世界観を表現する「ロゴディレクション」 人の心を動かすアートディレクション(3)

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    斎藤広太コミュニケーションデザイナー/アートディレクター

「アートディレクション」と聞いて、あなたはどんなことを想像するでしょうか?
この記事は、コンセントメンバー5名が、それぞれどんな思考や工夫を重ねてアートディレクションと向き合っているのか、実例を交えて語る連載企画です。全5回にわたってお届けします。

イメージ:人の心を動かすアートディレクションvol.3

世界にはたくさんのクリエイティブが溢れ、私たちの毎日を彩っています。
本・ウェブサイトなどのデザイン、イラストレーション、写真、映像……。簡単にいうと、アートディレクションとは、そんなクリエイティブをどのように表現するか考え、実現していくことです。でもそれは、目に見える表層的な部分だけを指すのではありません。
そのクリエイティブを通して、人に何を伝え、何を感じてもらい、どんなアクションにつなげたいのか。私たちは、コミュニケーションそのものの在り方や本質を考えることもアートディレクションの大切な部分だと思っています。
今回のテーマは「ロゴディレクション」。ロゴを制作するときに何を考え、どんな想いを込めていくのか。企業・行政やサービスにとって、ロゴとはどんな存在であるのかを事例と共に解説します。

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こんにちは。コミュニケーションデザイナー・アートディレクターの斎藤です。

今、皆さんの近くにあるロゴを探してみてください。どんなものがありますか?
立ち上げているアプリケーションのアイコンや、手元にあるコーヒーショップのカップ。着ている服のどこかにも、ロゴがあるかもしれません。その一つひとつのロゴは、どのような想いのもとに生まれ、皆さんの生活に浸透しているのでしょうか。

ロゴは、企業・行政、サービスの姿勢や想いを凝縮し、それを広く伝えるために視覚的に表現したものです。だからこそ企業・行政にとって、ロゴはさまざまな活動をする上で常に中心となる支柱のような存在だと思います。
一方ユーザーにとっては、企業・行政やそのサービスとのコミュニケーションのきっかけになる存在だと思います。そのロゴを見て企業・行政やサービスを想起したり、好感や信頼の気持ちが芽生えたりなど、さまざまなことを瞬時に、無意識的に思い浮かべています。初めて訪れた街で買いものをしたいときに、よく立ち寄るお店のロゴを発見したら「あそこなら必要なものが買える」と思って安心しますよね。例えば、そのような感覚です。

私がロゴディレクションに取り組む際は、そのロゴにどんな想いやメッセージを込めていくのか、掘り下げながら検討していきます。また、ユーザーがそれを瞬時に認識したり感じたりできるよう、シンプルで明瞭な表現にすることも大切にしてアウトプットしていきます。具体的には、以下のプロセスで行います。

  1. 1.企業・行政の想いや理念を整理する
  2. 2.ユーザーへ伝えるべき印象を定義する
  3. 3.象徴となるモチーフを絞り込む
  4. 4.モチーフを細部まで洗練させる

このプロセスを、弁護士法人内田・鮫島法律事務所様(以下、USLF)の事例を通じて紹介していきます。

USLFは「技術法務で、日本の競争力に貢献する」をスローガンに掲げる法律事務所です。さまざまなバックグラウンドや経験をもった弁護士集団であるUSLFは、弁護士・弁理士・ビジネスコンサルティングといったスキルを生かして手掛ける「技術法務」というソリューションを提供してきました。
多様なスキルをもつ弁護士の統合的な価値を抽象化し、新たに定義することで、USLFの価値としてブランディングすること。それにより、USLFの価値を社内外でさらに認知向上させ、定着させること。その取り組みの一環として、ロゴのリデザインを行いました。

*技術法務とは:それぞれの弁護士が有する技術・ビジネスへの理解を基盤とし、知財・法務のスキルを活用してソリューションを提供する手法のこと。

1. 企業・行政の想いや理念を整理する

まずは企業・行政がもつ想いや理念を洗い出し、ロゴにどのような意味を込めるか検討するための足掛かりをつくります。
USLFにとって、ロゴに込めるべき想いとは何か。それを見つけ出すために、次の2つのアプローチを行いました。

  • つくり手の理解を深めるためのヒアリング。弁護士の方々に携わってきた業務の中で「技術法務」をどのように活用してきたのか、事例をもとに話を伺った。
  • 組織内の共通理解を探るためのワークショップ。所属している弁護士の方々に参加してもらい、USLFの強みはどんなところにあると思うかお互いの意見を知り、共通の想いを探った。

これらのアプローチを通し、他事務所にはない価値を探るためにディスカッションおよび分析を行いました。コアバリューが何であるか、何がUSLFをUSLFたらしめているのかを見つけることができれば、それをロゴの形へと落とし込めるというわけです。

この整理で「『技術インサイト』『ビジネスインサイト』への理解、および『知財』『法務』のスキルが互いに作⽤し、企業が保有している技術に対してサポートを⾏い、事業価値の最⼤化に寄与する」というのがUSLFの強みであり、それこそが技術法務であると⾔語化することができました。

図説:USLFの強みを整理した図

検討過程でみえてきた強みを整理するために作成した図

2. ユーザーへ伝えるべき印象を定義する

想いや理念を整理することができたら、それをユーザーに対してどのように印象付けるか定義していきます。
この段階では、あえてまだモチーフやビジュアルに落とし込まず、言語化することで進めます。このプロセスを通して、ロゴデザインで表現すべきことが明確になり、企業・行政側とつくり手側の目線合わせにもなります。
USLFの場合は、整理した強みを伝えるのはもちろんそもそも法律事務所であるということや、プロフェッショナル集団であること、技術法務のパイオニアとしての先進性などをロゴから感じ取ってもらいたいと考え、以下のように定義しました。

図説:USLFが目指すべき印象と、固有の強みを定義した図。「目指すべき印象とは」は「法律事務所としての普遍的な印象と同時にUSLF固有の強みを印象づけたい」。「USLF固有の強みとは何か」は、「技術の知識を有する弁護士のプロフェッショナル集団であることビジネスとのマインドセットと法務/知財のスキルによってコアコンピタンスの最大化に寄与することができる、パイオニアとしての先進性」

3. 象徴となるモチーフを絞り込む

この段階で、ようやく具体的にロゴの形へ落とし込んでいくためのモチーフを検討していきます。
「技術インサイト」「ビジネスインサイト」への理解、および「知財」「法務」のスキルという4つの要素が絡み合うこと、一人ひとりがその要素を意識しながらクライアントに対して事業成果へと昇華していくこと。それを具現化した形として、螺旋を描きながら上昇していく様子を想起し、これが揺るぎない支柱になり得るモチーフであると考えて方向性を固めました。ここから具体的にシンボルマークのラフを起こし、形状を検討しました。
トルネードのモチーフの中でも、真横から見たもの、俯瞰で見たもの、一部を切り取ったものなど、どこに焦点を当てるかによってさまざまな可能性がありました。
コンセプトとして4つのスキルが相互に作用しながら上昇するということを表現するには、横から見た形状がふさわしいと考え、F案の方向性で絞り込みました。

画像:シンボルマーク案6つのラフスケッチ

シンボルマークの方向性を決めるためにトルネードをモチーフとしたラフスケッチで検討。

4. モチーフを細部まで洗練させる

モチーフの方向性を絞ることができたら、最終的なロゴデザインとして完成させるための最終調整をしていきます。
先述の通り、ユーザーがそのロゴを見たとき、瞬時に印象に残るように固有の特徴をもたせつつ、さまざまなシーンで汎用性高く使用できるようにシンプルな表現へと削ぎ落としていきます。ほんの少しの差でもロゴが与える印象は大きく変化するので、あらゆる表現を試しながら検討していきます。USLFの場合は、4本のラインの太さ、傾き、先端の丸みをバランスよく調整しました。

画像:最終調整段階のシンボルマーク3案

横から見た形状に決定。ここから角度や細部を調整して検討する。

また、シンボルマークと同時にロゴタイプ(文字部分)のデザインも伝えたい印象に沿って制作しました。ロゴタイプは視認性の高いゴシック体とし、既存のフォントをベースに少し左右幅を調整しています。漢字が続く社名でも重くならないようにする、シンボルマークと同様に右肩上がりの形状にするなど細部へも手を加えました。

画像:「内田・鮫島法律事務所」のロゴタイプ

上:調整前、下:調整後のロゴタイプ。文字の幅を狭くしたり、縦線の先端をシンボルマークのように右上がりにカットするなど細部の調整を行った。

ロゴの効果を発揮させるために

以上のプロセスを経て、完成したロゴがこちらです。最後にはシンボルマークとロゴタイプの一体感も意識して仕上げています。

画像:「内田・鮫島法律事務所」の完成ロゴ

完成したロゴ

ロゴを制作する際には、使用ルールもあわせて検討し、定めておく必要があります。せっかくロゴそのものの表現に検討を重ねても、実際に使用されるときに意図と異なる使い方をすると、伝えたいメッセージの訴求やブランドの印象を阻害する要因にもなり得るからです。
USLFの場合も、ロゴレギュレーションを策定し、使い方をまとめたドキュメントを用意しました。
シンボルマークとロゴタイプの大きさの比率を変えてはいけない、色を変えてはいけない、ロゴの可読性が失われないようにしなくてはならないなど、ロゴが独り歩きしても与える印象が変わらないようにするためのルールを記載しています。

資料:制作したロゴガイドラインの一部抜粋。C.I.のバリエーションやアイソレーションエリア、カラーシステムのルールなどが記載されている

策定したロゴレギュレーションの資料(一部)

さいごに

ロゴディレクションは、大きなビジネス視点での価値の再定義から、ロゴの意匠における細部のこだわりまで、幅広い視点をもつことが大事です。ロゴを目にするその一瞬で全てを伝えるということは難しいかもしれませんが、そこにいかに想いを込めるかで、企業・行政にとってかけがえない支柱となり、ユーザーへ与える印象に大きく影響を与えるものになります。

最終的にどんなクリエイティブがいいのか、どんな想いを伝えるべきか。それ自体に正解はありません。大切なのは、発信側である企業・行政とつくり手が一緒に1つの解を出していく過程や、その解によって揺るぎない象徴としてロゴが機能していくように、ユーザーが抱く感情をイメージし、伝えようとする姿勢だと思っています。

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[ 執筆者 ]

コンセントは、企業と伴走し活動を支えるデザイン会社です。
事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行まで一貫してお手伝いします。

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