ビジョン浸透はなぜ必要? 事例に見る成功の秘訣
- ブランディング
- コミュニケーションデザイン
- コンテンツデザイン
こんにちは、クリエイティブディレクターの中條です。私は普段、企業・組織やサービスのブランディング支援プロジェクトに多く携わっています。その中で、ブランド方針の核となるビジョンを組織内に浸透させる施策を推進してきました。
この記事では、組織内のビジョン浸透に取り組む上での課題や重要となるポイントについて、これまでの経験から得た知見を実践事例とともに紹介します。
組織活動の枯れない原動力として
皆さんは「ビジョン」と聞いて、どのようなものをイメージしますか?ビジョンには「理想像・未来像・展望」という意味があります。ビジネスにおいては「企業や組織が目指すべき未来や実現したい理想像を指針として明文化したもの」という意味で使用されます。近年では、パーパス経営やビジョン思考を重要視する企業・組織も増えています。
なぜ経営において、ビジョンをもつことが必要なのでしょう。『ビジョナリー・カンパニー』シリーズで知られる世界的経営学者のジム・コリンズ氏は、共著書『ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる』で次のように説いています。
「ビジョンはあらゆる階層の社員が意思決定するためのコンテクストとなる」※1
この言葉をもう少し具体的に掘り下げてみます。私は、ビジョンをもつことで期待できる効果を次の3つに整理できると考えています。
- 1.組織全体の共通認識になる
ビジョンを掲げることの本質的な価値は、従業員一人ひとりに対し「共通の目指す先」を示すことにあります。個々人で目指す先の認識がバラバラでは、組織としてのゴールにたどり着くことができません。ビジョンを明確に示し、それを従業員が認知・理解して行動することで、組織全体の活動に一貫性が生まれます。 - 2.従業員の主体的な行動を促す
組織として「目指す先」が明確になると、従業員が日々の業務で判断に迷った際、判断基準をもって行動できるようになります。また異なる業務や部署であっても、従業員がビジョン実現を念頭に 置いていれば、一人ひとりが行動を主体的に起こせるようになったり、日常業務のモチベーション向上につながったりもします。 - 3.社会と共創していく軸になる
企業・組織は、より一層社会と積極的につながり、社会的課題の解決や新たなソリューション創造に向けて共創していく姿勢が求められています。顧客・株主・パートナー・地域社会といったステークホルダーに対して自分たちの「ビジョン」を伝えることで、多様なステークホルダーを巻き込み、行動していく意義を提示できます。
ビジョンは、組織全体の意思や活動の核になるものです。さらにビジョンに基づいた組織の姿勢を外部に示すことで、社会との共創へと活動を広げていくことができます。ビジョンをもつことは組織活動の源であり、枯れることのない原動力のようなものなのです。
※1 ジム・コリンズ、ビル・ラジアー著、土方奈美訳『ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる』(2021)日経BP、p.165
ビジョン浸透を妨げる要因とは?
しかし、このような効果を得るためには、単にビジョンを策定するだけでは事足りません。その存在や内容が、企業・組織の従業員に認知されている状態、つまり「浸透している状態」をつくり出す必要があります。しかし実状は、ビジョンを策定しても従業員に浸透せず、形骸化してしまうというケースも少なくありません。
そもそもビジョンが「浸透している」とはどのような状態でしょうか。それは、従業員一人ひとりがビジョンの内容に共感し、目指す先の在り方やそのためのアクションを“自分ゴト”として捉え、日常業務の中で行動に移すことができている状態を指します。
しかし、HR総研の調査※2によると「企業理念が浸透している」と答えた企業は全体の6%、「やや浸透している」と答えた企業は36%で、合わせても50%に達していないという結果でした。
この状態に陥る要因は何でしょうか?私の経験から見えてきた、ビジョン浸透がはかどらないケースとしてよくある例を3つ紹介します。
要因① 内容が抽象的でわかりづらい
ビジョンを言語化する上では、記憶への残りやすさを考慮し、ある程度簡潔にまとめる必要があります。しかしそれが故にあまりにも抽象度が高い表現だと、従業員の理解や共感が得にくくなる恐れがあります。
ビジョン策定のフェーズでは、自らの企業・組織の独自性を見いだすこと、さらにそれを具体性をもって言語化することが大切です。ありきたりな表現や内容ではなく「自分たちだからこそ目指せる先を、具体的にイメージできる」アウトプットであるべきです。
要因② 浸透させるための仕組みがない
従業員に対し、策定したビジョンを一斉に発表するだけでは不十分といえるでしょう。同じ組織内であっても従業員の立場や階層によって、置かれている状況や関心事はさまざまです。また、目の前の業務に追われ、従業員がビジョンを意識する機会や余裕がないというケースもあります。
ビジョンの浸透は段階的な計画を立て、設計したプロセスに沿って各ステークホルダーとの接点を構築していくことが重要です。
要因③ 自分ゴト化への壁を超えられない
ビジョンの認知・理解が進んでも、“自分ゴト”として捉えてもらうことは、また一つハードルがあります。ビジョンに込められた本質的な意味や、その背景まで従業員に伝わっていないと、従業員自身の担当業務や考え方との接続ができず、“自分ゴト”として主体的な行動に移すことが難しくなります。
従業員一人ひとりが、ビジョンを自分自身の言葉に置き換えて説明したり、自分の業務上のミッションに置き換えて行動がイメージしたりができるよう、働き掛ける必要があります。
いくつかの例を紹介しましたが、ビジョン浸透を阻む要因は組織の状態や課題によって異なります。だからこそ、まずは自らの企業・組織の現状をしっかりと把握した上で、必要な施策を検討していくことが重要です。
※2
(閲覧日:2023年10月12日)実例に学ぶビジョン浸透3つのポイント
ここからは、コンセントで取り組んだプロジェクト事例と、ビジョン浸透を促進させるためのポイントを紹介します。
事例① NTTデータ 一生、住みたい日本プロジェクト
事例紹介| NTTデータ 一生、住みたい日本プロジェクト
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ様(現・株式会社NTTデータグループ様。以下、NTTデータ)が取り組む「自動運転」技術の活用推進事業において、サービスコンセプトの策定とプロトタイピングを支援しました。
「自動運転が当たり前となる未来」という抽象度の高いビジョンを、ビジュアルやストーリーを用いて表現することで、今はまだない世界のイメージを具体的に他者へ伝えることができます。
本プロジェクトでは、ステークホルダーとの対話に活用する目的でプロトタイプを制作しました。サービス開発の早い段階で解像度高くビジュアル化することで、ステークホルダーにスムーズな理解と共感を促し、事業推進に向けた議論を活性化させることができました。
ビジョン浸透のポイント「具体的に可視化する」
ビジョンは言語化するだけでなく、ビジュアル化することも効果的。未来像を具体的なシーンで示せば想像が膨らみ、ビジョンの解像度を上げることでステークホルダー間のコミュニケーションを促進させることができる。
事例② 日本総合研究所 パーパス・アクション発信のためのオウンドメディア「JRI STORIES」制作
株式会社日本総合研究所様(以下、JRI)のパーパス・ステートメントの策定支援と、その浸透施策の推進を行いました。
JRIでは、組織がもつ独自性や強みを、社内外のステークホルダーに対して正確に周知できていないという課題がありました。そこで、策定したパーパスを身近に感じてもらえるよう、オウンドメディア制作をはじめ、毎日目にするオンライン会議の背景画像やスライド資料のフォーマットに組み込むことにしました。日常業務で使用するツールを通して訴求することで、気軽に楽しみながらパーパスに触れ合える環境をつくりました。
ビジョン浸透のポイント「日常の中で繰り返し接点をつくる」
日常業務の中で自然にビジョンとの接点をつくっていくこと、さらにその機会を定常的に設けることで、ビジョンが組織の共通言語となるように育んでいく。一度だけの大々的な周知やトップダウンでは、従業員個人の共感を醸成していくには難しい。
事例③ 読売テレビ 2030年の未来に向けたDXチームビジョン検討支援
讀賣テレビ放送株式会社様(以下、読売テレビ)DX推進本部の2030年に向けたビジョン策定を支援。6日間にわたる共創ワークショップを設計・運営しました。
この取り組みは、読売テレビの入社数年目の若手を中心とした各部署の社員からなるDX推進チーム「Team 2030」のメンバーがワークショップに取り組み、そのメンバーが主体となってビジョン策定、それに基づく行動計画を考えるというものです。
ビジョンから行動計画策定に至る活動は、プレゼンテーション資料としてまとめられ、社内ステークホルダーへの報告の場で活用されました。
ビジョン浸透のポイント「自分ゴト化の仕組みをつくる」
従業員自らがビジョンの意味や目的について考え、ひも付くアクションを言語化し、他者と対話する機会を設けることが効果的。それが「自分自身がそのビジョンを実現するのだ」という当事者意識を生むきっかけになる。
ビジョン浸透に終わりはない
ビジョンの浸透における課題や解決策はさまざま。スピーディに浸透していく魔法のような特効薬は存在しません。
だからこそ、まずできることから地道に続けていく姿勢が大切です。継続的に活動することで徐々に組織内に賛同者が増え、それが組織文化となり、具体的な行動変化につながる土台が形成されます。
変化の時代を生きる私たちにとって、企業や組織を変革させることの重要性は、今後も高まっていくでしょう。その実現に向けて、ビジョンの浸透は重要なドライバーとなります。ぜひ皆さんの企業・組織でもビジョン浸透に向けた第一歩を踏み出してみてください。
- テーマ :