感謝の気持ちを伝えるしくみ 無料カフェ『Cafe amu-Hico』開催レポート

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    佐藤 史サービスデザイナー

クリエイティブイメージ:無料ですごせる、はたらける、恵比寿の一日喫茶。Cafe amu-Hico 。こんなカフェを作りたい。誰でも店員になれて、きちんとお手伝いできるカフェ

こんにちは。サービスデザイナーの佐藤史です。
去る2018年6月9日、私は、コンセントが運営する恵比寿のコミュニケーションスペース「amu」で実施した1日限定の無料カフェイベント「Cafe amu-Hico」に運営スタッフとして参加しました。

この『Cafe amu-Hico』は、渋谷や三軒茶屋に展開する人気カフェ Cafe Mame-Hicoさんのバックアップのもと企画されたイベントです。当日は、飲食業の経験有無を問わず、公募で集まった世代も職業もさまざまな20名の皆様にボランティアスタッフとしてカフェの運営や接客を担当していただきました。他にも、おいしいアイスコーヒーづくりのワークショップや、Cafe Mame-Hicoのオーナーである井川啓央さんを囲んでのトークイベントも併せて開催。最終的には約150名もの方々が来場されました。

写真:無料カフェのレイアウト

“無料カフェ”と謳っていますので、コーヒーやお菓子などはすべて無料です。しかし、出口に『心づけ』と書いた箱を設置し、お金を払いたいと思ったお客さんには好きな金額を入れていただくようにしました(強制はしません)。神社で見かける“投げ銭”と同じ仕組みです。

驚いたことに、イベントが終わってみると、無料カフェにもかかわらず、心づけと書かれた箱には数万円の金額が集まりました。来場者が約150人ですから、一般的なカフェの売上には及びませんが、予想外の心づけをいただく結果になりました。

もちろん、コーヒーがおいしかったということもあるでしょうが、当日は特別にコーヒー好きなお客さんばかりが集まったわけではありません。近所を散歩していてたまたま休める場所を探してふらっと立ち寄っていただいた方も、かなりの数いらっしゃったのです。

ですので、これだけの心づけが集まった理由については、他に何かがあったのでは?と思い、当日のスタッフとして感じたことを書いてみたいと思います。

写真:出口に設置した『心づけ』と書いた箱

予想外の嬉しさが、心づけを払う動機に

まずこの”無料カフェ”、来場されたお客さんにとって、いろいろと予想外の嬉しさを感じさせる場面が多かったことが、心づけを払う動機になったようです。

例えば、先に述べた通りスタッフの半数以上は飲食業未経験です。ただ、そんなスタッフによる初々しい対応、誤解を恐れずに言えば「完璧なプロの接客ではない、ちょっと助けてあげなきゃという隙がある雰囲気」が、たまたま訪れたお客さんに店員との楽しい会話を促すきっかけとなりました(当日夜のトークイベントで、井川さんはこれを「良い意味でのおせっかい」と表現されていました)。

写真:準備をするスタッフ

その他にも、スタッフが自分で用意したお花やアクセサリーを室内の飾り付けに用いました。このように、「たまたま、そこにあったので」というおもてなしも、何気なく訪れたお客様にとっては思わぬ驚きであり、予想外の嬉しさだったと思います。

写真:スタッフが用意した室内の飾り

このような思いがけない会話やおもてなしのひとつひとつが、お客さんにとっては「せっかく親切にしてもらったので何かしてあげなきゃ...」という気持ちを自然と促したようです。

お客さんは「お金を払いたい」のではない?

また、当日いらっしゃったお客さんの多くは、そもそもお店でコーヒー代を払うのと同じような感覚で、心づけを残したわけではないと思います。感謝の気持ちを言葉や表情だけではなく、何かしらの“対価”で示したくなり、その形がたまたまお金だった(お金しかなかった)のではないでしょうか?

そして今回のカフェのように、感謝の気持ちを表す「対価の形」は、別にお金でなくても良いのでは?むしろお金以外の「何か」が必要なのでは?とも感じました。

スタッフと会話を楽しめたこと、たまたまそこにお花が飾ってあったこと。結果から言えば、これらは単なる予想外の出来事=偶然にすぎません。ただ、そこに「お金」が介入してくると、「払うんだから、このくらいはしてもらって当然だろう」「高いんだから、きっと美味しいはず」という期待が事前に生じがちです。その結果、予想外の出来事が起きたとき、それを許容して積極的に楽むことができなくなる場合があると思うのです。当然、サービスを提供する側にも「この程度はやらなくちゃ...」という気負いや気遣いが生まれる...。

例えば、あなたが好意で隣に住む人のちょっとした困りごと(買い物の荷物を運ぶ・子守を替わってあげる等)を助けてあげたとき、事前に「謝礼をXXX円払います」と言われると、あなたの心の中で「何か」が変わってくると思いませんか?

とはいえ、全くお金(対価)を介さない場合はどうでしょうか。御礼の言葉だけだと何か物足りない。とはいえ、一期一会かもしれない人にあまり過剰なことをするのも違和感がある。だから、お金以外の何かが必要になってくる...。

これは、カフェの運営に限った話ではありません。誰もが気軽に集まれる“場”づくり、たとえば地域の公民館や図書館のような場面でも、このお金以外の何かが、訪れる側・もてなす側両方にとって必要になっているような気がするのです。

写真:お客さんの入ったカフェの様子

場づくりのために、新しい対価のしくみが必要

最近ですと、例えば仮想通貨というしくみも注目されています。しかし、本当に大切なことは、通貨の代替物を流通させることではなく、感謝の気持ちをカタチにしたいときの最適な手段は何か?を考えること。つまり、お金以外の「何か」をデザインするだと私は考えています。

最後に。
当日のトークセッションでは、井川さんが話された内容をその場で図示する役割も担当しました。(下の写真参照)

写真

井川さんを囲んでのトークセッションの様子

Cafe Mame-Hicoのサービスのしくみの図解

Cafe Mame-Hicoのサービスのしくみを図解化してみました。

本稿で書いた内容については、セッションの際、井川さんがお話しされていたことから大きな示唆をいただいております。この場を借りて、厚くお礼申し上げます。

また、当日スタッフとしてご協力いただいた皆さま、ありがとうございました。また、このようなイベントでご一緒できる機会を楽しみにしております。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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