスモデルはあくまで仮説に過ぎません。構想したサービスを仮の営業資料など具体的な形にして、顧客の反応を見ることで事業の方向性や価値を検証していくことができます。今回のプロジェクトでも、展示会でサービスを説明するパネルを用意し、顧客に提示することで、ソリューションやビジネスモデルの具体性と有効性を高めていきました。

ロッキー化成のサービスを紹介するテクニカルショウヨコハマでのブースの様子
ビジネスモデルを整理した資料のイメージ1
ビジネスモデルを整理した資料のイメージ2
ビジネスモデルを整理した資料のイメージ3
ビジネスモデルを整理した資料のイメージ4

ロッキー化成のサービスを紹介するテクニカルショウヨコハマでのブースの様子とビジネスモデルを整理した資料

石井:議論だけでは、これまでの経験や想像に基づく推測になることが多いですが、具体的なかたちに落とし込むことで、実際のリアクションを見ながら「顧客に何が、どこまで求められているのか」を検討しやすくなり、経営者の判断材料も増えますね。

意思統一を図るために、カタチにする

大﨑:「つくりながら考える」は、デザイナーが経営者と伴走することの大きな意義の一つだと思います。最小限のコストで、どんどん試してみればいい。正直、事業開発はやってみないとうまくいくかわからないことばかりです。製品やサービスが提案するコアな価値を見極め、かたちにできることから可視化していく。その試行錯誤にデザイナーが貢献できることは多いと感じます。

齊藤:そうですね、早く仮説を確かめるために、最小限に試すことはポイントだと思います。あくまでも目的は、受け手がどのように利用し評価するのかを観察し、次の解決策や問い自体を考えていくことです。それができれば、サービスの簡単な概念図やダンボールでつくったプロトタイプでもいいと思っています。

石井:事業や組織についての考えを、どのように社内外のステークホルダーに伝えるのか。伝える難しさは経営者共通の悩みのように思います。「カタチ」にしてみることには、他にどんな意義があるのでしょうか?

齊藤:ツジマキは、シルクスクリーンの技術を生かしたtoC顧客向けのスカーフブランドを立ち上げ、横浜スカーフの業界を盛り上げたいと考えていました。経営者個人の思いを整理し、実現したいことを具体的なブランドブックに落とし込んでいくことで、これから考えていく必要があることが明確になり、具体的なイメージと合わせて、取り組みの背景を社員やパートナーに伝えることができます。

プロジェクトメンバーが工場見学する様子
ブランドブック資料のイメージ1
ブランドブック資料のイメージ2
ブランドブック資料のイメージ3
ブランドブック資料のイメージ4

工場見学の様子とブランドブック

成瀬:会社全体で同じ視点をもつためには、取り組みに関係者を巻き込んでいく体制の工夫も大事で、デザイナーはカタチにする活動を通じて、間をつなぐ役割を担うことができると思います。

経営に対するデザイナーの効能

石井:ここまで皆さんが、各社の考えや強みをかたちにし、対話をリードする役割を担って、「経営者とデザイナーの共創」を実践してきたことがわかりました。その上で、意地悪な質問かもしれませんが、「デザイン経営」にデザイナーは必要なのでしょうか?

大﨑:デザイナーの必要性は経営規模や事業内容にもよります。しかし、どのような企業もやらないといけないことは山積みで、目の前の課題で精いっぱいです。そうした中で、具体化を推進し、いったんの解を生み出すことが求められており、そこにデザイナーの効能があると思います。

齊藤:「今までの姿勢を変えないといけない」と経営者の方も言われていました。これまでの当たり前を疑い、ユーザー中心に、つくりながら考えていくことはデザイナーに限らないと思います。

成瀬:課題に対して解決策を考え、多様な人たちと協力して取り組むことは、そもそも経営者の日常ですよね。その上で、ユーザーの視点でつくって試す、言い換えると、早くうまく失敗することを繰り返すことにデザイナーは“役に立つ”と考えます。

大﨑:最近考えているのが、「デザイナーの二面性」が経営に対して効能があるのではないかということです。「程よく事業と距離を置きながらも、時には驚くほど主体的」「作品性を求めるけれども、事業成果への執着もある」「ファシリテーター的だけれども、時に強く我を出す」。こういったある種のデザイナーの自己矛盾が企業に共振作用を与えるのではないかと思います。

石井:今回の振り返りを通じて、創造的な解決策は、決して斬新なアイデアのひらめきではなく、枠組みにとらわれずに反復と改善を繰り返すことであると認識できました。事業や組織を時代に合わせて揺り動かしていくために、これからもデザイナーは経営者と対話していきます。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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