デザイナーに託された、倫理

Service Design Global Conference 2021 参加レポート

  • 石井宏樹サービスデザイナー

(デザイナーの皆さん、聞こえますか……あなたの心に直接話し掛けています……デザイナーの立場だからできることがあるのです……頼みましたよ、デザイナーよ……)

……何か聞こえた気がしたが、昨年10月21、22日に開催された、サービスデザインの国際会議Service Design Global Conference 2021(以下、SDGC21)のレポートを書かなければいけない。

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出典:SDN EVENTS(閲覧日:2022年3月31日)

2021年のテーマは、「Taking a Stand(態度を明確にする/声を上げる)」。

私たちデザイナーやビジネスリーダーが下す決断は、意図したものであれ、意図しないものであれ、人々や地球に直接的に影響を及ぼしています。自然環境や倫理の課題に対して、デザイナーの立場から、何ができるかを考える2日間となりました。

SDGC21で考えたこと

2020年に続き、オンラインで開催されたSDGC21では、例年通り、事業や組織に対するサービスデザインの実践例や新しい方法論が共有されつつ、根底として上述の課題に対しデザイナーがいかに振る舞うことができるかが議論されました。

地球規模の環境問題や倫理と聞くと、なんだか身構えてしまいます。日常では意識していないことだからでしょうか。しかし、実際に大規模な森林火災や異常気象は増えています。そして、コロナ禍での生活を通じて、個人の社会からの扱われ方が果たして理にかなっていて、不公平がないかどうかを問う機会も増えました。

「おいおい、こっちはビジネスの世界で闘っているんだぞ。社会的なキャンペーンは、よそでやってくれ」と思われた方もいるかもしれません。あるセッションでも、「事業的にどのようなメリットがあるのかを教えてほしい。また反対に、利益を追求することが、こうした社会的な取り組みを挫折させてしまうのか?」といった質問がありました。

こうした問いに対して、SDGC21では、「正しい善い行いだから」「喫緊の環境課題だから」と、正当性だけを押し付けるのではなく、事業や組織の倫理的実践は、競合優位性と持続可能性を生み出すという前提で、発表が行われていたと思います。

いまの時代、(ほとんどの人が)カメラのない携帯を選ばないのと同じく、自然環境や倫理に考慮していない製品やサービスを求めないユーザーは増えています。私たち生活者は製品やサービスの選択を通じて、優れた体験と、自分たちの価値観を反映した日常を創っていくための機会が、企業から提供されることに期待しています。

事業性と社会性を両立させるための「正解」はありませんが、実践例は多く生まれています。事業の同質化や発展の限界に対する一手として、倫理的実践を捉えることができるかもしれません。

本レポートでは、自然環境や倫理という大きなテーマだからこそ、「1人のデザイナーとして何から始めることができるのか」という観点で、3つのトピックを紹介します。登壇者の関連情報や資料へのリンクを載せているので、気になった内容はぜひご覧ください。

1.既存概念にドロップキック

「システムを疑い、システムから考え、変えていく」
環境問題のような複雑な課題に対して、抜本的な変革を目指すアプローチを提案したオープニング基調講演「Design for Planet」を紹介します。登壇者は、英デザインカウンシルのチーフデザインオフィサーを務めるCat Drew氏です。

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「製品やサービスが環境に与える影響の80%は、デザインの段階で生じる」
出典:Cat Drew氏「Design for Planet」スライドより

デザインが自然環境に及ぼす影響は大きい。だからこそ、よい影響をもたらす力がデザインにはあります。サービスデザインを活用すべき3つの分野と、その実践例が紹介されました。

1. 低炭素社会(Low-carbon living)

  • Port Loop(バーミンガム・英):持続可能な暮らしを提供する運河沿いの地域コミュニティ
  • Salford Wetlands(サルフォード・英):河川の洪水対策において、地元コミュニティと協力し、堤防建設ではなく都市の湿地帯として、自然との共存を実現した都市計画


2. サーキュラーエコノミー(Circular economy)

  • CauliBox(英):テイクアウト時のプラスチックごみを削減する再利用可能な容器のループシステム
  • Fashion Revolution(英):2013年のラナ・プラザの災害を受けて設立された世界最大のファッション活動運動
  • Depop(英):次世代をターゲットとしたインスタグラムのようなUIのフリマアプリ
  • Elvis & Kresse(英):消火ホースを再生原料とするバッグ&アクセサリーブランド


3. 善い行いを容易で楽しいものにする(Easy and joyful experiences)

  • SafetyNet Technologies(英):漁業の混獲を防ぐ発光デバイス
  • Doconomy(スウェーデン):決済データから消費者のCO2排出量を可視化

一方で、大きな社会変革を起こしていくためには、既存のシステム内でこうした製品やサービスの開発を行うのではなく、システム自体を変革するアプローチが必要となります。

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“System-shifting design” 4つのデザイン活動
出典:Beyond Net Zero -A Systemic Design Approach- p45 (閲覧日:2022年3月31日)

代表的なデザイン思考のフレームワーク「ダブルダイヤモンド」は、解決策に飛びつかず、発散と収束の思考を通して、課題定義と解決のフェーズを明確にするプロセスです。

ただし、複雑な課題に取り組むためには、「ダブルダイヤモンド」では足りない視点があるとDrew氏は指摘し、「System-shifting design」というフレームワークを紹介しました(上図)。発散と収束(Divergent and Convergent)に加えて、次の3つのデザイン活動が提案されています。

1. ズームインとアウト(Zooming In and Out)

ミクロとマクロの両方に焦点を合わせ、プロジェクトから広い文脈へ、現在から未来へ、個人的な役割からより広い関係性へ目を向け、デザインプロジェクトが与えるプラスとマイナス両方の影響を考えます。


2. 破壊的変化(Disrupting and Remaking)

ガバナンスや規制、深く抱かれた思い込みや信念など、「見えない」構造の中にある問題の根本原因を掘り下げ、その問題を破壊し、必要な変化をもたらすために何ができるかを検討します。


3. 「目に見えない」活動を大事にする(Resourcing “Invisible” Activity)

プロジェクトそのものと同様に、プロジェクトを取り巻く人脈や関係性、リーダーシップ、ストーリーの伝え方を重視し、そこに適切なリソースと時間を費やします。

このようなシステムを変革する課題に挑む時、私たちデザイナー自身も、これまで当たり前とされてきたことを疑わなければいけません。英デザインカウンシルが発行する「System-shifting design」のレポートでは、次の3つの問いが投げ掛けられています。

1. ユーザー中心?(User-centric)

「エンドユーザー」に焦点を合わせることは、事業者の利益のためではなく、人々に目的の達成や利益をもたらす体験を設計する上で重要です。しかし、それは従業員よりも顧客、地球よりも人間のニーズを優先することで、持続可能で公平なシステムをデザインすることを犠牲にしているかもしれません。システムを扱うには、個別の個人だけではなく、私たち全員の関係性に焦点を合わせなければいけません。


2. デザインは、失敗しないため?(Designing out risk)

すべてのイノベーションにはリスクがつきものですが、そのリスクをマネジメントするために、デザインが活用されてきました。しかし、ユーザー調査や、エラーを早期に発見して解決するためのプロトタイピングが、失敗を恐れ、コントロールと確実性を求める証拠集めになっていないでしょうか? むしろ、私たちは早くうまく失敗して、反復的な開発から変革を推進しなければいけません。


3. 解決策で、終わり?(Solution-focused)

デザインプロセスとは、問題を定義し、製品やサービスのソリューションを提供するプロセスであると考えられています。継続的な改善を行ったとしても、解決対象はあくまでもシステムの一部の修正にとどまることがほとんどです。しかし、社会システムはダイナミックで、静的な解決策は適していません。つまり、デザインプロジェクトに「終わり」がないことを意味します。コントロールできるという幻想や完成されたソリューションという約束を放棄する必要があります。

ハッとしますよね。私はしました。全体的な視点(Holistic)の重要性を意識していても、気がつけば自分が当たり前とする世界から物事を見ていることを痛感します。次の章では、そんな自己の視点を問うセッションを紹介します。

[関連情報]
Design for Planet/Cat Drew

2. 多様性は(想像できないほど)複雑だ

「1つの世界の上に多様性があるのではなく、多様な世界が1人に1つ(か、1つ以上)あることを肝に銘じる」
「分かりあえない」を肯定的な前提とし、単一の世界を目指すのではなく、反復的に多様な価値観の共通項を探ることの重要性を指摘した2つのセッションを紹介します。

1つ目はNikhita Ghugari氏とSwar Raisinghani氏(Xeno Co-lab)による「Designing for Inclusivity」です。複数の宗教や公用語が共存する国、インドから登壇されました。

私たちデザイナーは、「誰かを排除している」可能性を、最終的な製品やサービスの提供時だけでなく、デザインのプロセスにおいても考慮できているでしょうか。例えば、リモート調査が主流となった現在、リサーチに協力できる人が限定され、無意識に排除が発生している可能性があります。

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Xeno Co-labのローカルな文脈理解を意識したインタビュー調査の様子
出典:Project Kish, Xeno Co-lab Project (閲覧日:2022年3月31日)

また、リサーチにおいて、調査への協力者をパートナーではなく、調査対象者と見なして一方的な力関係を感じさせていないかと彼女たちは問いかけます。デザイナーはプロセスから最終成果物まで、デザインによる排除に対しより意識的になる必要があるとし、「Slow Inclusion」というアイデアに基づき以下の3つのポイントを示しました。

  1. 1. インクルージョンは、関係を築いてこそ実現される(Facilitating inclusion does not lead to “feeling included”)
  2. 2. 浅慮な文脈理解は、限定的な結果を招く(Limited local context leads to limited inclusion)
  3. 3. デザインプロセス全体での連携が必要(Inclusive research may not translate to inclusive design)

私たちデザイナーは、他者に対する想像に限界があることを認め、さまざまな視点をチームに持ち込まなければいけません。「Slow Inclusion」は、相手の立場に対する慎重な姿勢と、対話し続ける忍耐をもってこそ、インクルーシブな社会の実現に一歩ずつ近づけることを気づかせてくれました。そしていまも排除されている人がいるからこそ、時間がかかってでも、プロセスやチームでインクルージョンを達成することの重要性を示しました。

2つ目は、「Protopia Futures Design Framework」と題された2日目のオープニング基調講演、登壇者は、リトアニアでフューチャーズ・リサーチャー(Futures Researcher)として活動するMonika Bielskyte氏です。

「プロトピア(Protopia)」とは、雑誌「WIRED」の創刊編集長を務めたKevin Kelly氏の造語で、ユートピアでもディストピアでもない、段階的な進歩によって実現する「よりよい未来」の思索を提言した言葉です。

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「今日よりわずかでも良くなる明日へ」 出典;Kevin Kelly氏 twitterより

Bielskyte氏も、絶望的なディストピアの対義とされているユートピアは、正しく、単一の未来を目指す植民地的なコンセプトだと批判し、継続的な対話で複数未来(futures)のビジョンを探索するプロトピアの姿勢を提案します。

一番重要なことは、これまで二元論で語られてきたさまざまな枠組みを超えて、多元的な世界の在り方に着目することです。つまり、他者を理解可能と見なす時のまなざしが、ある1つの世界に立脚していることに無自覚になっていないかを問う必要があります。

まだまだ日本では対岸の話のように語られがちな多様性ですが、「なんで、私だけ」という気持ちを抱くことは誰にでもあると思います。多様性は決して、マイノリティに対する配慮ではなく、私たちのコミュニティを考えるための概念です。自分も多様なプレイヤーの1人であり、目の前の人が自分とは異なる多様な世界をもっているという前提に立つことが大事だと思いました。

[関連情報]
Designing for Inclusivity/Nikhita Ghugari/Swar Raisinghani

Protopia Futures Design Framework/Monika Bielskyte

3. よい方向に変えられるなら、変えよう

「そもそもから考え、仕方がないと諦めない」
最後に、組織内の意思決定に焦点を合わせた「Decision systems in service design」を紹介します。登壇者は、Kim Goodwin氏です。現在は米Woebot HealthでUXデザインをリードしており、著書に『Designing for the Digital Age』があります。

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Design systemとDecision systemの関係を示した図 出典:Kim Goodwin氏 「Decision systems in service design」スライドより

近年、デザインシステムへの投資が進んでいますが、深層にある意思決定のシステム(Decision system)にも注力しないと、人々に真に成果や利益をもたらす体験は設計できないとGoodwin氏は指摘します。

数年前、とある航空会社でオーバーブッキングを理由に乗客を引きずり降ろした出来事が話題になったことを覚えている方も多いでしょう。これは極端な例ですが、よい体験を一貫性をもって提供するためには、デザインシステムだけでなく、現場や組織内でどのような価値観に基づいて意識決定が下されているのかを考える必要があります。

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Decision systemの構成要素 出典:Kim Goodwin氏 「Decision systems in service design」スライドより

人間中心的な価値を根底に据え、サービスに関わるすべての人に、不利益を与えず、よい体験を提供する意思決定システムの構成要素が紹介されました。

実行可能な倫理規範(Enforceable ethical standards)

個人情報の悪用や無断取得、ユーザーをだまし惑わすようなインターフェースなど、明らかに倫理規範から外れるものは、いますぐやめましょう。


広く適用され行動可能な原則(Broadly-applicable but actionable principles)

より具体的で、行動につながる原則を設定しましょう。例えば、「患者を第一に(Put patients first)」の代わりに、「患者の思い通りにさせる(Help patients feel in control)」とすることで、「複数」の選択肢を診療前から提供し、治療のゴールを「たずねる」などサービス提供者や施設の具体策に落とし込むことができます。


多様性あるチームと視点(Diverse teams (& diverse input))

「予測していなかった」「想像していなかった」ではいけません。一個人では、多様な視点は理解できないので、チーム、そして組織外の視点を積極的に取り入れましょう。


デザインプロセスとブレない軸 (Problem & solution tools / Specific principles)

デザインメソッドとプロセスはすべての階層で使用されます。深層で定めた具体的な視点に基づいて、実行しましょう。


評価指標 (Goal metrics / Values metrics / Stories)

人々の生活にどのようなよい(悪い)影響を与えたのかストーリーを大事にしましょう。
そして、ユーザーは達成したいゴールと犠牲にしたくない価値観のバランスで、サービスの体験を評価します。ユーザーが期待する以上の(余計な)取り組みが、提供価値を下げている可能性を考慮しましょう。

Goodwin氏は、決して意思決定システムをいますぐ組み立てましょうと言っているわけではないと説明します。ただ少なくとも、デザインシステムと同等に注力すべきで、組織の一番弱いところから、できるところから変えていこうと呼び掛けました。

[関連情報]
Decision systems in service design/Kim Goodwin

デザイナーとして自分の姿勢を示すところから始めよう

完璧な倫理観と多様性を体現する「聖・デザイナー」にはなれません。むしろ、正しくない行為や理解できないシステムに対しても寛容に、その背景を冷静に探る想像力が、デザイナーには求められているとSDGC21に参加して感じました。

そして、自然環境や倫理の課題に対して何が正当かではなく、「考慮できているか」と自分に問い直すこと。これまでデザイナーが、レイアウトや配色に気をつかってきたように、倫理的な側面に神経を尖らせることが求められているのです。

倫理には、最低限の規範はありますが、これだけ考えておけばいいという普遍的な解はありません。だからこそ、「多様な人々を巻き込んで、つくりながら考える」デザインの術を活かし、まずは、デザイナーの立場から、製品やサービスの設計を通して、倫理的観点を意識的に挟み込んでいくのは、どうでしょうか?

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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