デザイン人材のスキルマップ「技術マトリクス」2022年度版 マーケットイン視点で変化し続ける市場に対応する

  • Facebookでシェアする
  • Xでシェアする
  • デザイン経営
  • コミュニケーションデザイン
  • 教育・人材育成
  • コンセントカルチャー
  • 大崎 優のプロフィール写真

    大﨑 優取締役/デザインマネージャー/サービスデザイナー

こんにちは、デザインマネージャー・サービスデザイナーの大﨑です。今回はコンセントで活用している人材育成ツール「技術マトリクス」の2022年度の最新の更新について紹介します。

技術マトリクス2022年度版の一覧を用いたメインビジュアル。

「技術マトリクス」はコンセント社内で運用しているスキルマップのこと。以前、その概要記事を公開したところ、たくさんの方からの反響がありました。中には、自社のデザイン組織の人材育成に生かしているという声もいただき、デザイン人材の活躍に貢献できたことをうれしく思っています。

あらためて、技術マトリクスとは?

技術マトリクスはデザイン人材のスキルマップであり、30を超える技術項目に対して5段階の水準を定義しているものです。職種ごとに必要な技術項目も設定し、コンセント全社の人材育成のために運用しています。

概要については前回の記事であるコンセントの人材育成ツール「技術マトリクス」とは?をご覧ください。

各分野のスペシャリストによる毎年の更新

技術マトリクスは、毎年更新を重ねています。2022年度版は私を含めて、サービスデザイナー・クリエイティブディレクター・プロデューサー・コンテンツストラテジスト・ウェブディレクター・UX/UIデザイナーといった各分野のスペシャリストでチームをつくり、更新の作業を行いました。

私が全体をディレクションし、更新箇所の選定と記述内容の変更を全員で分担しました。メンバーはいずれも現場で活躍するマネージャークラスの専門家。各分野の知見を集めつつ、必要に応じて社内の現場取材を重ねながら完成させました。全体の20%ほどの内容が前年度から更新されています。

技術マトリクス2022年度版

こうして完成した技術マトリクス2022年度版は下記の通り。32個だった技術項目を34個に増やし、職種に関する内容も更新しています。以下、主要な更新箇所について3点述べていきます。

画像

コンセントの人材育成ツール「技術マトリクス2022年度版」。(リンクファイルの2ページ目は、前年度からの更新箇所を赤字にしたものです)

画像

職種による必要技術一覧」。星印が付いている技術が必要技術、付いていないものが推奨技術です。(リンクファイルの2ページ目は、前年度からの更新箇所を赤字にしたものです)

1.「マーケティング・PR支援」と「ブランディング支援」

1点目は、昨年度版で採用していた「コミュニケーション戦略立案」の技術を廃止し、その内容を2つに分け、「マーケティング・PR支援」と「ブランディング支援」を新設したことです。

「コミュニケーション戦略立案」は、DXの潮流からとりわけクライアントニーズの高い技術となっていました。その状況に対応するため、技術を2つに細分化し現場の育成方法を明確にできるよう工夫しました。

細分化にあたってはマーケットインの視点を採用。年間のクライアントの問い合わせ内容を分析し、対応を類型化、その結果として「マーケティング・PR支援」と「ブランディング支援」を設定しました。

デジタルマーケティングの要点を押さえたデザインや、複雑化したタッチポイントにて認知形成を行うブランディングは、企業コミュニケーションを構築する上では不可欠なものとなっています。

「“コミュニケーション戦略立案”の技術が枝分かれし、“マーケティング・PR支援”と“ブランディング支援”に変わったことを示す図。」

また、技術を分割するだけでなくそれぞれの育成施策も活発に行っています。

「マーケティング・PR支援のレベル3相当のメンバーをX名育成する」という粒度の目標と、主管となるグループを設定した上で、全社を挙げて育成施策を走らせる動きをしています。期初に作成されたメンバーの個人目標を参照しながら育成対象者をアサイン。月次で技術レベルの進捗を追いながら組織を挙げて育成に取り組んでいます。

※この取り組みは、「マーケティング・PR支援」や「ブランディング支援」のみならず、他の技術でも実施しています。

2.映像関連技術や職種の新設

2点目は、「映像制作」の技術と「映像プロデューサー」「映像ディレクター」の2職種を新設したことです。

コンセントはウェブ・紙を中心にコミュニケーションデザインを生業としてきましたが、近年、映像メディアを組み合わせるプロジェクトが一般的になっています。

映像関連技術の新設の目的は、映像制作を積極的に行うというよりは、ウェブ・紙・映像を横断した現代性のあるクリエイティブディレクションやマーケティングソリューションを強化すること。そして、現在進行形で取り組んでいるVRやメタバース領域でのケイパビリティの素地をつくることです。

コンセントでは、以前から映像担当チーム「渡邊課」がありましたが、今後の拡張性や、社内連携や人材交流を容易にする意味を込め、全社標準の映像関連技術と職種を追加しました。

3.人材育成と採用をつなぐ、職種の再整理

3点目は、人材育成とキャリア採用の接続強度を高めるために職種を整理したことです。職種の新設や統廃合・分割を行い、前年度は13個あった職種を16個に再整理しました。

例えば「ディレクター」を「ウェブディレクター」と名称変更したこと。コンセントは過去の企業合併の背景から紙メディアを中心としたディレクターと、ウェブメディアを中心としたディレクターが混在していました。前者は取材撮影やライティングなどのコンテンツ開発に強みがあり、後者は情報設計やプロジェクトマネジメントに強みをもっていました。

社内では区別なく「ディレクター」と呼称しており、コンセントの特徴としてもメディアを横断して業務を行うことが多いので、必然的に「ディレクター」の対応範囲が非常に広くなり高い期待値が寄せられる職種になっていました。

「職種の一覧。1-サービスデザイナー、2-デジタルプロダクトデザイナー、3-クリエイティブディレクター、4-プロデューサー、5-映像プロデューサー、6-コンテンツストラテジスト、7-ウェブディレクター、8-映像ディレクター、9-テクニカルディレクター、10-UX/UIデザイナー、11-コミュニケーションデザイナー、12-コンテンツデザイナー、13-リサーチャー、14-UXエンジニア、15-エンジニア(フロントエンド・バックエンド)、16-アカウントマネージャー」

問題は、社内期待値が高すぎるがゆえに、キャリア採用において市場とのギャップが生じること。求職者に社内期待と同等の「ディレクター」像を適用すると採用が難しくなるのです。

このような採用課題の観点から、「ディレクター」は「ウェブディレクター」と「コンテンツストラテジスト」に分けるという変更を行いました。

同様に「プロダクトデザイナー」を「デジタルプロダクトディレクター」と「UX/UIデザイナー」に、「プロデューサー」の一部を「アカウントマネージャー」に分割しています。

基本職種と追加職種

少し脱線しますが、職種の社内運用について補足します。コンセントメンバーは技術マトリクス内の職種を「基本職種」として名乗り、追加して任意の「追加職種」を1つ名乗ることを許容しています。例えば、私は「サービスデザイナー」が基本職種で、技術マトリクスにない「デザインマネージャー」を追加職種としています。

基本職種は、キャリア採用職種と要件を正確に合わせるといった採用強化の側面もありますが、重要なのは社内で誰が同じ職種なのかを明確にし、メンバー同士の成長を促進させることです。若手社員や社歴の浅い中途社員の目線からは、職種が曖昧に運用されていると誰が自分のロールモデルとなるかわかりません。職種情報を公開し、開かれたコミュニケーションを目指すべきです。

追加職種は上長の承認をもって名乗ることができる任意の職種です。職種はクライアントや社会に対して確かに価値提供できるという証しでもあるため、個人が安易に名乗ることは不適当です。そのため組織的なジャッジを挟み、質を担保することにしています。

一方で、職種を堅く規定しすぎると企業のソリューションが硬直化したり、メンバーの主体的な意志を阻んだりする恐れもあります。追加職種を設定することでその柔軟性を維持するようにしています。

「仕事中の男性のイラストレーション。基本職種は“サービスデザイナー”、追加職種が“デザインマネージャー”であることが分かる。」

また、私は別の視点からデザイン人材が2職種の肩書をもつ利点を感じています。私は現在「デザインマネージャー・サービスデザイナー」ですが、以前は「サービスデザイナー・アートディレクター」という職種で活動していました。バスケットボールのピボットのように、基本職種を軸足に、追加職種を次の一歩と捉えて、デザイン人材の技術を段階的に発展させる施策として有効性を感じています。

技術の細分化は、分業化の促進ではない

ここまで技術や職種を厳格に規定していると、コンセントはデザインの分業化を促進しているのかと思われるかもしれませんが、それは違います。全く逆であるともいえます。

デザイン人材は複数の分野を横断・接続し、本質的な問題を発見・提起し、リーダーシップを発揮しながら問題解決や意味形成に導く存在です。技術マトリクスで技術や職種を規定していますが、いざプロジェクトに入ったら、全員が当事者意識をもちながらフラットに取り組むことが基本軸です。

「複数人の男女のイラストレーション。さまざまな役割の人が、フラットに話しているようす。」

細分化や分業化はデザインの本質ではありません。しかし、デザイン人材のその成熟の過程において、技術育成の起点や複数の「とっかかり」がないと技術要素をホールドしながら高みに登っていけない。デザインの本質を目指すためにも、時代ごとにアップデートしながらメンバー個々の特性を発揮できる粒度感をもった技術定義は不可欠なものと考えています。

実際、コンセントメンバーでも高度になればなるほど、職種定義が難しい「何屋かわからない」存在になります。ただ、彼ら彼女らの成長の過程においても、起点となる強みや技術発展段階というのは存在しています。

技術マトリクスが効果を発揮する組織の要件

コンセントは200名を超えるデザイン人材の集団であり、創業50年を超える歴史から年齢的多様性も豊富です。クライアントニーズも多様であるから技術の幅も広いものと思います。いわば、その集団の大きさと多様性が技術マトリクスをつくり出したといえます。

「マトリクスの図を背景に、さまざまな働き手がいる図。いろいろな立場の働き手がずらりと並んでいる。」

技術マトリクスを活用いただいている他社組織の共通する課題としても、「大きさや多様性」に対応するものが多いように思います。属人性が強かった小規模デザイン組織が次のステージに上がるために。事業成長とともに拡大し続けるデザイン組織の技術水準を維持・発展させるための方法論として。複数の部門から集まりデザイン組織をつくる際の共通の指針として。このようなケースで技術マトリクスが成果を発揮しているようです。

逆を言えば、ごく少人数のデザイン組織が個々の特別な力で突っ走るようなフェーズであったり、極めて同質性の高い採用を行ったりしているような組織では、技術マトリクス設定は費用対効果に合わないともいえます。

技術の先にあるもの

私は美術大学でデザインを学びました。油絵・日本画・彫刻のレイヤーに「デザイン」が並ぶ世界です。すべてに共通するのは、色やカタチといった造形要素をこねくり回すことではなく、有形無形のものや概念を「つくる」ことで社会に提言する行為にあると思っています(日本語の「提言」と「表現」の間のニュアンスがふさわしいのですが)。

技術マトリクスの今後の展望として、ビジネス分野の技術の細分化や追加が考えられます。しかし、その際も、デザインは単なるビジネスの道具でなく、ビジネスのフィールドで「つくり提言すること」であるという前提を維持することが重要だと思っています。

技術マトリクスは無味乾燥な技術一覧ではなく、マーケットニーズを取り込み、組織やメンバーの課題に耳を傾け、最終的には組織のデザインの意志を込め更新し続けるものです。

[ 執筆者 ]

  • Facebookでシェアする
  • Xでシェアする

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

ページの先頭に戻る