サービスデザイナーのこれから

Service Design Global Conference 2019の注目トピック

  • 佐々木 未来也デザイナー/アートディレクター

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SDGC19の本会場、Evergreen Brick Works。元々はレンガをつくる廃工場。

コンセントのデザイナー/アートディレクターの佐々木未来也といいます。

2019年10月10日〜11日にカナダはトロントで開催されたService Design Global Conference 2019(以下SDGC19)、その前日に行われたMembership Day(SDN会員限定のプレイベント)に参加してきました。

SDGCはサービスデザインの研究者やプレイヤーの国際ネットワーク組織Service Design Network(SDN)が主催する、サービスデザインに関する年に一度の国際会議です。今回は世界中から44ヶ国、650人を超える人数が集まり、サービスデザインの現在について意見交換を行いました。

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会場に掲げられたSDGCのテーマ

SDGC19のテーマは“Building Bridges”。サービスデザインをさまざまなものごとの間に橋をかける存在としてとらえ、橋をかけることの意味、ひいてはその方法と実践など、射程の広い議論がなされていました。

その中で私が注目すべきと考えた2つのトピックをご紹介したいと思います。

ダブルダイヤモンドのその先へ

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英国Design Councilによるダブルダイヤモンド(旧版)
出典:著者作成

1つ目のトピックとしては、「ダブルダイヤモンド」ダイアグラムの改善、あるいはオルタナティブの提示でした。

ダブルダイヤモンドとは、簡単にいえばある課題に対して「仮説定義」と「実装・検証」の2つの山を、それぞれ発散と収束を繰り返すことによって成果を導くプロセスをフレームワーク化したものです。2004年に英国Design Councilが定義して以降、デザイン思考のプロセスを説明する上で定番のモデルとなっています。

SDGC19では多くの登壇者が、自分がプロジェクトで実践するプロセスと、ダブルダイヤモンドに差異があることを話題にあげ、各々改良を加えたバージョンを披露しました。いくつか例をご紹介します。

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Cat Drew氏によるDouble Diamondのアップデート
出典:英国Design Council公式Webサイト(2020年4月1日時点)

英国Design CouncilのCat Drew氏は、デザイン思考の方法論として定義されたダブルダイヤモンドのプロセスを継続的に適用することで、組織内のリーダーシップを醸成する基盤となり、また組織外の関与者を含めたパートナーシップの構築を創出することができると語り、「イノベーションを促進する組織づくりのフレームワーク」としてのダブルダイヤモンドを提案していました。

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Dr. Josina VinkによるService Ecosystem Design Model

また、医療の現場においてサービスデザインの導入を進めるAHOのDr. Josina Vinkによれば 、サービスデザインは、サービスのエコシステムまでを対象を含む段階にきており、デザインプロセスのみにフォーカスしているこれまでのダブルダイヤモンドへのオルタナティブとして、デザインプロセスとデザインプロセス外の活動が相互にフィードバックループを構成するモデルを考えているとのことでした。

他にも、これまでのダブルダイヤモンドの前に、システム把握とスコープ設定を行う山を加えた「トリプルダイヤモンド」や、2つ目の山である課題解決の前に取り組むべきプロセスについてモデル化を行う方法など、さまざまなバリエーションが提案されていました。

以上を概観して、デザイン思考の方法論としてダブルダイヤモンドを単線的に理解するのではなく、システムを含めたより広い視野でとらえていく姿勢が、これからは問われているのだと考えています。

サービスデザインとエコロジー

SDGC19で最も興味をそそられたトピックとしては、サービスデザインとエコロジーに関する話題がありました。スウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥンベリの活躍や、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」にも見られるとおり、昨今では地球環境に対して企業や社会として責任をもつべきであるという潮流が広まっています。

SDN Climate Working GroupのAran Baker氏とEmily Wright氏による「Designing Our Future Today: Service Design at the Front Lines of Climate Resilience」のセッションでは気候変動に対して、サービスデザイナーがいかに向き合うべきかが事例を交えながら提案され、アメリカのリサイクル企業TerraCycleのTom Szaky氏による「Loop: Solving for Disposability while Maintaining its Virtues」の基調講演では、資源消費を抑えた「循環型サービス」としての「Loop」がプレゼンテーションされました。
ここからは、それぞれのセッションについて簡単にご紹介していきます。

(いかにして)サービスデザイナーは気候変動に向き合うべきか

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Aran Baker氏とEmily Wright氏

「Designing Our Future Today: Service Design at the Front Lines of Climate Resilience」では、サービスデザイナーのスキルやサービスデザインのプロセスが気候変動に対して有用であるのかどうか、あるとするならば、いかなる関わり方がありうるのかが問われていました。

気候変動、あるいは環境に関する問題は、その問題を構成する要因が多岐にわたり、問題解決の糸口を探すことが困難な問題(Wicked Problem)です。

結論としては、サービスデザイナーは気候変動に取り組むことに適しているということでした。Aran Baker氏とEmily Wright氏によればその理由は以下に集約されます。

  • システム思考:システムのレベルで思考し、デザインする術をもっている
  • 参加型デザイン:公平性(equity)を担保しながらスケールさせる術をもっている
  • Transition Design:(ある集団の)ふるまいの変容や文化の変革を促す術をもっている
  • 未来志向:目指すべき未来のために、ビジュアライズやプロトタイプする術をもっている
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気候変動に取り組む際に求められるマインドセットとスキルについての解説

気候変動に向き合うためには、システムの把握からステークホルダーの態度変容まで、デザインプロセスそれぞれのタイミングでサービスデザインのスキルが求められます。サービスデザイナーはその中で、「気候変動」という要因の獏とした問題と、私たちの日々の「ふるまい」とを結びつける橋としての役割を発揮する能力があり、また必要とされていると言えるでしょう。

「モノ(Goods)」から「サービス(Service)」へ:エコロジカルなサービスデザイン

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Tom Szaky氏

一方、「Loop: Solving for Disposability while Maintaining its Virtues」でTom Szaky氏は、廃棄される日用品の使い捨てのパッケージに着目し、パッケージ廃棄をなくすことはできないかと考えました。彼は昔からある牛乳配達のシステムを参考に「Loop」サービスを立ち上げます。


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Loopの商品画像。オシャレな缶入りの「ハーゲンダッツ」

「Loop」では、堅牢で美しいパッケージに詰められた消費財を提供します。中身を使い切ったユーザーは、パッケージを捨てるのではなく、「Loop」に返送し、中身を詰め直してもらいます。ユーザーと「Loop」の間でパッケージが何度も循環し、無駄となる廃棄物を発生させません。

「Loop」で提供される消費財は、例えばシャンプーの「パンテーン」や洗剤の「タイド(Tide)」、食品もターメリックから「ハーゲンダッツ」まで、さまざまなバリエーションを揃えています。

「Loop」の優れたポイントは、消費財の「モノ売り」から「サービス」への転換です。従来のシステムでは、消費財はユーザーが必要なたびに買い切る「モノ売り」の形式で提供されていました。そのシステムでは、パッケージは一回きりの生産コストとして測られるため、安価なプラスチック材利用の選択肢が有力でした。しかし「Loop」では、パッケージはサービスの中で何度も利用されるコンテナの役割を担います。そのため、何百回の輸送や洗浄にも耐えられる、ステンレスやガラスといった、堅牢で美しく、リサイクル性能の高い材料の選択が有効になります。

「Loop」の事例からも、対象物単体ではなくシステムの視点でとらえ、新たなサービスとして構築するサービスデザインのスキルやプロセスは、気候変動あるいは環境問題に取り組む際にもメリットを発揮しやすく、親和性が高いことがうかがえます。

ポスト「人新世」のサービスデザイナー

昨今のエコロジー意識の高まり、その根底にあるのは、近年議論がすすめられている、新たな地質年代の概念「人新世(Anthropocene)」です。

「人新世」が意味するところを簡単に言えば、これまでの、そしてこれからの人間の活動による痕跡は、地球の地質年代を新たな概念で区別しなければならないほど影響を与えている、というものです。事実、戦後繰り返された核実験によって地球上にほとんど存在しなかった放射性同位体が拡散していますし、産業革命以降の化石エネルギー利用は大気中の分子構成を変え、温暖化や異常気象を誘発する要因と目されています。

人類の生存圏としての地球を自らの手によって掘り崩しているという現状を鑑みれば、これからの産業、社会は自らの活動が地球環境にいかなる影響を与えうるのかを直視しアクションをとらねばならない段階にあるのではないか……現代のエコロジーへの眼差しは、この認識から出発しています。

「ダブルダイヤモンド」の議論ではサービスデザインのモデルが拡張されつつある現状が共有され、「サービスデザインとエコロジー」にまつわるセッションでは、サービスデザイナーが今後向き合うべき地球環境というファクターが導入されました。

ポスト「人新世」では方法論に固執せず、視点を広く多様にもち、未来に対する責任、倫理を備えた人格が、最も重要なサービスデザイナーの“キモ”になるのかもしれません。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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