オンラインワークショップの実践と成果

場所と距離を越える、新たな共創装置としての可能性

  • 小田恭子コンテンツディレクター

  • 新井康予ワークショップデザイナー

コンセントではこれまで、チームビルディングやアイディエーションなど、ビジネスの場で共創を促す手段として数多くのワークショップを開催してきました。ワークショップは基本的に、参加者が実際に対面しながらオフラインで開催されることが通常でしたが、個人個人の働く場所が多様になったり、物理的に遠い距離にいるクライアントのみなさまとの関わりが増えたりと、オンラインで開催する機会が少しずつ増えてきました。ウィズコロナの状況において、その需要はますます増加しています。

今回は、多くのオンラインワークショップでファシリテーターを務める、サービスデザイナー4名にそのコツやメリットについて話を聞きました。記事の執筆は、コンテンツディレクターの小田、座談会の聞き手はワークショップデザイナーの新井がお届けします。

この座談会はオンラインで行われました

小山田 那由他(写真左上)

サービスデザイナー/コンテンツデザイナー
HCD-Net認定 人間中心設計専門家。東京造形大学視覚伝達専攻卒。デザイナーとしての経歴を生かし、デザイン思考、HCD(Human Centered Design)をベースに、サービスデザイナーとして企業の事業開発、新商品開発の支援を行う。公共分野でのサービスデザインアプローチを研究・実践するコンセント「PUB.LAB.(パブリックラボ)」を主宰。HCD-Net 社会基盤SIG副主査。武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所 客員研究員。

小橋 真哉(写真右上)

サービスデザイナー
企業広報ツールの企画・ディレクション、Webサイトの設計・開発を経て、サービスデザイナーに転身。新規事業開発に関わる調査業務、サービスコンセプト開発、UI設計開発等のプロジェクトマネジメントを行う。また、行政や大学などと連携し、公共の課題をサービスデザインアプローチによる共創で解決するための「PUB.LAB.(パブリックラボ)」という研究活動にも取り組んでいる。

岡本 拓(写真左下)

サービスデザイナー
Hochschule für Gestaltung und Kunst FHNW, The Basel School of Design(スイス)修士課程修了。近代美術とビジュアルコミュニケーションについての研究を行う。アムステルダムのデザイン事務所にて美術館や公共事業におけるブランディング制作に従事した後、香港のサービスデザインファームを経てコンセントに入社。サービスデザイン・UXデザインのプロジェクトに関わるほか、ワークショップのファシリテーションや講師活動を通してデザインのナレッジを伝えている。HCD-Net 認定人間中心設計専門家。

長尾 真実子(写真右下)

サービスデザイナー
多様な文化や領域とのコラボレーションを通したプロジェクトの経験をもつ。グローバルデザイン戦略ファームを経て、2018年コンセントへ入社。コンセントではデザインアプローチによる新規サービス事業の開発やサービスを通して得られる体験の設計に携わり、調査やワークショップの企画・進行を担当。Service Design Network 日本支部の事務局としても活動。IFTF-trained foresight practitioner。京都工芸繊維大学大学院 デザイン経営工学専攻 博士前期課程修了(工学修士)。

オフラインを再現するのではなく、不要な部分を「削ぎ落とす」

オンラインでワークショップを開催する機会が増えましたね。やってみていかがでしょうか?

小橋今までオフラインでのワークショップをたくさんやってきました。それがオンラインになったことで、オフラインでやっていたことをどう再現するかというよりは、今までなんとなくやっていたことは本当に必要なのか? ということをあらためて考えて削ぎ落としていくという意識が強くなりました。すべてを全員で議論しながら決めなくても、個人ワークで済むこともあるし、分担して進めた方が効率的な場合もあります。僕が担当したプログラムでは、クライアントと新規事業開発に関するデザインスプリントを10日間実施したんですが、最初の3日間はフルリモートでのワークショップ。もともとデザインスプリントには「Note&Vote」*という思想があり、個人で考える時間と投票・ディスカッションする時間を明確に区切って、短時間で効率的に意思決定するという考え方なので、オンラインとの相性が良かったんです。

*Note&Vote
アイデア出し・意思決定の手法。まずは個人個人でアイデアを書き出し、書き出された全員分のアイデアのうち、自分がよいと思うアイデアに投票する。

長尾私が担当していたプロジェクトは、もともとオフラインでワークショップを開催する予定でしたが、新型コロナの影響を被ったことでオンラインで開催することになりました。そのため、まずは全体でワークショップの進め方やルールの共有を行い、その後の実践はペアを組んで分かれて行う方針に変えました。はじめは心配もありましたが、それぞれ自分のやっていることに集中できたという印象があって良かったと思います。ただ、このワークショップは「意味のイノベーション」という「批判」をすることによってビジョンを磨いていくプロセスで進めていたので、対面したことがない人と「批判」を進めていくことに難しさもあったかもしれません。

小橋「批判」の難しさは、オンラインだからというよりは、そもそも批判する相手との信頼関係を築くことにあるんじゃないかな。「批判」は、誰かが出したアイデアに対して共感できる部分とできない部分を明確に伝え、解釈の違いをふまえて自分自身の言葉で再定義していく方法。「共感できない」という意思表明をすることは、オンラインでもオフラインでもハードルがあって、チャネルに関わらず、信頼関係を構築することが重要になりますよね。

オンラインでも「議論」はできるが「対話」が難しい

今年はコンセントの社内研修もオンラインで開催しましたよね。

岡本新卒入社のスタッフを対象に「アフターコロナの2030年に向けた食のサービス」をテーマにした研修を担当しました。「ビジョンの探索から問題を定義する」過程が、オンラインだと空中戦になってしまったことが反省点で。「個人でここは考えてね」とか「ここはみんなで決めてね」というのをしっかりファシリテーションしなければ、どんどん泥沼に陥っていく。各人の言葉、ニュアンスや表情が把握しづらい状況で新しく問題を定義するのは難しいので、よりファシリテーションが重要だと思いました。でもリサーチフェーズのインサイトが定まったらその先はスルッといったので、そこまでがオンラインの壁だと感じましたね。

miro画面キャプチャ:新人研修のワークショップで実際に作られた画像。地方格差、偏食などのキーワードが並ぶ

小橋すでに課題があって、その課題解決をするための議論は、やり方さえ工夫すればオンラインで問題なくできそうだね。ただ、そもそもの課題が何かとか、お互いを理解して信頼関係を築くとか「対話的なもの」は、やっぱりオンラインだと難しい部分がありますよね。「議論はできるけど対話は難しい」という。

「議論はできるけど対話は難しい」ハードルはなかなか高そうですね。

長尾私の場合は、担当したプロジェクトが「意味のイノベーション」*のプロセス、つまり相互に批判しながらアイデアの質を高めるいう前提をあらかじめ共有できていたので、批判しても大丈夫という状態で対話に入っていけたと思います。

*意味のイノベーション
「デザイン・ドリブン・イノベーション」とも呼ばれ、従来のデザイン思考とは異なるアプローチで、製品やサービスに新しい意味を見出すイノベーションの概念。前提となる問題自体を問い直し、批判によって仮説を深化させていく。

小橋「意味のイノベーション」のプロセスって、最初から大人数で話すわけではなく、まずは2人で案を詰めて、詰めた案を今度は4人で持ち寄って固めて、徐々に人数を増やしていくんですよね。その方法がうまくいったんだろうね。

オンラインにおける「身体性」

ほかにオンラインならではの難しさを感じた部分はありますか?

小山田以前、小橋さんと担当したプロジェクトで、空間の中での人の振る舞いを洗い出したことがあって。空間の中で議論するとき、2人が横並びでカードソーティングする動きとか、壁に貼り出したマップを囲む動きとか、そういった身体性があることによるリズム感みたいなものは、オンラインだとすべて失われるから、そのグルーヴ感はオンラインにはないと感じました。

小橋でもオンラインでも、Excel Onlineやmiro*で共同編集したとき、ほかの人が編集しているのを見ながら、自分も作業できるのは新しいアウェアネス*の体験で、逆にオフラインではできないことかな。

*miro
オンラインのホワイトボードサービス。マインドマップやブレインストーミングなど、複数人が同時にリアルタイムでコラボレーションすることが可能。

*アウェアネス
人が何らかの情報にアクセスでき、その情報を行動のコントロールに利用できる状態のこと。気づき。

小山田確かに。しばらくぶりに共同編集しているmiroのボードに入ると、ものすごい量の編集履歴が残っていて圧倒されることも。miro上で議論してるときって、参加者のマウスのカーソルが見えるので、そこにその人自身が集約されているというか、小さいサイズになった人たちがワーッて一斉に動いている感じがする。今って、オンラインでの身体性・身体感覚をつかもうとしている過渡期なのかもしれない。

岡本オンラインでできるアイスブレイク、参加者の緊張感を緩和させるようなアクティビティがなくて困っています。

小橋僕はオンラインで、例えば「あなたの仕事のお供は何ですか?」っていうお題を出して、マグカップなどのアイテムを各参加者に持ってきてもらい、画面に映すという自己紹介をやりました。確かにアイスブレイクはレクリエーションの要素が強いから、オンラインだと難しいよね。

フェーズごとにコミュニケーションコードの設定と共有を使い分ける

参加者がもともと知っているメンバー同士など、関係性の有無でワークショップのやりやすさは変わりますか?

小山田参加者の顔と名前が一致する、名前の読み方をしっかり把握するという基本的なことは当然ですが重要。初対面だからやりにくいということはありませんが、ワークショップでファシリテーションを務めていると、話を聞いている側の人たちがどう思っているのか不安になることはあります。聞いている側の時間の過ごし方が見えにくいのは気になりますね。

小橋miroの機能に、「アテンションマネジメント」という概念があって。自分が見ているビューにみんなを連れてくることができるんですね。誰かが見てるビューを追従して見ることができる。この概念、僕はすごく大事だと思っています。オフラインだと手元に資料を置くなり、スライドを投影するなり、みんながどこを見ているかを自然と把握できるんですが、オンラインだとみんなが同じものを見ているっていう状態をつくるのに苦労します。僕はワークショップの説明資料やワークスペースをすべてmiroに集約して、なるべくみんなが同じものを見ている状態をキープできるようにしました。オフラインだとなんとなくできていることも、オンラインだと意識して行う必要がありますよね。

小山田その概念はすごくいいね。ワークショップを始める前と始めた後とで、フェーズごとに重要な「コミュニケーションコードの設定と共有」のポイントがありそうだね。顔と名前を把握するのが始める前、アテンションマネジメントを用いるのが始めた後。

小橋最初は顔が見える状態でお互いを認識したら、その後はみんなでmiroを見ながら今日やることを説明する。タイマーを表示させることも一種のアテンションマネジメントですね。

miro画面キャプチャ:miroに表示されるタイマー

小山田このタイマー機能すごく良いですよね。感覚的なことになってしまうけど、みんなで同じ時間の表示を見るって、2Dの画面から急にリアルになる感じがあって。ファシリテーターが「あと3分です!」って叫ばなくて済みますし(笑)。

小橋オンラインだと、タイムキープを声で発するのって結構うっとうしいんだよね。視覚で知らせるか、音で知らせないとノイズになりかねない。

岡本ワークショップ中で気分の緩急をつけたいときに、タンバリンとかラッパを効果音のアイテムとして使っています。盛り上げたいときにリアルに楽器で音を鳴らしてます。

小山田それはシンプルでいいですね。楽器を参加者に届けるところから始めても面白いかもね。

岡本BGMも大事ですよね。小山田さんから「Loopback」*っていうパソコンソフトの音声出力をミックスできるツールを教えてもらったので試してみようと思ってます。

*Loopback
仮想オーディオ入出力作成アプリ。マイクや特定のアプリから出力される音のみをビデオ会議やゲーム実況アプリに流すことができる。
https://rogueamoeba.com/loopback/

オンラインの障壁をカバーしながら、オンラインだからこそできることを

オンラインだと、物理的に遠い場所にいる人が移動距離を気にせず参加できるメリットもありますよね。

小山田地方にある企業の中には、デザイン思考のプロジェクトをやりたいけれど、リソースやナレッジがなくてなかなか実現できないところがたくさんあると思うんですよね。オンラインになることで、その距離を越えられる気がしています。

岡本それは共感します。デザイン思考は場所や国によって浸透具合が異なる印象があります。前職の開発会社はさまざまな国に支局がありました。傾向として、新興国は開発メイン、先進国はデザインを積極的に業務に取り入れています。例えばフィリピンでは開発会社は多くあってもデザインエージェンシーが少ない。価格による違い以上に、距離的なハードルが高いと思っています。国を越えてオンラインでワークショップができることで、デザインを必要とする人たちに届けられるとよいなと思います。

小橋国内でも地方のクライアントとのお付き合いはすでにできているからね。

小山田一気に広がっていますね。

岡本オンラインの障壁をカバーする以上に、オンラインだからこそできるポジティブな部分をどんどん広げていきたいですね。

小橋オフラインでやりたいことをオンラインで代行しているのではなく、今後も手段の一つとして活用していけたらと思います。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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