バーチャルオフィスで働く未来は、すぐそこまで来ている メタバースの実践的ビジネス活用
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「メタバース」という言葉を知っていますか?
メタバースは、コンピューターグラフィックスや仮想現実の技術によって、現実の世界とは異なる体験を可能にする仮想デジタル空間です。この空間で、ユーザーはバーチャルなキャラクターを操作して他のユーザーと対話し、さまざまな活動を楽しむことができます。対面でのコミュニケーションが制限されたコロナ禍中に特に注目を浴びるようになったワードです。
少し前まではエンターテインメントなど限られた用途の中で語られることの多かったメタバースですが、情報通信・ハード・ソフト全ての技術が目まぐるしく発達している現在、ごくふつうのデジタルリテラシーをもつユーザーでも気軽にアクセスできるまでにその利用ハードルは低くなっています。
コンセントでは、より良い社会を目指し「新しい働き方をデザインする」という目的のもと、VR映像制作に長く携わってきた私を中心にビジネス活用できるメタバースの在り方を模索しています。今回、そのトライアルの一環として、メタバース上に実在のコンセントのオフィスを模したデジタルツイン(*)オフィスをつくるというプロジェクトを行いました。
事例|新しいコミュニケーションのかたちをつくる オフィスのメタバース活用
*:デジタルツインは、物理的な対象や環境をデジタル空間で精確にモデル化したものです。製造業、都市プランニング、IoTなどの分野で利用され、リアルワールドの作業効率化や改善をサポートするために重要なツールとなっています。
デジタルツインオフィスのポイント
コンセントのリアルオフィスは、コロナ禍を経て「集まる形の多様化」をコンセプトにリニューアルしました。
リニューアル後のオフィス。開放的な雰囲気のオープンスペースでは、思い思いの場所で作業やコミュニケーションができるようになっている。
しかし、オフィスは会社全体の共有物であり物理的なキャパシティがあるため、毎回自分にとって理想的な作業環境を得られるとは限りません。また、テレワークが認められていることもあり、出社回数が極端に少ない人もいます。
そこで、デジタルツインオフィスを制作する際には、リアルオフィスとの接点が多い人には程よい既視感の中にデジタルならではの斬新感を、少ない人には親近感や“行ってみたさ”を感じられる空間にすることを意識しました。
左がリアルオフィス、右がデジタルツインオフィス。CADデータと現場取材をベースに制作したデジタルツインオフィスは、リアルオフィスのディテールが驚くほど再現されていることがわかる。例えば照明や配管ダクトなど。このように細かいところまでつくり込んでいくことにより、空間の臨場性が高まる。
現実を忠実に再現したエリアと併せて非現実的なエリアも用意することで、メタバースならではの「現実×非現実の融合」を実感できる体験設計にしています。
忠実に再現されたオフィス空間のドアを通り、暗い回廊を抜けた先にはいかにも仮想世界といった非現実的な空間が広がる。このようなリアリティと空想を行き来するような体験ができるのもメタバースの強み。
デジタルツインオフィス訪問会をしてみた
「プラットフォーム上にオフィスができたので、体験してみませんか?」と、社内全体に告知しました。「気になる!」と反応した人に対しデジタルツインオフィスにアクセスするURLを配布し、予定時間になると手を挙げたメンバーが続々ログイン。
近くにいると話す声が直接届く。「初めまして」のメンバーもアバター(*)を介してだと気軽に声が掛けやすい。
*:アバターとは、仮想空間でユーザーを代理できるよう、その外見、性格、行動などを表現するために作成されたキャラクター。現実の外見や特性を忠実に再現するだけでなく、ユーザーが自分を自由に表現できるように非現実的な特徴や要素を組み合わせることもある。
リアルオフィスと対比すると、細部まで再現されていることがよくわかります。「コンセントのオフィスだ!」「ここまで同じなの」という声も。
近くにいる人と向き合って(時にモーションを交わしながら!)会話を交わし、遠くにいた人には近寄ったときに「あなたもいたんですか」と初めて気付いたりという物理的な距離感を感じさせるコミュニケーションも、平面ではなく空間であるメタバースならでは。
デジタルツインオフィスにはVRヘッドセット、またはPCから参加できる。自分の目線で空間探索ができ、より没入感を得られるのがVRヘッドセットを介した体験の特徴。一方でPCはより客観的・俯瞰的に仮想空間を楽しむことができる。
そもそも現実離れしすぎたアバターを使っているがために「〇〇さんだったんですか......」と頭上に表示される名前で気付いたり、VRチームのメンバーは本人の外見の再現率高めのアバターを利用しているので、すぐにわかったり。似せてつくる良さもあれば、アバターだからこそ引き出せる普段とは違った振る舞いもできたりと、外見を使い分けられる良さなどもありそうです。
メタバース空間の活用の未来
デジタルツインオフィスを体験した社内の参加者からは、さまざまな感想が聞こえました。
その中で、現実的な活用法として“ウェルカムスペースとしての活用”という話が上がりました。デジタルツインオフィス内を歩きながら、そこに配置されたオブジェクトに触れたり、リアルオフィスとの対比の話などでアイスブレイクし、そのままメタバースの空間内でアバターを使ったミーティングをするという、オンラインとオフラインの中間に位置するような新しい距離感のコミュニケーションが生まれる可能性を感じたという意見です。
一方で、同じURLの入り口から入る空間を全体で共有する運用では、「前の使用者が利用したオブジェクトがそのままになっていることがあるなど“空間が散らかる”という悩みが出てきそうだから、利用ルールをきちんと設定することが必要そう」といったリアルなオフィスにも近い課題の可能性も上がりました。
自分で家具など好きなオブジェクトを配置できたり、付箋や手書きメモを空間に残せるが、消去しないと空間が混然としてしまう。
この課題感に対し「別用途で利用したい場合はプロジェクトや会議ごとにURLを変えるという方法もある」という回避方法が述べられ、複製可能であることもデジタル空間のメリットだと感じました。
また、技術の進化により、現実世界の仮想モデルとして扱えるほど現実に近しい空間を複製できるようになったというメタバースの特徴を生かし、「イベントの際の展示スペースのシミュレーションに利用できるのではないか」「撮影前のロケハンに活用できないか」という声もありました。
また、平面的な画面で展開されるオンライン会議とは段違いな“臨場感”が得られるVRゴーグルの体験は、アイスブレイクや込み入った議論などの際に優位性を発揮するのではないかと考えています。
このように、いくつかの実運用への道筋は見えているものの、日常的な利用に際しての問題点はまだ多いというのも現実です。例えば、VRゴーグルの入手・セットアップのハードルの高さ、解像度が低い・フリーズするなどのデバイス由来の問題、メガネとゴーグルのダブル装着がきつい・酔うなどユーザー側の問題など。しかしテクノロジーの進化は日々進んでおり、Apple社から2024年には「Vision Pro」が発売されるなど、スマートフォンのように各家庭・個人がヘッドセット(VRゴーグル)を取得する日は遠からず訪れるかもしれません。新しいスタンダードをつくるには、失敗も含みで小さくトライアルを繰り返すこと、そこから課題を洗い出し次に生かすことが大切です。
なにごとにおいても不確実性が高く予測が困難な時代だからこそ、技術の進化と社会の変化を身をもって実体験し、試行錯誤を繰り返しながら社会を良くする方法を模索し続けることが、デザイン会社である私たちコンセントの役割だと考えています。
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