三井住友銀行のデザイン経営を強化する、デザインチームとその取り組み

【インタビュー】SMBCデザインチーム 米本氏、金澤氏

  • 大崎 優のプロフィール写真

    大崎 優取締役/デザインマネージャー/シニアサービスデザイナー

  • 石井真奈UXデザイナー

三井住友銀行(SMBC)さまオフィス内のロゴのある受付を背景に撮影した、インタビュー参加者4名の集合写真。向かって左から、コンセント大崎、SMBC米本氏、金澤氏、コンセント石井。

こんにちは、デザインマネージャー・シニアサービスデザイナーの大崎です。先日、株式会社三井住友銀行(以下、SMBC)のインハウスデザイナーが運営する公式note『SMBC DESIGN』にて、SMBCのデザイン経営支援の一環で進めているカスタマージャーニーマップ・マネジメント(以下、CJMM)に取り組む背景や有用性についてお話ししたインタビュー記事「デザインチームが推進するカスタマージャーニーマップ・マネジメント」が公開されました。

CJMMとは、企業全体で一貫性をもった「価値ある」体験を提供するため、カスタマージャーニーマップを統合的に管理・運用する手法のことで、デザイン経営の推進において有効なアプローチの一つです。

今回のひらくデザインでは、インタビューの続編として、SMBCデザインチームの米本滉貴氏と金澤洋氏、コンセントのUXデザイナー石井真奈と共に、デザイン経営を推進するための組織の在り方について考えていきます。

国内ではまだ例の少ないCJMMにSMBCが取り組む背景やその有用性について振り返った本インタビューの前編は、下記のSMBCのnote『SMBC DESIGN』をご参照ください。

デザインチームが推進するカスタマージャーニーマップ・マネジメント|SMBC DESIGN

SMBCデザインチームが語る、次なる成長に向けた課題とは?

大崎:SMBCデザインチームが推進するSMBCのデザイン組織開発をコンセントで支援し始めて1年ほど経ちますが(2021年12月時点)、SMBC内でのデザインへの期待値の高さを私自身も肌で感じています。

2019年度に受賞したスマートフォンアプリ[三井住友銀行アプリ / 三井住友カード VPASSアプリ]に続き、銀行の個人のお客さま向けサービス等が2021年度のグッドデザイン賞を受賞したり、デザインシステムの普及が進んでいたりと成果も着実に出されています。

デザインチームとしてさらなる成長を目指していらっしゃると思いますが、ネクストステップへの課題は何でしょうか?

コンセント大崎のインタビュー中の写真

大崎 優(株式会社コンセント 取締役/デザインマネージャー/シニアサービスデザイナー)
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。2012年にコンセントにてサービスデザイン部門を立ち上げる。大手企業を中心に新規事業開発やブランディング、デザイン組織構築、デザイン人材の育成支援に携わる。コンセント Design Leadershipメンバー。

米本氏:今年度のグッドデザイン賞では「一貫性のある顧客体験」を評価いただきました。このような事例をもっと増やしていく仕組みが、次の成長には必要だと考えています。その仕組みの一つがCJMMです。今まで大崎さんたちとしっかりと進めてきた人材採用やデザインプロセスやワークフローの整備を通じて、いよいよCJMMを本気で考えていけるようになりました。次のステップに向けた課題として、デザインチームではCJMMの行内の定着と同時に、長い視点でのお客さま体験の構想に取り組んでいきたいと思っています。

SMBC米本氏のインタビュー中の写真

米本滉貴 氏(株式会社三井住友銀行 SMBCデザインチーム)
大学卒業後、三井住友銀行に入行。個人営業やシステム開発等の業務を経て、2020年よりデザインチームに参画。現在は、デザインチームの体制強化や環境整備などを推進。

デザイン組織の土台となる、デザインプロセスの定義

大崎:私はさまざまな企業のデザイン経営の支援をさせていただくことが多いのですが、どんな組織体制で進めていくのか、推進する体制づくりは重要な要素の一つだと考えています。そうした観点からも、SMBCデザインチームの動きはとても興味深いのですが、今回のプロジェクトに入ってもらっているコンセントの石井さんは、UXデザイナーとしてSMBCデザインチームのデザイナーの皆さんをどう感じていますか?

石井:それぞれの方が得意分野をもっていて、個々人でパフォーマンスを発揮していらっしゃる方が多い印象があります。

一般的にUIデザイナーやUXデザイナーというと、特定の専門領域に特化している人も多いですが、SMBCデザインチームの皆さんはもっと広い領域の知識をもって活動されていて「すごい!」という印象が強くあります。あくまで私の推測ですが、例えば金澤さんなら広報ウェブサイトや採用コンテンツだったり、他の方ならアプリに軸足を置かれていたりなど、得意領域の中で活躍しけん引されているので、専門性も伸びるし知識や活躍の幅がどんどん広くなっていくのだろうなと思っています。

その一方で、それぞれの得意領域を1人でリードされている分、どうしても属人的になってしまう部分もあるのではないかなと思いました。

コンセント石井のインタビュー中の写真

石井真奈(株式会社コンセント UXデザイナー)
東京工芸大学卒業、同大学院修了。2013年にコンセントへ入社。アプリをはじめとするデジタルプロダクトの新規開発・改修のプロジェクトマネジメント、ディレクション、UX設計・UI設計、プロトタイピングなど幅広い領域を担当する。BtoB、業務系のプロダクトが得意。

大崎:職種のイメージを超え越境的に、かつ非常に柔軟性高く動いているがゆえの属人化という課題は、組織としてはありますよね。デザインプロセスが定義されていなかったり、それぞれの役割の期待値に対するブレが生じてしまうなど。もちろん良い意味でのブレも多いのですが。そのため、今回のデザイン組織開発プロジェクトでも、SMBCとしてのデザインプロセスの定義を一緒に考えさせていただきました。

デザインプロセスを定義しておくことは、組織としてデザインを有効に活用できることにもつながります。早いタイミングでデザインチームに相談するといった仕組みができ、「この段階でユーザー調査を入れよう」といったような、ユーザー中心で進めるために不可欠な要素をしっかり織り込んだプロジェクトの設計が可能になります。

この辺りを意識して、今後デザインを組織的に生かしやすいデザインプロセスとなるように定義づくりを進めましたが、金澤さんはどう考えていらっしゃいますか?

金澤氏:僕らは本当に一からデザイン組織をつくる必要があったんですよね。なので石井さんが話されたように、それぞれのパフォーマンスを最大限に発揮できるように頑張ってきたところもあります。今の状態までこられたのもそれがあってだなと。

三井住友銀行アプリがグッドデザイン賞を受賞した頃からデザインチームへの行内からの相談数が増加し、デザインパートナーさんに協力いただく体制にしました。ただその時点では、プロセスを大事にしないといけないという認識はあったものの、デザインプロセスの整備までには至りませんでした。規定することで自分たちの首を絞めるものになるのではないかという不安が少しありました。

でもそうではなかった。デザインプロセスを可視化することで、デザイナー以外の人にとっても、デザイナーの役割ややるべきことが明確になるので、デザインを組織としてより活用しやすくなっていくだろうと思っています。これからはデザインチームがCJMMをリードして、「一貫性のある顧客体験」をデザイナー以外の人と一緒につくっていくためにもデザインプロセスを整備し、標準化することは必要だと感じています。

SMBC金澤氏のインタビュー中の写真

金澤 洋 氏(株式会社三井住友銀行 UI/UXデザイナー)
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業、同大学院テキスタイルデザインコース修了。前職では、大手通信キャリアや省庁等のUIデザインを経て、ネット系銀行の立ち上げ時から常駐し、HP、IB、アプリ等デザイン周りを担当。2016年、三井住友銀行に入行。

大崎:行内での反応など感じられている手応えはありますか?

金澤氏:デザインプロセスが定義されたことで、行内から相談を受けたときに「この形ならいったんデザインチームで預かりますね」とか「ここからここまでの論点を整理してから、もう一度相談してください」といったように、デザインチームとしての初動がだいぶ変わった部分はあるかなと思っています。

デザインの成果設定とその取り組み

大崎:組織におけるデザインの活用を考える際、論点になりやすいものの一つに、「どんな成果設定をすれば、デザインをより活用し得るか」ということがあります。

インタビュー前編で話されていたように、企画を考えた各所管部がKPIをしっかりもっているため、その指標のもとで動くということは一般的に見ても多いことですが、SMBCさんではCJMMに取り組み始めてから、デザインの成果設定についてはどのような議論をされていますか?

金澤氏:短期の業績貢献と長期的な視点での貢献をどのようにするか、そのバランスをどうするか、デザインチームだけでなく経営とも議論していきたいと考えています。これからは、これまで接点のなかったお客さまに対して“非金融”の文脈でアプローチする必要があると思っています。既存の“銀行”の枠組みにとらわれずに変わっていかないといけないなと。

実際に、さまざまな世代に向けたサービスなど、これからの社会に必要な“多様な視点”を取り入れた新規企画が各所で立ち上がっています。僕自身も経験したのですが、そうした新規企画にデザイナーが参加して所管部と一緒にサービスをつくり、社会的な価値の実装につなげていくという流れは、デザインチームとして増やしていきたいと思っています。

SMBCさまオフィスでのインタビュー中の写真。向かって左からコンセント大崎、SMBC金澤氏、コンセント石井の順番で座っている。

石井:社会的な価値を実装するための研鑽にも、とても熱心に取り組んでいらっしゃいますよね。そして学ばれたことをどんどん業務に取り込んでいくそのスピード感がすごいです。

「コンセントデザインスクール」のプログラムにもご参加いただきましたが、「インクルーシブデザイン」をテーマにした回ではご参加直後にデザインシステムにどんどん取り込んでいかれたり、私がスピーカーを務めた「UXとUIのつなぎかた」をテーマにした回でご紹介した「OOUXデザイン プロセス」の話を、翌日のデザインチームの皆さんでの会話で話したりということをお聞きするたびに、取り込む速度が速くて素晴らしいなぁと思っています。

金澤氏:僕も石井さんのプログラムに参加させていただいたのですが、デザイナー自身としてもすごく学びがありました。設計したUXをどうUIに落とし込んでいくかについてその時々で選択をしていましたが、プロジェクトの担当者からしてみたらその間のプロセスが見えないので、不信感のようなものをもたれるのも当然です。ブラックボックスになりがちなUXとUIの間のプロセスの可視化とその有用性を学べたのが大きかったです。

画像

2021年12月に開催したコンセントデザインスクール「UXとUIのつなぎかた」で、石井が紹介した「OOUXデザイン プロセス」。デザイナーの中でブラックボックス化しがちな、アプリのUX設計からUI設計をシームレスにつなげたプロセスを示し、可視化による有用性を伝えた。

タスクフォースを結成して問題に対する解決策の模索に取り組み、そのナレッジを共有しているところにもコンセントさんのデザインパワーにおける組織力をすごく感じました。

石井:ありがとうございます! うれしいです。

大崎:思考し続けることやナレッジの共有というところは、人材育成や時代に合ったキャリアのつくり方をどう会社が支援するかという観点でも大事にしていることなんです。コンセントの創立からの約半世紀の中で、組織規模の変化やデザイン領域の広がり、社会の中でのデザインの価値などを踏まえながら試行錯誤して取り組んできたのですが、いろいろな企業のデザイン組織開発を支援する中で、私たちが向き合ってきたものと共通する課題が多いことに気づいたのですよね。ですのでこれまでの知見を生かし広げたり深めたりしながら、SMBCのデザイン組織開発のご支援もさせていただいています。

現場感が伴った「SMBCらしさ」を考え抜く

大崎:デザインプロセスの定義や組織の設計においては、SMBCデザインチームとのワークショップや所管部へのインタビューを通して、取り組むべき課題を一覧化・構造化しましたが、解決策を検討する中で再三議論になったのが「SMBCらしさ」でした。

これは、一般論的な「デザイン経営」の要点をただ当てはめればいいというわけではなく、「しっかりと“現場感”のある地に足の着いた課題に取り組むべきだ」という議論で進めましたが、あらためて米本さんや金澤さんが「SMBCらしさ」をどのように考えていらっしゃるか、お聞きしたいと思います。

米本氏:すごく議論になったポイントでしたね。「SMBCらしさとは何だろう?」ということは、われわれもずっと考えてきたことです。個人的に感じる「SMBCらしさ」は、「目標達成のための、フラットな風土」かなと思っています。

金澤氏:私は中途入社なのですが、入社当初にまず感じたことが「SMBCは対話を大事にしている人が多い」ということでした。組織規模としては大きめの会社なので、お客さまの他にもステークホルダーがたくさんいます。そうしたさまざまな方の声に耳を傾け、いろんな方と一緒に協力して1つのサービスをつくり上げていくというところが、「SMBCらしさ」につながるのではと思っています。

SMBCさまオフィスでのインタビュー中の写真。向かって左側にSMBC金澤氏、右側にコンセント石井が座っている。

大崎:一緒にお仕事をさせていただく中で感じた「言葉にこだわる」ところにもつながるなと思いました。

「言葉」は自分中心になりがちですが、常に他者視点で見て「どういう言葉で表現すれば伝わるだろうか、共感いただけるだろうか」ということを真摯に考え抜かれているところが「SMBCらしさ」だなと。

米本氏:確かにその通りですね。イメージや概念だけでの表現はせずに、一つひとつの「言葉」にこだわって大事にしています。

金澤氏:言葉を選んで「SMBCらしさ」を統一していくことが、お客さまにサービスを提供していく上でSMBC全体での一貫した動きにつながると思っています。

大崎:言葉を通してベクトルを合わせていくプロセスがあるのはすごくいいことですね。今回のプロジェクトで「UX企画」「UI開発」という言葉も使っていますが、SMBCのデザイナーの方から見たらおそらく違和感があると思います。ただ「所管部から見たら理解できる」と考えて使っていたり、「企画」と「開発」という言葉のボーダーラインを明確に使い分けているところも、「SMBCらしさ」だなと。いろんなステークホルダーの視点から見て、デザイナーが言葉を介して活動をチューニングしフィットさせていくという姿勢が、デザインチームの特徴としてあるのだなと思っています。

米本氏:そこはインハウスデザイナーからのアドバイスでした。「サービスデザイン」という言葉も「この言葉だと行員が誤解する」という気付きを共有してくれたのを機に、もっと銀行員になじむ言葉にしようとなりました。インハウスデザイナー自身のこれまでの経験があったからこそ「その言葉では伝わらない」という気付きが得られるんですよね。

大崎:概念の認識がそろっていないと全体のガバナンスが利かなくなったり、顧客体験にブレが生じてしまう。SMBCのデザイナーの皆さんにそういった価値観が備わっているからこそ、組織として自然に共通言語を探る文化があるのだなと思いました。

石井さんがSMBCデザインチームとのさまざまなプロジェクトへの参加を通して感じた「SMBCらしさ」は何でしょうか?

SMBCさまオフィスでのインタビュー中の写真。向かって左からSMBC米本氏、コンセント大崎、SMBC金澤氏、コンセント石井の順番で座っている。

石井:先ほどの、お客さまはもちろん、ビジネスに対して真摯に向き合う姿勢というのがまさに「SMBCらしさ」だなと感じています。

誤解を恐れずに言うと、銀行には保守的という印象が私の勝手なイメージとしてあったんですね。なので初めてSMBCさんのプロジェクトに参加したときには、いい意味でのギャップを感じたのを覚えています。

今までご一緒したSMBCのご担当者の方々が私たちからの提案内容に対して、「これはもっとこうあるべきなんじゃないか」とか、「お客さまの視点から考えたらこうなんじゃないか」という議論をとても活発にされる。どうしたらお客さまにより良いものを届けられるかを真剣に考えていらっしゃる方が多いんですよね。本当にすごいなぁと感動するのと同時に、一緒に議論をしてサービスをつくっていく過程が楽しいなぁと感じました。

もう1点、新しいことへのチャレンジに対する抵抗感があまりない方が多いことも「SMBCらしさ」だなと思っています。もちろん制約的にできないこともありますが、「新たな考え方や施策を取り入れることで、より良くなるんだったらそっちでいこう」と判断をされる方が、デザインチーム以外の方にも多いんですよね。

大崎:あと、目的の達成や問題解決のためにはフラットな関係で物事を言い合えるということも「SMBCらしさ」ですよね。細かいですが、皆さんが部長や副部長の方を下のお名前で「さん」付けで呼ぶその関係性もSMBCらしいなと思いました。

金澤氏:着任時に、部長や副部長から「下の名前で呼んでほしい」と言われたんですが、それ以前からすでにそうした呼び方が組織文化にあったということがわかったんです。2人の実際の経験から、そういう話ができてきたというのもすごくいいなと思っています。最初は下の名前で呼ぶことに違和感がとってもありましたが、口に出していけば慣れるという(笑)。それと、国内でも事例の少ないCJMMに取り組めるところは、新しいことにチャレンジができる「SMBCらしさ」ですね。

大崎:さまざまな背景から組織の在り方について考えてきましたが、やはり軸となったのは「SMBCらしさ」でした。デザインというものを目的化せずに手段として用いることで、SMBCの中でより新しい価値を創出するところをこれからも一緒に目指していけたらと思っています。

国内ではまだ例の少ないCJMMをSMBCが取り組む背景やその有用性について振り返った本インタビューの前編は、下記のSMBCのnote『SMBC DESIGN』をご参照ください。

SMBCデザインチームとのデザイン経営の取り組みについて、新市場を創る人のデジタル戦略メディア「日経クロストレンド」(運営:株式会社日経BP)でも取材記事を掲載いただいています。こちらもぜひ併せてご一読ください。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

ページの先頭に戻る