国際空港における旅客体験を可視化し
案内サインの課題を探索
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- UXコンサルティング
[ プロジェクトのポイント ]
- 旅客になりきって一連の体験を評価する認知的ウォークスルーと定点観測を組み合わせ、空港の案内サインの課題を調査
- カスタマージャーニーマップで旅客体験を時系列に可視化し、調査結果を効果的に共有
- クライアントを含むプロジェクトメンバーで対面ワークショップを行い、異なる立場から多様な視点で調査結果について意見交換を実施
プロジェクトの背景
成田国際空港は、世界中からさまざまな人々が訪れる施設です。空港の規模が大きく、利用者の行動も多岐にわたるため、館内の案内サインについて多くの意見が寄せられていました。これまでは個別に対応してきましたが、建築空間と運用の両面からよりわかりやすい施設を目指すために、サイン計画策定に向けて、利用者の体験と動線全体を俯瞰したユーザー視点での課題調査を行いました。
問題解決までのアプローチ
ユーザー視点で課題を明らかにするための調査手法とスコープ決め
本プロジェクトは、2024年1月から3月までの約3カ月で実施しました。成田国際空港における多種多様な利用者体験のすべてを調査することは困難なため、今回は多くの意見が寄せられている第1ターミナルの南ウイングと北ウイング間の通路を利用した出発体験に絞って調査を行いました。
利用者の体験を調査する手法は数多くありますが、今回は一連の旅客体験と動線から示唆を得ることが重要でした。そのため、一人の体験を深く捉える認知的ウォークスルー*と、利用者の動線を俯瞰して捉える定点観測を組み合わせて実施しました。
*認知的ウォークスルーとは、調査者が想定ユーザーになりきって一連のタスクを行い、その体験を評価する手法です。
2種類の旅客になりきり、空港到着から搭乗までの体験を評価
認知的ウォークスルーの実施に当たり、成田国際空港の代表的な旅客像を2種類の仮想ペルソナとして設定しました。そしてコンセントメンバーがその旅客になりきり、空港に到着してから搭乗するまでの手続きを行いながら、どのサインを見て、何を感じ、実際にどのような経路で動いたかを調査しました。調査には360°カメラを用いることで、利用者が見ている一人称視点の景色を記録しました。
ペルソナA:初めて海外旅行に行く大学生
ペルソナB:中国へ帰国する家族連れ(母親)
ペルソナBになりきり、実際にキャリーカートを運びながら認知的ウォークスルーを行う様子
360°カメラで一人称視点の景色を記録した
南ウイングと北ウイングを行き来する利用者の行動を観察
第1ターミナルでは、南ウイングと北ウイングを間違えやすいという課題があり、これに対して、成田国際空港は2つのウイングをつなぐ通路に案内サインを追加設置するなどの対応をしてきました。これらの対応の効果も含め、旅客の行動実態を把握するために、南ウイングと北ウイングをつなぐ通路で定点観測を実施しました。朝・昼・夕の各時間帯で約1時間ずつ記録し、旅客の視線や特徴的な行動を調査しました。
南ウイングの入り口で、通りがかった人に質問する旅客
南ウイングと北ウイングをつなぐ通路の案内板を指差す団体客
可視化した旅客体験をもとにワークショップで分析
調査後、認知的ウォークスルーと定点観測の結果をカスタマージャーニーマップとして可視化しました。成田国際空港の関係者と対面ワークショップを行い、サイン計画を策定するために、得られた示唆や追加調査すべき観点を整理しました。
調査結果の分析を行った対面ワークショップの様子。壁にカスタマージャーニーマップを張り、参加者全員で付箋を追加しながら整理した。
クリエイティブのポイント
本プロジェクトの成果物として、2種類の仮想ペルソナのカスタマージャーニーマップとプロジェクト報告書を制作しました。
共通理解と議論のためのカスタマージャーニーマップ
認知的ウォークスルーの結果をもとに、旅客の行動、見聞きした案内サイン、そのときの思考や感情などをカスタマージャーニーマップに時系列で整理しました。このマップを用いた対面ワークショップには、プロジェクトメンバーに加え、成田国際空港のカスタマーエクスペリエンスを担当する部署の方々も参加し、所属や立場が異なる多様な視点を生かした議論を行いました。
カスタマージャーニーマップにより、旅客体験を可視化することで、参加者全員の共通理解を深め、課題や示唆を時系列やタッチポイントごとに議論しやすくなります。
実際に作成したカスタマージャーニーマップ。横軸の行動フェーズと場所に沿って、縦軸で旅客の行動、感情、知りたい情報、案内サイン、空港のオペレーションを可視化した。
旅客の体験を可視化し、今後の調査につなげる報告書
空港での調査結果とワークショップで議論した内容をプロジェクト報告書にまとめました。報告書では、調査結果をもとに旅客が知りたい情報を4つに分類し、現状の案内サインにみられる課題をユーザー視点で提示しました。また、成田国際空港の旅客体験をより広く深く把握するための今後の調査観点も提案しました。
報告書で整理した出発体験の重点領域。旅客ごとに多様かつ行動の選択肢が多く、空港に到着してからチェックイン完了までが出発体験の重点領域と考えられる。
一連の旅客体験と案内サインの関わりを可視化することで、プロジェクト関係者全員がユーザー視点を共有し、案内サイン改善方針に向けた示唆を導き出すことができました。
お客様の声
大規模かつ複雑な建物構造をしている成田空港では多様な方に対する「わかりやすい案内表示」が課題となっておりました。お客様が迷う原因をお客様目線で探るために、何かよい調査ができないかとご相談したところ、調査設計からワークショップの企画、結果の分析まで課題解決に向けて一貫したご提案をいただきました。またカスタマージャーニーマップを作成することで、関係者全員が「どこで」「どんな課題があるか」について共通認識を持つことができました。
[ プロジェクト概要 ]
クライアント名 | 成田国際空港株式会社 様 |
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