サービスデザインツールの目的と活用法 2

  • 写真:佐藤 史

    佐藤 史(SATO Fumito)サービスデザイナー

画像:記事タイトル「Purpose & Usage of Service Design Tools 2」

こんにちは、サービスデザイナーの佐藤 史です。

サービスデザインを実践するために必要なツールを説明する記事を書いてからちょうど3年が経ちました(2021年現在)。3年の間で、サービスデザイナーに求められる役割とスキルセットは下記のように変化したと感じています。


「課題解決」の前に「ビジョンと課題の探索」を

自明な課題を解決することを目的としたプロジェクトだけではなく、「そもそもどこに課題が存在するのか?」「(課題を見つける以前に)自分たちの組織は何を目指して活動すべきか?」というようなことを、クライアントやステークホルダーの皆様と一緒に考えていくプロジェクトが増えました。

「外からの視点」だけでなく「内からの視点」でも考える

先述のようにビジョンや課題を探索するプロジェクトでは、ユーザーリサーチなどによって「外から何を見て(調べて)得た事実」から演繹的に答えを出すだけではなく、自分もしくは自分たちの組織について内省を試みたり存在意義を問いかけたりするマインドセットも必要になってきます。

「プロジェクトやチーム単位での実践」から「組織での実践と運用」へ

2018年に経済産業省・特許庁より発表された「『デザイン経営』宣言」の影響もあり、コンセントのサービスデザイナーの活動は、プロジェクト単位での伴走するスタイルから、顧客視点で良いサービスを提供できる組織づくりを目指して継続的に伴走し続けるスタイルへと大きく変化しました。
そのようなスタイルのプロジェクトでは、以前から存在する手法・ツールであっても、プロジェクトやチーム単位で実践するだけではなく、どうすれば組織単位で継続的に運用していけるかという視点をもって活用していくことが重要になります。

このような背景のもと、ここ2、3年の間に、サービスデザインのプロジェクトで新たに使われる機会が増えてきた用語を紹介するために、「サービスデザインツールの目的と活用法」の続編を書きました。前回の記事と併せて、皆さんが所属する組織でご活用いただければ幸いです。

用語の選択にあたっては、先に述べた「ビジョンと課題の探索」「内からの視点でも考える」「組織での実践と運用」のために必要となりそうなものを中心にアットランダムに選んだ上で、前回記事と同様、「概念」「手法」「ツール」に分類しました。「手法」や「ツール」を活用する上では、まず「概念」を正しく理解することが重要なので、その点に注意して読み進めてください。

また、今回は現場でより活用しやすいものとするために、書籍などで述べられている一般的な説明は必要最小限にとどめ、コンセントでのプロジェクト経験に基づいた解釈やTipsをできるだけ盛り込んで執筆しました。私個人の見解も多く含まれるため、より体系的に深く理解されたい方は参考書籍や関連リンクも併せてご覧になってください。

概念

価値共創

サービスデザインでは、モノやサービスの価値は、提供者(事業者)だけで定めて受益者(ユーザー)に一方的に「提供」されるのではなく、提供者と受益者をはじめとする社会的もしくは経済的な背景のなかで「共創」されるものだという考えが根底にあります。

例えば、「ワイン」という製品ひとつをとっても、そこに「滋養」「味わい」「料理の素材」といった便益的価値を認識する人もいれば、「贈り物」「ステータスシンボル」「空間の演出」といった情緒的価値を認識する人もおり、どう感じてほしいかや価格は提供者が決めるが最終的にその価値を判断するのは受益者という考え方です。

また、その価値はサービスが世に出されたあとで発見される場合もあります。例えば、Twitterは初期の頃は文字数を最小限に絞ったブログツールに近い文脈で世に出されましたが、サービスの広がりに伴ってユーザーがそこに「ニュースメディア」の価値を発見し、テキストボックスに表示される問いかけの文言が「What are you doing?(いまなにしてる?)」から「What’s happening?(いまどうしてる?)」に変わったことは、提供者と受益者、そしてそれらを取り囲む社会のなかで新しい価値が共創されたわかりやすい事例だと考えます。

サービスコンセプトやそのビジネススキームを検討する際でも、事業者とユーザーを取り巻く社会のなかで、どのような価値共創が考えられそうかを想像し構想することは非常に重要であり、検討のためには、サービスエコロジーマップやCVCAのような手法が有効です。

図:モノやサービスの価値は提供者から受益者(ユーザー)へ一方的に提示されるのではなく、意図やコンセプト、制度や文化規範、文脈などの背景のなかで共創されるものであることを表す。

※「価値共創」の説明にあたっては、下記の書籍も参考にさせていただきました。
『This is Service Design Doing サービスデザインの実践』(マーク・スティックドーン他著、安藤貴子他訳、長谷川敦士監修/株式会社ビー・エヌ・エヌ/2020年)
『サービスデザインの教科書 共創するビジネスのつくりかた』(武山政直著/エヌ・ティ・ティ出版株式会社/2017年)

ダブルダイヤモンドプロセス/トリプルダイヤモンドプロセス

ダブルダイヤモンドプロセスは、デザイン思考のフレームワークで、課題の発見から解決策の実現までのプロセスを「課題の発見」「課題の定義」「解決策を考える」「解決策を試す」の4つのステップから説明したものです。最近は、課題の発見と定義の前に「目的や展望、スコープを設定する」ステップがはいることを想定して、一番左端にもうひとつのダイヤモンドを置く「トリプルダイヤモンドプロセス」を実践する組織も増えています。この一番左端のダイヤモンドは「システム空間(※1)」や「ビジョン共有(※2)」という言葉で定義づけられていますが、いずれも「自分たちがそもそも何をやるべきかを考える」ためのステップといえるでしょう。

どのダイヤモンドも、柔軟かつ創造的に考えを巡らせて幅広く可能性を探っていく「拡散的思考」と、拡散されたアイデアを論理的に分析して方向性を絞り込んでいく「収束的思考」の2つから成立しており、プロジェクトを計画・推進する上では、この2つの異なる思考を意識して使い分けて、それぞれに適した手法・ツールを採用することが重要です。

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ダブルダイヤモンドプロセスの「課題定義」の前に「目的、スコープの設定」のダイヤモンドを追加したトリプルダイヤモンドプロセスの図。

インクルーシブデザイン

インクルーシブもしくはインクルージョンとは、直訳すると「包摂的な」「包み込む」という意味であり、一般的には、幅広い人間の多様性を認め、さまざまな視点から学ぶ姿勢を表し、これをデザインプロセスにおいて活用することをインクルーシブデザインといっています。

インクルーシブデザインというと、例えば製品をアクセシブルにしたり、障害当事者の人とワークショップのようなもので共創したりを連想される方も多いようですが、本来的にはもう少し広い概念です。

インクルーシブデザインでは、人の能力にはさまざまな制約や限界があるということを自覚し、サービスやプロダクトが使われる状況を幅広く考慮することで、最終的には誰にとっても価値のあるものが生まれるという考え方が根底にあります。

この考え方をサービスデザインのプロジェクトにおいて意識すると、例えば、何かのUI画面をつくるとき、弱視の方を意識して設計することで、最終的には弱視でない人でも暗すぎたり眩しすぎたりする場面で使いやすいプロダクトになるかもしれません。また、赤ちゃんを片手に抱えた親向けのサービスインタラクションのアイデアを考えることが、片腕を損傷してしまった人に向けたサービスのアイデアのヒントになったりするなども考えられます。

また、インクルーシブデザインでは、人の能力と環境は永続的なものではないことを意識することも重要です。サービスデザインの根底となる考え方の1つに「ユーザー中心」がありますが、そのユーザーの能力も年齢とともに変わり続けます。短期的な課題解決ではなく長期的なビジョンに基づいて持続的なサービスを構想する上でもインクルーシブデザインは非常に重要な考え方であると思います。

最後に、コンセントが実践したインクルーシブデザインの事例を1つ紹介します。下記の記事もぜひ併せてご参照ください。

エレベーターをインクルーシブなものに。 コンセントのプロトタイピング

※「インクルーシブデザイン」の説明にあたっては、下記の書籍も参考にさせていただきました。
『ミスマッチ 見えないユーザーを排除しない「インクルーシブ」なデザインへ』(キャット・ホームズ著、大野千鶴訳/株式会社ビー・エヌ・エヌ/2019年)

手法

ロジックモデル

ロジックモデルは、事業や組織が最終的に目指す変化・効果(アウトカム)の実現に向けて必要となる活動の仮説をその道筋・関係性も含めて図示したものであり、プロジェクトをはじめとするさまざまな長期的活動における見取り図の役割を果たします。

ロジックモデルは一般的に、アウトカム、アウトプット、活動、インプットを矢印でつなげたツリー型で表現されます。

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地方自治体の行政手続き改善プロジェクトで作成されたロジックモデルの見本。

<活用する場面とポイント>

サービスデザインのプロジェクトでは、ビジョンに基づき新規事業を構想する際や、サービスデザインを組織のさまざまなレベルに組み込んでいくための計画を立てる場面で、ロジックモデルがよく活用されます。

記述する際に押さえるべきポイントは、必ず最終的なゴールである「アウトカム」から考え始めることです。ゴールが達成された状況を想像し、そこから必要な活動を逆算してみることで、参加するメンバーが「いまできること」ではなく「やるべきこと」を起点に考えられるようになります。また、「アウトプット(どんな成果物をつくるか)」と「アウトカム(その成果物によってどんな波及効果を生みたいのか)」は記述の際に混同してしまいがちですので注意が必要です。活動を実施すること自体が目的化していないか? 活動した後にどんなインパクトを期待しているのか? を気にしながら作成しましょう。

またさらなる応用として、「インプット」と「活動」の部分は、そのもととなるリソースやそのリソース自体が現時点で捻出可能かどうかを切り分けて記述したり、それぞれの矢印を妨げる要因になりそうな「制約」も併せて記述したりしておくと、メンバーの意識合わせに有効です。

デザインドリブンイノベーション

デザインドリブンイノベーションとは、デザインによる「問題解決」ではなく、「意味づけ(sensemaking)」の観点に注目し、モノやサービスがもつ意味を(劇的に)変えて、新しい意味を見出す方法論で、日本では主に「意味のイノベーション」という言葉でも使われています(※3)

ここでいう「意味」とは、何らかの特別な重要性や、ユーザーに価値があると感じさせる目的意識のことを指します。例えば、人々が「掃除機」というモノに見出す意味は、「部屋をキレイにしてくれる」「家事をラクにしてくれる」などが考えられますが、これが「お掃除ロボット」だとそこには「ペットのように可愛がりたくなる」という新しい意味が加わるかもしれません。

デザインドリブンイノベーション自体には、定まったプロセスや型があるわけではありませんが、アプローチの仕方は、先のお掃除ロボットの例のように技術的な視点も加味しながら「これまでになかった意味をつくること」と、「機能自体は変わらず昔から存在しているが顕在化されていなかった意味を探索する」の2通りのやり方があります(後者は、最近ですと例えばマイクロツーリズムのように身近な地域を新しい観光スポットとして再発見することが近いといえそうです)。

図:「共感と洞察」に加えて「類推と構想」が必要なことを表している。

新しい意味を見出すにはモノやサービスが持つ価値や意味を探索し、そこから新しい価値や需要を推測し構想することが必要。

<活用する場面とポイント>

デザインドリブンイノベーションを活用するに適した場面は大きく2つあります。1つ目は、機能や性能の競争に焦点があたりがちな市場において、新しい差別化要素を見出したいとき。もう1つは、アイデアは多く存在するが方向性が絞れないときです。

なお、ユーザーなど外の世界を観察することで答えを探していくデザインシンキングや人間中心設計のデザインプロセスとは一見対立するように感じられる人もいるかもしれませんが、私はむしろこれらは相互補完的な関係に近いものと考えます。

なぜなら、リサーチによって集めたインサイトをもとに新しいアイデアを考えるためには、自身(もしくは自分たちが所属する組織)の内発的動機に立ち返り、自分の目で世界を見て構想する力が欠かせないからです。

もちろん、それが単なる自分の思い込みに陥らないようにするため、デザインドリブンイノベーションでは、批判精神、つまり「見たいものだけを見ない」ことの重要性も併せて提唱されています。また、内発的動機をベースに組織や自身が本当にやるべきことを考えるためには、プロジェクトの最初に目的や展望、スコープを考える段階をしっかりと設けてメンバーの目的意識を明確にしておく必要があります(目的や展望、スコープを考える段階「ダブルダイヤモンドプロセス/トリプルダイヤモンドプロセス」の項を参照)。

※3. 参考書籍『突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる』(ロベルト・ベルガンティ著、八重樫文監訳、安西洋之監修/株式会社 日経BP/2017年)

ペースレイヤリング

ペースレイヤリングとは、雑誌『ホール・アース・カタログ』の創刊者スチュアート・ブランドが長い時間をかけて変化していく文明社会をとらえるためにつくったフレームワークです。

本来は「手法」ではなく「概念・コンセプト」に近いものですが、最近は、コンセントのサービスデザインのプロジェクトで未来予測シナリオなどを考える際に活用されることが多くなってきたので本記事では「手法」のひとつとして紹介させていただきます。

ペースレイヤリングでは、文明社会を「流行」「商業」「インフラストラクチャー」「統治」「文化」「自然」という6つの層(レイヤー)に分けて示しており、変化が生じやすくその速度が速いものほど外側の層に位置づけられます。このように社会の様相を階層に分けて整理・記述することで、世のなかの事象に潜む根本的要因や因果関係を分析することに役立ちます。

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Brand Stewart, The Clock Of The Long Now: Time and Responsibility, Basic Books, Kindle版をもとにコンセントで作図。「流行」「商業」「インフラストラクチャー」「統治」「文化」「自然」の順番に変化するペースが速いことを表している。

<活用する場面とポイント>

サービスデザインのプロジェクトでは、新しい事業領域や企業ビジョンを検討する際、まずその前提となる周辺環境の未来の姿を理解するためにペースレイヤリングを活用します。
ただ、未来を予測するためには、参加者にも相当な量の情報・知識が求められるため、コンセントでは、誰もが参加しやすいワークショップ形式でそのような対話を行えるよう、「シグナルカード」というツールとセットでペースレイヤリングを実践しています。未来へのシグナルとなる具体的でさまざまなトピックを見ながら対話することで、参加するメンバーから自社のビジネスに関する新しいインスピレーションや問題意識を引き出すことを可能にしています。

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左画像:「シグナルカード」。右画像:「シグナルカード」を使った未来予測ワークショップの成果物。未来変化のトピックとその相関関係をペースレイヤリングの6つの階層に位置づけて整理している。

クエスチョンストーミング

クエスチョンストーミングとは、会議やワークショップの場でブレインストーミング同様に個人の考えを発散させる手法ですが、発散させるものがアイデアではなく「クエスチョン(問い)」であることが特徴です。

デザインプロセスでは、アイデアを発散させるためには、まったく制限がない状態で考えれば良いものが生まれるわけではありません。そもそもどういう着眼点でアイデアを考えるか、考えるための枠組みを設定することが重要であり、その枠組みも、広すぎたり狭すぎたりしないように適切な範囲を見定める必要があります。

クエスチョンストーミングの代表的なやり方の1つに、「How might we...?(どうすれば……できるだろう?)」という問いの構文があります。困難そうだがやり方を工夫することで解決策が見出せそうな「問い」を考えてみようというポジティブなニュアンスが含まれているようで、コンセントでも共創ワークショップなどの場ではこの構文をよく活用しています。

<活用する場面とポイント>

サービスデザインのプロジェクトでは、リサーチによって得られた分析結果をメンバー全員が理解し、アイディエーションに進む段階で活用することが多いです。また、アイデアを一度は発散したが、発散されすぎて、そもそもの課題意識がどこにあったのか立ち返る必要が出てきた場面などでも有効です。

活用する上では、先に述べた通り、適切な範囲と難易度の問いを探すことが重要です。良い問いを選ぶ基準は、私自身も一概に説明することが難しいのですが、概ね「自分たちにとって適度にチャレンジングだと感じられるか」「モチベーションをもって取り組めそうか」「いろいろな可能性がイメージできそうか」などの視点で選んでいくとよいと思います。

フォーカスグループ/MROC

フォーカスグループは、リサーチャーが数名の被験者を集めて、特定のテーマに関して質問を投げかけ、それに対して被験者が答えたり、被験者同士で対話してもらったりすることで価値観やインサイトを探るリサーチ手法です。

1対1のインタビューと比較して、被験者同士が対話することで、新しい気づきや発言が促されるメリットがあります。

一方で、他者の目に触れることをユーザーが意識して発言してしまうことや、被験者が普段生活している空間とは別の会場に足を運ぶことで生じる文脈性の薄さが問題点として指摘されているようで、私自身の所感としても、サービスデザインのプロジェクトの場合、「被験者同士の相乗効果を期待する」ための手法としては、フォーカスグループよりもむしろリビングラボのような共創ワークショップのほうが多く活用されてきたように思います。

ただ、最近はCOVID-19感染拡大の影響でリアルなワークショップ開催が難しくなった状況のもと、フォーカスグループのオンライン版ともいえる手法として、MROC(Marketing Research Online Community)が注目されるようになりました。これは掲示板・ブログやチャットメッセージなどのオンラインコミュニティに被験者(参加者)を集めて参加者同士の対話からインサイトや新しいアイデアのヒントを得ようとする手法です。

オンラインであることのメリットを活用して、写真や動画をアップロードすることも可能なため、フォーカスグループで指摘されていた文脈性の薄さをある程度補完することも期待できそうです。

<活用する場面とポイント>

フォーカスグループ、MROCともにサービスデザインのプロジェクトでは、さまざまなユーザーの価値観や行動パターンを探す、もしくは、特定のテーマや課題に対してアイデアのヒントを得ようとする、という課題探索の段階で活用されます。

前者の場合は、大まかな傾向を定量的に把握するためのアンケートと、後者の場合は、ヒントになりそうな発言をした人にあらためてその背景を探る単独のデプスインタビューと、それぞれ組み合わせて実施することで、リサーチの精度をさらに上げることができます。

なお、MROCの場合は、非同期型のコミュニケーションで被験者の時間を拘束しないメリットがある半面、オンラインコミュニティを立ち上げるための準備期間とコストも相応にかかるため、単独のプロジェクトではなく、リビングラボと同様にCSV活動という位置づけで採用する企業も最近は多いようです。

ダーティプロトタイピング

ダーティプロトタイピングとは、アイデアを、段ボールやテープ、手書きのスケッチなど身の回りにあるもので簡易につくってみることです。

「アイデアは雑でもよいからまずカタチにして議論なり評価することが大切」「プロトタイプは必要以上に作り込みすぎると却ってそのアイデアに固執してしまう」といったデザインシンキングの重要なマインドセットが「ダーティ」という言葉に込められていると思います。

写真:紙コップやダンボールなどで制作されたダーティープロトタイプ。

未来の食に関するサービスをカタチにしてみたダーティープロトタイプ。アイデア発想のためのワークショップで参加者が作成。

<活用する場面とポイント>

サービスデザインのプロジェクトでは、サービスアイデアをもたらす体験(もしくは操作)がユーザーにとって自然なものかどうかを検証する場面でダーティプロトタイピングが用いられることが多く、検証では、ユーザーの行動や操作を「寸劇」の形式で演じて見せる「アクティングアウト」や、二人羽織のように誰かがオブジェクトを陰で操作してあたかも本当の機械が動作しているかのように見せる「オズの魔法使い」といった手法と組み合わせると効果的です。

また、ダーティプロトタイピングは、手早くカタチにすることがポイントですので、検証に進む前のアイディエーション段階でも活用できます。その際は、デザイナーやエンジニアなど多様なバックグラウンドをもっているメンバーと一緒に手を動かすことがお薦めです。

誰かのアイデアを他の人が「例えばこういうことですね」とカタチにすることでアイデアが発展したり、技術ドリブンからユニークなアイデアが創発されたり、エンジニアの視点が加わることでフィージビリティ観点を考慮してアイデアを収束させられたりなどの相乗効果が期待できると思います。

ツール

サービスエコロジーマップ(エコシステムマップ)

サービスエコロジーマップ(エコシステムマップとも呼ばれます)とは、特定の主体を中心に、それを取り巻くステークホルダー、製品・サービス、それらとの触媒となるデバイス・プラットフォーム・場所などを、その関係性も含めて記述したものです。ステークホルダーマップと似ていますが、人や組織以外の「モノ」や「システム」までも視覚化していることが特徴です。

図:特定主体を中心に置き、家族など身近な人、影響を与える人や組織、よく行く場所、所属しているコミュニティやそのルール、所有するモノ、利用するサービス、トレンド、接しているメディアやタッチポイントを周辺に配置。
<活用する場面とポイント>

サービスデザインのプロジェクトでは、ビジョンを検討したり課題を探索したりする際、その背景となる未来社会がどんなものであるのか、メンバー同士でイメージを合わせるためにサービスエコロジーマップがよく用いられます。これは、サービスエコロジーマップでは特定の主体(主に人や組織)を中心に視点が置かれることで、検討に参加するメンバーの目線を合わせやすいというメリットがあるからだと私は考えています。

また、イメージを合わせるためには、先述の「ペースレイヤリング」「シグナルカード」と併せて用いると効果的です。

(補足)「サービスエコロジーマップ」は、前回の記事でも紹介しました。その際は、主に現状理解と分析のためのツールと説明しましたが、ここ数年の間に、それだけが目的ではなく、ビジョン共有や未来構想のためのツールとしても活用される場面が多くなってきたため、今回あらためて紹介させていただきました。

カスタマージャーニーマップ

カスタマージャーニーマップとは、サービスを利用する顧客の体験を時系列で描き出したもので、ユーザーの行動文脈を理解したり、サービス体験のボトルネックを発見したりするために利用されます。カスタマージャーニーマップは、記述する範囲と目的によって主に以下のようなパターンが存在します。

  • As-Is/To-B 現状のサービス体験の理解/理想的なサービス体験の構想
  • Inside-out/Outside-in 事業者側がどんな体験を提供しているか/ユーザー側にとってそのサービスがどのように体験されるか
  • マクロからミクロまで 特定の企業やブランドが提供する複数のサービス体験とその連携方針から特定のサービスタッチポイントにおける体験まで
<活用する場面とポイント>

カスタマージャーニーマップは、一覧性に優れ、網羅的に情報を盛り込めるため、リサーチと分析の結果を共有したり、顧客体験の改善アイデアを考えたりなどサービスデザインのプロジェクトでは広く活用されます。

ただし、顧客のインサイトやタッチポイントは、時代とともに変化する社会や技術の変化に立脚するので、1回限りのプロジェクトで完成して終わりではなく、適切なタイミングで見直し更新をかけることが活用する上では重要となります。

このような背景を踏まえて、最近では、カスタマージャーニーマップを組織における事業戦略およびマネジメントのためのツールとして運用することを目的とした「Journey Map Ops」という考え方が提唱されるようになりました。

これは、顧客ライフサイクルの視点で、事業者が提供する複数のサービスやタッチポイントを俯瞰的に記述する上位概念のカスタマージャーニーマップから、顧客ライフサイクルの各フェーズや個別サービス、さらには個別サービスのタッチポイントごとに細分化されたカスタマージャーニーマップなどに至るまで、階層の異なる複数のカスタマージャーニーマップを一元的に管理していくことで、自分たちの組織がユーザーの課題や求める価値に過不足なくアプローチできているか(もしくは組織内で重複やコンフリクトが生じていないか)を定期的にモニタリングし、顧客体験のあるべき姿を実現するためのリソース・運用体制を整備していくことを目指した考え方です。

「Journey Map Ops」についてはこちらのページもご参照ください。

Journey Map Ops とは何か カスタマージャーニーマップはマネジメントツールに進化する?

CVCA

CVCAとは「Customer Value Chain Analysis(顧客価値連鎖分析)」の略で、サービスに関係するすべてのステークホルダーおよび、ステークホルダー間で発生する価値(お金、情報、便益など)のやり取りを整理して記述することで、どのような価値が、誰に提供されるのかを可視化する手法です。

サービスビジネスの構造を記述するツールとしては、ビジネスモデルキャンバスなども有名ですが、プレイヤーを提供者と受益者の2種類に分けて限定している、交換される価値を「対価(金銭)」に限定してしまいがち、などの理由により、B2B2Cやプラットフォーム型のサービスビジネススキームの記述には利用しづらいこともありました。

CVCAはこのようにステークホルダーの関係性が複雑なサービスビジネスのスキームを可視化して分析することに適しています。私個人としては、記述ルールが比較的シンプルなので初めての人でも記述しやすいこともこのツールをお薦めする理由の1つです。

図:顧客、小売店、経営コンサル、製造元の関係を表す。
<活用する場面とポイント>

サービスデザインのプロジェクトでは、特定の業界に関してリサーチを始める前にまず現状を理解して整理する場面や、アイディエーションを経てある程度収束したアイデアを実現性の観点から評価する場面でCVCAが活用されます。

記述する際には、ステークホルダーマップをベースに要素間の関係性を追加していくと検討しやすいです。各要素の関係性は、それぞれ「与えるもの(→)」と「受け取るもの(←)」のバランスがとれているかに注目するとよいです。例えば、「与えるもの(→)」の矢印だけが伸びていて「受け取るもの(←)」がない要素の場合は、そのプレイヤーにとってそのサービス(事業)に参加するメリット・動機は何なのか? を考える必要があるのかもしれません。

CVCAの活用方法については、下記の記事も併せてご参照ください。
ビジネスモデルの「変化」と「文脈」を発見する

[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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