多様な“働きやすさ”を実現する労務管理 働き方のデザイン(1)
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2023年7月1日、コンセントでは育児や介護などと仕事の両立をより行いやすくするための2つの制度「育児休暇」「ケア休暇」を導入しました。さかのぼれば1990年代には、産育休を取得し復職した社員が活躍していたコンセント。2000年代には遠方地勤務をする社員も出てきました。そんな多様な働き方を実現できるのはなぜか? コンセントの労働環境の整備を担うCulture Design groupの宇田俊彦と栗田裕美に話を聞きました。
宇田俊彦
Culture Design group 管理チーム チームマネージャー
筑波大学芸術専門学群卒業、1987年に有限会社集合デン(現コンセント)に入社。出版物のアートディレクターとして勤務。担当した媒体は「自由時間」「dancyu」「日経PC21」「週刊東洋経済」など。2007年より人事総務を統括。2019年より現職につき、社内規程の更新、安全衛生や防災を担当。防災士。
栗田裕美
Culture Design group 労務チーム チームマネージャー
システム開発会社で人事労務など、幅広くバックオフィス業務を経験し、2017年1月にコンセント入社。雇用契約管理や給与計算など人事労務まわりの実務実行から制度設計までを担当。
「働き方の選択肢」を増やし、復職に伴う不安を減らす
———「育児休暇」「ケア休暇」について、それぞれどのような制度なのか聞かせてください。
宇田:まず「育児休暇」は、お子さんが1歳になるまでの期間に取得できる有給休暇が、最大20日付与される制度です。育児休業や産後パパ育休(出生時育児休業)といった公的制度に加えて、コンセント独自の育児支援制度として導入しました。
「ケア休暇」では、家族の看護・介護や社員本人の傷病治療を目的に、年間最大20日間の有給休暇が取得できます。これも年次有給休暇とは別に付与される有給休暇です。介護休業や傷病手当金といった公的な仕組みに加えて導入し、長期的にケアが必要となった場合にも働き続けられる環境を支える制度です。
どちらも給与を払う休暇を最大20日間(約1カ月分)付与するというもので、2つをまとめて「ケア系休暇」として検討していきました。
出産・育児、看護・介護、傷病に関わるコンセントで利用できる制度。「ノーワークノーペイの原則(労働基準法第24条)」のもとでの公的制度にプラスして、有給休暇を特別付与するコンセント独自の制度が整備されている。
栗田:「休業」と「休暇」は、どちらも仕事を休むことは同じですが、公的制度を利用した「休業」の場合、給与の代わりに受けられる給付金は、給与の5~6割程度(社会保険料の免除を合わせても8割程度)であったり、申請に必要な書類が多く手続きが煩雑で、支給されるまでに時差が生じたりと少しハードルがあるのですよね。それに対して、今回の「ケア系休暇」は有給休暇なので、100%給与が支給され、手続きも社内のみ。勤務を続けながら、「この4週間はがっつり子育てに向き合う」「介護のために週3日勤務を2カ月間続ける」といった柔軟な働き方の選択が可能になります。
また、傷病などで長く休職していた人は、復職した際に有給休暇が残っていないことがあります。通院や体調不良で休まなければならないのに欠勤せざるを得ず、収入面での不安にもつながってしまう。少しずつ慣らしていきたい時期にこそ、安心してお休みできる制度としての休暇は必要なので、ぜひ「ケア系休暇」を活用してほしいです。
社内制度やルールを「特定の人」だけのものにしない
———「ケア系休暇」という形で2つの制度を同時に検討してきた経緯を教えてください。
宇田:同時導入の背景には、常にもっている「平等とはなんだろう」という問題意識があります。「育児休暇」は子育てをする人が対象です。もちろん出産・子育ては社会的に意義のあることですが、個々人の受け取り方として、自分には関係のない制度に見える人もいると思いますし、「また(自分以外の)子育てしている人ばかりが優遇される」という印象さえつくりかねない。でも私たちがつくる制度や仕組みは「特定の人」のためのものではありません。そうしたメッセージも含めて、もっと対象の広い制度も一緒に検討したいと考えました。
栗田:「平等」とか「公平」といったテーマは、この制度の設計や導入のタイミングに限らず、労務管理関連のミーティング中でよく話に上がりますよね。
宇田:そうですね、2021年に「同一労働同一賃金」が中小企業に適用されるようになった頃から、そのような議論がさらに増えてきたのかなと思います。雇用形態によって差をつけないという意識や本来的に等しい取り扱いは何かとか、偏りがないかという観点をより重視するようになっています。
本当に必要で使いやすい形を「そもそもから考える」
———コンセントの労務管理では「公平性」を重視しているのですね。他にはどんな特徴がありますか?
栗田:例えば新しい制度を検討するときに役員への提案を行うと、費用などの会社の負担が少ない方向への調整ではなくて、もっと自由度を高めたり、社員側のメリットが多くなったりする方向へフィードバックが入るんです。私はもともと他社で人事労務の仕事をしていてコンセントには中途入社したので、ちょっと驚いた部分でもあります。
宇田:労務・管理チームは、制度を導入後の運用業務と地続きに考えていきますが、役員はさらにその先を見ている人たちです。配慮すべきことが異なる人たちで検討していくことで、良いところにもっていけている感覚はあります。
「ケア休暇」でもそうでしたね。検討段階では仕組みとして新たな有給休暇の付与ではなくて、失効年次有給休暇を活用するというアイデアだったんです。もちろん年次有給休暇は本来使い切っていいものですから、利用を抑制しないように持ち越せる年休日数に上限を設けるなど、かなり細かく設計して。でも、役員会で「必要なものなのであれば、新しく付与すればよい」という判断になって、現在の制度に落ち着きました。
栗田:こういったプロセスの中で、私たちは「社員にとってのメリット」「会社にとってのメリット」「管理運用のしやすさ」の全てがバランスの取れた状態=継続的に運用していける状態になるように調整しています。制度や仕組みは持続性がとても大事なので。
宇田:制度や仕組みは後戻りできませんからね。うまくいかなかったからやめますというわけにはいかない。皆さんの生活に直結しますから。
その意味でもコンセントの行動指針にある「そもそもから考える」もポイントかもしれません。傷病療養目的の休暇であれば、そもそもどんなケースや事情があるのか、あり得るのかというところをチーム内で洗い出すところから検討を始めました。結局、社員が本当に必要とするものや使いやすい形でないと意味を成さないので必要なプロセスだと思っています。
社員への信頼の上に「決め切らない余白」をつくる
———社員のメリットが大きくなる傾向や制度利用の自由度があるという話がありましたが、具体的にどのようなものでしょうか?
宇田:例えば「家族」の定義というのも近い話かなと。「家族の介護」とあるけれど、「家族」とは誰かということになるわけです。現在コンセントでは、法律婚も事実婚も含めて2親等までを「家族」として慶弔などの制度適用をします。さらに「ケア休暇」を看護・介護で利用する場面では、この「家族」を超えていても、事情を鑑みて適用できるようにしています。
他にも「災害時お助け金」という仕組みがあります。大規模災害時にキャッシュレス決済が使えなくなることを想定し、社員が自由に借りることのできる少額の現金が用意されていて、災害時だけでなく平時でも利用できるよう整備しました。
こうした自由度のある運用が成立しているのは、会社から社員への信頼の表れでもありますね。
大規模災害時にキャッシュレス決済が使えなくなることを想定して整備された「災害時お助け金」。社員が自由に少額の現金を借りることができる。現金がなくて困ってしまった場合、平時にも利用可能。
栗田:そうですね。労務にもいろいろな質問がきますが、皆さんルールを確認した上で、この場合はどうなのかという質問が多くて、真面目な人が多いと感じます。一方で自由度とルーズさは異なるものなので、正しく伝わるようにも気を付けています。
宇田:あらゆるケースに対してルールを決めておくということもできますが、それで本当に幸せになるのかというのは疑問です。実際の世界って、白か黒かでは分けられないですよね。グレーな部分やグラデーションがある。ですから、コンセントでは決め切らない部分をあえて残しています。その部分を、社員の皆さんには互いにコミュニケーションを取りながら上手に取り扱ってほしいとも思っています。
制度・仕組みの伝え方に「編集デザイン」を活用する
———多様な働き方を支える制度・仕組みをつくり、運用していく中で大切にしていることは?
宇田:やはり伝え方やコミュニケーションの部分でしょうか。
例を挙げると、「労働時間のオキテ」というものがあります。これは、働き方改革関連法に対応するものですが、この法規制をもとに社員に説明しても複雑なので、何がポイントなのか理解してもらえず起こしたいアクションにつながらないと考えました。そこで、その内容をコンセント用に翻訳・要約したというものです。労務・管理チームと役員・マネージャーの有志からなる「働き方委員会」で作成しました。
働き方改革関連法対応のための守るべきルール「労働時間のオキテ」説明スライドの一部。覚えておいてほしい項目を「原則」「例外」「禁止」の3点に絞り込み、1スライドにまとめている。
栗田:自分たちの約束事というニュアンスの「オキテ」というネーミングで仕立て直した上で、導入時には全社説明会を行いました。新人研修や中途入社社員のオンボーディング研修などでも、この「労働時間のオキテ」の説明をしています。
毎月オンラインチャット上で全社に向けて、内容のリマインドを行っているほか、残業時間、打刻状況、稼働工数の週次集計リストを共有しており、稼働が高めであれば稼働調整をするなどのアクションにつなげています。
また、休暇取得を含めた労働時間管理は評価項目の一つに組み込まれていて、上長と本人の間で実施する、働き方に関する定期面談があります。この面談とは別に、原則である月残業45時間以下をクリアできなかった場合には、上長と本人で体調面の確認、超過の原因と対策を話し合う面談実施をルールとしています。
オンラインチャット上で毎月行う「労働時間のオキテ」のリマインド。「また同じ話(読まなくていいや)」とならないように、冒頭に季節ネタを盛り込み、タイトル背景イラストを毎回変更するなどの工夫も。
栗田:導入から約3年、並行していた「働き方委員会」のさまざまな活動も奏功し、コンセントの労働時間、残業時間は飛躍的に減少しました。2022年度の全体の残業時間は、月平均で10.29時間で、社員一人ひとりの意識に明らかな変化が表れています。
稼働や残業時間だけでなく、生産性という観点でも意識の変化があります。今どういう状況で、どういった課題があり、どこを調整すべきかという視点で、社員一人ひとりが活動できていると感じます。
この成果を受け、2023年4月からはさらに高い目標へと上限を再設定して、「労働時間のオキテ」はフェーズIIに入ったというところ。さらなる残業時間の低減を目指して、引き続き注力していきます。
———最後に今後の抱負などを教えてください。
宇田:「不本意な理由で仕事をリタイアさせたくない」という思いが根底にあります。働きたいときに働ける、そのためにも休みたいときに休める。それぞれのさまざまな状況に合わせて自分の働き方をデザインできるようにするというのは、それぞれが新しい働き方を見つけていく作業でもあります。そういうことができる環境をつくっていきたいですね。
栗田:そうした柔軟な働き方を受け容れられるようサポートするのが私たちの仕事です。もともとコンセントには、いろいろな人や働き方・事情を受け容れる土壌があります。この土壌を生かして、これからも社員が喜び、共感してくれて使いやすく、そしてちゃんと持続性のある制度や仕組みをつくって運用していきます。
写真/木村文平
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