新人デザイナーの可能性をひらく書籍対談

『ライト、ついてますかー問題発見の人間学』編

コンセントの代表取締役社長の長谷川敦士と新卒1年目の社員が1冊の本をテーマに対談。立場も年代も経験も異なる2人が、本から得られた気付きを通して、それぞれのデザイン観やデザインへの思いを語り合います。今回、長谷川と対談したのは冨田怜奈(デザイナー・2021年度新卒入社)。取り上げる書籍はD.C.ゴース・G.M.ワインバーグ 著 『ライト、ついてますかー問題発見の人間学』(1987.10 共立出版)です。

画像:記事タイトル「書籍対談」と、対談した長谷川と冨田の写真。

長谷川 敦士(写真左)

代表取締役社長/インフォメーションアーキテクト
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。「わかりやすさのデザイン」であるインフォメーションアーキテクチャ分野の第一人者。2002年に株式会社コンセントを設立。企業ウェブサイトの設計やサービス開発などを通じて、デザインの社会活用、デザイン自体の可能性の探索を行っている。

冨田 怜奈(写真右)

UX/UIデザイナー
成安造形大学芸術学部芸術学科メディアデザイン領域グラフィックデザイン専攻(現 情報デザイン領域グラフィックデザインコース)卒業。在学中はUX/UIを中心に、ウェブ、紙媒体など幅広いデザインを学ぶ。2021年、コンセントに新卒入社。主にサービスのUX設計やアプリケーションのUI設計に携わる。

書籍紹介

画像:書籍表紙
『ライト、ついてますかー問題発見の人間学』D.C.ゴース ・G.M.ワインバーグ著 木村泉訳|1987年10月刊行| 共立出版

『ライト、ついてますか―問題発見の人間学 』オフィシャルページ

「自動車用トンネルを抜けた後も車のヘッドライトを点灯して走行し、そのまま長時間駐車してバッテリーを上げてしまった経験はありませんか?この種の問題の解決策としてトンネルの出口に『ライトを消せ」という標識を出すことが考えられるけど、それだと夜中にライトを消す人があるかも知れません。もしあなたがトンネル管理者なら、どんな標識を考えますか?」

(出典:https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320023680

デザインに生きる“問題発見”の視点

———『ライト、ついてますかー問題発見の人間学』を新卒社員におすすめするに至った経緯を教えてください。

長谷川:この先、新卒社員の皆さんがコンセントでクライアントの問題解決に取り組むにあたっては“問題発見力”を身に付けてほしいと思ったからです。この本で語られている「問題とはそもそも何か」「自分たちが解決しようと思っていることは何か」という視点を、すべからくもっていてほしいと考えています。
僕自身は20代中盤にこの本を読んだことで、問題を捉え直す視点を得ました。それがデザインを実践する中で今でもすごく役立っています。
僕としては、デザインを学ぶ人はみんな読んでおくといい定番の本だと思っているのですが、意外と読まれていないのですよね。

冨田:私も、長谷川さんにすすめてもらうまで読んだことがありませんでした。
デザインを仕事にする上では、問題発見力が大事になってくるだろうという感覚はもともとありました。でも、これまでの人生では「問題は解決することが一番大事」という意識の方が強かったように感じます。まだその凝り固まった思考が自分の中に残っているとは感じるのですが、その中であらためて、問題発見の考え方を豊かにしてくれる1冊でした。

ひらめくには、まず本質を捉えること

長谷川:この本に書かれている問題発見の本質は「“問題をどう捉えるか”ということ自体を捉えていくことにより、人のクリエイティビティは促進される」ということですね。

『ライト、ついてますかー問題発見の人間学』の中では、「ユーザーが昼間トンネルを出る際に車のライトを消し忘れ、帰りにはバッテリーが上がって車が動かなくなるという問題が多発している。対処法として、どんな看板を提示しておけばいいか」という例が挙げられています。

「ライトを消して!」とだけ書くと、夜間に運転している人もライトを消してしまい、大きな事故につながるかもしれない。しかし「外が昼間で今ライトをつけているなら消してほしい、外が夜ならそのままつけておいてほしい、外が昼で今つけていないならそのままつけなくていいし、外が夜で今つけていないならつけてほしい……」といったように、バリエーションの違いを過剰に書くことに果たして意味はあるのか、という話でした。

写真:対談中の長谷川の様子。

結果として、運転手と車のライトとトンネルと外の環境とを俯瞰して捉え直し、「何もかもを記載することが正解ではなく、少しの働きかけによって運転手にライトのことを思い出してもらうことが重要なのではないか」という解決策にたどり着きました。長い文章ではなく「ライト、ついてますか?」というちょっと背中を押してあげる一言があれば十分だった、というオチでしたね。

解決策を足し算していくうちに、つい過剰なものが出来上がることがありますが、この例のように、問題の本質やそれを取り巻く背景、環境をまとめて捉えることで、みんながハッピーになれるスマートな解決方法が生まれます。

それは、頭がさえている人だからクリエイティブな答えを見つけられるわけではなく、全体を俯瞰して物事の本質を見極めた上で出す答えが、結果的にクリエイティブなものになっている、ということなのです。

冨田:はたから見ると、いきなりすごい角度からの問題解決策が出てきたように見えても、実際は突飛なひらめきではないということでしょうか?

長谷川:そうですね。全体を俯瞰して、いろいろな方向から問題を捉え直した結果の答えが、はたから見るとクリエイティブなひらめきに感じるということです。

現場で出合う“問題”の多面性

———問題発見と解決について、学生時代とコンセント入社後では意識が変わりましたか?

冨田:学生の頃は、ある程度用意された問題に対して解決策を考えて、それに向けた制作をしてきました。しかし実際に仕事を始めてみると、解決策をすぐ検討できる状況ばかりではないし、その仕事に関わるさまざまな人の立場や視点からまた新たな問題が生まれることも往々にしてあるとわかりました。

よく「デザインは問題解決だ」と言いますが、そのように一言で言えるものではなかったなと。それに加えてデザインには問題発見力も重要だということで、解決の前段階から試行錯誤する必要があり、難しさを感じる日々です。

長谷川:デザインの現場では、「そもそも問題はあるのか」「あるとすれば、どこからどこまでが問題なのか」「そしてそれは誰が決めるのか」というさまざまな疑問や課題と対峙しますね。さらに最近は「厄介な問題」と言われるような、答えもわからないし、そもそもそれが問題なのかもわからない、というようなことが、社会の一番の課題になっていることもあります。

例えば地方創生もその1つだと言えます。地方創生の一環として「観光客をいっぱい呼べばいいんだ!」と、観光産業に力を入れようとすることがよくあります。でも、果たしてそれが解決策でしょうか?確かに観光産業は潤うけれど、それがその土地の人にとって一番良いことなのかという問いが出てきますよね。

結局、同じ土地にいる人たちの間で「自分の場所が最も優れているんだ」と、互いに限られた観光客のパイを奪い合う状況になることもよくあります。もともとそういう争いがしたかったわけではないのに。
つまり、これもまた「何が問題なのか」を捉える視点が大事ということです。

コミュニケーションは答えの提示だけではない

冨田:問題発見力を磨けば実際の現場で「こんな問題を発見しました!」とクライアントに提案できる、というところでしょうか?

写真:対談中の冨田の様子。

長谷川:それも1つかもしれませんが、問題発見力を磨くことで、クライアントの抱える課題の本質を見抜いた適切なアウトプットへ導くコミュニケーションができるようになります。

例を挙げると、ちょうどサービスデザインやUXデザインが世間で重要視され始めた頃にコンセントにも「エスノグラフィ調査をしたいです」という相談が増えました。確かにエスノグラフィ調査は、顧客のライフスタイルについて実態がつかめる有効な調査なのですが、これは最上流のサービスの提案価値を探るときに有効となる発見的な調査なんですよね。

でも当時よくあった相談内容は、「UIデザインをやるためにエスノグラフィ調査をやりたいです」というようなものでした。最終ステップである画面設計をやりたいので、エスノグラフィ調査をお願いしたいです、という具合に。つまり、やるべきこととやるべきタイミングがずれている依頼が多かったのです。

そのときデザイナーがとるべきコミュニケーションは、「今やるべきなのはこれです」という、答えの提示が全てではありません。

そのような場面で実際に僕が行ったのは、当時コンセントで取り組んでいたサービスデザインの全体像を説明することでした。

コンセントのサービスデザインは全部で3つのステップがあって、それぞれのステップでやるべき調査が異なります。例えば、「提案価値の探索フェーズではエスノグラフィ調査のような文脈的調査を行い、次のUXデザインフェーズでは別の調査方法があります。UI設計フェーズではユーザビリティテストのような調査をやります。」……などという説明をしました。

すると、当初はエスノグラフィ調査を希望していたクライアントも、「なるほど、自分たちは今こういうことをやっているからこの調査がいいんだな」と気付きます。

このようなコミュニケーションをとっていくと、クライアント自身がそのとき向き合うべき問題は何かに気付け、さらに自分たちの中である程度解決できるようになります。すると次は、さらに難度が高い問題が見えてきて、「それならこれはコンセントにお願いしたい」という新たな依頼をいただくことがあります。

結果、コンセントもその難度が高い問題解決にチャレンジできる、という好循環が生まれるのです。

そんなご依頼をクライアントから相談していただけるように、コミュニケーションには一工夫が必要だと思っています。

冨田:クライアントからの新たなご依頼につながるコミュニケーションをとる、という観点はまだもてていませんでした。お話を聞きながら、その観点を考えていけたらいいなと思いました。

長谷川:そうですね。そのようなコミュニケーションをとるには、まずデザインの専門家として、相手の依頼の背景や状況を踏まえた上で、われわれができ得ることはもちろん、それ以外も俯瞰して捉え、考えていく必要があります。これを考えることが、デザインの専門家に求められることですからね。

自分ができること以外も含めて、どういう解決策があるのかを考えることとともに、決して自分ができることだけに結び付けない、という自己鍛錬が必要ではないかと思っています。

写真:対談中の長谷川と冨田の様子。

対談を終えて

問題発見とは何かと考えながら本を読んでも、狭い範囲にとらわれがちになってしまうことがあるな、と今日の対談の中であらためて感じました。高い視座をもち、問題やそれを取り巻く環境を見つめていけるよう、日々鍛錬を重ねていきたいです。(冨田)

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