東京藝術大学   超高齢社会の孤独・孤立の課題解決に挑むビジョン策定

ステートメント資料を用いたメインビジュアル

多様なメンバーと課題や可能性を対話する、
ビジョンを共に視る

東京藝術大学を代表機関とする「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点(以下、共創拠点)」では、さまざまな専門機関や企業、自治体と共に、超高齢社会の孤独・孤立の解決に取り組んでいます。コンセントは、共創拠点のビジョン策定を支援するため、約40名の拠点メンバーが参加する全3回のワークショップの設計・運営、そして毎回の議論結果の分析、レポート作成を行いました。

  • ドキュメント・スライド
  • ブランディング支援
  • デザイン思考組織化支援
  • クリエイティブ開発

[ プロジェクトのポイント ]

  • 多様なメンバーの対話を支援するプロセスと場づくり
  • 既存の活動や価値観の枠組みを捉え直すワーク設計
  • 対話結果を編集し、参加者の発言から価値を抽出

プロジェクトの背景

共創拠点は「誰もが生涯を通じて社会参加でき、幸福で健康的な生活を送り続けることのできる社会」の実現に向け、望まない孤独や社会的孤立の解決策として「文化的処方※1」の開発と実践を推進しています。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が公募する「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)※2」の「育成型」から「本格型」への昇格に向けて、共創拠点は多様な産学官のメンバーを巻き込みながら徹底した議論を行い、社会や自分たちのあるべき姿をあらためてゼロから深掘り、更新する必要がありました。また、職場・家庭・地域でのつながりの希薄化や経済的困窮など、現状の孤独・孤立に対する課題認識の枠組みにとらわれず、さまざまな活動の可能性を探索する機会を求めていました。
本プロジェクトを経て、共創拠点は2023年度に「本格型」に採択されました。

※1 「文化的処方」は、「社会的処方」から着想を得た、文化芸術を活用する「社会的処方」の一種。「多様な状況にある人々どうしが緩やかにつながり、その人らしくいられる場所を得て、クリエイティブな体験が創り出され、楽しさと感動が生まれ、心が解放され、心地良いコミュニケーションが自然と発生していく手法・方法・システム」と共創拠点で定義されている。「社会的処方」は、人と人のつながりや地域資源の活用によって、健康やウェルビーイングを地域や社会ぐるみで高めようとする取り組み。

※2 共創分野は、大学等を中心とした、国レベル・グローバルレベルの社会課題を捉えた未来のありたい社会像の実現を目指す、国際的な水準の自立的・持続的な産学官共創拠点の形成に取り組む研究開発分野のこと。育成型と本格型が設定されており、委託費や実施期間が異なる。

参照:

対面ワークショップ/オンラインワークボードの様子

問題解決までのアプローチ

社会課題の解決を目指して多様なメンバーが集まり、具体的な活動を進めようとすると、「何を問題と捉えるか」「どのような解決を目指すのか」で混乱や議論が生じます。孤独・孤立も社会的に認知されている課題に限らず、文化的処方の見地から見た孤独・孤立や、将来生まれ得る新しい孤独・孤立に議論を広げていく必要があります。そうした際に、ビジョン策定の対話を通じて、組織として大事にする価値観や判断軸をメンバー全員が共通認識し、それぞれの立場から可能性を感じる未来への見通しを得ていくことが重要になります。そのため、コンセントは本プロジェクトにおいて、社会や自分たちのあるべき姿を一緒に考え、視野を広げ未来視点をもって対話するプロセスと場の設計を行いました。

ワークショップの全体像を表す図。

第1回では孤独・孤立の課題を現在と未来視点で捉え直し、第2回では課題が解決された理想の未来像を思い描いた。そして、第3回では未来像から逆算をし、拠点のあるべき姿を考えた。

レポートの表紙。タイトルは「ビジョンづくりワークショップ」。
「ビジョン」を説明するページ。『私たちは、多様な価値観を認め合う「アート」によって助ける、助けられるの二元論を超えた「緩やかなつながり」を実現し、一人ひとりが「ときめき」を感じながら生きることができる「苗床」をつくる。』。
ワークショップで捉えた「孤独・孤立の全体像」を説明するレポートのページ。
潜在的な課題とその当事者像を説明するレポートのページ。

対話結果のレポート。ビジョンステートメントだけでなく、参加者全員で「孤独・孤立」や「アート」を捉え直したことで気付いた新たな可能性などもまとめている。

クリエイティブのポイント

メンバー全員がそれぞれの立場から可能性を感じる共通の向かうべきゴールを得るために、「自分ごと化」と「試行」を重視したプロセスを設計しました。

まず「自分ごと化」のために、各自が関心をもつ孤独・孤立のトピックを収集し、課題感を共有しました。

ワーク時のオンラインワークボード。

各自の課題感を共有し、ワークで課題を原因と影響に分解していく

そして、参加者がもちこんだ現状の課題が将来的にどのように変化するのかを、世の中のさまざまな出来事や概念(「変化の兆し」と呼んでいる)の延長線上で捉え直すワークを実施しました。このように、それぞれの課題感を起点にしつつも、可能性の幅を広げて現状の課題認識の枠組みにとらわれない観点を得ることができました。

変化の兆しについて説明するレポートのページ
オンラインワークボードのキャプチャ。

現状の課題認識に「変化の兆し」を代入し、既存の価値観を超えて孤独・孤立を捉え直す。

各自の課題感から可能性を探索した後は、共通の向かうべきゴールを話し合うために、具体的なアイデアを考えてみる「試行」を実施しました。ビジョンという抽象的な理想を議論するからこそ、具体的に課題を抱える生活者をイメージし、解決策を考えてみることで、ただの理想論で終わらせない議論を行うことができます。

オンラインワークボードのキャプチャ。
オンラインワークボードのキャプチャ。

具体的な生活者像から解決策を全員で検討。他メンバーの考えをインプットに発想を広げる。

最終的なレポートでは、対話やワークショップの過程をまとめるだけではなく、議論の全体像を踏まえたファシリテーター側の気付きからも価値を抽出し、整理しました。

例えば、文化的処方の定義にある「緩やかなつながり」というキーワードは、多くのメンバーから語られた本拠点の活動で実現したい「適切な介入のバランス」を模索する観点でした。この観点一つ取っても、「孤独・孤立という状態が必ずしも個人にとって問題ではない」「本人任せでも、過干渉でもない生活文脈での支援」「助ける・助けられるではないフラットな関係性」など、さまざまな議論の結果から抽出されています。こうした個別の発言から観点までをさかのぼれるように分析結果を整理し、対話結果から今後の活動の軸をまとめたレポートを編集していきました。

オンラインワークボードのキャプチャ。

観点を先に決めるのではなく、個別の発言からグループをつくり、観点を検討していく。

オンラインワークショップに慣れない参加者に対しては、操作ガイドの配布や事前の説明会を開催しました。また、オンラインのグループディスカッションでは会話を重ねることが難しいため、細かな気付きをメモしてもらうエリアを常に用意し、参加者が発言しやすい工夫をしました。

Miroの操作ガイドと事前説明会で使用したボード

各ワークボードの下部に気付きを自由にメモできる青い付箋を用意。

[ プロジェクト概要 ]

クライアント名 東京藝術大学 様

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