ウェブガバナンス推進にデザインシステムを活用する
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企業で複数のウェブサイトを管理する部署や担当者には、サイトごとの成果創出支援やブランディング、法対応などの全社的な課題解決に取り組むことが求められています。それを実現するための取り組みとして、これまで長く活用されてきた「ウェブガバナンス」と、同じような文脈で注目されている「デザインシステム」が存在しますが、両者をどのように理解して向き合うべきでしょうか?
本記事では、筆者がさまざまな企業や組織のデジタルマーケティング活動、組織運営の支援を行ってきた経験から、企業がウェブガバナンスに取り組むために重要と考える3つの観点について解説します。また、近年のデジタルプロダクト開発・運用で存在感を増しているデザインシステムをウェブガバナンスにどのように活用するのかについての考えをお話しします。

ウェブガバナンスとは
2024年現在、企業がウェブサイトをもつことは当たり前になり、国内外を含め複数のウェブサイトを運営することも珍しくありません。ウェブサイトの運営・管理を個別に行うことで発生する「運営コストの増加」「ブランド価値の毀損」「機会損失」といった課題への取り組みを「ウェブガバナンス」と呼んでいます。(参考記事:企業のグローバルWebガバナンスとEIA)
具体例としてよく挙がるものは、UIデザインの統一、サーバーやCMSなどのウェブサイトを管理するシステムの統合、コンテンツやマーケティングデータの一元管理による集約と連携、組織全体のセキュリティ対策や各種法対応などです。これらは社会状況の変化への対応として必要であり、方針を定めて継続的に柔軟に取り組むことが求められます。
ウェブガバナンスに重要な3つの観点
長期的にウェブガバナンスに取り組むためには、「組織」「仕組み」「ルール」の3つの観点が重要です。それぞれ整備したら終わりではなく、変化に対応しながらアップデートすることを前提に検討する必要があります。

①組織づくり
ウェブガバナンスを推進するための組織が初めから整っていることは、ほとんどありません。主体となって推進する部署を中心に、実現すべき目標などに応じて必要な機能を少しずつ追加する、テーマごとに組織横断的なチームをつくるなど、状況に応じて拡張できる柔軟な組織づくりを目指しましょう。
組織に必要な専門的な知見やスキルを賄う方法には2つあります。1つ目は必要な知見・スキルをもつ外部パートナーと組み、社内メンバーは方針検討や推進活動を担うパターン。人事異動などにより機能を損なうことのないサステナブルな組織にすることができます。
2つ目は、外部パートナーに社内メンバーへの知見・スキル習得を依頼するパターンです。時間はかかりますが、中長期的に見ると社内に専門的な知見・スキルをもつ人材がいることの利点は多く、次世代メンバーの育成も社内で完結できる可能性もあります。
状況に応じた変化・拡張に対応して、個人やチームへの依存度を下げる段階的な組織づくりの例

②仕組みづくり
ここでいう「仕組み」は、システムやツールだけではありません。ウェブガバナンスの根幹をなす考え方をまとめた各種方針、複数のウェブサイトを横断する情報設計やUIデザインの活用方法、サイト運営関係者の業務フロー、ウェブサイト群を横断的に管理するためのCMS基盤などを指しています。
仕組みとして定義した方針やシステム、ツールは、そのままではサイトへの理解度の異なる各関係者が同じように活用することはできません。そこで、実行のための具体的な手順や解説をまとめたルールが必要になります。
③ルールづくり
ウェブガバナンスを取り扱う組織と全ての関係者の共通認識とすべき全体方針、実現するための仕組みの解説、実行を支援するための各種ドキュメントなどが「ルール」です。ガイドラインという名称で扱われているものの大半は、このルールに該当するものです。
ここまで述べた「組織」「仕組み」「ルール」を集約したものを、ウェブガバナンスの取り組みにおける「デザインシステム」として定義し、活用できると筆者は考えています。具体的に見ていきましょう。
デザインシステムをサイト運営に活用する
デジタルプロダクトとデザインシステム
デザインシステムは、特にデジタルプロダクトの開発・運用において、構築することが必須といえる重要な存在になっています。サービス提供側の共通認識とスピーディーな意思決定をつくり出し、ユーザーに一貫したサービスの価値観や体験の提供を行い、サービス品質のばらつきをなくすために活用されており、国内でもさまざまな事例があります。(参考記事:デザインシステムとは何か)
例えば、ECサイトや金融サービス、動画配信サイトなどの、提供形態がウェブサイト版・アプリ版さまざまに存在するサービスでは、全てを対象とした包括的なデザインシステムの開発を行います。
なぜ企業ウェブサイトにデザインシステムが必要か
それでは、企業のコーポレートサイトにもデザインシステムは必要でしょうか?
多くの企業は自社のブランディング、広告・販促・営業・販売などのマーケティング、問い合わせ対応などのカスタマーサポートを目的にウェブサイトを運営しています。情報収集や趣味嗜好などのニーズを満たすためにウェブサイトを訪れるユーザーに対して、目的達成のためのより良い体験を提供するとともに、企業としての価値や姿勢に共感を得てビジネス機会の拡大につなげたいという狙いがあります。
そのため、企業として一貫して伝えるべき価値観や姿勢に関する共通認識を運営関係者間でより強固にする必要性が高まっており、それを目的としたウェブサイトのデザインシステム構築は有益だと考えています。
ウェブガバナンスにおけるデザインシステム
コーポレートサイトを中心としたウェブサイト群の運営においては、非常に多くの部署や担当者とのコミュニケーションや合意形成を経て、情報発信が行われます。ウェブガバナンスにおけるデザインシステムは、こうした場面でコミュニケーションツールとして活用することができます。
ウェブサイトを構成するデザイントークン・コンポーネントや、各種テンプレートを含む「スタイルガイド」だけでなく、現場で必要な方針やガイドライン、データ類が一元管理され提供されることで、一部のルールだけが一人歩きし認識の齟齬が発生することを防ぎます。
また、デザインシステムに企業のMVV(Mision・Vision・Value)やブランドコンセプト、存在価値や姿勢として「何を伝えるのか」「どのように伝えるのか」を言語化したウェブサイト群の運営方針を記載することで、「何のため」にデザインシステムを活用するのかを啓蒙し、理解を促し続けることが重要です。
ウェブガバナンスにおけるデザインシステムの構成例

良いデザインの基準である企業ブランドの価値や姿勢なども内包することで、「どのように実行するか」の基準を補完して、「与えられたルール」にしないコミュニケーションを社内外の共通認識とする構成
ウェブガバナンスの実現に向けては「どのように実行するか」に着目しがちですが、「何を良いデザインとするか」の基準である企業ブランドの価値や姿勢なども一緒に提供することで、企業内のウェブサイト運営者の間に「なぜやるのか」「そのやり方でよいのか」という目的達成のための本質的な議論の土台が生まれるのです。
どのように取り組むのか
繰り返しになりますが、ウェブガバナンスもデザインシステム構築も短期的な取り組みで完了するものではありません。対象となるウェブサイトの数が多ければ、さらに検討の難度が上がり、必要とする時間も増えていくことが考えられます。
それでは諦めるのでしょうか? ウェブガバナンスもデザインシステム構築も変化に柔軟に対応しながら継続的に行うものであり、そもそも段階的に進めていくことが必要な取り組みです。まずは、現在抱えるウェブサイトの課題がウェブガバナンスやデザインシステム構築で解決すべきものなのか確認してみませんか?
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