デンマークのデザインファーム1508と考える「ローカーボンウェブ」
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こんにちは。アカウントマネージャーの髙木と大長です。
「今日も暑いですねー」2024年の夏、私たちが一番放った言葉だと思います。
例年以上の猛暑や雷雨で、クーラーと手持ち扇風機が必要不可欠だった今年の夏。各所で「異常気象」という単語を耳にする機会も増え、猛暑日を観測した地点の累積地点数や地域によっては連続猛暑日の日数も例年を上回り、温暖化傾向にあるとされています。
この温暖化に対して、日常生活において必要不可欠なインターネットも影響を与えていることをご存じでしたか。そう、今こうしてあなたが読んでいるこの記事も、二酸化炭素を排出しているのです。
1. 「Low Carbon Web(ローカーボンウェブ)」という言葉を知っていますか?
Low Carbon Web(ローカーボンウェブ)とは、ウェブサイトやインターネットサービスの運営において、エネルギー消費を最小限に抑え、温室効果ガス(特に二酸化炭素)の排出量を削減することを目的とした取り組みや技術を指します。
デジタル技術が環境に与える影響を減らすために注目されているこのコンセプトについて、コンセントはデンマークに拠点を置くデザインファーム「1508(フィフティーンオーエイト)」と、2024年8月にオンライン対談を実施しました。

1508のUXデザイナーKristine(クリスティーヌ)氏とMarina(マリナ)氏、そしてコンセントからUX/UIデザイナーの見野と、プロジェクトマネージャーの米川、サービスデザイナーの川岸、オスコの6名で実施しました。

コンセントが開発した「プレイフルボックス」を通じて、アイスブレイクを実施。
1508は、ウェブサイトのUX/UI制作を主軸事業とするデザインファームです。デザインの可能性と環境配慮のバランスを模索し続けており、ローカーボンウェブの認知度向上、・浸透に向けた活動をしています。9月上旬には、ウェブサイトのCO₂排出量などを診断するアセスメントツールを開発しました。
コンセントメンバーにとってもローカーボンウェブは新しい考え方でした。
ウェブサイトも環境に配慮したつくりにすることが可能ということには驚いた。(米川)
ローカーボンウェブのことを聞いたとき、そもそもインターネットが地球温暖化にどのような影響を与えているのかを知らなかった。同時に、エネルギーの消費を抑えるためには、例えば、ウェブサイト上で動画や画像の仕様を減らすなどのかたちで、効率的なパフォーマンスの向上を目指すということは想像がついたが、それ以外の想像はあまりできなかったし、何が良くて、何がダメなのかの評価軸もイメージがつかなかった。(見野)
初めてローカーボンウェブのことを聞いたとき、皆さんも同じような印象を抱くのではないでしょうか。日本ではあまり聞きなじみがないかもしれませんが、デンマークでは徐々に認知が進んでおり、どのようにして実現していくのか、「How to」が注目されているそうです。
画像や動画を減らせば、パフォーマンスも良くなるし、エネルギーの使用量も削減できます。一方で、適切なユーザー体験が担保されなくなってしまう可能性があることも事実。探したいものや必要な情報がすぐに見つからず、より長い時間閲覧してしまっては、結局多くのエネルギーを消費して、本末転倒です。ローカーボンという制限の中で伝わるコミュニケーションを実現していくため、常に模索しています。(Kristine氏)

対談の様子。それぞれのオフィスから参加した。
2. 制限がある中で表現すること
見野と同じように、ウェブサイトの低炭素化と聞くと、エネルギーの使用量をいかに減らすことができるかが重要視され、画面は暗め、画像や動画などは使用を控えるなど、多くの制約事項をイメージされるかもしれません。
私たちは、デザインは「伝えたい相手に、伝えたいことがきちんと伝わること」を担保する手段の一つだと考えています。
制約事項があっては、デザインの役割を果たすことが難しくなってしまうのではないか、表現の自由が損なわれてしまうのではないかと疑問に思っていると、Marina氏が解説してくれました。
ローカーボンウェブの話になると、クリエイティブの幅に制約がかかってしまうのではないか、という懸念がついてくるのが面白いところ。ただ、個人的には制約とは感じておらず、どちらかというと情報をしっかりを伝えることを前提とした一種のガイドラインのようなものと捉えています。「この動画はユーザー体験の向上につながっているのか」「この画像はユーザーにとって必要なのか」と、デザインとしての本質を見極め、意図を明確にし、時には視点を変えてみる良いきっかけだと思っています。これはローカーボンウェブに限った話ではなく、ユーザーにとって何が重要で、ちゃんと伝わるためにはどうするべきか、より良いユーザー体験を追求していく上での過程の一つだと捉えています。(Marina氏)
これを聞いた見野は、自身がアクセシビリティ導入に取り組んだときを振り返りました。
確かに、表現やデザインに意図をもたせることは重要だし、サイトのデザインは制約の中でどうクリエイティブを発揮するかが面白い部分だと感じている。アクセシビリティの導入に取り組んできた身としては、これまでもさまざまな制約の中でデザインしてきたし、これからも続くと思う。ユーザーが使う端末が増えれば、それだけレスポンシブ対応が増えるし、当初は制約に感じていたことも、10年もたてば当たり前になってくる。デザイナーはそういう制約と感じてしまいがちな新たな挑戦を積極的に表現し、デザインに取り入れていくことが責務だと思うし、デザイナーの仕事の面白さでもあると思う。(見野)
「そもそもデザインっていろいろな人を対象に、ありとあらゆる制限の中で生み出すものだから、難しいし、でもそこが面白いよね」と、Kristine氏もMarina氏も大きくうなずき、国や文化、言語を超えたデザイナー同士の共感が生まれた瞬間でした。

対談の様子。メモを取りながら話を聞く川岸と見野
ローカーボンウェブという新しい考え方を、制限と捉えるか、新たな観点としてデザインに取り入れていくか。
この面白さは、必ずしも全員にとって面白いと感じてもらえるわけでもない。30年、40年と同じ仕事を続けている人からするととても大きな壁、不自由さとして捉えられてしまうこともあるのが難しいところです。(Kristine氏)
壁として感じないためにも、デザイナーがきちんと理解することが重要だと感じた。クライアントへの説得も何がメリットで、何がデメリットになるのか、理解してもらうハードルの高さもありそう。(米川)
3. まずは知ることから
ローカーボンウェブだけに限らず、何か新しい手法や取り組みの実践、浸透にはとても時間がかかります。なぜ必要なのか、取り入れた先に何があって、どんなメリットがあるのか、具体的なイメージがないと、漠然とした壁を感じてしまい、なかなか最初の一歩を踏み出せないこともあるのではないでしょうか。
ローカーボンウェブをどう取り入れたらよいのか、取り入れることによってどんなメリットがあって、そのために私たちは何をしなければいけないのか。私たちコンセントメンバーも、ローカーボンウェブの話を聞きながら、そうした思いがありました。
最初から完璧を目指すのは無理です。100%サステナビリティを実現することも不可能に近いです。なのでまずは小さな気付きを得るところからスタートするのが大切だと思います。今どんな状態なのかを知るところからスタートして、小さくて、できそうなことから取り組んでみる。そうするとだんだん、その領域について詳しくなっていって、気付けば、意外と簡単に感じるようになっているものだと思います。(Kristine氏)
Kristine氏の言う通り、まずは小さなステップからでも取り組むことが、私たちも重要だと考えます。その第一歩として、1508は人々にウェブサイトの状況を知ってもらうためのツールを開発しました。

コンセントウェブサイトのアセスメント結果。トップページの訪問当たりのCO₂排出量は 0.23g。ちなみに、1508のウェブサイトは0.05g
最後に
The more knowledge we have, the easier it gets.(知見が増えると、取り組むことへのハードルも下がる)
この対談を通じて、最も意識したことです。
まずは、ローカーボンウェブを必ずしも守るべきルールとして捉えるのではなく、表現やデザインの意図を見つめ直し、その先にいるユーザーにとって何が一番良いかを考えるきっかけとして取り組んでみようと思いました。
コンセントでは今回の取り組みをはじめ、1508の現地オフィスへの訪問など、海外企業ともつながりをもちながら、積極的にデザインの領域、視野を広げる活動に取り組んでいます。
「ローカーボンウェブに興味がある」「こんな新しい取り組みがしたい」「ウェブサイトを見直したい」などのご相談もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。

2024年10月、1508のオフィスを現地訪問した。左からKristine氏、Oliver氏、川岸、髙木
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