ES向上のためのコミュニケーションデザイン3つのポイント
- コミュニケーションデザイン
- コンテンツデザイン
ES(Employee Satisfaction:従業員満足度)を高めることは、従業員のモチベーションや生産性の向上、離職率の低下につながり、結果として企業の業績向上に寄与すると考えられています。今回はコミュニケーションデザインの観点から、ESを高める手法をご紹介します。
コロナ禍で変化した組織内コミュニケーション
コロナ禍により組織内コミュニケーションは大きく変化し、課題を感じている方も多いのではないでしょうか。組織内コミュニケーションを活性化しES向上を実現するためには、単純に情報量や接点を増やせばよいわけではありません。提供するコンテンツに関心をもってもらうこと、自分ごととして捉えてもらうことが必要です。
しかし、日々の業務で忙しい従業員に新しいコンテンツに関心をもってもらうことは、簡単ではありません。重要となるのは、共創的なアプローチを用いて、共有すべき情報を探索すること、意思決定の方法を定めること、そして、コンテンツを従業員のニーズや関心の程度に応じてデザインすることです。
ES向上のためのコミュニケーションデザイン3つのポイント
- 進め方の工夫|共創的なアプローチ
- 伝え方の工夫|編集デザインのアプローチ
- クリエイティブの工夫|行動を促すための設計
それぞれのポイントについて、コンセントでの支援事例に基づいて説明します。
進め方の工夫|共創的なアプローチ
ES向上を目的としたプロジェクトでは、コンテンツ制作そのものに取り掛かる前に、プロジェクトをいかに進めるか、どのように意思決定を行うかの検討が必要です。
プロジェクトの進め方には、コンテンツの内容検討に当たって従業員の意見を反映しながら進める「意思決定参与型」や、決定事項だけではなく、決定に至った経緯や意見を開示することで背景への理解を促す「意思決定開示型」などがあります。
国内セメント関連分野の専門商社・住商セメント株式会社様(以下、住商セメント)のコーポレートロゴおよびタグライン制作プロジェクトを紹介します。
住商セメント株式会社様 コーポレートロゴ/タグライン制作事例。プロジェクトで作成したタグラインとステートメント、ロゴ。
本プロジェクトは会社の創立30周年を機に、コーポレートロゴとタグラインのリニューアルを検討するもので、親会社である住友商事の理念を守りながら、住商セメントとしての未来をどのように従業員に示していくかがポイントでした。そのため従業員を巻き込んだ共創的なアプローチを選択し、進行しました。
プロジェクト内のワンシーン
従業員が抱く会社への思いを反映し、納得が得られるものにするべく、プロジェクトの初期段階でワークショップ形式にて従業員ヒアリングを行いました。セメントや生コンクリートという商材を扱う、土木建築の現場に近い自分たちの仕事をどのように表現すれば「輝いている」と実感できるか。その見せ方について深く議論しました。
ロゴ・タグラインの試作に当たっては、プロジェクトメンバーからコメントを募る、開かれたディスカッションの場を設けました。あえてたくさんのバリエーションを提案することによって、良いと思う案に対してだけでなく、推せないと思う案にもコメントしてもらい、風通しのいいディスカッションを実現しました。また、ロゴが与える印象、デザインとしての耐久性、コーポレートサイトや会社案内など多岐にわたる用途への応用度という判断軸を提示することで、議論の活性化とスムーズな意思決定を両立しました。
プロジェクト内で作成したグラフィックレコーディング
議論経過はグラフィックレコーディング(会議や議論の流れ・全体像をわかりやすく視覚化し、参加者と共有する手法)によって可視化し、社内メルマガなどを通して従業員に周知しました。従業員がプロジェクト情報に触れる機会を設け、「従業員自身で結果を選ぶ」というプロセスを経ることで社内への浸透を図りました。「意思決定参与型」であり「意思決定開示型」でもあった事例です。
伝え方の工夫|編集デザインのアプローチ
コミュニケーションにおいて、伝え方は特に意識すべきポイントです。受け手に関心をもってもらい感情喚起やアクションを促すためには、伝えるべきことを明確にすること、受け手の関心度や理解度に応じたコンテンツデザインをすることが重要です。
こちらは、三井物産労働組合の広報誌(PDFマガジン)の1ページです。編集デザインの考え方を用いて、受け手である組合員に対して丁寧なコミュニケーションを実施した事例です。
三井物産労働組合は、時代の変化とともに果たすべき役割が変化してきました。経営と組合の対立構図ではなく、労使共創して会社全体が協調してより強い組織へと生まれ変わるために、どのような存在であるべきか。その活動方針の再定義と、それに伴うリブランディングの支援をコンセントが担当しました。
本プロジェクトでは会社、組合、個人それぞれが抱く課題を抽出するワークショップ、組合員に対して実施したアンケート調査結果を起点に、今後の組合の在り方について議論しました。その結果、組合の課題意識や活動の意義が伝わりづらい、関心をもたれないという課題が発見されました。そこで、全4号の広報誌配信によるコミュニケーションにより、組合員に活動内容を浸透させるという方針を立てました。
これまでの組合からの情報発信は、決定事項や結果報告が中心でした。そのため、組合員にも活動を自分ごととして捉えてもらえるように、経緯・考え方も含めた情報発信に転換。組合の議論内容をインフォグラフィックで端的に表現したり、施策検討の様子を撮影しドキュメンタリーとして表現するなど、検討プロセスを伝える工夫をしています。経緯や考え方を含めたストーリーテリング、理解を促すためのビジュアル活用といった編集デザインの手法が、受け手の関心を誘い、伝わるために機能した事例です。
クリエイティブの工夫|行動を促すための設計
ES向上は一回きりのコミュニケーションで達成できるものではありません。従業員が定期的にコンテンツに接し、感情喚起やアクションを促すことが肝要です。中でも、その情報への物理的・心理的ハードルを下げる工夫は有効です。情報を閲覧しやすく関心をもてるようにデザインするのです。最後に、コンテンツ接触への心理的ハードルを低くするクリエイティブの工夫について、サントリーグループのイントラサイト「変えてみなはれ」を例にご紹介します。
本サイトは、サントリーグループが目指す働き方改革実現を目的に、従業員それぞれが実践している働き方の工夫を共有するためのナレッジ投稿型イントラサイトです。従って、定期的に従業員自身による「投稿」を得ることが重要なプロジェクトでした。
そのため、サントリーグループのチャレンジ精神を表す「やってみなはれ」をもじった「変えてみなはれ」というサイト名、従業員が考案した「ちぇん爺(じい)」というオリジナルキャラクターなど、サイトの役割を印象付ける主要要素に、ボトムアップ型コミュニケーションの場であることが伝わるアイデアを反映。現場の知をわいわいと、楽しみながら共有できる場になるよう明るいトーン&マナーを設計し、デザインしました。
また、CMSの機能をカスタマイズして、投稿記事に対する「いいね」「コメント」などのリアクション機能や絞り込み検索を実装。ユーザーからの反応を見える化することで従業員の投稿意欲を促し、ナレッジ共有の活性化を狙いました。サイト開設から約4年が経過した現在(2021年2月)も定期的な投稿が行われており、グループ全体のナレッジ共有インフラとして定着しています。
検討プロセスを含めた体験のデザインが、従業員の満足度を上げる
ESを向上させるコミュニケーションを実現するためには、提供するコンテンツに対して関心をもってもらうこと、従業員自身とひも付けて捉えてもらうことが重要です。そのためには、最終的なクリエイティブだけではなく、プロジェクトの進め方、伝え方、具体的な行動促進を意識したクリエイティブがポイントになることをご紹介しました。検討プロセスを含めたコミュニケーション体験全体のデザインが、クリエイティブそのものも、従業員の満足度も引き上げるのです。
- テーマ :