SDGs×インクルーシブデザインセミナー

〜 「だれひとり取り残さない」サステナビリティのために知っておきたいこと 〜 イベントレポート

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「だれひとり取り残さない」サステナビリティのために知っておきたいことセミナー告知画像

2021年3月17日に株式会社コンセントと株式会社ソフィアサーキュラーデザイン様(以下、ソフィアサーキュラーデザイン)、株式会社ソフィア様(以下、ソフィア)の共同で、SDGs×インクルーシブデザインセミナー 〜「だれひとり取り残さない」サステナビリティのために知っておきたいこと〜を開催しました。

現在、多くの企業がSDGsへの貢献を宣言し、事業活動に取り入れる取り組みを進めています。しかし、複雑な市場環境の中で、社会性や持続性をもって具体的な事業開発に取り組むことは容易ではありません。

そこで本セミナーでは、SDGsの目的である「『だれひとり取り残さない』 持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現」に焦点を当て、SDGsの目標達成のアプローチの一つとして「インクルーシブデザイン」が紹介されました。

第一部 未来思考のSDGs導入

セミナーの前半は、ソフィアサーキュラーデザインの平林泰直氏が登壇。
「だれひとり取り残さない」というSDGsの普遍的価値に触れ、国内外の事例紹介を通してSDGsとインクルーシブデザインの関係性を説きました。

SDGsに対する企業の取り組みの現状とSDGsの普遍的価値

冒頭で、平林氏はSDGsに対する企業の取り組みには、主に5つのテーマがあると説明します。

  1. 1.経営のビジョン
    「どのように社会価値をつくっていくのか」というSDGsの文脈を取り入れた経営ビジョンの見直しと公表
  2. 2.重点取り組みテーマ
    「企業や団体がなにを自分たち企業の強みとして生かしていくのか、それをどうやって経営計画に取り込んでいくのか」という重点取り組みテーマ(マテリアリティ)の策定
  3. 3.企業変革
    「ダイバーシティや働き方、ジェンダー平等を企業のガバナンスとしてどのように取り入れていって企業を変えていこうか」という組織の変革
  4. 4.新規サービスや商品開発のタネ
    社会的課題をSDGsのターゲットから読み解き、自社のコアコンピタンスを生かす商材の開発
  5. 5.コミュニケーション戦略
    SDGsという世界共通の価値観から「投資・人材採用・商品PR」のコミュニケーション戦略

上記にあげたテーマにおいて、企業がSDGsへの取り組みを検討する際に、17個の個々のゴールが強調されがちです。しかし、本当はそれらの根本にあるユニバーサルバリュー(Universal Value)と呼ばれる3つの普遍的価値、「だれひとり取り残さない」「人権ファースト」「ジェンダー平等と女性に対するエンパワーメント」の存在をきちんと認識し、意識し続けることが大切であり、インクルーシブデザインはその普遍的価値を忘れないための手法であると平林氏は主張します。

ビジネス開発とガバナンスの2つの観点から、ユニバーサルバリューが意識された事例を紹介し、市場や社会の影響力の大きさを示しました。

なぜSDGsがイノベーションにつながるのか

続いて平林氏は、企業が画期的なブレイクスルーを達成できない理由として、課題解決型思考の限界を指摘します。

足元にある課題から物事を考えていく「フォアキャスティング」の考え方は、明示された課題に対する解決を効率的に進めることができます。一方でビジネスにイノベーションを起こすには、まず自分たちのありたい姿(ゴール)を定め、それを目指して行動計画を組む「バックキャスティング」の考え方がより重要になっていると平林氏は考えます。

2030年のありたい姿のゴールであるSDGsとその達成に向けての取り組みを考えることは、バックキャスティング型の思考(拡散のフェーズ)を身に付ける良い機会であり、フォアキャスティング(収束のフェーズ)と併せて取り組んでいくことがイノベーションにつながると平林氏は主張します。

実際にバックキャスティングの手法を取り入れている事例として、「X( 旧Google X )」や「PVC(ポリ塩化ビニル)業界」を例に出し、バックキャスティングのプロセスを取り入れたことにより組織にいる人たちが実に生き生きとしながら物事を考えはじめるという現場の印象を踏まえ、「自分たちのありたい姿を考えてから未来に向けて動いていくことがいかに重要か理解できた」と実感を語りました。

未知の未知を意識しよう

話の総括として、積み重ねてきた文化の中でわれわれが無意識に排除してしまっている高齢者や障害者、女性などの存在に気付くこと、そして自分が知らないことに自分でも気付いていない「未知の未知」を意識することが重要だと平林氏は強調します。

インクルーシブデザインという考え方を取り入れることは、まさにこの「未知の未知」を意識するきっかけになります。新しい可能性を生み出すための手法として「インクルーシブデザイン」をポジティブに受け止めてほしいと話を締めくくりました。

第二部 だれひとり取り残さないためのインクルーシブデザイン

セミナー後半は、コンセントの佐野実生が登壇。
コンセントでは、サービスデザインのアプローチから新規事業開発支援を行っています。全盲のメンバーと晴眼者のメンバーで構成されるインクルーシブデザインチームでは、優れた一連の顧客体験を継続的に提供するために、多様な顧客文脈を満たすデザインに取り組んでいます。前半に平林氏より紹介されたSDGsの普遍的価値の一つである、「だれひとり取り残さない」を実現する具体的なアプローチとしての「インクルーシブデザイン」について話しました。

これからに必要な「三方よし+未来よし」の考え方

図:左枠、三方よし+未来よし。社会(世間)、企業(自分)、顧客(相手)がトライアングルの相互関係で図化され、+未来が加わる。右枠、インクルーシブデザイン。心理的&身体的多様性をとらえて、気付いていなかったことに気づく。1、サービスの対象者を広げられる。2、これまでにない新しいサービスを考えられる。左枠から右枠へ矢印と文言「多様な人々を包摂するアプローチが必要。」

佐野は、今後持続可能な事業を行っていく上で、「三方よし」と「未来よし」という考え方が重要だと言います。

「なぜ今『三方よし』+『未来よし』なのか」の理由として、下記を挙げました。

  1. 1.ますます社会課題とそれらを取り巻く状況が多様化し複雑な時代になってきていること
  2. 2.ダイバーシティ&インクルージョンに対する世間の関心の高まり。さらに、その価値観が時代ごとに常に変化し続け、何かを正しいと言うことができないこと
  3. 3.社会性や環境性が顧客エンゲージメントに与える影響が大きくなっていること

特に3つ目に関して、これから社会の購買層の主役となるミレニアル世代やZ世代と呼ばれている現在10代後半から20代半ばまでの世代は環境や社会に対する関心が非常に高く、そうした価値観に基づいた意思決定や購買行動が実際にデータとして出てきているといいます。

企業がダイバーシティ&インクルージョンやSDGsに取り組むことが、企業価値や顧客エンゲージメントを裏付けるものとして必要不可欠になってきているのです。

そのため、これからの企業は三方よしに加え、「これからの社会をどのように良くしていくか」というところまで考えて事業に取り組んでいくことが必要であり、それを実現するために有効なのが、「心理的、身体的な多様性を捉えて、気付いていなかったことに気付いていくためのアプローチ」であるインクルーシブデザインだと佐野は捉えています。

「インクルーシブデザイン」に取り組む2つのメリット

企業がインクルーシブデザインに取り組むメリットは大きく分けて2つあると佐野は言います。

  1. 1.サービスの対象者が広がること
    情報アクセシビリティやユーザビリティを向上していくことによって、これまで届いていなかったユーザーや利用できていなかったユーザーにもリーチできることで全体の利用体験が高められるという側面
  2. 2.これまでにない新しいサービスを考えられること
    今まで絶対数が少ないと思われていた極端な属性や状況環境、利用方法に着目することで、見落としていた可能性の発見につながり、限られた人だけでなく、全体に応用することによって、さらに利便性を高め、新たな価値を見つけられるという側面

佐野は上記2つのメリットについて、具体的な事例を紹介します。

ウェブアクセシビリティへの対応

「サービスの対象者が広がること」の事例として、ウェブアクセシビリティという世界標準のルール・ガイドラインに対応することをまず挙げています。

図:左枠、「多様な人」のアイコン。中央、「多様な利用環境」のアイコン。右枠、「多様な利用状況」のアイコン。

例えば、今回のセミナーの参加方法においても、スマートフォン・ノートパソコン・大きなモニター……とさまざまなデバイスの利用が考えられます。また、電車の中など、身体的な障害の有無にかかわらず、音が出せない・聞けないシチュエーションもあります。そのような状況や環境に左右されず、だれもが情報にアクセスできるようにするためのデザインや実装、その方法と解決策を定めているガイドラインがウェブアクセシビリティだと佐野は説明します。

このような取り組みは、障害者や高齢者に限定した対応であると思われがちですが、全対象者においてビジネス機会損失を防ぐことになると佐野は強調します。
例えば、日本の老眼人口は、予備軍を含めるとおよそ7000万人といわれています。そのような状況において、アクセシビリティの対象は高齢者のみでないことは自明です。

さらに、アクセシビリティに対応することは当たり前になる世界が近づいていると佐野は言います。日本ではウェブアクセシビリティに非対応でも、罰金や罰則といった強い法規制はありません。アメリカをはじめとする諸外国では、すでに法律で規制されており、ウェブアクセシビリティに対応していないことは、人権侵害として訴訟のリスクをはらんでいるといいます。

前半の平林氏の紹介にもあったように、いくつかのグローバル企業はインクルーシブデザインへの取り組みの中でウェブアクセシビリティ対応を始めており、日本においてもアそれがスタンダードになる日がすぐそこまで来ているのではないかと佐野は感じているのです。

極端から普遍解を導く

現代においては、ダイバーシティ&インクルージョンという言葉を聞くと、どうしても人種や性別、年齢などのわかりやすい多様性を連想しがちです。しかし、価値観や生まれ育ってきた環境など、個人の内面に深く根付いている心理的多様性の部分にも、まだまだ考慮すべき要素があると佐野は指摘します。

これまで絶対数が少ないことやコストを理由に取り組んでこなかった多様性にこそ、多くの人の利便性や体験価値が高まる可能性が秘められているというのです。

その具体事例として、花王株式会社のアタックZEROのプロダクト改善が紹介されました。
リードユーザーと共同開発することで、開発者・ユーザー自身にも自覚のなかった観点からの気付きを得られ、すべてのユーザーの利便性の向上、売り上げのアップにつながったこのプロジェクト。特定の人の困りごとや不便、課題を解決することで、より幅広い人たちの体験価値や利便性が向上し、イノベーションにつながった事例は他にも多くあるといいます。

コンセントの取り組み事例

佐野は最後にコンセントのインクルーシブデザインの事例を3つ紹介しました。

事例イメージ

アクセシビリティ向上支援 (AbemaTV / freee)

視覚障害をもつユーザーのレビューを通してサービス改善を行ったプロジェクト。開発メンバーも気付いていなかった改善点の把握や、サービスの対象者が拡大されたことで利用体験全体の向上のヒントが得られた。

生活保護業務のサービスデザイン支援 (神戸市)

実際の利用者である市民の視点で課題を発見し、行政職員と共に行ったデザインプロセスを通して、生活保護業務の全体最適化を検討したプロジェクト。実際の生活保護受給者のご自宅に訪問してインタビューを行い、ユーザーの考え方や価値観を深く理解することで、今までとは違う視点で課題を捉えて改善策を検討することができた。

研修資料のアクセシブル化 (中外製薬)

全社員必須の研修において、スクリーンリーダーユーザーの社員も受講できるように研修の形式を考え、近眼・老眼・色覚特性などの「見えにくさ」を抱える社員にもわかりやすい表現で資料を作成したプロジェクト。「だれひとり取り残さない」ことへの対応だけではなく、研修全体の質を向上させることができた。

「だれひとり取り残さない」取り組みが可能性をひらく

最後に、「だれひとり取り残さないようにするにはどうしたらいいのかを考え、取り組むことで、サービスの対象者が広がり、これまでにない新しいサービスにつながるイノベーションのヒントを得ることができる」ことこそが、インクルーシブデザインというアプローチだと佐野は話を締めくくりました。

まとめ

SDGsの普遍的価値である「だれひとり取り残さない」と向き合うことは、新しい可能性を生み出すポジティブな取り組みであり、そのためには心理的・身体的多様性を捉えて、気付いていなかったことに気付くアプローチである「インクルーシブデザイン」が有効というお話を受け、参加者の方はSDGsと実際の事業とを接続するための一つのアプローチを具体的にイメージすることができたのではないでしょうか。

コンセントでは「人を中心として社会変化に適応し続けるシステムのデザインを実現する」ためのアプローチの一つとして、インクルーシブデザインを積極的に活用しています。ウェブサイトやアプリケーションのアクセシビリティ向上だけではなくサービス全体を包括的に捉えることで、さらなる利用体験の向上と、そのために必要な既存の観点では得られない示唆や可能性の獲得を目指しています。


※今回のセミナーでは「UDトーク」というZoomの字幕機能と連携できるアプリケーションを利用したリアルタイム字幕が用意されていました。字幕があることで聴覚障害の方だけでなく、移動中でやむを得ず音声を取得できない状況にいる方などの幅広い対象の体験価値を向上させることができると感じました。また、本レポートもUDトークのログをもとに作成しています。「だれひとり取り残さない」取り組みが、こうして情報を明文化し、共有を容易にすることにつながりました。

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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