エンジニアのスキルアップ戦略 デザイン会社が実践するアウトカム思考型トレーニング法

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    小山直樹フロントエンドエンジニア

デザインの現場でエンジニアが活躍するにはどんなスキルが必要でしょうか?単にテクノロジーに関する知識が豊富であったり、実装スキルがあるだけでは立ち行かないと思います。私が思うに、要となるのは「提案力」「コミュニケーション力」そして「アウトカム思考」です。

この記事では、エンジニアが技術力だけではないスキルを備え、デザインプロジェクトのゴール達成に向けて自走できる人材となるためにコンセントで取り組んだスキルアップ活動を紹介します。同じエンジニアでこれからのキャリアアップやスキルアップ方法を模索している方、さらにエンジニアの後進育成を担うリーダーポジションの方にとって、今後のアクションのアイデアとして参考になれば幸いです。

エンジニアがステップアップしていく過程を表したイラスト

執筆は、2024年度からフロントエンドエンジニアが所属するグループのサブマネージャーを務める小山直樹です。最近はお互いの人材価値を高めながら自走できるエンジニアチームの形成を目標に、日々マネジメント業務に力を注いでいます。どうぞよろしくお願いします!

デザインの現場にあるエンジニアへの期待

実装力だけではない、備えるべきスキル

コンセントでは、1プロジェクトにさまざまなロール(職種)のメンバーが領域横断で関わり、共創しながら組織や社会の課題解決に取り組んでいます。

冒頭でも触れましたが、デザインプロジェクトに携わるエンジニアは、単に実装スキルがあれば務まるというわけではありません。クライアントの課題を理解した上で適切な技術選定をしたり、プロダクトの実装・運用過程で技術による解決策を検討したりするシーンが多々あります。そのためコンセントのデザイン人材育成ツール「技術マトリクス」*1には、フロントエンドエンジニアの必須スキルとして「フロントエンド実装」に加え、「エンジニアリングリサーチ」「エンジニアリング設計」「情報設計」などが含まれています。

*1 参考記事:コンセントの人材育成ツール「技術マトリクス」とは?デザイン経営に役立つ人材育成スキルマップ

さらに、技術についてリサーチしたことや設計内容をクライアントやプロジェクトメンバーに共有し、合意を得て共通理解を醸成しながらプロジェクトをリードしていく力も必要になります。そのスキルはまさしく提案力、コミュニケーション力、そして「今この状況に対して技術がもたらす価値は何か」という視点から発想するアウトカム思考なのです。

パフォーマンスの前に立ちはだかる壁

しかし、エンジニアがこれらのスキルを日々の業務経験だけで体得するのはなかなか難しいと感じます。私はその要因を、主に次の2点だと考えていました。

主な要因

  1. 1.実践に根付いた技術情報を共有する場が少ない

    技術が急速に進化・拡大する昨今、エンジニアは参画プロジェクトのあらゆるケースに応じて、さまざまな技術リサーチや技術チャレンジを実践しています。しかし、プロジェクトでの実践内容を共有する機会や場が少なく、個人の閉じられた知見となっているケースが多いと感じていました。

  2. 2.プロジェクト初期段階でのコミット機会が少ない

    多くのプロジェクトで、特に若手エンジニアのポジションが実装対応のみに偏ってしまう状況がありました。そのためにプロジェクトでのコミュニケーションシーンで積極的に提案する姿勢やマインドが育ちにくいと感じていました。

これらの状況を踏まえ、エンジニアの提案力・コミュニケーション力・アウトカム思考のレベルを底上げすることを狙いとして、2022年度からエンジニアチーム全員を対象にした技術共有会を企画・実施しました。

アウトプットの基礎体力を鍛える

その活動名は“INOUT GYM(インアウトジム)”。インプットとアウトプットを恒常的に行うためのトレーニングを筋トレに見立てて、ジムという表現に決めました。活動の主なルールは次の通りです。

ルール1:毎週1本、技術をテーマに記事を執筆する

チームメンバーには、各自が参画するプロジェクトなどで調べた技術や試した技術について共有する内容を記事形式で執筆してもらいました。執筆した記事は、コンセント全体で活用しているドキュメンテーションツールNotionに投稿し、社員全員が閲覧できる形で共有しました。

INOUT GYMのNotionのキャプチャー

実際に公開していたINOUT GYMの記事一覧ページ

自分自身がインプットした情報を記事形式に編集することで、経験や情報を知識として体系化し定着させることができます。また共有のしやすさも記事化のメリットです。エンジニアチームとして相乗的な効果を高めるために、最適なアプローチだと考えました。

ルール2:「対象読者」「読後のゴール」を設定する

記事には必ず「対象読者」と「読後のゴール」を設定し、その2つを意識して執筆することをルールにしました。提案力を強化するには、対象者と提案後の変容を想定する力が重要だと考えます。実際のプロジェクトで経験を積むことに勝るものはありませんが、この活動を実務のシミュレーションとして位置付け、能動的な提案姿勢の獲得を目指しました。

執筆ルールをまとめたNotionのキャプチャー

Notionの執筆フォーマット上に執筆ルールを明示。常に意識しながら取り組めるように工夫した

意図を明確にした記事執筆を行うことが初挑戦のメンバーもいたため、参加メンバー全員で社内のライティングスキル向上プログラム*2に参加して基礎固めにも取り組みました。

*2 参考記事:「書くのが苦手」の意識を変える 初心者向けライティングスキル向上プログラム

ルール3:お互いの記事に対してフィードバックする

記事公開後、執筆メンバーで集まり記事内容をもとに議論する技術共有会を行いました。メンバーはお互いの記事を事前に読んだ上でNotion上のコメント機能を使用してフィードバックしました。フィードバックの内容は、テーマへの補足や応用アイデアといった「技術力向上観点」と、想定した対象読者や読後のゴールの妥当性などに対する「提案力向上観点」に絞って行いました。

技術共有会では、メンバーが自作記事のサマリーを共有した後、事前に投稿されたフィードバックをもとに全員でディスカッションしました。コメントだけでは得られなかった新たな知見や、プロジェクトでの利用可能性まで検討が及び、この活動の中で一番盛り上がったパートです。

効果を最大化させるためのフォローアップ

活動の開始当初は「継続して取り組めるのか」「モチベーションや品質は保てるのか」といった不安がありました。でも結果として、この活動は1年間を通してメンバー全員が記事発信を継続することができ、次年度(2023年度)も新しい形式で継続することにつながりました。

エンジニアメンバーが日々の業務に取り組みながら週1本の記事執筆をするのは、ストレッチがあるチャレンジングな取り組みだと思います。私はマネージャー兼活動の運営者として、次のような施策を打ち、メンバーのフォローアップをしました。

施策1:個人の不安や不満を放置せず、全員で即改善に動く

活動期間中は、共有会以外で定期的な振り返り会を実施しました。そこでは活動に対するポジティブな意見だけではなく、不安や不満といったネガティブな意見も共有してもらいました。そして、共有されたネガティブな意見は絶対に放置せず、改善案を全員で考えるワークを行い、すぐに改善策を反映するプロセスを貫きました。

POINT|「自分たちでつくり上げる」という意識づくり

当初は改善策を検討・提案することに消極的なメンバーもいましたが、定期的な振り返りを行うことで、活動中盤からメンバー皆が積極的に改善点の提案をするようになりました。メンバーが主体的に活動のルールをつくり上げることで、活動へのモチベーション維持・向上につながりました。

メンバーの振り返りのコメントをまとめたもの。

振り返りワークの成果

良い記事の定義・基準をアイディエーションしたものをまとめた付箋
良くない記事の定義・基準をアイディエーションしたものをまとめた付箋

「良い記事の定義や基準がわからない」という課題を解決するために実施したグループワーク

施策2:客観的な評価を得て、活動の価値を実感させる

執筆活動のフローやルールがうまく回り出してからは、記事を組織全体へ共有しフィードバックを得ることにも注力しました。チームに閉じずに第三者へ積極的に発信することで、エンジニアメンバーだけでは確信をもちづらい活動の価値に対して客観的なリアクションを得ることが狙いでした。

POINT|客観性あるポジティブな評価で成功体験になる

組織全体に共有したところ活動自体にポジティブな評価が得られ、取り組むメンバーの不安の払拭や自信につながりました。自分たちのアウトプットに対する価値や評価を確かめたり、コミュニケーションついて広い視野で検討するきっかけとなりました。

実際のお知らせの画面
他メンバーからの取り組みに対する賛辞のコメント

Teams上でコンセント全体に公開した様子

ストイックに、でも楽しみながら取り組むことが大切

この活動の成果として、大きく2点実感したことがあります。

成果1:エンジニア同士でノウハウを共有する文化ができた

1つ目は、メンバー間での共通言語が増えたことです。「誰がどんな技術に強みをもっているか」が可視化されたことで、メンバー同士の技術的な相談が以前に比べ活発になり、積極的に情報交換したり協力的にリサーチしたりする文化が生まれました。

成果2:積極的にコミュニケーションするマインドができた

2つ目は、提案力・コミュニケーション力の向上です。この活動を境に、若手エンジニアが社外イベントへ積極的に登壇意欲を示すようになりました。伝わりやすいアウトプットスキルの向上はもちろん、プレゼンテーション機会を自発的に獲得する姿勢やマインドが身に付く結果となりました。

このような成果が生まれた本活動ですが、私が最も確信をもったことは、メンバー自身が「楽しい」と思いながら活動することの大切さです。エンジニア同士で技術の話をしている時間は、発表する側も視聴する側もとてもワクワクする時間でした。この「ワクワクする」という気持ちと、スキルアップという目的達成の境目をあえて曖昧にして取り組むことが成長の近道なのかもしれません。

いかがでしたか?エンジニアとして成長したいと考える方は多くいるでしょうが、目指す先や取り組むスタンスはさまざまだと思います。この記事が、成長した先の未来像の一つとして、そして取り組む際のスタンスの一例として、アイデアを提供できていれば幸いです。

[ 執筆者 ]

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コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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