Business as UsualとしてのUXライティング

  • 川﨑 昌平のプロフィール写真

    川﨑昌平コンテンツディレクター/作家


記事タイトル「Business as UsualとしてのUXライティング」の文字と、「UXライティング?」と疑問に感じている人のイラスト

今から君が目にする文章は、より優れたUXライティングを書くための、ヒント集の「序章」のようなものだと思ってほしい。これを読めば(……たちどころにUXライティングがホイホイできてしまうわけではないけれど)UXライティングを考える上で、また実践しようとする段階において、とても役に立つ考え方を君は得られるはずだ。

「UXライティング?」と疑問を感じている人のイラスト

おっと、君は今、少し疑ったね? 「ホントにこんなヤツの書いた文章を読んで、UXライティングについて少しでもわかるのか?」って。あるいはこうも感じたかもしれない。「長そうな文章だな……忙しいんだよこっちは。読むのもめんどくさいから、3行でまとめてくれないか?」って。
OK。じゃあ、早速レッスン1だ。覚えておいてくれるかな。「効率を気にするヤツに、よいUXライティングはできっこない」ってことを。

1:そもそもUXライティングとは何か?

ごめん、先走り過ぎたね(気をつけてほしいんだけど、「せっかち」と「効率至上主義」は違うってことなんだ。僕は相当せっかちな性分だけど、それは決して時間の無駄を嫌がるからじゃない……同じ時間で、よりたくさん失敗したいからなんだ!)。まずはUXライティングの説明が必要だ。簡単にまとめてしまえば、ユーザーとコミュニケーションをするために書き表される言葉、それがUXライティングだ。狭義にはサービス・プロダクトにおけるユーザー体験のための言葉なのかもしれないけど、優れたUXライティングはそれだけじゃない。コンテンツ戦略の全体像における言葉のあり方そのものが、UXライティングなんだと(少なくとも僕は)思っているし、信じている。

2:UXライティングはマイクロコピーだけじゃない

ん? 今の説明じゃわかりにくい? よし、じゃあ具体的な話を出して考えてみよう。例えば君は、日常において実にさまざまなサービスを利用しているはずだ――Twitterで益体もないことをつぶやいたりFacebookで可愛くてしかたがない自分の子どもの写真を見せびらかしたりUber Eatsに歩いて10分のところにある定食屋のランチを運ばせたりZoomでやるミーティングに下半身パンツ一丁で参加したり。そこで君は、必ずサービスそのものよりも先に、サービスが用意した言葉に触れていると思う。ほらTwitterが話しかけてきた……「いまどうしてる?」だってさ。君がハチミツ好きならこう答えればいい――「何もしてねえよ、生きてるだけで精一杯だよ、コンチキショウ」ってね。
これが一般的な解釈におけるUXライティングだ。サービス側はユーザーである君とコミュニケーションをとりたがっていて、君がその気になれば……違うな、君をその気にさせるために、サービスは実にさまざまな言葉を君に投げつけてくる。こうしたサービスのごく表層に咲く(総じて軽やかでスタイリッシュで……悪く言えば馴れ馴れしい)言葉たちをつくり出すこと、それがUXライティングであることは間違いない。
でも、実はそれだけじゃない。ユーザーのファーストタッチポイントだけに主眼を置いたマイクロコピーばかりがUXライティングとして考えられているけど(実際、ユーザー体験を決定づけることもあるだろうから、サービスをつくるためには重要な要素でもあることは確かだ)、本当はプロダクトが完成して世に出るずっと前の段階からUXライティングは存在するし……存在しなくてはならない。Facebookが囁く「川崎昌平さん、その気持ち、シェアしよう」という言葉の奥には、もっとたくさんのUXライティングがあるんだ。

3:さまざまなUXライティング

一般的なUXライティングとコンセントの考えるUXライティングを表すイラスト:左の一般的なUXライティングはプロダクトのマイクロコピーを指し、右のコンセントの考えるUXライティングは、編集・体験・ビジョン・コピーライティングを含んでいる

上図左は、前述したマイクロコピー的なUXライティングで、上図右は、コンセントの考えるUXライティングというものを、概念的に示したビジュアルで――これからするUXライティングの話は、当然だけど右をベースに進めるよ? 左のUXライティングは……ややもすると商品やプロダクトが完成しサービスが実装される段階になって「じゃあ、なんか気の利いた言葉を用意してくれない?」と上流から命じられて書くタイプのUXライティングになっちゃう。いや、それが悪いわけじゃないけど、UXライティングの可能性は殺しちゃっている。仕様や機能が決定されてからつくるUXライティングは制約だらけでおもしろいものはできないし……結局その事実は、ユーザー体験そのものを損ねることになっちゃう。

ユーザー体験を損ねているUX体験を表すイラスト:「いま、なにをしているの?」というマイクロコピーに不思議がる人

というわけで、ここからは右の図をベースに、「奥深い」UXライティングについて、いろいろなパターンを見ていこう。

3−1:外的コミュニケーションのUXライティング

ブランディング、あるいはマーケティングのためUXライティングはどんな価値をもつのか? 単純にイメージコピーとして考えてくれても問題はないけど、よくできたイメージコピーは、UXライティングとして最善の道筋を歩んでいる場合が多い。
例えば「Think different.」。ジョブズが復帰した1997年から展開されたアップル社のブランドコピーだけど、ユーザーを足止めさせ、ユーザーに考えさせ、ユーザーの胸を踊らせた点において、これより秀逸なUXライティングは、ちょっと僕の知識じゃ見つけられないかもしれないってレベルだ。
少し考えればわかるように、文法的に破綻したこの一文は、プロダクトができ上がってから生み出されたコピーじゃない。だってそうでしょ? 君がコピーライターだったとして、PowerMacG3とかがあらかた完成した段階で「考えましたよ、今度のキャンペーン用のコピー。Think differentlyじゃなくてThink differentなのがおもしろいでしょ? differentを名詞にしちゃうアイデアなんです!」って97年頃のジョブズにプレゼンできる? 無理だよね、絶対。
つまり、この一文、「Think different」は、コンテンツ戦略全体に関わるUXライティングとして、プロジェクトの初期段階からあった言葉に違いないと僕は睨んでいる。きっとジョブズが復帰したときから(ジョブズの中ではずっと昔から)全社的に共有された概念だったに違いないって。当時のリンゴマークに憧れるユーザー心理的にもきっと正しかったんだろう。今よりずっと少数派だったアップル信者は、確かに「Think different」したかったんだろうから。

3−2:内的コミュニケーションのUXライティング

もう少し「Think different」から考えてみよう。『Steve Jobs』(2011年)には次のように書かれたくだりがある。

They debated the grammatical issue: If “different” was supposed to modify the verb “think,”
it should be an adverb, as in “think differently.” But Jobs insisted that he wanted “different”
to be used as a noun, as in “think victory” or “think beauty.”

(当然、文法に関する議論はあった。仮に“different”が動詞“think”を修飾する機能を有するのであれば、表記は「think differently」となり、副詞としての“differently”が必要になる。だが、ジョブズは同意しなかった。「think victory」や「think beauty」といったコピーのように、differentを名詞として使いたいと強硬に主張した。)

「Think different」の文法的問題を理解しつつ、それでもジョブズが「Think different」にこだわったことがよくわかるよね。そして、最終的には社内のメンバーたちもそれに納得したんだろう。だからあの言葉が生まれたんだし……僕は経済の評論家ではないけれど、あのキャンペーンからアップルは今日の発展のスタートをさせたんだと思っている。
そして、上記のエピソードにはUXライティングとして大事な真実が秘められている。それは、優れたUXライティングは、インターナルなコミュニケーションにも使えるってこと。「Think different」の例で言えば、あのUXライティングがアップル社の社内コミュニケーションの発展にも寄与したって意味だ。この場合は、別に社内のメンバーがみんな仲良しになりましたってことじゃない。議論に膨大な時間を費やしただろうし、時には罵り合いの喧嘩だってしたかもしれない。でも、そのプロセスがよい結果を生んだのだとすれば、組織内部のコミュニケーションを活発にさせる効果そのものが評価されるべきであり……UXライティングにはその能力があるってことなんだ。

4:UXライティングは始めから終わりまで必要

つまり、UXライティングとはBusiness as Usualなもの……いや、現状に即して言えばBusiness as Usualであるべきもの、だと僕は思っている。ビジネスの一要素として考えるよりも、ビジネスのどんな側面でも通用する、あるいは全工程に通底する、プラスチックな(可塑的な)ツールだと思った方が、きっと君も僕も……働くのが楽しくなる。
まあ、「Think different」の例は、ちょっと立派すぎて汎用性が低いって思われちゃいそうだけど……言いたいことはたった一つ。UXライティングは最初から最後まで必要だってこと。社内でアイデアが生まれた段階から、ユーザーにサービスやプロダクトが届くその瞬間まで、UXライティングは正しく効力を発揮するし、発揮させない限りは、新しくておもしろいものは生まれない。君がもし明日からUXライティングを実践したいと思うのなら、そのことだけは忘れないでほしい。「いや、そんな雲を掴むような話をされても……オレはジョブズじゃないし……」って思うかもしれないけど、別に難しく考える必要はないし、もっと言えばスマートに成功させようと焦らなくてもいい。この手の実例はだいたい成功例ばかりが引き合いに出されるものと相場が決まっているけれど、現実においてはきっと無数の失敗があったはずなんだ。だから君も、失敗するUXライティングをやってもいい。最初からうまくいく人なんていやしないからね。

4−1:言葉を置き去りにしないUXライティング

いや、ひょっとすると失敗しながら、「ぐちゃぐちゃ考える」ことをした方が、もしかしたらコミュニケーションは成長するかもしれないよね。君がどんな会社でどんな仕事をしているか知らないけど、軋轢のない社内コミュニケーションなんて想像できないし、もしそんなものがあるとしたら……その会社はとてつもなく何も生み出さないコミュニティに違いない。だってそうでしょ? 予定調和的に物事が進むミーティングって、だいたい言葉を蔑ろにしているか、言葉を吟味する意思がかけらもないか、言葉の価値を置き去りにしているか……いずれにせよ聞くことすら苦痛になるような代物に決まっているんだから。
UXライティングはその意味では非効率であるべきなのかもしれないね。新しいアイデアを生むために思考を活性化させる必要があるなら、言葉を何度も混ぜ繰り返すUXライティングが必要だし、多様化したユーザーを一元的に扱うのではなく個々を尊重しながらサービスを提供しようとするなら、言葉を書いては消してを繰り返しながら多角的な解をもつUXライティングが必須になる。そしてそれをやるためには「ぐちゃぐちゃ考える」ことをしなければならないし、そうなると必然的に時間をどんどん使うほかなくなる。
君の雇用主や君のクライアントに非効率を是とする覚悟があるなら、きっと君には言葉を置き去りにしないUXライティングが可能になるはず。諦めずにがんばってみて!

4−2:コンセントなら理想のUXライティングが可能です

コンテンツ戦略にUXライティングが一貫していることを表すイラスト

さあ、まとめるよ? 上の内容が理解しにくかったって人は(うん、それは僕の責任だからあまり気にしないで! でもね、これだけは覚えておいてほしい。社会全体で「わかりやすさ」を追求したら、いずれデザイナーも編集者も……クリエイターなんていらなくなっちゃう未来が待っているんだってことを!)次のことだけを忘れないでね。

UXライティングとはあるサービス・プロダクトの始めから終わりまでに影響を与えられる表現活動なんだってこと。

スケルトンという工業用語を日常会話にまで敷衍して、ついでに僕たちを「カラフル&透明」の虜にして、確かに未来をデザインしたと僕たちに信じさせたあのApple社の製品たちは、「始めから終わりまで」をUXライティングがリードしていたから生まれたんだ。つまり、最初にきちんとUXライティングを実行して、そして消費者に製品なりサービスなりを届けるところまでUXライティングが付き合えば……成功するのは造作ないってこと。逆にそれができないと、惨めなことになる。サービスをローンチする直前に名前をつけたって、ダメなんだ。繰り返すよ? UXライティングは、末端の仕事じゃない。その段階では、どんなに有名なコピーライターに発注したって、手遅れってこと。イケてるクリエイターにCMを頼んだってダメ。彼らに依頼するなら、企画段階から参加してもらわないと、優れたサービスには絶対ならないんだ。いろいろダラダラと喋っちゃったけど、それだけは忘れないでね。
あ、最後になっちゃうけど、もちろんマイクロコピーとしてのUXライティングを僕は否定しないし、社会にとって必要なものだとも思っている。ただ、マイクロコピーをつくる上でも、やっぱりここで伝えたかったUXライティングとしてのあり方を遵守していた方が……よいアイデアは出やすいことは疑いない。実例を挙げると……って、そろそろ紙面がなくなってきたから、その話は別の機会にとっておくとしようか。

もし、ここまで読んでくれた上で、「うーん……興味は少しだけ出てきたけど、やっぱりめんどくさいから、去年から使っている器に昨日と同じ言葉を流し込むことにするよ」と君が思ってしまったのなら……安心してほしい。僕に任せてくれ。僕が、いや、正確には株式会社コンセントが、責任をもって理想のUXライティングを実現させてみせる。君の会社や君のクライアントが「あ、UXライティングってこんなに可能性のあるツールなんだなあ」って気づけるような、お手伝いを僕たちにさせてほしい。必ずUXライティングの価値とUXライティングのもたらす効果の双方を体感できるような結果を、届けてあげるから。

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

ページの先頭に戻る