子どもたちの「はじまりの書」、教科書のデザイン

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  • 橋本 愛プロデューサー/コンテンツディレクター

創業から45年以上の長きにわたり百科事典や教科書をデザインしてきた、私たちコンセント。「教科書のデザインをしたくて入社しました」と話すデザイナーもいるくらい、もはやお家芸と言ってもいい(かもしれない)ほどの経験と、デザインへの思いがあります。ふり返れば、国語、算数、理科、生活、社会、英語、体育、などなど、デザインした教科は数知れず。小学校、中学校、高校と、さまざまな発達段階にいる子どもたちの学びと、正面から向き合ってきました。

そんな私たちがふだん大切にしていることを、7つのポイントに分けてご紹介したいと思います。

1. なんといっても「設計」が命

子どもたちが世の中のモノゴトに初めて出会う「はじまりの書」ですから、わかりやすく、迷わず、誤解を与えず、そしてワクワク楽しく学べるものであってほしいですよね。教科書は大人たちから次世代へのプレゼントとも言えます。

そのため、言葉と写真をどのように配置するかの基本設計(フォーマットデザイン)が非常に重要。

例えば、ある現象を本文で説明している場所の近くに解説写真を配置してあげたいですし、補足情報を示したグラフも同じく近くに配置してあげたい。学びをサポートするかわいいキャラクターも登場させたいし、学習のヒントをアイコンを使って示したくもなるでしょう。しかし、あれもこれもと欲ばるとゴチャゴチャしてしまって読みにくいので、全体ではすっきりと美しいページにしたい。この場合、「たくさん載せたい」「すっきり見せたい」「楽しい印象を与えたい」「わかりやすくしたい」などの矛盾する意図が絡み合っているわけですが、これらを両立できるように試行錯誤を重ねながらデザインしていきます。

2. 「学習指導要領」を読む

日本には、文部科学省が数年に1度改定している「学習指導要領」があります。国がどのように教育を考えているのかを知ることは、教科書をデザインする上でも重要です。指導要領で目指すものが、デザインの観点からでも表現できるかもしれません。デザイナーだからこそ気づく視点をクライアント編集部にお伝えするようにしています。もちろん教育の専門家ではないので、提案が的外れなこともあると思います。けれど、それが「違うのだ」という共通の認識をもてることが重要で、対話を重ねることで私たち自身も理解が深まり、次はもっとよい提案をすることができると考えています。

たとえば、子どもたちが主体的に学べるようにナビゲーションや学習のポイントを強調することや、対話をしてほしい場面に子どもたちが対話しているイメージを挿入することが考えられます。

出典:文部科学省 新学習指導要領(平成29年3月公示)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1383986.htm

3. 使うのは子どもと先生

「子どもたちに使いやすく!」「子どもたちにわかりやすく!」と毎日唱えてデザインしていても、教科書のユーザーはそれだけではなく奥が深いものです。子どもに理解されるのはもちろんのこと、より広い方たちに理解されることを意識する必要があります。

多忙な先生たちが教科書の使い方で迷わないように「支援する側の視点」も意識したデザインが求められますし、さらに、「この教科書を使うとどのようなチカラをのばすことができるのか」が社会に伝わる教科書にすることも意識していきます。

子どもたちのより良い学びに貢献できるように、子どもにも先生にも使いやすいデザインを意識します。

4. CUD(カラーユニバーサルデザイン)

クラスにいるかもしれない色覚特性の子どもたち。学習の妨げにならないように、色覚特性4パターンのどの見え方でも混乱しないような色彩設計を行う必要があります。私たちがデザインした教科書で、子どもの理解を防げるようなことがあってはなりません。表やグラフのデザインは、色だけで区別できるような配色になるように、編集部の方たちと検討を重ねています。

色の見え方には一般色覚(C型)の他にP型・D型・T型・A型の4つの色覚型があります。赤が黒に見えるなど、それぞれの型によって色の感じ方が異なるため、どの型でも区別がつくように色彩設計は微細な調整を繰り返して決めていきます。

出典:NPO法人 カラーユニバーサルデザイン機構 色覚型と特徴
http://www2.cudo.jp/wp/?page_id=540

5. UDフォントの使用が広がる

視認性の高いUDフォントが、教科書の組版においても注目されるようになっています。特に教科書は一般書籍と異なり、学習していない漢字にルビをふるという特性があります。一般的にルビの級数(文字の大きさの単位)は本文の半分ですから、どうしても小さな文字になります。読みにくい濁点・半濁点、判別しにくい字形など、UDフォントはわかりやすい教科書をデザインする上で必須のツールになっています。

UDフォントの工夫の一例。以前はUDフォントの種類が少なかったのですが、最近はフォントの種類が増えてデザインの幅も広がっています。

出典:イワタUDフォント
http://www.iwatafont.co.jp/ud/index.html

6. アクセシビリティへの配慮

視線を大きく移動させたり、文章と写真などを対応して見ることが苦手な子どもたちにも、極力使いやすいようなデザイン設計をします。

例えば、アイコンをつけて目立たせたり、視線で追ってほしい順番を明確にしたり、見開きページごとの「ねらい」を明確にするなど、学習のねらいと齟齬のないことを確認しながらメリハリをつけます。これらはアクセシビリティのデザインという側面もありますが、誰もが使いやすくなるという点ではユニバーサルデザインでもあります。

プロセスを示す図では、「順番に番号をふること」と「矢印でつなぐこと」を両方行うことで、極力迷わないような示し方をしているという一例。

7. 数年にわたる!? ワークフロー

教科書のデザイン制作は、教科書検定や見本本の作成があるため、実際に使い始めるまで数年間にわたっての特別なワークフローの構築が求められます。長期間のワークフローに耐えられるアプリケーションの選定や、データの扱い方、環境の維持など、プロジェクト管理もしっかり行う必要があります。手慣れたアプリケーションのバージョンで制作してしまうと、数年後にはレガシーすぎる環境になってしまって困ることも…?

また、世の中に流通するまで数年かかるということで、子どものいるパパデザイナーやママデザイナーが自分の子どもの年齢から逆算し、立候補してプロジェクトに加わることも多々あります。自分の子どものためにデザインするなんて、素敵だなと思います。実際、そんな幸運なデザイナーもいまして、「あなたが使っている教科書はお母さんがデザインしたんだよ!」という会話が(おそらく)なされたようです。

多様化、高度化、成熟化していく社会に、子どもたちはどのような学びをしていくのか。世の中の動きにも気を配りながら、デザインの専門家として、社会の一員として、そして1人の大人として、私たちは真摯にデザインをしていきたいと思います。

[ 執筆者 ]

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