サービスデザイナーのテクノロジーの知識を磨く 調べる習慣・発想する力

  • Facebookでシェアする
  • Xでシェアする
  • サービスデザイン
  • 教育・人材育成
  • コンセントカルチャー
  • 矢作優也のプロフィール写真

    矢作優也サービスデザイナー

社会状況もテクノロジーの進歩も、目まぐるしく移り変わる時代。新規事業開発などに携わるサービスデザイナーなら、そんな世の中のトレンドに敏感でありたいと常々思いますが、いつも情報にアンテナを張り続けるのはなかなか難しいことです。より効果的に、習慣的に知識を身に付けるすべはあるのでしょうか。

そんな課題を解決すべく、コンセントでは「技術トレンドのリサーチ力向上トレーニング」(2022年度実施)という組織内活動に取り組みました。筆者は活動の運営・参加者として携わりました、サービスデザイナーの矢作です。同じような悩みをもつデザイナーやデザイン組織の方にとって、少しでも解決のヒントを共有できれば幸いです。

メインビジュアル。Nature,Culture,Governance,Infrastructure,Commerce,Trendを表す6つのビジュアルの中央に検索窓があり、「技術 トレンド」と検索している様子

コンセントの組織内活動について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
関連記事:ひらくデザイン|組織の持続的な成長を支える コンセントの「イニシアチブ組織」

1. テクノロジーに明るいデザイナーになろう

現代社会におけるサービスデザインの実践は、テクノロジーへの理解なしにはもはや語ることが難しくなってきています。特に新規事業開発に取り組む際、アイデアの幅を広げたり、ビジネスの構想から実現に向けて具体性をもって推進したりするためには、テクノロジーやそのトレンドに関する知識が必要になってきます。ですが現実は、日常業務やその他のタスクに追われるあまり「日頃の情報収集まで手が回らない!」という方も多いのではないでしょうか?

私たちも同じような課題を抱えていました。コンセントではクライアントの新規事業開発プロジェクトなどに携わる機会が多くあります。にもかかわらず、全てのメンバーがテクノロジーに関するインプットや議論を積極的に行っているとはいえない状況がありました。

それは良い状態ではない。エンジニアだけではなくデザイナーたちも、もっとテクノロジーに関するリテラシーを備えよう。そう考えた私たちは、サービスデザインに取り組むメンバーの、テクノロジーに関するリテラシー向上を目指した活動をすることにしました。

2. トレーニング開始。立て付けはしっかりと

活動名は「技術トレンドのリサーチ力向上トレーニング」。参考までにこの活動の目的と概要は、以下になります。

活動概要

期間
2022年10月〜2023年5月

参加対象
コンセントに所属するメンバー30名程度(ロール・年次問わず)

目的

  • 日常的にテクノロジーに関する情報・トレンドに触れる機会をつくる
  • 最新テクノロジーについて意見交換できる場をつくる
  • 活動を通して、参加メンバーが技術リテラシーについて知識の偏りや不足を自覚する

活動プロセスは、大きく3ステップです。

STEP1|参加メンバーによるデスクリサーチ

まず参加メンバーには、個人でテクノロジーについてデスクリサーチを実施してもらい、そのリサーチ結果をトピックごとに1枚の『シグナルカード』にまとめてもらいました。

シグナルカードとは?

「ペースレイヤリング(文明社会を変化スピードの視点で捉える思考)」をもとに、コンセントが独自に開発したツールキット。現在社会、あるいは未来に向けた兆し(シグナル)をカードに落とし込み、リサーチした情報などを整理・可視化することで、インプットやブレストに活用することが主な用途。

画像左側に1枚のシグナルカードが大きく写されており、右側に小さくシグナルカードが並んでいる図

シグナルカードの作成例。写真、タイトル、説明などで構成されている。

参考記事:ひらくデザイン|サービスデザインツールの目的と活用法(2)

STEP2|リサーチ結果共有会の開催

次に、参加メンバーを3〜5名のグループに分け、グループごとにリサーチ結果の共有会を開催しました。共有の際は各々が作成したシグナルカードを用い、そのトピックに関する所感と、どのようなサービスに活用できそうかについて、コメントをつける形で共有してもらいました。

実際にシグナルカードを作成した該当グループのMiroの画面キャプチャ

実際に参加メンバーが作成したシグナルカードの一覧。できるだけ他メンバーとトピックの重複がないようにした。

STEP3|共有会の振り返り

共有会の開催後に、参加メンバーごとに再度のデスクリサーチと、共有会の振り返りをしてもらい、運営メンバーがコメントを収集しました。収集したコメントは、この活動の効果観察やネクストアクションに向けた検討材料として活用しています。

参加者からのコメント(一部抜粋)

  • 他メンバーの集めたトピックで知らないことも多く、自分も偏った情報取得になっていると感じた。
  • 複数のメンバーで話すと、別のテクノロジーやテーマについても関連して話が発展して面白かった。
  • 一度知覚した内容は、アイデア発散するときに自分の引き出しを広げてくれると思う。

3. 活動もデザインしよう。工夫のポイントはこれ

活動のプロセス自体は、至ってシンプルです。しかし、各自でリサーチしたことをただ共有するだけでは、結局その時その場限りのワークにとどまってしまう可能性があります。それでは根本的な解決とはいえません。

せっかく取り組むのであれば、活動を通してリサーチした成果やブレストした経験をその後の実務で生かせるものとしたい。そう考えていた私たち運営メンバーは、このワークにいくつか工夫を取り入れました。ここからは、そのポイントを3つご紹介したいと思います。

POINT1|リサーチした情報をカード化

先述の通り、このトレーニングでは個人がリサーチした情報を『シグナルカード』というカードの形式にまとめてもらいました。

シグナルカード作成方法を説明する図

メンバーに展開したシグナルカードの作成方法

カードという物理的なモノに落とし込むことで、本来実体をもたない“情報”も、取り扱いやすくなります。トレーニングでは当初からリサーチ結果をもとにブレストすることを予定していたので、共有しやすいことはもちろん、各カードの情報をひも付けて連想するなど、メンバーの発想を自由に導き出す狙いで活用しました。

POINT2|有識メンバーと一緒にブレスト

共有会には、エンジニアなどテクノロジーに関するトレンドに詳しいメンバーも参加し、各カードの内容に対する補足やレビューを交えながら進行しました。

Teamsオンライン会議による共有会で、グループごとのシグナルカードを見ながら参加メンバーでブレストしている様子

オンラインで実施した共有会の様子。グループごとにまとめたシグナルカードを見ながらディスカッションした。

リサーチしたテクノロジーをビジネスで活用する際のメリット・デメリット、関連テクノロジーや未来における可能性、そのトピックから派生したアイデアなど、さまざまな観点で話が展開されました。有識メンバーが参加することで、リテラシー向上を目指すメンバーだけよりも視座の高い考察ができ、テクノロジーに関する理解を深めることができました。

POINT3|作成したカードを実務に活用

本活動で作成したシグナルカードは、後に実際のプロジェクトでも活用しました。

そのプロジェクトはビジョンデザインに関する研修を企画・実施するというもので、クライアント企業のエンジニア職の方を対象としたものです。その研修では、エンジニアリング視点でデザインアプローチを取り入れるアイディエーションワークがあり、シグナルカードはアイデアを発散させる前のウォームアップのために、参考情報として参加者に提示しました。

今回のトレーニングで作成したシグナルカードは、約120枚に及びます。この成果は活動終了後も社内の情報資産として、ナレッジ共有や他プロジェクトに役立てられるようカードのアップデートや活用促進に努めています。

4. 「知っている」それだけでは足りない

この活動で参加メンバーが作成したカード数・リサーチ範囲・バリエーションは、多岐に及びました。結果、テクノロジーに対するメンバーの知識量や偏りをあらためて可視化できました。

参加メンバーからは「日々のインプットに対する再認識や行動変容を促すきっかけになった」「情報への向き合い方や態度が変わった」といった前向きなコメントが多くあり、普段の姿勢を見直す良い機会となったようです。

またこの活動では普段の業務内の対話とは異なり、興味の赴く方向へ自由に議論を運ぶことができたり、プロジェクトでの関わりがないメンバーの意見に触れたりできました。それが楽しく刺激的な時間で、私自身もとても有意義に感じました。

デザイナーの主な使命は、ユーザー体験やビジネスゴールに主眼を置いた包括的なサービスをつくることに他なりません。

しかし、そのためのより良い発想やパフォーマンスには、アイデアとテクノロジーを地続きで見据える観点が必要です。「そのテクノロジーはすでに知っている」「その知識はもっている」。それだけでは足りない、満足してはいけないのだと思います。

それがどのようにユーザー体験の向上に寄与するか?ビジネスメリットを生み出すか?よりよいサービス形成につながるのか?その探究が、これからのデザイナーには必要です。

コンセントではこれからも、テクノロジーに関する知見をもった専門家とデザイナーの連携をより強化していきます。最後に私自身も、サービスデザイナーとして活動を続ける上で、最新テクノロジーに関する知見を広げながら、スキルのアップデートを続けたいと思っています。

[ 執筆者 ]

  • Facebookでシェアする
  • Xでシェアする

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

ページの先頭に戻る