日本語ならではのアクセシビリティ

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  • 小林 大輔サイボウズ株式会社 アクセシビリティエキスパート

  • 伊敷 政英Cocktailz代表

  • 青木 秀仁Shamrock Records株式会社 代表取締役/一般社団法人Code for Nerima 代表理事/イベントスペースNerima Base 管理人

  • 佐野 実生株式会社コンセント デザイナー/ディレクター

図:「読みやすいデザインの書体とは?」という文字のUDデジタル教科書体と游教科書体での見え方比較

こんにちは。デザイナー/ディレクターの佐野です。

海外では、アクセシビリティに関連するさまざまなカンファレンスが開催されています。私たちも毎年海外カンファレンスに参加し、トレンドを吸収・発信してきました。
アクセシビリティの動向について海外と日本を比較する際、どうしても法規制の有無が挙げられがちです。しかし「日本語」のもつ特徴に目を向けてみると、日本ならではの強みや海外との共通点が見えてきました。
今回は『日本語ならではのアクセシビリティ』という観点から、点字、ロービジョンユーザー向けノート、音声認識技術、UD書体についてご紹介します。 サイボウズ株式会社 プログラマーの小林大輔氏、Cocktailz 代表の伊敷政英氏、シャムロック・レコード株式会社 代表取締役の青木秀仁氏、そして私コンセントの佐野の4人でそれぞれのトピックをお届けします。

意外と知らない!?「点字」って何?

サイボウズの小林です。「点字」は、平面から盛り上がった点の組み合わせによって表現される文字です。主に視覚障害者の方、および視覚障害者とコミュニケーションをとる方が読み書きに使用しています。

注意深く観察してみると、身の回りにはたくさんの点字があります。飲み物や調味料のふたには、点字がついたものがたくさんあります。家電のスイッチなどにも点字がつけられているものがあります。建物のトイレやエレベータのスイッチ、駅の案内板やホームドアなどにも、点字がつけられています。

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エレベータのスイッチにつけられた点字

日本の点字と英語の点字の違い

もともと日本の点字は、英語の点字を参考にして、1890年に策定されました。このため日本の点字には、もとになった英語の点字との間に多くの共通点があります。基本的なところでは、両者とも横2点縦3点の6点の点字を使っていますし、数字の表し方なども一緒です。
しかし、日本語としての制約から、日本の点字には英語の点字には見られないいくつかの特徴があります。

文字数に対応する

1つ目は文字数についてです。英語は26文字のアルファベットを使ってすべての語彙を表現することができます。大文字を考慮したとしても52通りの文字しかありません。6点の組み合わせは2^6=64通りあるため、点字を使って、すべてのアルファベットを表現することができます。これに対して、日本語の文字には、ひらがな・カタカナ・漢字などがあり、常用漢字に絞ったとしても2000以上の文字があります。6点ではすべての文字を表現できません。

このため、日本の点字では、漢字を使用しません*。また、ひらがな・カタカナの別はなく、ひらがな(カタカナ)46文字を点字に置き換えて表現しています。

*8点を使って漢字を表現する「漢点字」もありますが、6点の点字ほど普及していません。

6点の使い方にも日本語ならではの工夫があります。6点を2分割して、それぞれに母音と子音の役割をもたせているのです。ヤ行・ラ行など一部の例外を除いて、基本的には、上部の3点が母音、下部の3点が子音を表しています。

図:ア行・カ行・サ行の点字。

単語の切れ目を表現する

日本語を漢字を使わずに表現した場合、大きな問題が生じます。英語は、空白を使うことで、単語と単語の区切りを表現することができます。日本語には句読点はあるものの、それ以外に単語の区切りを表現する記号がありません。この問題を解決するための一つの工夫として、日本語では漢字を使うことで、意味を理解することを補助します。しかし、ひらがなだけで表現してしまうと、正確な意味が理解しづらかったり、理解できない文章ができてしまいます。

以下の文章は、正しい意味を理解するのに時間がかかります:
「にわにわにわにわとりがいる」

以下の文章は、2通りの意味に解釈できてしまいます:
「わたしはいしゃになりたい」

この問題を解消するため、日本の点字では、適度な区切れ目で空白を挿入する「分かち書き」を行います。基本的に分かち書きは文節単位で行われますが、複合語や固有名詞、拍数などによって、空白を挿入するかどうかを決定する細かいルールがあります。

発音で表す

文字数の問題、単語の区切れの問題のほかに、日本の点字には英語の点字には見られないもう一つの特徴があります。それは、ひらがな(カタカナ)46文字をそのまま点字として表現するのではなく、発音を点字で表現することです。

典型的なのは助詞の「は」です。日本語の点字では、助詞の「は」は本来の発音にしたがって「わ」の点字として表現されます。また、ウ段・オ段に続く「ウ」は長音の点字で表現します。これは人名や会社名などの固有名詞であっても変換されます。

例:
「サイボウズ」 → 「サイボーズ」

例:
「私は点字を勉強します」 → 「ワタシワ テンジヲ ベンキョー シマス」

日本の点字を勉強してみませんか?

私自身は、自分の会社に全盲の社員が入社することがきっかけで点字を勉強しはじめました。会社内のお知らせや案内板に点字を貼ったり、大切な書面でのお知らせを点字で書いてみたり、点字によってコミュニケーションの幅を広げることができました。
上記でお伝えした通り、日本の点字には、英語の点字と異なる独自の特徴があり、点字を勉強することで、日本語自体の特徴を再発見することにもつながると思います。みなさんも、点字を勉強してみませんか?

ロービジョンの子にも使いやすいノート「KIMINOTE」

Cocktailz(カクテルズ)代表の伊敷です。僕は2014年から、「KIMINOTE(きみのて)」という小・中学生向けのノートをつくっています。これは、ロービジョン(弱視)の子どもにも使いやすくて、デザインもかわいい・かっこいいノートです。

現在は3種類のマス目入り、タテ書き、ヨコ書きのノートがあり、表紙のバリエーションも増えてきました。

開発のきっかけは、当時小学校1年生だったロービジョンの女の子の素朴な気持ちを聞いたことでした。

「もっとかわいいノートを使いたい」

それまで彼女が使っていたノートは、罫線が太くて読み書きはしやすいものの、表紙はグレー1色で背表紙には黒いクロスがまかれている、といういかにもシンプルなものでした。
僕自身もロービジョンで、中学・高校時代を盲学校で過ごしてきましたが、ロービジョンの人が使えるノートというのは、僕が中学生だった30年前から何も変わっておらず、選択肢もごくわずかに限られていました。
彼女のお母さんから「ロービジョンの子も使えてかわいいノートってないかな」と雑談程度に相談を受け、気になって探したものの見つからない。

既存のノートでいいものがないなら、つくってみよう。
ということで、半ば思いつきと勢いで開発をスタートしました。

ロービジョンの人の見え方は個人差が大きく、どのくらいの罫線にすれば多くの人に使いやすくなるか僕一人では決められません。そこで試作品を60種類作って、きっかけをくれた女の子にダジャレを書いてもらいテストしました。
また表紙にはかわいいイラストやかっこいい写真を載せました。イラストレーターさんには「ロービジョンの子がかわいいと感じるためには、まず何が描かれているか見てわかることが大切なので、輪郭線をはっきり描いてほしい」とリクエストしました。そして写真はJAXAから、小惑星探査機「はやぶさ」の写真をお借りしたのですが、こちらは僕が実際に写真を見て選別しました。

写真:イラストレーターさんにイラストを描いてもらった、3パターンのかわいい表紙。それぞれ、パティシエールの女の子、草むらのうさぎ、ロケットや惑星のうかぶ空を背景に雲の上を跳びはねる羊。

さらに、KIMINOTEはノートの角を丸くしています。
ロービジョンの人は本やノートを読む際、目をかなり近づけます。このとき、ノートの角が目に入ってしまうことがあり、とても痛いです。僕自身、子どものころにノートの角が目に入って翌日学校を休んだことがあります。
そこで、KIMINOTEの角を丸くして、目のけがを防止しようと考えました。

このように試行錯誤の末に完成したKIMINOTE。
ロービジョンの子からは「線が見やすくて書きやすい」「表紙の羊がかわいい」といったうれしい感想をいただいています。

写真:左はマス目、右はタテ書きのKIMINOTE。それぞれ見開きで置かれ、はっきりと引かれた罫線の見えやすさや、角の丸いといった特徴がうかがえる。

また特別支援学級の先生からは「これはロービジョンの子だけじゃなく発達障害や学習障害のあるお子さんにも使いやすいかも」とコメントをいただいています。
2019年7月には発達障害や学習障害、ディスレクシアなどのお子さんの学習支援を行っているNPOの交流会にお邪魔して、子どもたちにKIMINOTEを使ってもらいました。
もともと書くことが苦手な子もいるためノートに書いてくれるか不安でしたが、子どもたちからは「字のバランスがとりやすい」「いつものノートより線がはっきりしていて、どこに書くかわかりやすい」といった感想をいただきました。

KIMINOTEによって、いろいろな障害のある子の学習やコミュニケーションによりそい、子どもたちが自分のことを伝えるための言葉をもてるように応援していきたいと思います。

ノートを開く、世界を拓く、KIMINOTEで。

音声認識技術を活用したアプリ「UDトーク」

シャムロック・レコード代表の青木です。「UDトーク」というリアルタイム字幕を提供するアプリの開発をしています。UDトークは音声認識の技術を活用して聴覚障害者とのコミュニケーションを、自動翻訳の技術を活用して外国人のとコミュニケーションを、そして議事録の作成や音声からの文字起こしを可能にするスマートフォンのアプリです。

UDトークは講演などでリアルタイム字幕を表示することができます。この字幕は主に聴覚障害の方が利用しますが、もちろん聞き逃したり聞いただけでは文字が分からないときに確認することができるので聴覚障害のない方にもとても便利です。現在、いろいろなイベントでUDトークによるリアルタイム字幕が採用され聴覚情報をサポートする視覚情報として提供されています。

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2019年6月1日に開催されたセミナーイベント「CSS Nite LP62」の会場風景

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2019年11月20日に開催されたイベント「#a11yTO Conference Recap Meetup」の会場風景

こうした講演をサポートする字幕は以前からありました。ただ、いくつかの問題点があります。日本語は「ひらがな、カタカナ、漢字」が混在するとても複雑な言語です。かつ、アルファベットも使用するので通常は英語と日本語のキーボードを使い分けます。漢字の読み方は文脈に依存し「かな漢字変換」という作業をしなければいけません。

英語圏ではキャプショナーと呼ばれる人たちが手打ちでリアルタイム字幕を作成します。26文字のアルファベットしかない英語とは違い、日本語に関しては特殊な訓練を受けた人が専用のキーボード等を使用しないかぎりリアルタイムにタイピングをすることが難しく、字幕を提供できたとしても表示のされ方にムラがあります。

なので福祉のサポートで提供する字幕はしかたなく要約したものであり、かつテレビの生放送の字幕でさえ要約したものである(もしくはスキップする)ことが多いです。一般的には聴覚障害者への情報保障としての字幕は約10%くらいに要約したものを、パソコンでのタイピングや手書きで見せており、人によっては十分な情報量とはいえません。字幕利用者は情報を全文で受け取る選択ができず、要約された記録をもらうことさえできないのがこれまでの現状でした。

音声認識技術を活用すると、この複雑な仕組みをもつ日本語という言語でもムラなくほぼリアルタイムで字幕を提供することが可能となります。世界的に見ても、音声認識技術はスマートスピーカーへのコマンド入力や短文を作成するために使う用途がメインです。音声認識技術を、こうしたリアルタイム字幕の作成に用いるのはおそらく日本特有なのではないかと思います。

かつ日本語は「いくつかの文字を直せば意味が変わる」という特徴をもっています。例えば「わかります」「わかりません」の場合、末尾の1、2文字で意味が変わります。英語ではこうはいきません。UDトークは誤認識の箇所を同時に複数人で修正していくことができます。これで字幕として対応ができるのも日本語の大きな特徴です。日本語がそもそも音声認識技術を活用した字幕に向いていると言えるでしょう。

現在、UDトークはさまざまな企業や組織や教育機関に導入され活用されています。かつ無料アプリとして配信されているので多くの一般の方が音声認識技術を会話のサポートや文字起こしのツールとして活用しています。

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スマートフォン画面で見たアプリ「UDトーク」

さらにUDトークの自動翻訳技術で多言語字幕を提供することができます。いま日本にはたくさんの外国の方たちが働いています。そこには必ずコミュニケーションの課題があり、語学の習得と並行してテクノロジーを活用していくことを多文化共生の一つの解決策として提案しています。

こうしたテクノロジーの進歩と活用により、聴覚障害者や外国人とのコミュニケーション方法や生活面でのサポートは変わりつつあります。

読みやすい「UD書体」とは?

コンセントの佐野です。最後はUD書体についてご紹介したいと思います。

UD書体とはユニバーサルデザイン(Universal Design)に対応した書体のことです。読み間違えにくく、視認性、可読性を重視してつくられた書体を指します。老眼、発達障害、ディスレクシア*の人、さらには外国人にとっても読みやすいとされています。日本の代表的なフォントベンダーには必ずUD書体のラインナップがあります。小さい文字で書かれた説明書や成分表、遠くの標識や案内板など、正確に情報を伝えるべき場面での使用に適しています。

*ディスレクシアとは、知的能力や理解能力に異常はないが、文字の読み書きに著しい困難を抱える障害のこと。失読症、難読症、識字障害などとも呼ばれる。

教育現場でもUD書体への注目が高まっています。教科書のデザインでは、CUD(カラーユニバーサルデザイン)を考慮した色彩設計はもちろん、学習障害のある子どもにも読みやすいUD書体の使用は必須になっています。

例えば、2019年4月にtwitterから話題になった「UDデジタル教科書体」もUD書体です。「教科書体」とは「学参書体」のひとつで、文部科学省の小学校学習指導要領の別表「学年別漢字配当表」に示された漢字の字体に準拠しており、「はね」などの文字の形や筆順を学ぶのに適しているのが特徴です。
しかし一方で、ロービジョンの生徒には強弱のついた細い部分が見えにくかったり、学習障害のある生徒には「はね」などの要素がノイズになって読みづらいという問題がありました。
「UDデジタル教科書体」は、学参書体の特徴を保ちながら、太さの強弱を抑えることでこれらの問題を解決している点で話題になりました。ちなみに、この書体は2017年10月からWindowsに標準搭載されています。

図:「読みやすいデザインの書体とは?」という文字の見え方比較

UDデジタル教科書体と游教科書体の比較

参考記事:子どもたちの「はじまりの書」、教科書のデザイン

読みやすい欧米書体とUD書体の共通点

欧文書体には「UD書体」のような明確な種類は存在しないようです。しかし、UD書体と同じく「さまざまに人にとって読みやすい、アクセシビリティ向上に適した書体」はいくつもあります。
読みやすい書体として、以下の特徴が挙げられます。どれも和文書体・欧文書体ともに共通したものです。

似た形の文字同士を区別しやすい

「3」と「8」、「I」(大文字のアイ)と「l」(小文字のエル)、「い」と「り」などが、読み間違えにくい形に設計されています。UD書体では、「ブ」と「プ」などの濁点・半濁点も大きめです。欧文書体では、シャルル・ド・ゴール空港のサイン用につくられた「Frutiger」が代表的です。遠くからでも読みやすく、日本でも東京メトロやJR東日本などのサインで使用されています。CやSの巻き込みが少ないので0や8と間違えにくく、判読性が高いです。

小さいサイズでも読みやすい

和文ならふところ、欧文ならカウンターを広く設計することで、小さいサイズでも潰れにくく、読みやすくなります。案内板など遠くから見る場合はもちろん、小さい文字の印刷物やモバイルデバイスに表示された場合など、さまざまな環境での読みやすさを担保できます。イギリスの公共放送局BBCのオリジナル書体「BBC Reith」は、多様なデジタルデバイスで表示されることを考慮して2017年に開発されました。

図:欧文は「Universal Design SCO 38 aeo」という文字、和文は「読みやすいデザインの書体とは? いり パバ S3a」という文字の見え方比較

FrutigerとHelvetica、UD新ゴと新ゴの比較

日本語ならではのUD書体の工夫

日本のUD書体ならではの特徴は、漢字とかなの存在と、その組み方にあります。常用漢字だけでも2,136文字ある漢字を、統一された設計で展開しなければなりません。さらに先述の学参書体のように、「はね」や「とめ」などのディティールを、読みやすさを考慮しつつ表現する必要があります。欧文書体でいうところのセリフも要素としては似ていますが、漢字の方がより細かく、数も多いです。
また、日本語は漢字、ひらがな、カタカナ、時には数字、アルファベットも混ぜて表記されます。通常、漢字よりもかなのサイズが若干小さく設計されており、文章として組んだ際に読みやすいとされています。このように複数の種類の文字を混ぜて文章を組んだ際のバランスと可読性を考慮した設計は、日本独自の工夫といえます。

欧米との共通点と、日本語ならではの難しさ

点字、ロービジョンユーザー向けノート、音声認識技術、UD書体という4つのトピックをお届しました。どのトピックも、日本語ならではの対応の難しさと同時に、日本語だからこその強みもあるという点が興味深いです。海外と日本を比較してみると、アクセシビリティの根本的な考え方は万国共通ということを実感すると同時に、言語や文化による違いに気付かされます。今回はご紹介しませんでしたが、手話も点字と同じように各国ごとに違いがあります。やはり言語やそれに伴う表現というものは、その国の文化と密接な関係にあるからだと思います。同じアクセシビリティ対応でも、さまざまな国の文化から生まれるユニークな工夫を吸収して、日本のアクセシビリティの中にも活かしていきたいです。

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