「多様な働き方」を当事者意識をもって考える
インクルーシブなコミュニケーション
株式会社日立製作所様(以下、日立製作所)の労働条件の向上に取り組む日立製作所労働組合 東京地協様(以下、日立労組)が主催するDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)イベントにて、「オンライン時代のインクルーシブなコミュニケーション」という講演を担当しました。
講演では多様な環境・働き方の中で生じるオンラインコミュニケーションの課題や解決方法を紹介しました。参加者に多様さの実感をもってもらえるよう、画面が見えない・音が聞こえない状況を想像するワークや、スクリーンリーダー*によるテキスト読み上げ動画の視聴などを盛り込みました。
* スクリーンリーダーとは、画面に表示されるテキスト情報を音声で読み上げ、点字としても出力するソフトウェア。それ以外に、パソコンのキーボード操作を補助する機能ももっています。対応するOSやブラウザによって複数の種類があります。
- ドキュメント・スライド
- トレーニング・研修
- デザインガバナンス構築支援
[ プロジェクトのポイント ]
- 誰もが当事者意識をもって考えられるよう、多様な環境・働き方という観点からアクセシビリティ対応を解説
- 日立製作所で働く障がい当事者がオンラインコミュニケーションで感じる課題をヒアリングし、解決方法を紹介
- アクセシブルな講演スライド作成とプレゼンテーションの実施
プロジェクトの背景
日立製作所では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で在宅勤務が普及しました。しかし、情報アクセシビリティへの対応不足が、視覚や聴覚に障がいのある社員との円滑なオンラインコミュニケーションを妨げているという課題がありました。誰もが働きやすい職場づくりを目指し、インクルージョンの重要性やアクセシビリティ向上のための取り組みを組合員に紹介する講演を行いました。
問題解決までのアプローチ
自分に当てはめて考えるための視点を提供
DE&Iやアクセシビリティは障がい者やマイノリティ向けの特別対応である、という先入観をなかなか払拭できないことが課題でした。そこで、取り組む意義や業務での工夫を自分に当てはめて考えてもらえるように、私たちを取り巻く社会の変化、従業員の多様化、リモートワーク普及など働き方の多様化といった観点から伝えました。
加えて、普段の業務において実際にどのような課題があるのかを知るため、日立グループ内の従業員グループ「日立インクルーシブなみらいプロジェクト(通称「I-MIRAI」)」*メンバーである障がい当事者の皆さまにオンラインコミュニケーションでの困り事を挙げていただきました。
* 日立インクルーシブなみらいプロジェクト(通称「I-MIRAI」) 日立グループに勤務する障がい者が、どのように働き、何に困っているかを、話し合ったり、部門を超えた交流を図ることで、ネットワーキングや主体性を高める活動。社内SNSでの情報発信、社内システムのアクセシビリティ改善、イベントの開催などを実施。2008年発足の障がい者間情報共有メーリングリストから発展し、2020年発足。
ヒアリングからわかった課題
- 資料内の図やグラフ、変更箇所の色分けなど、見た目だけで表されている情報がある
- スクリーンリーダーで読み上げられない資料や操作できない社内システムがある
- 会議の文字起こしを使えないことがあったり、発言機会を与えてもらえなかったりで、情報取得・発信に不公平が生じている
ヒアリングを踏まえ、講演では多様な環境の人たちと一緒に働く上での課題と解決方法を紹介し、例としてスクリーンリーダーを使用しながらパソコンやスマートフォンを実際に操作する様子を動画で視聴しました。
画面が見えない・音が聞こえない状況を想像するミニワークも行いました。自分にも当てはまる状況だと感じることができれば、自分には関係ないという先入観をなくし、DE&Iやアクセシビリティを身近な取り組みとして捉えることができるからです。
インクルーシブなコミュニケーションをするための工夫
最後に、インクルーシブなコミュニケーションをするための具体的な取り組みを「打ち合わせ・コミュニケーション編」と「資料作成編」として紹介しました。
打ち合わせ・コミュニケーション編
特定の感覚や状況に左右されない表現での伝え方と、伝え方の手段を増やし状況に応じて選べるようにする工夫を紹介しました。お互いの認識齟齬を減らしコミュニケーションがスムーズになったり、多様な状況に対応し「参加できる人」を増やすことができます。
資料作成編
情報の見た目を「オモテ」、構造を「ウラ」と表現しました。さまざまな人に正確に伝えるための「オモテ」の工夫として、感覚的な要素(色・形・位置)だけで情報を伝えないことと、文字色と背景色に「4.5:1」以上のコントラストをつけることを紹介しました。
機械が情報を理解し自由自在に出力できるようにする「ウラ」の工夫として、Office系ツールでの適切な文書構造の設定方法を紹介しました。
クリエイティブのポイント
イベントはMicrosoft Teamsでのオンライン開催で、当日は約100名が参加しました。もちろんその中には視覚障がいや聴覚障がいのある方もいます。講演テーマでもある「インクルーシブなコミュニケーション」を実現するために、アクセシブルなプレゼンテーションを行いました。
スライド資料の工夫
資料はPDF版とWord版の2種類を作成し、事前に配布しました。2種類の内容は同じですが、PDF版は視覚的にわかりやすい表現、Word版は構造化された文章であることが特徴です。写真や事例を図で見て視覚的に理解を深めたい人はPDF版、スクリーンリーダーで読むなど構造化された文章で理解を深めたい人はWordという活用を想定しました。
PDF(PowerPointにて作成)
メリット
- 文字や図のレイアウト自由度が高く、視覚的にわかりやすく表現できる
- スライド単位で情報を切り替えられ、プレゼンテーションがしやすい
デメリット
- 情報がスライド単位のため、資料全体の文書構造が整理しにくい
- レイアウトの複雑さとスクリーンリーダーでの読み上げ順序設定の難易度が比例する
Word
メリット
- スタイル機能を用いて見出しや箇条書きなどの文書構造を適切に設定できるため、スクリーンリーダーで読みやすい
デメリット
- スライドごとの切り替わりなど、視覚的にメリハリのある表現がしにくい
スライド資料冒頭のPDF版(左)とWord版(右)
プレゼンテーションの工夫
喋っている音声のみでも過不足なく講演内容が伝わるように、スライド資料の要点は省略せず言葉で説明しました。「スライドに書いてある通り」や「スライドの図を見てください」といった、画面を見ないと伝わらない説明は避けました。当日は手話通訳の方もいらっしゃったので、早口になり過ぎずはっきり喋る、一文を簡潔に言い切る、専門用語は一般的な言葉で補足説明する、といった点も意識しました。
講演内容の手話通訳の様子
お客様の声
イベント開催後のアンケートにご回答いただいた63名中、41%の方から「大変満足」、59%の方から「満足」というポジティブな評価をいただきました。
- 日常業務の中で悩むことの多い、分かりやすい資料やデザインについて、新しい視点で見直すきっかけになった。
- 業務上でのコミュニケーションやメール作成時など、よりさまざまな人が見る・聞くことを意識して行動したいと思った。
- 普段から意識していないと、多様性=マイノリティへの配慮という考え方に陥りがちなので、相手の状況に思いを巡らせ、誠意をもってコミュニケーションしていきたい。
- 普段からできることを実践していけば、想像する癖がつき、新たな気付きにもつながると思った。
[ プロジェクト概要 ]
クライアント名 | 日立製作所労働組合 様 |
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