アートが投げかける技術への問い

アルスエレクトロニカ・フェスティバル2019 参加レポート

  • 岡本 拓サービスデザイナー

写真:たくさんの人で賑わうフェスティバルの様子

Impression of POSTCITY / Photo by Ars Electronica / Credit: Tom Mesic

こんにちは、サービスデザイナーの岡本拓です。2019年9月、オーストリア第三の都市・リンツで開催された世界最大級のメディアアートイベント「アルスエレクトロニカ・フェスティバル2019」に参加しました。その感想や学びを共有したいと思います。

アートから覗く、テクノロジーの今

サービスデザイナーとして活動している私は、最近こんなプロジェクトを実施する機会がありました。

「未来のサービスを考えてほしい」

未来の人や社会をどうやって想像すればいいのだろうか? 私は、分からない事象を問い続ける「スペキュラティブデザイン」分野に着目し、そのヒントを得るべく世界最大級のメディアアートイベントであるこのフェスティバルに参加することを決めました。

写真:展示作品。遠くを見つめる人型ロボット

SEER: Simulative Emotional Expression Robot / Takayuki Todo (JP) / Photo by: Ars Electronica / Credit: Martin Hieslmair

全体が見えない混沌さ

参加して感じたのは、その内容の膨大さでした。当初は全体で行われる5日間のフェスティバルのうちの3日のみを見て回るつもりが、あまりの情報の多さに延泊を重ね、気がつくと5日間が過ぎていました。それでも全体像を理解することは難しく、いくつかの重要なパフォーマンスは見逃した後に、その存在を人づてに聞いて気づくことも多かったです。

混沌を感じた理由は、会場が広すぎたり、地理的に分散していることだけではありません。いくつものテーマ展示、子ども向けイベント、ハッカソン、フリーマーケット、トークショー、ワークショップ、デモ(!)等、一言で片づけられないさまざまな事柄が同時進行していました。そのことが「このイベントが何であるか」の認識を難しくさせていました。

写真:フェスティバル会場内でデモをする人々の様子

Fridays for Future Shutdown @ POSTCITY / Photo by Ars Electronica / Credit: Tom Mesic

普段絶対に出会わないようなアーティスト、技術者、キュレーター、研究者、大学生のような方たちと出会うことができ、彼ら彼女らとの会話はとても刺激的でした。私は「あなたの好きな作品は何?」と同じ質問を繰り返しながらも、1つとして同じ回答が返ってこないところにフェスティバルの豊かさを感じていました。

写真:フェスティバル会場のひとつである、教会に参加者が集まっている様子

「Out of the Box:デジタル革命が迎える中の危機」について

今年のテーマは Out of the Box(既成概念を超える)。AIなどの技術革新の真っ只中に、私たちはどこに向かっているのか? ヨーロッパ的なデジタル社会に対しての回答は何なのか? IT資本主義とデータの管理する独裁的な社会に我々はどのように立ち向かうのか? など、技術に対する疑問を共通認識としてさまざまな企画が展開されていました。

Deep Space 8K

いくつか気になった作品を紹介します。この作品は壁と床に8Kの3D映像を投影するイマーシブな作品。部屋に通されると、そこには壁から床にかけて広がるテキスタイルの画像が。その後3Dメガネを渡されると、壁や床にさまざまなプログラムが紹介されます。オプ・アートのような幾何学模様が浮遊する映像では、鑑賞者が思わず手を伸ばして触ってしまうような素振りを見せたり、人体を3Dスキャンした作品では、モデレーターが操作することで人体の構造をレイヤーごとに見せてくれます。イームズのパワーズ・オブ・テンを思わせるような、地上から宇宙に至るまでを写す作品では、星座の中を通る体験ができ、3D映像を見ることで今までに感じているものを、別の角度で体験することができました。

写真:巨大なスクリーンに映し出される映像作品を、地面に座って見ている参加者たち

Uniview 8K / Photo by Ars Electronica / Credit: Tom Mesic

人間×サメ

長谷川 愛氏によるこの作品は、メスザメの発するホルモンを模した薬を作成し、人間がそのホルモンが含まれた香水をつけオスザメのいる水槽に入ることで、オスザメを魅了するというもの。オスザメたちは攻撃するのではなく、パフォーマーをメスザメと勘違いし戯れていきます。さまざまな性交方法、繁殖方法をもつサメを通じて、愛の限界は何かを問います。

写真:メスザメのホルモンをまとったパフォーマーに、たくさんのオスザメが集まる様子

唇を読む

「人間性を超える」というテーマの作品群において、非人間とどのようにコミュニケーションをとるかをテーマにした作品が散見されました。植物とのコミュニケーションは? もし植物と会話ができたなら、世界の見方がかわるのでしょうか? この作品は、光を当てたときに反応する幾千もの植物の動きを、唇読解師という口の動きの専門家が解読し、植物の感情を読み取ろうとしています。

写真:暗闇の中で植物に照明が当てられる様子

Pavlos Fyssas殺人事件

Forensic Architectureという事件現場の建築の調査を行い発表するというアーティストユニットによる作品。アテネでの殺人事件が、政治的理由から調査が進められなかったという事実に対し、裁判で得られる音声や映像を使用しビデオ調査を行うことで、ギリシャ警察の関与に結びつけることに成功したというものでした。

写真:街の地図の上に、監視カメラが捉えた映像が配置されている

インターネット ヤミ市

インターネット ヤミ市は、日本で生まれたインターネットカルチャーをテーマにしたフリーマーケット。IDPWという日本のアートコレクティブによって2012年に始められ、第1回となる東京開催の後に世界各地で開催されています。私は今回、このフェスティバルで初めて出会いました。ゲームなどのバイナリデータを布に起こしたテキスタイルを販売していたり、中国のインターネットカルチャー研究者が作成した本が販売されていたりしました。

写真:フェスティバルの参加者と、フリーマーケット出店者が話している様子

参加してみて

「未来のサービス」作りのヒントを探すために参加したアルスエレクトロニカですが、理解や想像が難しい未来に対して、2つのアプローチが考えられると思いました。

1つ目は、現在規定されている枠を取り払うことです。アルスエレクトロニカ・フェスティバルは、さまざまなバックグラウンドを持つ人がフェスティバルを通して交流する時間。専門家はそれぞれのバブルの中で閉じこもるのではなく、専門外と対話する姿勢が見られました。同窓会のような不思議な結束感の中、思考の裾野が拡大し新しい視点が生まれる瞬間を多く目撃しました。

2つ目は、問い続けるという姿勢。未来はこうだ! と宣言するのではなく、未来はこうではないだろうか? と考えることに価値があります。アルスエレクトロニカは作品の質を追求するよりも、最新技術を「問い」として捉え、考える人が集う「場」を目指していると感じました。もちろん誰もが問いへの回答を持っているわけではありません。批判を恐れず、時には楽観的な姿勢で望む裾野の広さは、どんな分野からでも関わることのできるオープンさを持っていると感じました。

今回紹介したものはフェスティバルのほんの一部。今会期中の写真はアルスエレクトロニカのFlickerアカウントにアップされているので興味のある方はご覧になってください。

Ars Electronicam(Flicker)

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

ページの先頭に戻る