「小1の壁」を集合知で乗り越える 働き方のデザイン(2)
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「小1の壁」*という言葉を耳にしたことはありますか。検索すると2000年前後の記事もヒットしてきます。この壁は、20年以上にわたって多くの人の前に立ちはだかってきました。
今回は、コンセントで実施された「小1の壁ってどんな壁?」と題された社内イベントと、子育てをしながら働く社員が実践するさまざまな取り組みについて、コンセントのウェブディレクター高瀬優子、力久結衣、山﨑貴史の3名がお話ししていきます。
子育てをしながら働いている方はもちろん、そうでない方にとっても役立つ働き方のヒントがお届けできればと思います。
*「小1の壁」は小学校入学により、仕事と子育ての両立が困難になる問題のこと。保育園は夕方まで子どもを預けることができるが、小学校は午後早い時間に終わるため、その後の預け先がないなどが起こり得る。また、小学校では平日行事なども多く、仕事への影響が大きくなることも挙げられる。
中2と5歳の娘2人の母。“おそろい”で増幅するかわいさに味を占め、隙あらばおそろいコーデを狙う。休日に寝坊して皆でゆっくり食べる朝ごはんが至福。UNO、KATAMINO、Scalinoなど年齢差があっても楽しめる遊びをあれこれ模索している。
小1の娘と年長の息子の母。コンセントがオフィス出社と在宅のハイブリッド勤務になったことをきっかけに千葉県外房エリアへ引っ越し、カエルやカマキリ(時々イノシシ)と一緒にのびのび子育て中。
小1の長男、3歳の長女、0歳の次女の父。父譲りのマイペースと頑固さを併せもつ3人の子どもたちとミュージカルのような毎日を過ごす(突然生活の中で歌い出す)。趣味はカメラとギター。
結局「小1の壁」ってどんな壁?
問題を自分ごと化。そのためにまず動いてみる
山﨑:「小1の壁ってどんな壁?」の開催にはどういう経緯があったんですか?
力久:翌年に長女の小学校入学を控えた1月頃に、実際のところ何に気を付けたらいいの?と。事前に知っておくとよさそうなことを、社内の先輩パパママさんたちに広く聞いてみる機会、みんなで雑談できる場をつくりたいなと思ったのがきっかけです。
高瀬:私はたまたま力久さんの呼びかけを見かけて。ちょうどそのとき、同じチームにお子さんの小学校就学を控えるメンバーがいて、個人的に話を聞きたいと言われていたので需要の高い情報なのかなと思って。
力久:そうなんですよね、他にも知りたい人がいるだろうし、毎年ぶつかる問題だし。みんなに聞いて、その情報をみんなに共有していけるようにできたらいいんじゃないかって。
高瀬:さっそく情報を集めようと、オンラインホワイトボード「Miro」を使うことにしました。当時私はMiroを使う機会があまりなかったのですが、このイベントを通じてMiroの操作にも慣れることができました。
力久:Miroのボードに質問を並べて、画面共有しながら公開ヒアリングをするようなオンラインイベントを実施しました。イベント前に回答できる人はMiro内に付箋を貼っていってくださいとお願いしたら、想定を超える回答がきて。用意しておいた回答欄がすぐに足りなくなり慌てて増設したほどでした。
「小1の壁ってどんな壁?」で使ったMiroのボード。回答者が一つひとつの質問に丁寧に回答している。集合知としての価値もさることながら、回答者自身がやっていることの振り返りの機会になったこと、それらに対して共感してもらったり褒めてもらったりする場になったことも大きな収穫。イベント後に子どもが小学校に入学した人の回答も追加されていく。
自分と立場が近い人の生の声を集める
山﨑:私も拝見しました。長男の就学のタイミングでは、「使う道具などは小学校によって違いがあるから、お名前シールをあんまり先走って用意しない方がいい」とか、「ランドセルの色って今どんなだ」とか、事前に知れてよかったです。
力久:「通学の付き添いはしているか」「留守番させているか」「携帯電話はもたせているか」。そういったことの具体例が見えるので参考になりますよね。
高瀬:やっぱり近い境遇や働き方の人の話が聞きたいんですよね。「小1の壁」ってたぶんいくらでも検索すれば出てくると思うんですけど、それがコンセントだとどうか、自分だとどうかはまた違うから。
力久:そうそう、コンセントだとフレックス制や裁量労働制で働いているから時間の融通は効かせやすかったりしますしね。今はテレワークが中心なので、中抜けもしやすいですし。そういった働き方だけど、でも、結局「小1の壁ってどんな壁?」を知りたかった。
高瀬:始めた理由にも関わる話なんですが、以前つくった「復職サポートブック」の巻末に、子育て雑談を掲載していたんです。簡易的にパパママ社員にアンケートを取って編集したもので、それがけっこう好評だった。自分に近い環境の人の生の声って貴重なんだ! とそのとき思ったことも今回の企画につながっています。
「復職サポートブック」。高瀬の復職時はコロナ禍。社内で利用するシステムも大きく入れ替わっており、テレワーク環境でもあった。その際、高瀬自身がPCや勤怠システムなど、就労基盤のセットアップに四苦八苦した経験をもとに、後続の復職者のためにまとめたのが復職サポートブックだ。
雑談やちょっとした相談のしやすさが安心感に
子育てにまつわることならなんでもOKな場
力久:あと人事チームがつくってくれた「ベビー・キッズわっしょい」というTeamsチームも、息抜きとかちょっとした相談がしやすいです。
高瀬:山﨑くんのお子さんの写真投稿にほっこりしています。
山﨑:ありがとうございます(笑)。でも本当、うちの子どもたちのことを社内の人が認知して気にかけてくれて、会社のイベントなんかに子どもを連れてきたときもみんなかわいがってくれます。
社内イベントにも度々登場する山﨑家の子どもたちの成長は、他社員たちの楽しみにもなっている。他の社員の家族も社内イベントに登場することがしばしば。「小学生だったあの子がもう成人!」など、遠い親戚のような気分になる。
共通項の上のフラットなコミュニケーション
力久:Miroにしても、Teamsにしても、子育て中の役員もフラットにコメントしてくれるのがすごくいいですよね。
高瀬:そう、もともとフラットな関係性ではあるのだけど、「子をもつ親」という同じ立場があって、もう一歩距離が縮まる感覚がありますよね。お弁当のメニューの話とか。他の人が紹介したレシピを早速試してみた写真をアップしてくれたり。
娘に「パパのお弁当は茶色と黒と濃い緑しかない」と言われた役員がTeamsでレシピ共有されたおかずをつくって投稿した写真。子育て中のパパ役員同士でつくりおき料理の話題で盛り上がるらしい。
力久:意外な人の意外な側面を知れて安心したりもしますね。仕事ではすごくしっかり者できちんとしたプロジェクトマネージャーが、子どもの翌日の持ち物にてんやわんやしていたり。ちょっとしたことをすぐ共有できる場があるってだけで、だいぶ精神的に違うんじゃないかと思います。
「やさぐれた心の整え方」を欲する社員へのアイデアの一部。コメントには、具体的にこういうことをやっているという返信だけでなく、「わかる!」「私も知りたい」などなど、みんなが共感の一言を添えてくれる。正直、そういうリアクションだけでかなりのヒーリング効果が発揮されている。
今の自分に合わせて、働き方を変えてゆく
勤務形態やタスク管理手法・ツールのアレンジ
高瀬:コンセントにはガジェットに強い人が多いので、「こんなの使っているよ」とか「これだとこんなことができるよ」みたいな話もよく出ますね。
山﨑:私は長男にAirTag(Appleの「探す」アプリで位置情報を確認できるタグ)をもたせていますよ。いろいろなところに勝手に行ってしまったりするので、重宝しています。
力久:子どもにもたせる鍵の不足やそもそももたせることが不安といった鍵問題でも、SESAME(二次元コードが鍵になり開閉ログを残すことができる)やSwitchBot(指紋認証やパスワードで開閉できる)などが話題になっていました。
山﨑:コンセントらしい部分ですよね。勤務形態もいろいろと選択肢がありますが、お二人は今どういった働き方ですか?
力久:私は短日勤務をしています。水曜休みの週4日勤務*にしていて、平日の習い事に付き添っています。もう少し大きくなったら1人で行ってもらおうかなと思っているので、そうしたらまた形態を変えるかもしれません。
高瀬:週5日の短時間勤務*です。フルタイムに戻そうかなと考えることもありますが、下の子はまだ保育園に通っているので、今のところ短時間勤務を継続しています。
山﨑:私はフルタイム*ですが、最近は子どもと一緒に午後8時に就寝して午前7時に起床するという生活を送っています。子どもが帰ってきてから寝るまでは1分1秒が勝負の世界ですが、ワークスタイルとしては朝型になって調子がよいです。
力久:小学校の朝は早いですよね。仕事の内容にもメリハリがついたと思います。午後6時までに終われるようにタスクを組み立てています。
山﨑:昔は午後8時以降に帰るなんてこともありましたが、もう皆無ですね。私にとって子育ては子どもが生まれる前にイメージしていたものよりもずっとよいものでした。生活にもハリが出ました。
高瀬:朝晩に母業が追加になって常に業務拠点が2つある状態。仕事をあれもこれもやりたい! だったところから、最適なバランスを取る!になっています。仕事に割ける時間のリミットが常にあるので、詳細に手もち時間を計算して段取ります。かける時間/かけられる時間を把握して、1カ月、1週間、1日、1時間……と天気予報のように、先々の予定と毎日の予定を精緻化して動いています。作業が中断されることも多いので、次に再スタートするときスムーズに入れるように業務を細分化するなどしています。
力久:子育てから得たすべに忍耐力があります。子どもがすごく小さいときやイヤイヤ期はまったく話が通じない人の相手をすることになるので、仕事で無理難題があっても「いつかは解決する」(みんな話が通じる人たち)というマインドをもてるようになりました。
*就業形態は取材当時。
内容も運用も当事者にフィットした制度・仕組み
高瀬:せっかくなので、子育てに関連してやってよかったこと、使ってよかったサービスや制度、大事だなと思うことなど共有しませんか。
山﨑:いいですね。私はパートナーが出産するタイミングで約2カ月分の育休を取りました。それからわが家の場合、欠かせないのが実家パワーです。両家とも30分くらいの距離で頼りにさせてもらっています。
力久:新型コロナが蔓延して学校が臨時休校になったときに、会社から特別休暇が付与される仕組みが導入されたので、それを利用しました。休校がいつ明けるかわからない状態で、家で子どもを見ないといけなかったので助かりました。不安なところをキャッチしてすぐ動いてくれる労務管理の存在は心強い。
高瀬:産後ケア(宿泊型)はおすすめです。私は1カ月健診のときに、自治体の補助を利用してそのまま4日間入院したんですが、疲れがたまってきた頃に十分な睡眠・食事(つくらなくても出てくる!)、新生児にはプロのケアが受けられて安心でした。産後は頭が働かないので産前に予約しておいたのもよかったです。
山﨑:コンセントの場合、必要な申請なんかはできるだけ申請者の負担の少ないようにかつ迅速に対応してくれるバックオフィスがいるのは大きいですね。
当事者以外も含めた共通認識をつくる
山﨑:「小1の壁ってどんな壁?」のように、誰かが抱えた困難ややりづらさをなんとかしようというアクションを起こす人がいて、それに巻き込まれにいく人がいて、社員からのボトムアップが利く風土もあります。子どものことに限らず、制度だけがあっても、個々の事情に対して「お互いさまだよね」という共通認識がないときっと利用しにくいのかなと思います。
力久:私は1人目の育休中に2人目を妊娠したので、3年間丸々休みました。復帰はちょっと不安でしたが、とても温かく迎えてくれたので感謝しています。役員を含め、子育てをしながら、時間や業務のやりくりをして働いている人たちがたくさんいるのも、こんなふうに仕事できるんだという安心感につながっていると思います。
高瀬:2人目の子の復職時は丸2年休んでわからないことだらけ。コロナ禍でテレワークになっていて浦島太郎状態でした。業務に入るどころか、その前の社内のあれこれでつまずきまくってへこむ、焦る……。
そんなとき上司が「何がわからないのか、何に困るのか、ずっといる私たちには気付けない。だから、気付いたことを伝えてほしい。それでブラッシュアップできるものもあるから」と言ってくれたんです。「今、役に立っていない感満載の自分でも、役に立てることがあるのか」と救われました。この一言があって、自分がわからなかったところをわかるようにまとめて「復職サポートブック」をつくったんです。
テレワークで物理的には遠くなってしまったけど、心理的には近くに話せる人がいる。上司も同僚もパパママ社員も。そう感じられることはすごく恵まれているとは思いますが、働き方をデザインしていく上では必要なことだとも実感しています。
座談会時にメンバーで食べたケータリング。コンセントには「パパママランチ制度」というランチ費用支援制度がある。子育てに戸惑いの多い0〜2歳までの子をもつ社員が子育てや働き方について相談する機会創出をサポートしている。
複数のものごとのバランスをとり続けていくことはおもしろくもあり、なかなかに難しいことでもあります。今回登場した社員だけでなく、コンセントには子育てや介護、副業や学業などなど、いろんなことをしながら働く社員たちがたくさんいます。日々、それぞれに悩んだり、試行錯誤しながら働いています。
そして今読んでくださっているあなたもまたそんなふうに働くひとりであろうと思います。この記事の中に、「うんうん、そうなんだよね」と共感できる点や「これは使えそう!」と今後活用できそうな点が、ひとつでもあったらうれしいです。
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