社会課題解決や循環経済の実現を目指して

Service Design Global Conference 2019 参加レポート

  • 長谷川 敦士代表取締役社長/インフォメーションアーキテクト

※本記事は2019年10月18日にオンラインプラットフォーム「Medium」へ、長谷川敦士が投稿した記事の転載です(転載元:Service Design Global Conference 2019)。

2019年10月9日〜11日(9日はメンバーズデイ)に、カナダ・トロントで開催された、Service Design Network(SDN)が主催する年に一度の国際会議Service Design Global Conference(#SDGC19)に参加した。参加の所感を残す。

Day 1

Building Bridgesというテーマに対して、開催地カナダの登壇者による文化とアート、コミュニティとアイデンティティといった切り口でのキーノート。アートが文化同士の架け橋となる、そしてアートとはストーリーテリングのことである、という力強いメッセージには、多民族国家であるカナダを印象づけられた。別のキーノートの1人、Dr. Josina Vinkの「In/Visible」と題されたセッションでは、彼女の実際の病院でのプロジェクトケースからサービスデザインにおける隠された構造をどのようにデザインしていくかのモデルが提示された。これはなかなかおもしろかった。

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Jesse Wente, CBC Radio

パラレルセッションでは、サービスデザインと政策(Policy)というセッションの話を聞いたが、権力や法律、行政施策というものに対してのさまざまなアプローチが概観できて参考になった。

また、午後には英Design CouncilのCat Drew氏によるダブルダイヤモンドの進化というワークショップに参加した。参加者自身の課題意識をもとに2019年版ダブルダイヤモンドをさらに拡張するというワークショップで、実際にダブルダイヤモンドアップデートに参加することができる有意義なワークショップであった。かつ、この形式のワークショップはいろいろと応用ができそうという収穫もあった。

写真:発散と収束を繰り返してchallengeがoutcomeに向かう図。4つのフェーズ(Discover、Define、Develop、Deliver)が書かれている。

The Double Diamond ver. 2019

カンファレンス終了後は、台湾チャプターの Arthur Yeh氏、上海チャプターのCathy Huang氏、関西チャプター(!)の井登 友一氏らとアジアチャプター構想、アジアカンファレンス構想を話す予定、だったが、なんかいろいろ雑談になり、しまいには日本のサービスとホスピタリティの関係や特殊性の話になった。これはこれでおもしろかった。

ちなみにさらっと初日終了時に来年の開催国がコペンハーゲンと発表された。10月だそう!

※コペンハーゲンでの開催は2021年への延期が決定。当初開催が予定されていた2020年10月22日〜23日にかけては、ヴァーチャル・カンファレンスが実施される予定(2020年4月23日追記)。

Day 2

今日は主にシステム思考、行動と心理、信頼に関したセッションをとった。

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Steph Hay, Capital One

冒頭のキーノートはCapital OneのSteph Hay氏による「Designing for Trust」と題されたセッション。「信頼」をつくり出すためには、人の感情に向き合わねばならないということを示した。具体的には、人々をつなぐために、1. 多様性をもったチームを促進し、2. まっとうにデザインし(designing authentically)、3. テクノロジーを活用する、というこれらを繰り返す。Capital Oneではこの考え方で「お金=取引」に対して「人=感情」の側面で「eno」というバーチャルアシスタントを実装した。enoでは、インターフェイスの外側にあるUXをデザインすることでユーザーの信頼を勝ち得たという。プレゼンテーションの中で、emojiについての言及が多く見られたが、英語圏の人にとって、emojiはemoという言葉を含んでいるのでなおのこと感情的な印象を受けるのかもしれない。

続いて昨日発表されたサービスデザイン アワード受賞者のショートプレゼンテーションが行われた。学生部門、一般部門、ともにソーシャルインパクトとサステナビリティの両面から大変すばらしいケースだった。これらは追ってTouchpointやアワードアニュアルにて紹介されるだろう。中でも興味深かったのは、ベルギーのモビリティプロジェクトである「LaMA」。Laboratoria Mobiele Alternatievenと名付けられたプロトタイピングを継続するプロジェクト。プロジェクトは都市レベル、プロジェクトレベル、人レベルでのインパクトを残しながら2016年から拡散している。バルセロナのスーパーブロックスと同じように他の地域にも展開可能とのことで、今後はこういったプロジェクトパターンの事例が増えていくのかもしれない。システムデザインの観点からも可能性は高い。

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Service Design Award 2019

Dell BoomiのJulie Guinn氏からは「Designing in Complexity」と題された、結構ガチで複雑系をどう扱うかという課題に取り組んだセッション。Design 1.0:従来型のデザイン、Design 2.0:プロダクトやサービスのデザイン、Design 3.0:組織変革デザイン、Design 4.0:社会変革デザイン(Social Transformation Design)とデザインフェーズを整理。複雑適応系(Complex Adaptive Systems)を従来のシステムと比較して、デザインの論点の推移を提示した。また、その際の特性(property)として、以下を挙げている。

  • 創発:ホリスティック、インクルーシブ
  • 非線形性:カスタマイズ、繰り返し
  • 適応:ファシリテート、参加
  • フィードバックループ:観察、呼応

また、自己組織化された知識分散、分散管理における課題を指摘し、このために、いわゆるダブルダイヤモンドの前に「システム空間」の概念を提案した。

昨日のセッションもだが、サービスデザイン界隈ではこのダブルダイヤモンドが基本のプロセスとしてよく登場する。発散(diverge)と収束(converge)を問題空間(problem space)と解決空間(solution space)において行う、というシンプルなモデルが特に非デザイン領域の人にわかりやすいというのが一番の理由となる。単純すぎるということは理解されているが、それでも一定の理解のために求められるのはよくわかる。特にユーザー以外の要素を考慮するサービスデザインにおいてはデザイン思考よりもこちらの方が現実に則している。

Guinn氏のモデルでは、問題空間の前にさらにシステム空間(system space)を定義し、そこで「調査(survey)」と「スコープ(scope)」を定義している。「調査」フェーズにおいてはビジネスオリガミのような「リッチピクチャー」の方法やコンセプトマップ、アクターマップなどで関連する要因を可視化する。「スコーピング」フェーズではコンセプトダイアグラムや影響マップなどの方法を用いる。これらどちらもいわゆるシステム論などでよく知られた手法だが、これらをまず用いることをモデル化するのはプロジェクト設計においては有用であろう。

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The Triple Diamond Model

未来のデザインのセッションでは、DesignitのLasse Underbjerg氏による「Trusting Invisibility」と題されたセッションが示唆深かった。未来について、探索(Exploring)、試作(Prototyping)、Shaping(具体化)というフェーズがあると定義した上で、価値の変化、持続可能性の重要性向上、データによるアイデンティティ、など10の論点を設定した上で、これからの世界において「信用」をいかに構築するかがより重要になるという主張を行った。その上で「信用」の多彩な特性を紹介しながら、それらをふまえて未来を描くことを強調していた(Take on human perspective, when shaping futures.)。

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Lasse Underbjerg, Designit

また他にも、Aran Baker氏(Cohere Design Lab)とEmily Wright氏(Culture SHIFT)は未来のデザインにおいて社会課題を考慮していくにあたっての考え方をケーススタディを元に議論した。氏らはトップダウン、ボトムアップに加えて、「中間(Meso)」を定義したアプローチが必要であるという主張を行い、1. ネットワーク化されたアプローチ(networked approaches)、2. マルチファセットかつ多様なシステム(multi-faceted and diverse systems)を考慮すべきであるという主張を行っている。これらは基本的に社会課題はシステム課題としてとらえるべきであるという前提に基づいており、Julie Guinn氏によるキーノートのシステム論的なアプローチともつながっている。

LiveworkのAnne van Lieren氏からは、デザインによる顧客体験とシンプルに題されたセッション。しかし中身はいわゆるナッジ(Nudge)を、1. 意識/無意識への影響、2. ジャーニーへの正しいタイミングへの干渉、3. 個別にカスタマイズされた介入とプロトタイピングによる最適化、と整理して、論点をまとめていた。これは日本でももうちょっと整理して一般化させたい。

最後のキーノートはサーキュラーエコノミーを推進する活動家でありTerraCycleなどを展開しているTom Szaky氏による循環のための「Durable Design(耐用性のデザイン)」。Lifecycle analysis(製品ライフサイクル分析)、Cleanability(清掃性)、Durability(耐用性)の3つの視点からさまざまなプロダクトやサービスを分析し、現実的なさまざまなパッケージなどを開発している事例を紹介した。リユースを精神論でなく具体化して語るこの姿勢は日本の企業にもまだまだチャンスがある領域であり、研究の可能性が大きい。

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Tom Szaky, TerraCycle

Loop

全体として、端的には個々の企業の営利のためのサービスデザインという色はほとんどなく、社会課題の解決や循環経済を目指すためのサービスデザインの側面が主であった。しかし、それらをノンプロフィットでやるというわけではなく、きちんとビジネス化して継続していくという態度が共通していたように思う。これはつまり、社会つまり顧客がそういった志向をもち始めているということを意味しているだろう。


[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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