コンセントのスキルマップ「技術マトリクス」2023年度版
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こんにちは、デザインマネージャー・サービスデザイナーの大﨑です。今回は、コンセントで運用しているスキルマップ「技術マトリクス」について紹介します。この技術マトリクスは、2021年度、22年度版と続いて3度目の紹介です。今回のアップデート部分を中心に、最新の運用方法などの情報をお伝えできたらと思います。
技術マトリクスとは?
技術マトリクスはデザイン人材のスキルマップです。30を超える技術項目に対してそれぞれ5段階の水準を設定し、ロール(職種)ごとに必要な技術項目も定義しています。コンセントでは、主に人材育成のためのツールとして活用しています。18年から毎年更新を重ねており、組織を運営する上でなくてはならないものになっています。
技術マトリクスの概要や昨年の更新内容については、以下の記事をご覧ください。
技術マトリクス2023年度版
コンセントの人材育成ツール「
」(リンクファイルの2ページ目は、前年度からの更新箇所を赤字にしたものです)。「
」。星印が付いている技術が必要技術、付いていないものが推奨技術です。なお、今年度から、表記を「職種」から「ロール」に変更しました。職種という固定的・分業的ニュアンスから、ロールという役割的な表現にすることで、柔軟なキャリア形成とプロジェクト運営を軸に置くよう意図しています(リンクファイルの2ページ目は、前年度からの更新箇所を赤字にしたものです)。こちらが「技術マトリクス2023年度版」です。技術項目は1つ入れ替わりがありましたが合計で34個のまま、ロール(職種)は2つ追加され18個になりました。その他、内容の更新は全体の15%ほどにわたって行いました。以下、主要な更新箇所について述べていきます。
ビジネス戦略系の技術とロールの細分化
新しい技術項目として「経営戦略策定・実行支援」を追加しました。これまでは、主にサービスデザイナーが「事業開発支援」という技術でクライアント支援を行ってきましたが、それが発展し、単一の事業を開発するだけでなく複数の事業を戦略的に開発・運用するようなプロジェクトが増えてきました。同時に、「事業」だけでなく組織や人材など、経営全体の中でデザイン活用を促すプロジェクトも増えています。こうした要素を包括し、企業や組織全体を俯瞰した上で支援を行う項目として設定しました。
同時に、新しいロールとして「デザインストラテジスト」と「ビジネスデザイナー」を追加しました。従来あった「サービスデザイナー」を、事業企画とその開発オペレーションのプロフェッショナルと位置付け、企業組織と人材に向けたデザインストラテジスト、事業戦略全般に関与するビジネスデザイナーを追加し、全体の位置付けを整えました。
出典:「
」(経済産業省・コンセント, P.65)。技術マトリクスのビジネス戦略系ロールの整理に参照している。コンセントでは10年以上前からサービスデザイナーがロールとして存在しており、サービスデザインの普及とともに技術を広げ深めてきました。しかし近年では、サービスデザイナーが、先述のデザインストラテジストやビジネスデザイナーのような役割を兼ねることも当たり前になり、社内では、その習得技術や責任の範囲が広くなりすぎることが問題となっていました。今回のロールの細分化は、その解消のきっかけとなるよう、全社の人材戦略を踏まえたものとして設計しました。
このようなビジネス戦略系のロールの細分化は、デザインのビジネス活用が進むにつれ、業界全体でもさらに進んでいくものと考えています。
セールス系の育成方針を明確に
これまでの技術マトリクスでは、セールス系のロールとして「アカウントマネージャー」と「プロデューサー」が設定されていました。コンセントではカスタマーサクセスグループというセールス寄りのグループがありますが、アカウントマネージャーかプロデューサーのいずれかが所属するような形で組織が運営されていました。
ところが、ここに2つの問題がありました。1つはロールの幅が狭くキャリアパスが曖昧であり、組織内で明確な育成方針が定まっていなかったこと。そしてもう1つは、事業開発などのビジネス戦略分野との接続がなく、事業部側との人材交流が限定的であったことです。
これらを解決するものとして先述のビジネスデザイナーを設定し、アカウントマネージャーからプロデューサー、もしくはアカウントマネージャーからビジネスデザイナーというキャリアパスを明示し、組織内の育成計画に組み込むようにしました。前者は企業・組織のコミュニケーション課題に対応するキャリア、後者は企業・組織の事業課題に対応するキャリアという位置付けです。
このような調整の中で、従来は曖昧になっていたプロデューサーの業務責任範囲を、企業コミュニケーション全般と限定し、事業戦略に責任をもつビジネスデザイナーとの違いを明確にしています。
同じように、アカウントマネージャーの必須技術として、ビジネス戦略系技術の初歩レベルまでは習得するよう調整をかけています。これによりプロデューサーやビジネスデザイナーへの発展方法を具体化し、特に若手メンバーの育成が効果的になるよう再設計しました。
先述のカスタマーサクセスグループでは、人材育成目標として、「経営戦略策定・実行支援」のレベル3相当、「プロジェクトリード」のレベル2相当の技術育成をすると設定しています。各種プログラムを設けた上で、戦略的な技術育成に組織を挙げて取り組んでいます。
コンセントは、クライアントから依頼を受けデザインを提案し実行することを、主たる事業としています。かつては、依頼時点でアウトプットの形式が明確なものが多かったものの、近年は曖昧で抽象的な相談を受けることが一般的になりました。セールスとデリバリーといった製販分離が利きやすかった業務も、その境界が完全に溶けているのが現状です。ここでは「セールス系のロール」とあえて表現しましたが、技術マトリクス上でもその融合は進んでいくものと考えています。
その他の細かい変更点
23年度版の特筆すべき大きな変更点は以上になります。その他の変更点を箇条書きにて紹介します。
- 「サービスデザイナー」ロールの概要を、社会課題への対応を強化するよう表現を調整しました。昨今の事業開発支援のニーズとして、収益性などの経済的価値に加え、環境価値や社会価値への対応を求められる状況に配慮した形です。
- 「コンテンツストラテジスト」ロールの概要を変更しました。組織視点の人材育成や採用の課題と、現場で生じている課題を聴取し、両者にギャップが生じないよう修正しました。
- 「コンテンツデザイナー」ロールは、ビジュアルデザインに意欲をもつメンバーとコンテンツディレクションに意欲をもつメンバーが混在し、若手メンバーの育成に課題が生じていました。その解決を目的として、コンテンツデザイナーの必須技術を整理し、「ビジュアルデザイン」と「ライティング」の技術項目を更新しました。いずれも人材育成を効果的に進める意図での修正です。
- 「UXエンジニア」ロールの概要を刷新し、関係する「技術戦略立案」「エンジニアリング設計」「情報設計」の技術概要を整理しました。
他社のスキルマップを支援する中で
最近は、他社デザイン組織のスキルマップ構築を支援することも増えてきました。そのデザイン組織のビジョンやミッション、デザインに対する考え方、必要な業務や技術をヒアリングした上で仮説を構築し、検証を繰り返していくようなプロジェクトです。
ここ数年で、ジョブ型雇用の導入を進める企業が増えたことで、技術マトリクスのようなスキルマップを給与査定のツールとして運用したいという声も多くなっています。
しかしながら、給与との直接的なひも付けは慎重に考える必要があります。コンセントでは、過去に技術マトリクスを直接的に評価に反映することを試行しましたが、うまくいきませんでした。上長と部下の間で納得性のある評価に至らないケースもありましたし、技術を保有するだけで成果を上げなくても給与を保証するような発想に疑問の声も出ました。技術ごとの市場価値の反映が難しく、市場ニーズとケーパビリティにギャップが生じる懸念や、経営・管理側とメンバーとで衝突が発生する機運もありました。
他社のスキルマップを構築する際には、デザイン組織のメンバー全員でワークショップや対話の機会をもつことがあります。そこでは、スキルマップを日々の業務の中でどのように使っていくか、具体的なシナリオを考えながら意識合わせをしていきます。そうすると、「そのスキルマップはそもそも何であるか?」「どのようなものであるべきか?」という根本的な問いに収斂されていきます。
スキルマップは給与や待遇を決めるシートなのか、組織のデザイン戦略を技術要件に落とした仕様書なのか、人材育成のためのツールなのか。もちろん、答えは組織によってさまざまです。コンセントでは人材育成ツールであると定義し、それを強調して運用していますが、それもコンセントの規模やミッションを踏まえた結果です。
スキルマップは文字通り「地図」です。立場の異なる複数の者がこの内容を介して対話し、行き先を決めていくものです。コンセントでは毎年アンケートやメンバーとの対話を踏まえ、更新を続けています。大変な作業となりますが、更新作業自体が組織内の重要な対話の機会であるとして大切にしています。
コンセントのYoutubeチャンネルで、技術マトリクス策定に携わった大﨑と2人のマネージャーが、その背景や運用方法について語った動画を公開しています。
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